『ニューヨーク、恋人達の2日間』をヒューマントラストシネマ渋谷で見ました。
(1)このところ見る映画が総じて邦画の方に傾いてきているので、たまには気の置けない洋画でも見ようかということで映画館に行ってみました(注1)。
本作の舞台は、ニューヨーク。主人公のマリオン(ジュリー・デルピー)はパリ出身の写真家、人気DJのミンガス(クリス・ロック)と同棲しています。マリオンは、前の彼氏との間で出来た息子ルルを連れており、またミンガスにも娘ウィローがいます。
そんな中で、マリオンは個展を開きます。
さらに、その個展を見るべく、フランスから、マリオンの父親ジャノと妹ローズ、そしてローズの彼氏マニュまでもやってきて、マリオンたちの住むアパートに2日間滞在することに。
狭いアパートに7人も一度に住むわけですから、騒ぎが起こるのは必定、サテどんな展開になるのでしょうか、……?
本作には、個展の開催や子育てで大忙しのマリオン、自分の部屋でオバマ大統領の写真に向って架空インタビューをしたりするミンガス、微妙な問題にズバッと本音を口にしてしまうローズ(注2)、英語が分からないくせに好奇心旺盛なジャノ、マリオンの元彼で米国では認められないマリファナを吸うマニュ(注3)などなど、大層個性的な人物が次々に登場しながら、フランス人とアメリカ人とのカルチャー・ギャップなどが描かれていて、よくある話といえばそれまでながら、そして全体としては実に他愛ない話ながら、かなり愉快なコメディタッチのラブロマンスに仕上がっています。
主演のジュリー・デルピーは、『ビフォア・サンセット』(2004年)などでお馴染みですが、本作の監督や脚本も手掛けていて、まさに八面六臂の活躍ぶりです。
ミンガク役のクリス・ロックは、『恋愛だけじゃダメかしら?』でイクメンに勤しむ父親役を演じていましたが、本作では本領発揮です。
(2) 監督・主演のジュリー・デルピーは、『ビフォア・サンセット』を意識しながら本作を制作しているようです。
劇場用パンフレット掲載の「Production Note」によれば、彼女は、「『パリ、恋人たちの2日間』の続編にしようと思った」が、「でも相手役は同じ男性じゃダメだと思った。それだと『ビフォア・サンセット』や『恋人までの距離』(1995年)と同じになってしまうから」と述べています。
確かに、『ビフォア・サンセット』は『恋人までの距離』の続編であり、場所がウィーンからパリに移るだけで、主人公も相手役が両作で共通しています。
本作も、前作とは場所がパリからニューヨークに移っていますから、これで相手役が同じになれば、二番煎じもいいところになってしまうかもしれません。
それにしても、『ビフォア・サンセット』(及び『恋人までの距離』)は、フランス人女性セリーヌ(ジュリー・デルピー)とアメリカ人男性ジェシーとのラブストーリー(イーサン・ホーク)であり、本作(及び前作)でもフランス人とアメリカ人との関係が描かれていて、どうやらジュリー・デルピーは、自分のテーマとしてそこらあたりに焦点を当てているようにも思われます。
としたら、今度は、フランス人とアメリカ人とが幽霊屋敷で出っくわすといったホラー映画に挑戦してみてはどうでしょう!
