映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

アルゴ

2012年11月05日 | 洋画(12年)
 『アルゴ』を渋谷のヒューマントラストシネマで見ました。

(1)本作は、イランのホメイニ革命の際に起きたアメリカ大使館員救出作戦(1979年)を描いたものです。

 ホメイニ革命の際に、アメリカ大使館がイラン側に占拠され、館員が人質になったところ(イラン側は、米国に逃亡したパーレビ国王の引き渡しを要求)、密かに館員のうちの6人が地下道を通って大使館脱出に成功し、カナダ大使館に逃げ込みました。
 そのことが発覚すると、その6人はおろか、人質になった残る52人の館員の命さえも危うくなるという事態。
 大使館の資料は焼却されたり裁断されたりしたものの、脱出した館員の存在が明らかになるのは時間の問題。
 出来るだけ早期に、それも極秘のうちに救出しなくてはなりません。
 CIAの救出作戦のエキスパートであるトニー・メンデスベン・アフレック)が担当者になって、様々な作戦が検討され、最後になってとんでもない案が浮上。でも、それしかないとして上層部の許可が与えられます。
 さあ、果たしてこの作戦はうまくいくのでしょうか、6人の館員の運命は、メンデスは、……?

 トニー・メンデスが考えついた作戦が奇想天外だっただけに、政府上層部の許可を得て実行するまでの紆余曲折、6人の大使館員の積極的な同意を取り付けるという困難な作業、そして実行に移された時に起こる様々の予想外の出来事というように、この映画には観客をハラハラさせる要素がてんこ盛りで、なかなかよくできた娯楽作品だと思います。

 監督で主演のベン・アフレックは、昨年の『ザ・タウン』で見ましたが、その映画と同様、事態の変化に対してあくまでも冷静に対応する主人公を的確に演じていると思いました。




(2)本作では、事実に基づいて制作されたと最初に断り書きが出ますが(注1)、映画の大筋は事実の通りだとしても、かなり脚色されているようです(注2)。
 そんなことは映画を見ていればよくわかりますから、そして描かれていることがフィクションだとわかったとしても見ている者を十分にハラハラドキドキさせますから、何もわざわざ“based on a true story”などと殊更めかしく言わずともと思うのですが(なお、この作戦のことは、18年間極秘扱いされていたとのこと)。
 逆に言えば、嘘っぽい事柄、起こりそうもなさそうな事柄をいかにも本物らしく見せるのが制作者側の腕ではないかと思うところ、“based on a true story”と言ってしまえば、いい加減なところで手を打てるのではないでしょうか(「事実なんだから仕方がない」などとして)?

(3)渡まち子氏は、「派手な銃撃戦や爆発などないのに、尋常ではない緊張感が漂う脱出劇のクライマックスは、間違いなく一級のサスペンス。隠し味は映画愛なのだから、映画好きにはこたえられない」として80点をつけています。



(注1)映画の最後に、当時のカーター大統領とメンデスや6人の館員との写真が映し出されたりします。
 また、劇場用パンフレットの「Introduction」には、「いま、すべてが真実の、命がけの“映画製作”が始まる―!」などと書かれています(映画の公式サイトの「イントロダクション」でも、「信じられなくて当然だ。だが、全てが実話なのだ」とあります)。

(注2)英語版Wikipediaの『Argo(2012 film)』の項では、「The movie is based loosely on former Central Intelligence Agency operative Tony Mendez's historical account of the rescue of six U.S. diplomats from Tehran, Iran during the 1979 Iran hostage crisis」とされていて、なおかつ「Historical Inaccuracies」の項まで設けられています。

 そこではいくつもの論点が記載されていますが、例えば、
a.カナダでは、映画が、CIAの役割をプレイアップしている代わりに、カナダ政府、特に脱出作戦におけるテイラー・カナダ大使の役割がないがしろにされているとの批判が巻き起こったようです。
 例えば、映画では、6人の脱出に際し、テヘラン空港で航空券の購入でトラブルが起きそうになりますが、実際には、テイラー大使の妻が、前もって3つの違った航空会社から3つの航空券のセットを購入していたので、こんなことは起きなかったとされています。
 また、6人がバザールに外出するなどといったことも行われなかったようです。

b.さらに、実際には、ニュージーランドとイギリスの外交官も、6人のイランからの脱出には寄与したのだ、との批判も出ているようです(ニュージーランドの外交官が、アメリカ人を空港まで車で送ったようですし、当初はイギリスの外交官がアメリカ人を匿ったようです―場所が危険なのでカナダ大使館の方に移らせたとのこと)。

