映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

TOKYO TRIBE

2014年10月10日 | 邦画(14年)
 『TOKYO TRIBE』を渋谷シネクイントで見てきました。

(1)本作は、園子温監督の作品ということで映画館に行ってきました。

 本作(注1)のはじまりはブクロ。
 猥雑な雰囲気の街の中を、どのTRIBEにも所属しないMC SHOW(染谷将太)が歩きながら、「♪誰もが凶暴な街…」とラップを始めます。



 そこへ新米の婦警(佐々木心音)が現れ、「こんなゴミ箱、私が一掃してみせます」とベテランの警官に言って、ドラッグを売っているメラ鈴木亮平)を取り締まろうとしますが、逆にメラに羽交い締めにされてしまいます。なにしろ、メラは、ブクロを仕切るWU-RONZのリーダー、一婦警ごときが手を下せる相手ではありません。

 メラは婦警を押さえ込みながら、TOKYO TRIBEを次々と紹介していきます。
 まずは、シヴヤを仕切るSARU軍団。それから、シンヂュクを仕切るHANDSの三代目武将の大東駿介)や、歌舞伎町を仕切る女性だけで作られているTRIBEのGIRAGIRA Girlsなど。

 そして、メラが、「他のエリアのやつが来たらぶっ殺す。みんなお互いに戦争してんだ。しかし、その掟に従わないのがムサシノだ」と言うと、彼らのアジトであるファミレス・ペニーズが映し出され、ムサシノを仕切るムサシノSARUのYOUNG DAIS)が、ファミレスにやってきたMC SHOWと一緒に、「ムサシノは、今日もLove & Peace」などと歌います。
 そして、リーダーのテラ佐藤隆太)もアジトに登場。

 そんなこんなで本作の序の部分がおしまいとなり、物語の本題に入ります。
 端折って言えば、メラが目の敵とするムサシノSARUを潰そうと、罠を仕掛けます。すなわち、メラは、ムサシノSARUのメンバーのキム石田卓也)を、ブクロのSAGAタウンの奥の部屋に閉じ込め、テラや海たちが救出に来るのを待ちます。
 さあ、テラや海らはキムを上手く救い出すことができるでしょうか、………?

 本作は、漫画を実写化したものながら、全編にラップが流れる中で、池袋や渋谷などを踏まえた様々の繁華街を仕切る「TRIBE(族)」同士の壮絶な戦いぶりを描き出すという、奇想天外で随分と楽しいバトル・ラップ・ミュージカルに仕上がっています。でも、こうした羽目をはずした作品は一般受けしないのでしょう、平日の入りは惨憺たるものがあります。

 主演の鈴木亮平は、最近までNHK連続TV小説『花子とアン』において村岡花子の夫役を演じていたところ、本作ではその雰囲気をガラリと変え、むしろ『H/K 変態仮面』につながるところを全面開花させながら力演しています。
 それに、竹内力窪塚洋介など強者達が加わってハチャメチャぶりを発揮しているのですから、凄まじい限り(注2)。

(2)これまでラップを取り上げている映画としては、『SR サイタマノラッパー』の3部作(注3)を見ましたが、いずれもラッパーを描いている作品であり、そのラッパーがラップするのですから違和感はありません。
 とはいえ、それらにおいて台詞とリリックが完全に分かれているのかというと、必ずしもそうではなく、台詞めいたリリックも登場し、場面が進められます。
 本作ではそれを最大限に推し進め、かなりの台詞を、ラッパーではない登場人物がラップで歌うのですから、もうミュージカル映画そのものといえるでしょう。
 ただ、ラップ特有の制約のせいでしょうか(注4)、リリックの内容が総じて単純になり、そんなことから本作の物語も派手派手しいだけのものなってしまっているのではと思えました。

 ところで本作は、一見、ラップそのものの世界とは遠いように思えるところ、本作で歌われるリリックの中には「Rhyme」とか「Dis」といったラップ用語も使われ、なによりメラの相手役・海を演じるYOUNG DAISはヒップホップ界では著名なラッパーです(注5)。
 それに、ラップの世界では「MCバトル」という催しがあり(注6)、そうであれば、戦って勝負をつけるという点で、本作の世界と元々違和感がないのかもしれません。
 であれば、本作は、TRIBE同士の戦争さながらの激しい戦いが描かれているとはいえ(注7)、実際のところはラップの「MCバトル」ともみなせるのではないでしょうか?銃弾に倒れた者も、刀で斬られた者も、ジ・エンドの声が掛かると皆元気に起きだすように思われます。何しろ、歌の世界なのですから。

(3)その戦争ですが、本作は、なんだかきな臭い匂いが漂っていないわけでもなさそうな日本の現状を、もしかしたら踏まえているのかもしれません。
 無論、ムサシノは日本でしょう。他のTRIBEのようにエリアを守り戦に備えて武装することもなく、来る者は拒まずの姿勢をとって平和主義でやっていこうとしています。
 ですが、メラの方から一方的に介入してくると(注8)、やはり防御せざるを得ず、まずはテラたちが情報収集に敵陣の中に乗り込みます。といっても、海がバットを手にするくらいで、武器は何も持たずに。
 案の定、テラはメラにやられてしまい、それが一つのきっかけとなって、TRIBEの間で戦いが勃発します。



 こんなことからすれば、平和、平和と唱え続けていてもダメで、普段から防御に力を注ぐ必要があるということになりますが、さあどんなものでしょうか?

(4)渡まち子氏は、「若者たちの抗争をラップで綴る異色のバイオレンス・アクション「TOKYO TRIBE(トーキョー・トライブ)」。なんでもありの無国籍ワールドにひたることができれば楽しめる」として55点を付けています。



(注1)本作の原作は、井上三太氏の漫画作品『TOKYO TRIBE2』(なお、井上三太氏は、本作において、シヴヤSARUの重鎮であるレンコン・シェフに扮しています)。
 また、園子温の監督作品は、最近では『地獄でなぜ悪い』を見ました。

(注2)竹内力は、メラの背後でブクロを支配するブッバを演じ、窪塚洋介はその息子役。
 また、ブッバの更に背後の存在である大司祭にはでんでんが扮しています。

 女優陣では、最後には大司祭の娘エリカと分かるスンミ役に清野菜名、ファミレス・ペニーズのウエイトレスに市川由衣(『海を感じる時』で主演)、さらには叶美香がブッバの妻、中川翔子がブッバの娘に扮しています。

(注3)『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』と『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』。
 なお、他にも、『サウダーヂ』ではラッパーのアマノ(田我流)が登場します。

(注4)韻(Rhyme)を踏むことなど。

(注5)この記事を参照してください。

(注6)例えば、この記事が参考になるかもしれません。

(注7)メラは日本刀を振り回しますし、シンヂュクHANDSの三代目・巌は立派な戦車を持っています。 また、ブッバも、最後になるとガトリング銃〔『るろうに剣心』で観柳(香川照之)が使います〕をぶっ放します。

(注8)メラは、一方的にムサシノの海に対して敵愾心を持っていて、それでムサシノを潰そうとするのですが、その理由は性器コンプレックスなのです。



 その挙句、メラは、「もとからケンカに意味はない。世界で起こっている戦争も同じだ。端からくだらない、それが喧嘩だ」と開き直ります。



★★★★☆☆



象のロケット:TOKYO TRIBE