なお、全体的に、戯曲の舞台を見ているような感じを受けました。
勿論、フランスからやってきた連中を引き連れてニューヨーク市内に繰り出す場面も描かれているのですが(注4)、中心となるのは、マリオンとミンガスが暮らすマンションの一室。
丁度いいタイミングで、ドアが開け放たれていろいろな人物が登場したり(注5)、大きなベルの音がして会話が中断する一方で(注6)、部屋のあちこちで人々が大声で話しこんだりしています。
こんな感じの作品を最近どこかで見たなと思い付いたのは『くちづけ』。そこでも、「ひまわり荘」の談話室を中心に、様々な人が出入りし騒ぎまわります。
とはいえ、劇場用パンフレット掲載の「Production Note」を見ると、本作は戯曲を映画化したものではなく、監督のジュリー・デルピーが、マニュ役のアレックス・ナオンと共同で脚本を書き進めていったとのことでもあり、また映画の内容がコメディとして面白ければ何の問題もありません。
(3)渡まち子氏は、「カルチャー・ギャップ、国際交流、男女の本音、働く女性の悩みに子育て、さらにはNYのアート界の裏話など、おしゃれ心を感じる楽しい小品に仕上がった」として65点を付けています。
(注1)本作は、『パリ、恋人たちの2日間』(2007年)の続編とのこと。
(注2)例えば、妹ローズは、マリオンの息子ルルについて、その歳にしては言葉が十分ではない、感情を上手く表せない、自閉症だと決めつけてしまいます。
また、ミンガスが崇拝するオバマ大統領のスタッフを前にして、「オバマ大統領のノーベル賞受賞は間違っていた」などと蕩々とぶち上げたりします
(注3)マニュが密売人からハッパを購入するところを見ていたミンガスの娘ウィローが、別の場所でその真似をして騒ぎを引き起こします。
(注4)本作のラストが、セントラルパークの中にある城(ベルヴェデーレ城)での大騒ぎだったりします。
(注5)中でも傑作なのは、マリオンが脳腫瘍で余命3ヶ月だという話を聞いて登場した医者のエピソードでしょうか。この医者は、彼の妻の要請でやってきたのですが、彼女はエレベーターの中で、その場逃れのホラ話をマリオンから聞いたのでした。
医者が登場したわけを知ったミンガスは、意地悪にも、マリオンに、「この間撮ったレントゲン写真があるはずだから、それを医者に見せたらいい」などと言って、事態をなお一層悪化させてしまいます。
(注6)インターホンが壊れているために、マリオンは修繕屋に電話するのですが、彼女の英語がなかなか相手に通じないようなのです。といっても、マリオンを演じるジュリー・デルピー自身は、『ビフォア・サンセット』(及び『恋人までの距離』)において、恋人のアメリカ人・ジェシーを相手に、延々と英語で話をするのですから、その英語力は並外れているものと思います(もう一人思い出すフランス女優といえば、アメリカ映画『陰謀の代償』に出演していたジュリエット・ビノシュでしょうか)!
★★★☆☆
象のロケット:ニューヨーク、恋人たちの2日間
(1)このところ見る映画が総じて邦画の方に傾いてきているので、たまには気の置けない洋画でも見ようかということで映画館に行ってみました(注1)。
本作の舞台は、ニューヨーク。主人公のマリオン(ジュリー・デルピー)はパリ出身の写真家、人気DJのミンガス(クリス・ロック)と同棲しています。マリオンは、前の彼氏との間で出来た息子ルルを連れており、またミンガスにも娘ウィローがいます。
そんな中で、マリオンは個展を開きます。
さらに、その個展を見るべく、フランスから、マリオンの父親ジャノと妹ローズ、そしてローズの彼氏マニュまでもやってきて、マリオンたちの住むアパートに2日間滞在することに。
狭いアパートに7人も一度に住むわけですから、騒ぎが起こるのは必定、サテどんな展開になるのでしょうか、……?
本作には、個展の開催や子育てで大忙しのマリオン、自分の部屋でオバマ大統領の写真に向って架空インタビューをしたりするミンガス、微妙な問題にズバッと本音を口にしてしまうローズ(注2)、英語が分からないくせに好奇心旺盛なジャノ、マリオンの元彼で米国では認められないマリファナを吸うマニュ(注3)などなど、大層個性的な人物が次々に登場しながら、フランス人とアメリカ人とのカルチャー・ギャップなどが描かれていて、よくある話といえばそれまでながら、そして全体としては実に他愛ない話ながら、かなり愉快なコメディタッチのラブロマンスに仕上がっています。
主演のジュリー・デルピーは、『ビフォア・サンセット』(2004年)などでお馴染みですが、本作の監督や脚本も手掛けていて、まさに八面六臂の活躍ぶりです。
ミンガク役のクリス・ロックは、『恋愛だけじゃダメかしら?』でイクメンに勤しむ父親役を演じていましたが、本作では本領発揮です。
(2) 監督・主演のジュリー・デルピーは、『ビフォア・サンセット』を意識しながら本作を制作しているようです。
劇場用パンフレット掲載の「Production Note」によれば、彼女は、「『パリ、恋人たちの2日間』の続編にしようと思った」が、「でも相手役は同じ男性じゃダメだと思った。それだと『ビフォア・サンセット』や『恋人までの距離』(1995年)と同じになってしまうから」と述べています。
確かに、『ビフォア・サンセット』は『恋人までの距離』の続編であり、場所がウィーンからパリに移るだけで、主人公も相手役が両作で共通しています。
本作も、前作とは場所がパリからニューヨークに移っていますから、これで相手役が同じになれば、二番煎じもいいところになってしまうかもしれません。
それにしても、『ビフォア・サンセット』(及び『恋人までの距離』)は、フランス人女性セリーヌ(ジュリー・デルピー)とアメリカ人男性ジェシーとのラブストーリー(イーサン・ホーク)であり、本作(及び前作)でもフランス人とアメリカ人との関係が描かれていて、どうやらジュリー・デルピーは、自分のテーマとしてそこらあたりに焦点を当てているようにも思われます。
としたら、今度は、フランス人とアメリカ人とが幽霊屋敷で出っくわすといったホラー映画に挑戦してみてはどうでしょう!
