映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

Dear Heart

2009年12月24日 | 邦画(09年)
 『Dear Heart―震えて眠れ―』を渋谷のシアターNで見てきました。

 時間がうまく適合する映画が他になかったのと、久し振りにホラー映画もいいかなと思ったこともあります。

 なにしろ、怖い映画は、あとあとまで影響が残りがちなので、基本的には敬遠しています。昨年の4月に公開された邦画『口裂け女2』について、件の“つぶあんこ”氏が90点もの高得点を与えているので、これは一見してもいいかなと思いましたが、映画館に入る寸前で止めました。そこに貼られているポスターがあまりに怖そうだったもので。
 他方で、黒沢清監督の『叫』『ロフト』などの作品は見ましたが、“ホラー映画”とされてはいるものの怖さは全然ありませんでした。
 逆に、3年ほど前に、渋谷イメージシアターで『雨の町』(田中誠監督)を見たことがありますが、これは怪奇ミステリーとされていて明示的に“ホラー映画”とされていなかったところ、失踪から戻ってきた小学生が振り返った時に映し出される顔の映像には、心底ゾーッとしました(まさかそんな風にお化けが現れるとは思っていなかったので)!

 なお、映画館の「シアターN」は、以前「ユーロスペース」だったので、その点でも久しぶりと言うわけでした。

 そこで、本作『Dear Heart』です。
 井坂聡監督の作品としては、『破線のマリス』と『象の背中』を見たことがあります。前者はDVDですが、黒木瞳がなかなか魅力的でしたし、後者は、主人公が末期がんという深刻な題材を手堅くまとめていました。
 それで、今回の作品は、出演者も高島礼子榎木孝明ですから、どんな「サイコホラー」を見せてくれるのかと幾分期待するところもありました。

 ですが、その期待は見事に裏切られたといってもいいでしょう。
 全然怖くないのです!

 心霊的な映像がいくつか窓ガラスに映ったりするのですが、特段人を怖がらせるメイクが施されているわけでもありません。
 さらに、若い女性が何人も殺されますが、むしろ猟奇的殺人の色彩が強く、“エロチック”としても“ホラー”とはいえないでしょう。

 劇場用パンフレットでは、「スタンリー・キューブリックの「シャイニング」を彷彿とさせる」云々とあり、殺人鬼の乗り移った夫(榎本孝明)が斧を持って妻(高島礼子)らを追いかけますが、暗い山中で姿がはっきり見えないこともあって、恐怖心など観客に湧いてこようがありません。
(その際、一緒に逃げた介護人の若い女性が夫に捕まります。叫び声に驚き、先を急いでいた高島礼子が引き返して、その痕跡を見つけ出します。真っ暗闇の中ですから不可能事とは思われるところ、若い女性が斧で酷く傷つけられて大量に出血し、それが懐中電灯でわかったからではと推測されます。ところが、実際には、頭部に軽く裂傷を負ったにすぎませんでした!)

 それに、いくら殺人鬼が乗り移ったとはいえ、この夫は心臓移植手術を受けた直後なのですから、あんなに長く全速力で走り続けられるものなのでしょうか?

 そうなのです、若い女性ばかりを何人も殺した殺人鬼の心臓を移植された夫に、その殺人鬼の精神も合わせて乗り移ってしまった、というのがこの映画のミソなのです。
 と言っても、その点は、お話なのですから非現実的だと非難してみても始まりません。
 ただ、精神が心臓に宿るというのであれば、夫から元の心臓を摘出しているのですから以前の人格はなくなっているはずですが、そんなことはありません(殺人鬼の精神が、時間の経過とともに次第に夫の人格を占めるようになってきます)。
 他方、精神は脳にも宿るというのであれば、殺人鬼が次第に蘇ってくるとしても、それは心臓にかかわるだけであって、どうして脳にかかわる以前の夫の人格が次第に消えてしまうのでしょうか?

 そんなことはともかくとして、夫の移植手術をした医師に扮しているのがかの“国際女優”の島田陽子となると、ちょっと問題含みになるでしょう。
 あの銀座のバーのママさんのような雰囲気の女性が先端的な手術を行った医師というのでは、見ている方に違和感が生じてしまいます。だからこそ、その助手から、心臓移植に伴う精神の乗り移りのことを指摘されても、議論などせずに頭から否定するしか仕様がないことになるのです。

 加えて、夫に心臓を提供した男性が殺人鬼ではないかと捜査している刑事役に西村雅彦が扮しています。ただ、映画『沈まぬ太陽』で主人公の前の労組委員長だった人物を演じているのを見た時も思いましたが、甚だ奇異な感じの演技をするものです。
 この映画でも、突然、医師・島田陽子のところにやってくるのですが、いまどきの刑事にしては酷く高圧的でツッケンドンな態度をとります。相手が容疑者ならそういう態度をとるのもわからないではないですが、単に関係者から情報を聞き出そうというのですからおかしなものです。

 また、この映画では、妻らとともに夫が術後の養生にやってくる別荘の管理人の甥という役柄で歌手の加藤和樹が出演しているところ、当然、美貌の妻と抜き差しならない関係にでもなるのかなと思っていましたが、介護のために同行した若い女性と手をつないで散歩するだけで、結局何事も起こらずじまい。子供向け映画でもあるまいし、いったいどうしたことでしょうか?

 とまあ問題点ばかりを挙げてしまいました。
 それもこれも、観客を怖がらせないのであれば、別のサービスで観客を悦ばせてくれなければ入場料を徴収する意味がないではないかと思ったからですが!

 なお、福本次郎氏は、「物語は凡庸、高島礼子の演技も控えめ、せめて観客を楽しませる弾けた要素があればよかったのだが。。。」として40点を与えていますが、やや高いのかもしれません。


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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは。 (えい)
2009-12-24 11:56:20
こんにちは。

ぼくも、あの西村雅彦演じる刑事の高圧的態度は不思議でした。
演技プランのミスなのかなあ。
それとも、本来はもっと重要な役割を担っていたのか、
どうもよく分かりませんでした。
総じてクマネズミさんと同意見ですが、
島田陽子の部下(研究員?)の女性が
上司に反発している設定は
少しオモシロかったです。
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