c.より細かな点を見ると、その項目では次のようなことも記載されています。
・映画では、メンデスは、トルコにあるイラン大使館で入国ヴィザを取得していますが、実際にはドイツのボンにあるイラン大使館だったとのこと。
・映画では、メンデスは、単身イランに乗り込んでいますが、実際にはJulioというパートナーを連れていたとのこと。
・映画では、6人は全員、テイラー大使の公邸に滞在しているように描かれていますが、実際には、そこにいたのは2人だけで、他の4人は他のカナダ大使館員の家で暮らしていたとのこと。
・映画では、カーター政府が救出作戦をぎりぎりになって中止させ、事態が厳しい局面を迎えますが、実際には、カーターが作戦の承認を遅らせたのはわずか30分間だけのことであり、それも、メンデスがイランに向かうべくヨーロッパを出発する前のことだったとのこと。
・映画では、搭乗前の審査において、イラン側の監視兵とメンデスらの一行との間で非常に緊迫する場面が描かれていますが、実際には、技術的な問題によってフライトに遅延が生じただけで、空港における出国審査などには何の問題もなかったとのこと。



・最後の追跡の場面は、すべて作り事。

 こうした事柄は、面白い娯楽映画を製作するという観点からすれば、そしてアフレック監督も、「映画は、 “this is a true story”と言っているわけではなく、“based on a true story”と言っているのだから、“ some dramatic license”は認められる」と述べていることからすれば、どれもこれもどうでもいいことでしょう。
 クマネズミは、こうしたことを書き並べたからと言って、だからこの映画に問題があると言いたいわけでは全くありません。
 むしろ、事実とされていることとは違った様々の味付けこそが、この映画においては重要と言うべきなのではないでしょうか?
 そして、余り“based on a true story”という点を強調しすぎないようにすべきではないかと思います。



★★★☆☆



象のロケット:アルゴ


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12 コメント

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そっくりさん (milou)
2012-11-05 11:19:22
なかなか面白かったです。しかも『SAFE/セイフ』と続けて見たので目を背けたくなるほど激しいアクションとラストを除きまったくアクションのない2本の人質救出劇。
その対比も含めどちらも非常に面白かったです。

エンドクレジットでドラマタイズするため一部状況や台詞を変えています、とあるように言うまでもなく“事実”とは違うだろうが
(多分)実際の当時の写真と映画のシーンを並べてメイクまで“事実そっくり”であることを強調しているのだから、今回は(?)“事実に基づいている”と明示するのも許せます。
(その事実がフィクションならもっと面白い?)

ただ1点、見ていてバカか(つまりドラマタイズのため)と思ったのはラストの空港でのシーン、
銃を持った兵士たちが大慌てで追いかけ扉を壊すのに手間取りトラックで離陸した飛行機を追いかける。
空港を支配しているのだから管制に離陸許可をしないように電話1本すれば(映画の設定でも)間に合ったはず。

ちなみに現実には“3つの航空券のセットを購入していた”とのこと。
たしかに天候も含め飛行機が予定通り飛ばないなんて日常茶飯事(僕自身2日足止めを食らったり空港で12時間待たされたこともある)、納得できる話ですね。
しかし(もちろん現実は知らないが)、そのように用意周到に準備するのが通常なら、(特にアメリカ)大使館で機密書類などを瞬時に処分するシステムがあると
思うが映画では非常に時間がかかり、しかもシュレッダーなどという原始的(?)方法なので人海作戦で復元されてしまう。
true story (クマネズミ)
2012-11-06 06:32:51
Milouさん、早々にコメントをありがとうございます。
おっしゃるように、大変面白かったことは“事実”です。
ただ、あまり“事実”に基づいていることをPRで強調し
すぎると、“ものまねグランプリ”になりかねず、また、空
港の監視兵がハリウッドに電話すると、まさに丁度そ
のとき、チェンバースらが事務所に戻ってきて電話を
取るなどといったシーンが白々しく思えてしまうのです
が。
まったくですが (milou)
2012-11-06 09:56:25
それも撮影中だからと足止めをくらいシビレを切らして責任は取ると邪魔して間に合う、それを信じられないぐらい長く待っていてくれる、という“映画的”ハラハラドキドキ。

