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きみがくれた物語

2016年08月19日 | 洋画(16年)
 『きみがくれた物語』を渋谷シネパレスで見ました。

(1)ここらあたりでラブストーリー物もいいだろうと思って映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、本作の主人公のトラヴィスベンジャミン・ウォーカー)が観客に向けて話しています。「僕の話に注目してくれ。人生の秘密を教えるのだから。いいかい、全ては決断にかかっているんだ」、「人生を変えてしまう選択がある。今後の生活のどの瞬間も、その選択にかかっている」。

 次いで、病院の場面で、そこにやってきたトラヴィスが医師のライアントム・ウェリング)に、「彼女と話をしたくて」と言うと、ライアンは「それがいい」と答えます。さらに、トラヴィスが「僕にあんまり優しくするな」と言うと、ライアンは「あまり頑なになるな」と応じます。

 ここで7年前に遡ります。舞台は、ノースカロライナ
 若い男女が船に乗ってワイワイ騒いで遊んでいます。
 その船がトラヴィスの家の前の桟橋に着いて、皆が降りて、庭でバーベキューをします。
 酒が入り、大声で談笑し、流されている音楽のボリュームも上げられます。

 すぐ隣の家では、ギャビーテリーサ・パーマー)が、バッハの無伴奏チェロソナタをかけながら、医者になるべく勉強中。
 夜、トラヴィスが一人で庭の椅子に座っているのを見計らって、ギャビーは文句を言いに行きます。
 するとトラヴィスは、「あなたは僕を見ていたね?」と言います。
 それに対しギャビーは、「90メートルも離れているのに、どうやって見れるの?」と返します。
 トラヴィスは、自分の名前を告げ、「きみが名乗る番だけど?」、「なぜそんなに怒っているの?」と訊きます。
 ギャビーは自分の名前を言い、煩すぎることを非難し、さらに「オタクのバカ犬が、ウチの可愛いモリーを弄んだ。それで、モリーの乳首が膨らみ、体重も増えた。あなたに監督責任がある」と申し入れます。

 これがトラヴィスとギャビーの最初の出会いなのですが、さあこれからどのように物語は展開するのでしょうか、………?

 本作は、主人公の若い獣医が隣に引っ越してきた医師志望の若い女性と結婚するまでに至る話と、妻になったその女性が交通事故に遭って植物人間になってしまってからの話という2部構成になっています。ただ、それぞれの話は御都合義的な内容で新鮮味がなく、その上、それぞれの話が連続的に描き出されているせいでしょうか、一つの作品としてまとまりがなく、焦点がボケてしまっている感じがします(注2)。

(2)本作には医者が随分とたくさん登場します。
 といっても、主人公のトラヴィスは、父親・シェップトム・ウィルキンソン)と一緒にペットクリニックを営む獣医ですが。
 他方、ヒロインのギャビーは医師になろうと勉強中です(病院に勤めてもいます)。



 またその恋人のライアンは病院に勤務する医師なのです。
 このような設定にすると、ギャビーが飼い犬・モリーの診察をしてもらいにペットクリニックに行くと、そこでトラヴィスと顔を合わせることになったり(注3)、また、ギャビーの飼い犬・モリーの出産に際し、ギャビーが隣家のトラヴィスの助力を受けることにもなったりして、2人の仲が親しくなるのに好都合といえるでしょう。
 また、交通事故に遭って植物状態になったギャビーを診るのがライアンで、そのためライアンとトラヴィスが出会ったりすることにもなります〔これが、上記(1)で書いた2人の出会いの背景です〕。

 好都合なのはこれだけではありません。
 トラヴィスは、これまでモニカアレクサンドラ・ダダリオ)といい仲なのですが、彼がギャビーに惹かれているのを察知すると、モニカはさっと身を引いてしまうのです(注4)。
 それに、彼の妹・ステフマギー・グレイス)までも、彼がギャビーを選ぶようにそれとなく忠告したりします(注5)。

 これだけ環境が整っていれば、いろいろ紆余曲折はあるにせよ、トラヴィスとギャビーが一緒になるのは時間の問題でしょう。

 さらに言えば、本作の原題が『The Choice』とされているのは、前半だと、ギャビーが、医師のライアンと獣医のトラヴィスのどちらを選択するのか迫られるからでしょうし、後半では、植物状態のギャビーに対し、延命措置を継続するのかどうかの選択をトラヴィスがせざるを得なくなるからでしょう。
 でも、前者については、ギャビーは、ライアンとの婚約を解消し、トラヴィスの前からも姿を消してしまうのであり、実際には、決断しなければならない状況を前にして逃げてしまっているように思われます(注6)。
 また、後者についても、トラヴィスは、ライアンに「90日経過すると元に戻れる確率は1%になってしまう」と言われても、さらにギャビーがサインした「蘇生処置拒否を指示する書類」を見せられても、当惑するだけであり、しっかりとした判断に基づいて延命措置の継続を決断したようには思えません(注7)。



 それに、元々「選択」とか「決断」とかは、個別的な内容を云々しないでそれ自体を抽象的に取り上げてみても、それほど意味があるようには思えないところです。
 上記の(1)で書いてあるように、トラヴィスは、「人生は選択であり、何を選ぶ決断するかで人生が決まってしまう」というようなことを映画冒頭で仰々しく述べています。
 ですが、そんなことは事々しく言われるまでもないのはないでしょうか?人が生きているということは、毎瞬間あることを決断して選択しているのであり、また同時にあることをしないと決断していることでもあり、そんなことはアタリマエではないでしょうか(注8)?

