映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

バーダー・マインホフ  

2009年09月09日 | 洋画(09年)
 「バーダー・マインホフ  理想の果てに」を渋谷のシネマライズで見てきました。

 このところ日本で、1960年代後半~70年代前半にかけて驚くべき事件を引き起こした“赤軍派”のことがあちこちで取り上げられています。
 昨年3月には若松孝二監督の映画「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」が公開されました。ブログ゛「情報考現学」(8月4日)で「まだ連載中で単行本3巻までだが凄く面白い」と述べられている長編漫画『レッド』(山本直樹:講談社)も、事件のことを取り扱っているものです。さらに、慶大教授・小熊英二氏の最新著『1968』(上下ともそれぞれ1,000ページをこえる大著!)の下巻第16章でも連合赤軍が取り上げられています。

 すでに30年以上も昔のことにもかかわらず相変わらず高い関心があるのは、やはりなぜあんなこと(リンチ殺人事件とあさま山荘事件)が起きたのかが、なかなか解けない謎になっているからでしょう。あるいはそこに日本特有の問題点が見出されるとして、様々な角度からメスが入れられているのだと思われます。
 さらには、団塊の世代の人たちが、第一線から退くに当たって、大学闘争から連合赤軍事件までのことについてキッチリと整理しておきたいと考えていることもあるでしょう。
 私も、彼らの思想云々ではなくて(マルクス主義革命などは死語になってしまいました!)、あの事象そのもの、一体あのの事件は何だったのか、という点に関心を持ってきました(単なる好奇心の域を出ないものですが)。

 そういう中で、「ドイツ赤軍派」を取り扱った映画が日本でも公開されたので、これは見に行かずばなるまいと渋谷に出向きました(あわせて、外国映画部門のアカデミー賞を「おくりびと」と争った映画でもあるのでどんな作品なのかなという興味もありました)。

 この映画では、女性ジャーナリストのマインホフが、バーダーやその愛人らと手を組んで、超過激な極左組織のバーダー・マインホフ・グループを結成し、様々のテロ行為を犯します。結局は皆逮捕されてしまうところ、まずマインホフが、民間人を爆弾テロに巻き込んこんだことなどを気に病んで精神に変調を来して刑務所内で自殺し、バーダーらも、パレスチナの同志によるハイジャックによって出獄しようとしますが、それが出来ないことが分かると、同じく刑務所内で自殺してしまいます。

 これがこの映画のあらましですが、その間に、要人の誘拐・暗殺、銀行強盗、爆破、ハイジャックなどの凄まじいテロ行為がこれでもかという具合に何回も描き出されます。
 実業家のシュライヤーの誘拐・射殺事件は、日本でもかなり大きく取り上げられたので知ってはいたものの、そのほかの事件は報道があったとしても覚えていませんから、この映画でRAFの過激振りが漸くわかったことになります。

 日本の赤軍派の影響を受けて、彼らは自分たちを「ドイツ赤軍派(Rote Armee Fraktion、 RAF)」とも呼んだようですが、映画からすると、その行動形態は日本の赤軍派とはかなり異なる感じです。たとえば、
・日本の赤軍派の場合、実際のテロ行為はかなり小規模なこと(確保できた武器が小振りなためかもしれません)。他方、ドイツ赤軍派は、要人の誘拐・暗殺など随分と派手な事件を引き起こしています。
・日本の赤軍派の場合、グループ内の統制にかなりのウエイトをおいていること(「総括」と称する凄惨なリンチ)。映画で見る限り、ドイツ赤軍派では、メンバーが規律でがんじがらめに縛られているようには見えません。
・日本の赤軍派の場合、重信房子がパレスチナに行ったりしますが、総じて国際的な視点が欠けていること。ドイツ赤軍派では、軍事訓練のためにグループの主要メンバーがパレスチナに渡っていますし、捕まったバーダーらの奪還のために、パレスチナ人によるハイジャック事件も引き起こされました。

 単なる印象に過ぎませんが、日本の赤軍派は、極東の狭い閉鎖空間の中でますます内部に縮こまって自滅してしまった感じです。別にドイツ赤軍派が外部に開かれていたというわけではないものの(結局は、幹部は刑務所内で自殺してしまうのですから)、なにかしら西欧と日本との違いを感じさせます。
 にしても、ドイツと日本というように距離的に酷く離れているにもかかわらず、ほぼ同時期に類似する組織が現れ、類似する犯罪行為を犯してしまったことは、実に不思議に思います。

 さて映画自体に戻ると、総じて言えば、なぜ彼らはこのような過激な行動に走ったのか、という内面的な問題よりも、むしろ彼らの行ったテロ行為それ自体を描き出すことに主眼が置かれているように思えました。
 そうした観点から言えば、同じような実録ものですが、「サガン」に類似していて(サガンの内面の動きというよりも、サガンにまつわるスキャンダラスな事柄を次々に描き出している点で)、ラブストーリーに重点を置いた「ココ・シャネル」とは異なる描き方がされているのではと思いました。


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