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ワンチャンス

2014年04月22日 | 洋画(14年)
 『ワンチャンス』を吉祥寺のバウスシアターで見ました。

(1)バウスシアターは来月末で閉館となってしまうため、できるだけ数多く見に行こうと思い、本作に関する情報は殆ど持たずに出かけました。

 本作は実話に基づく作品で、舞台はイギリスのウェールズにある都市。
 主人公のポール(大人になってからはジェームズ・コーデン)は、10歳の頃から教会の聖歌隊で歌っていたものの、自分の歌声が余りに大きいために鼓膜が破れて倒れてしまうほどでした。
 天性のオペラ歌手といえるのでしょうが、マシューらの仲間にはいつも虐められています。「僕は歌うと虐められ、虐められると歌っていた。僕の人生はまるでオペラだ」などとポールは語ります。
 家で食事をとっている最中でも、ヘッドホンを付けて「フィガロの結婚」を聴いている有り様。父親(コルム・ミーニイ)は堪りかねてカセットレコーダーのスイッチを切ってしまいます。ですが、母親(ジュリー・ウォルターズ)は隣の部屋でラジオを点けて「乾杯の歌」を流します。



 そんなある日、ポールが勤務する携帯ショップ店の上司・ブラドンマッケンジー・クルック)が、ポールのメル友で一度も会ったことがないジュルズアレクサンドラ・ローチ)に渡りをつけて、ポールとジュルジュとを引き合わせます。



 その初デートの際、ポールはジュルズに「パヴァロッティが関与するヴェニスの学校に行き、将来はオペラ歌手になりたい」と打ち明けるところ、別れ際にジュルズは、「次はヴェニスのゴンドラの上から電話をかけて」とポールに言います。
 さあ、ポールはヴェニスに行くことができるのでしょうか、ジュルズとの関係はどうなるのでしょうか、オペラ歌手になるという望みは上手く達成できるのでしょうか、………?

 本作の主人公は、おとぎ話のようなアップ・ダウンを繰り返して目を見張りますが(注1)、素人オーディション番組から登場して世界をアッと驚かせたスーザン・ボイル氏の話を知っているだけに、こうしたストーリーの映画を見ても実話として受け入れることが出来てしまいます。

(2)としても、スーザン・ボイル氏の方は全くのアマチュアだったように推測されるのに対して(注2)、本作の主人公・ポ―ルの場合、上に書いたように小さい頃には聖歌隊で歌っており、またオペラ歌手を夢見て、街のコンテストに出場し、その優勝賞金でヴェニスの音楽学校に行ったりもします。
 さらに、本作のモデルとなった実際のポール・ポッツ氏は、Wikipediaの記事によれば、一方で、「セントマーク&セントジョン大学では人文学を専攻し、1993年に優等学位を得て卒業し」、その後「ブリストル市議員を務めた」とのことですが、他方で、「アマチュアのオペラ劇団やアマチュアのオペラ・プロダクションに参加し、無償でオペラ活動を続けた」そうです。
 要するに、同じTV番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」に出場して世界的に注目される存在になったとしても(注3)、学歴がなく家に閉じこもっていたように思えるスーザン・ボイル氏と本作のポール(あるいは実際のポール・ポッツ氏)とはかなり違っているように思えるところです。

 逆に言えば、そんなに違っているように見える二人がどうして世界中から注目される歌手になったのでしょうか?
 もちろん、類まれなる美声の持ち主という点を一番にあげるべきでしょう。
でも、あるいはそうした人物だったら他にもかなりいるのではないでしょうか(注4)?

 としたら、もしかしたら、二人の背後にある物語性が影響しているとは考えられないでしょうか(注5)?
 例えば、二人とも、学校でひどく虐められたようですし、きちんとした音楽教育を受けておりませんし、一人は家庭におりましたし、もう一人は携帯ショップで働いていました。
 素晴らしい音楽が生まれてくるなどとても期待できそうもない環境の中から、魅惑的な美声の持ち主が突然音楽の舞台に出現したことで、大衆が拍手喝采をしたのではないでしょうか?

 本作は、大きな組織の末端で日々地味に働いている人物にスポットライトを当てたように見える『LIFE!』とは対極的に、地味なところから世界の檜舞台に飛躍した人物を描いた作品と言えるのかもしれません。

(3)渡まち子氏は、「英国出身のオペラ歌手ポール・ポッツの半生を描くヒューマン・ドラマ「ワン チャンス」。ポッツ自身が吹き替えている歌が最大の魅力だ」として65点をつけています。



(注1)例えば、ヴェニスの音楽学校では、パヴァロッティの前で歌を披露するという栄誉を得たにもかかわらず、極度に上がってしまい、逆にパヴァロッティから「君はオペラ歌手には向いていない」と切り捨てられてしまいます。

(注2)このサイトの記事によれば、彼女は、「定職を持たず、スコットランド中部にあるキリスト教会でボランティアをしており、教会で歌を歌うことはあっても、大勢の前で歌を披露したのは「Britain's Got Talent」が初めて」とのこと。

(注3)ポール・ポッツ氏が「ブリテンズ・ゴット・タレント」に出場したのは2007年で(37歳)、スーザン・ボイル氏は2009年です(48歳)。

(注4)この点については、もしかしたら、このサイトの記事が参考になるかもしれません。

(注5)例の佐村河内氏の『交響曲第1番《HIROSHIMA》』があれだけもてはやされたのも、その曲自体が持っている美質というよりも、むしろそれを作曲したとされた佐村河内氏が被曝2世で全聾とされ、「現代のベートヴェン」と宣伝されたからでしょう。
 むろん、ポールは詐欺師ではありえず、ごく真面目な音楽家でしょう。でも、そんな彼が世の中で注目される背景として、佐村河内氏と共通のものを感じてしまうところです。
 なお、曽野綾子氏は、『交響曲第1番』につき「この作品は受け入れやすい、いい作品」と述べていますが(この記事)、その作品がマーラーの交響曲第3番を剽窃した部分があるということを無視してしまっています。同氏が「芸術というものは、この手の毒を含む部分があっていいのである」と述べるところ、確かに品行方正な芸術では箸にも棒にもかからないとはいえ、はたして他の作曲家の作品を剽窃することまで含めているのでしょうか?



★★★☆☆☆



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4 コメント

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クライマックスはオーディション (すぷーきー)
2014-04-23 00:18:49
TBありがとうございます。
オーディションのシーン自体は短いものでしたが、それまでの不幸話は長い前フリですね。
審査員と観客が歌を聞いて態度を変えるのが、爽快です。
不幸続きのポールでしたが、あの奥さんをゲットできたのはラッキーだと思いました。
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Unknown (クマネズミ)
2014-04-23 20:25:33
「すぷーきー」さん、TB&コメントをありがとうございます。
ポールの「ブリテンズ・ゴット・タレント」のシーンは、一部、スーザン・ボイル氏の時のものを借用しているのではとも言われているようですね。
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夢をかなえて (デイジー)
2014-04-24 12:36:49
トラクックバックありがとうございます。

挫折を繰り返しつつも夢を諦めないで一歩ずつ
歩んでいる姿から勇気をいただきました。
結末は知っていても見終わった後、ほのぼのとした
気持ちになることができた映画でした。

やはり、奥様との出会いが大きいのかしらと思いました。
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Unknown (クマネズミ)
2014-04-24 20:12:19
「デイジー」さん、TB&コメントをありがとうございます。
これだけ厳しい目に何度も遭いながら最後のチャンスをものにするというのは、本人の才能や奥様の励ましももちろんのことながら、もしかしたら小さい時の虐めに耐えたことも与っているのかもしれません。
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