 結局、ある時トラヴィスが病院に行くと、ギャビーは意識を回復していて、「遅いわよ!」と彼を迎えるのです。
 この結末は一体何でしょう?
 クマネズミには、きちんと決断できずに選択をズルズル引き延ばしていたら、たまたまこんな好結果がもたらされた、としか思えないところです(注9)。
 としたら、「人生は選択だ」「人生は決断だ」という格好のいいものではなく、「決断を先延ばしにしても、いい結果がもたらされることがある」という他愛無い教訓話になってしまわないでしょうか(注10)?

 クマネズミには、本作は、アメリカの恵まれた男女を巡る体のいいお伽話としか思えませんでした(注11)。



(注1)監督はロス・カッツ
 原作は、ニコラス・スパークス著『きみと選ぶ道』(雨沢泰訳、エクスナレッジ)。
 原題は『The Choice』(原作も:本作の邦題は、本作の原作者のベストセラー小説『きみに読む物語』に引きずられたものでしょうが、その意味するところがサッパリわかりません!少なくとも、原作の邦訳版のタイトルの方が意味は通ります。どうしてそのタイトルを本作の邦題にしなかったのでしょう?)。

 なお、出演者の内、トム・ウィルキンソンは、『グローリー 明日への行進』や『グランド・ブダペスト・ホテル』などで見ています。



 また、ニコラス・スパークスの小説を原作とする作品は、『親愛なるきみへ』と『きみに読む物語』(DVD:このエントリの「注10」の「補注」で少々触れています)を見ました。

(注2)常識的・素人的には、後半の物語をメインとして、前半の物語はもう少し簡略にして、主人公の回想という形で挿入すれば、一つの作品としてまとまりが出てくるのではないか、と思います。

(注3)トラヴィスの話から、彼の飼い犬のモビーは7ヵ月前に去勢手術を受けていて、モリーの妊娠には無関係であることがわかります。

(注4)モニカは、トラヴィスに、「私より彼女が好きなのね。プライドを捨てて。女なら誰でも戦う男を望んでいる。今、戦って。彼女もあなたを想っているはず」と言って、あっさりと去っていくのです。

(注5)ステフは、トラヴィスに、「モニカは好きよ。でもチャンスは隣家にある。兄さんは、困難な道を避けるものね」とけしかけます。

(注6)結局は、彼女の家にまで押しかけて行って強引にプロポーズすることによって、トラヴィスはギャビーと結婚することになるのですが。

(注7)母親の墓の前で、トラヴィスは、「時間がないのに決断がつかない」「きっと彼女は怒っているだろう、でも決められない。彼女を失うなんて…」と妹・ステフに言うだけです。ステフの方は、「彼女を失う訳にはいかない。文句を言う人がいたら、私が相手になる」と言っていて、むしろ彼女の方がしっかりと判断している感じです。

(注8)唐突で恐縮ですが、最近DVDで見た『恋人まで1%』(2014年)の冒頭でも、主人公のジェイソンザック・エフロン)が、「男と女には決断の時がある。共に歩むか別の道を進むか決めるんだ」といったことを観客に向かって喋ります。

(注9)トラヴィスは、秘密の場所(ギャビーにだけ教えた)に東屋を建て、そこにギャビーが家の軒にかけていた貝殻の飾り物をぶら下げますが、もしかしたらそれがギャビーの意識回復に効果があったのかもしれません(ギャビーが信じている月と星に貝殻が共振して、その波動がギャビーにまで伝わった!)!

(注10)まして、意識を回復したギャビーは「(トラヴィスが)耳元で話していたことは全部聞こえていた」と言うのですから、それがそのとおりならば、植物状態の患者については、今後延命措置を停止できなくなってしまうのではないでしょうか。

(注11)本作の劇場用パンフレット掲載の「story」には、トラヴィスについて「裕福ではないが」と記されていますが、海岸べりに比較的大きな家を持ち、また自家用の船に友人たちを乗せて遊びまわっているトラヴィスは、とても裕福な男だと思えてしまいます(まあ、日本的な基準なのでしょう!)。



★★☆☆☆☆



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2 コメント

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Unknown (クマネズミ)
2016-08-19 20:55:35
「まっつぁんこ」さん、TB&コメントをありがとうございます。
ゴズリングとマクアダムズが出演した『きみに読む物語』とは比べ物になりません。おっしゃるとおり、本作は、「DVDスルーが正解の映画」です!
DVDスルー (まっつぁんこ)
2016-08-19 08:20:45
きみに読む物語とは雲泥の差。DVDスルーが正解の映画でした。

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