彼らの地位の高さからからすれば撮影を中断させるのも可能かもしれないし、逆に別に急ぐ用もないだろうし仁義として邪魔することもない。まあ、毎度書いているがアラを許せるかどうかは楽しめたかどうかなので僕の場合、今回は合格ということ。

あと気になったのは映画内の「Argo」という作品(脚本)は架空ではなく実際に書いた人がいる。
Variety誌など各種メディアで、あれほ大々的に宣伝したなら“盗作”だど訴えられる。オリジナルの作者に関する権利関係のエピソードが必要だと思うが…

ちなみに当然僕は前情報ゼロで予告編も見ていないし映画の存在すら知らなかったのでジョン・グッドマンが生きて(?)出てきて驚いた。というのはジョン・キャンディが死んだのと混同して殺してしまったから。
実際にはキャンディ死後も6本見ているのに…
著作権のことなど (クマネズミ)
2012-11-07 06:32:44
Milouさん、再度のコメントありがとうございます。
まさに「“映画的”ハラハラドキドキ」で、テヘラン空港
で、最初のチェックではキャンセルされていた航空券
が再チェックしたらOKとなる場面など、それがまさに
フィクションだからこそ、以後面白くなるぞと見る者を
映画にのめり込ませます。

なお、映画の中の「Argo」の脚本の著作権に関しては、
よくはわかりませんが、シーゲルとチェンバースが脚本
家組合のようなところに出向いて、理事長らしき男のサ
インをもらうことでOKになったのではと思ったのですが?

さらに、ジョン・グッドマンについては、milouさんに言わ
れたので調べてみると、ケヴィン・スペイシーが素晴らし
かった「ビヨンドthe シー 夢見るように歌えば」などいろ
いろと出演しているのですね!
Unknown (ふじき78)
2012-11-11 07:30:30
> “this is a true story”と言っているわけではなく、“based on a true story”と言っているのですから

そう言えば「不幸の手紙」の文章の一部に伝播を遮った人の被害状況を表わすのに「これは本当の話です」とうたってませんでしたっけ。

今回の映画はドキュメンタリーではないし、娯楽映画として嘘があっても構わないし、でも冒頭で「この映画には嘘があります」とまで言っちゃうと見る人が「嘘ばっかなんだろ」と侮って楽しみづらくなっちゃうので、嘘の量の多少にかかわらず、今の紋切り型でいいんじゃないかと思います。

そう言えば確か岡本喜八の映画の冒頭で「この映画はフィクションです」と書く所を筆書きで「この映画は嘘です」と書いた映画があったような。あれはあれで感心したなあ。
 (クマネズミ)
2012-11-12 05:31:18
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
いくらなんでも、「冒頭で「この映画には嘘があります」とまで言」う必要はないと思いますが、他方で、この映画は「“すべて”実話」だというようにPRすることもないのでは、というところです。
なお、「岡本喜八」監督ですが、その『肉弾』でデビューした大谷直子が、久しぶりに『希望の国』に出演しているのには驚きました。

Unknown (ほし★ママ)
2012-11-14 08:08:14
若い頃、胸を躍らせた一連のパニック映画のように
楽しませて頂きました。
緊迫した映画だけど、プロデューサーの一連の行動など
ホッと笑えるシーンもあって私は映画として好きです。
 
史実はあくまでベースとして
今からゆっくりパンフを読みたいと思います。
Unknown (クマネズミ)
2012-11-14 20:32:03
「ほし★ママ」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、「史実はあくまでベース」であり、そんな
こととは無関係に、本作は実に「楽し」い作品でした。
真実と娯楽性 (iina)
2012-11-23 09:28:18
事件が成功すると「俺々重要役割り」したと主張したり、細かい描写に確執するものです。“based on a true story”
なのだから、娯楽性を高める意味からも構わないです。
背景に国がからむので、担当者は主張する責任があるのでしょう。だからといって、撮り直すこともなく公開されてます
から、興行的には問題なく、しかも好評されています。
ラストは、恐らくは追っ駆けっこしてないだろうと予想してました。
でも、此方でその真実を知ることは楽しいです。

Unknown (クマネズミ)
2012-11-26 06:32:24
「iina」さん、TB&コメントをありがとうございます。
本作については、注2で申し上げたように、カナダなどで批
判が巻き上がったようですが、それは「すべてが真実の物
語」などとPRするからなのであって、おっしゃるように、フィ
クションをかなりの程度盛り込んでいる点は「娯楽性を高め
る意味からも構わない」と思います。

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