なお、全体的に、戯曲の舞台を見ているような感じを受けました。
勿論、フランスからやってきた連中を引き連れてニューヨーク市内に繰り出す場面も描かれているのですが(注4)、中心となるのは、マリオンとミンガスが暮らすマンションの一室。
丁度いいタイミングで、ドアが開け放たれていろいろな人物が登場したり(注5)、大きなベルの音がして会話が中断する一方で(注6)、部屋のあちこちで人々が大声で話しこんだりしています。
こんな感じの作品を最近どこかで見たなと思い付いたのは『くちづけ』。そこでも、「ひまわり荘」の談話室を中心に、様々な人が出入りし騒ぎまわります。
とはいえ、劇場用パンフレット掲載の「Production Note」を見ると、本作は戯曲を映画化したものではなく、監督のジュリー・デルピーが、マニュ役のアレックス・ナオンと共同で脚本を書き進めていったとのことでもあり、また映画の内容がコメディとして面白ければ何の問題もありません。
(3)渡まち子氏は、「カルチャー・ギャップ、国際交流、男女の本音、働く女性の悩みに子育て、さらにはNYのアート界の裏話など、おしゃれ心を感じる楽しい小品に仕上がった」として65点を付けています。
(注1)本作は、『パリ、恋人たちの2日間』(2007年)の続編とのこと。
(注2)例えば、妹ローズは、マリオンの息子ルルについて、その歳にしては言葉が十分ではない、感情を上手く表せない、自閉症だと決めつけてしまいます。
また、ミンガスが崇拝するオバマ大統領のスタッフを前にして、「オバマ大統領のノーベル賞受賞は間違っていた」などと蕩々とぶち上げたりします
(注3)マニュが密売人からハッパを購入するところを見ていたミンガスの娘ウィローが、別の場所でその真似をして騒ぎを引き起こします。
(注4)本作のラストが、セントラルパークの中にある城(ベルヴェデーレ城)での大騒ぎだったりします。
(注5)中でも傑作なのは、マリオンが脳腫瘍で余命3ヶ月だという話を聞いて登場した医者のエピソードでしょうか。この医者は、彼の妻の要請でやってきたのですが、彼女はエレベーターの中で、その場逃れのホラ話をマリオンから聞いたのでした。
医者が登場したわけを知ったミンガスは、意地悪にも、マリオンに、「この間撮ったレントゲン写真があるはずだから、それを医者に見せたらいい」などと言って、事態をなお一層悪化させてしまいます。
(注6)インターホンが壊れているために、マリオンは修繕屋に電話するのですが、彼女の英語がなかなか相手に通じないようなのです。といっても、マリオンを演じるジュリー・デルピー自身は、『ビフォア・サンセット』(及び『恋人までの距離』)において、恋人のアメリカ人・ジェシーを相手に、延々と英語で話をするのですから、その英語力は並外れているものと思います(もう一人思い出すフランス女優といえば、アメリカ映画『陰謀の代償』に出演していたジュリエット・ビノシュでしょうか)!
★★★☆☆
象のロケット:ニューヨーク、恋人たちの2日間