映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

『グラキン★クイーン』―カメラの視線(下)

2010年06月15日 | DVD
 カメラの視線という点に関して、前日の記事で再度取り上げた映画『愛のむきだし』とは正反対の方向性を示していると思われるのが、映画『グラキン★クイーン』(監督・脚本:松本卓也)です。

 この映画については、友人が見に行ったと言ってくれるまで全然知りませんでした。それを聞いて慌ててネット検索したところ、以前シネマート六本木で1週間公開されたことがあり、最近では渋谷のUplinkでこれまた1週間だけ上映されたものの、今は東京では公開されていないようなのです。ところが、驚いたことに、この5月下旬にはDVDがレンタルできるようになりました。それではと、早速借りてきて見てみました。
 


(1)ストーリーはいとも簡単。史上最強のグラビアアイドルを目指す風変わりな女子高生・マリン(西田麻衣)と、ひそかに最強のグラビアカメラマンになりたいと思っている男子高生・ニコ(松本光司)が、喧嘩したり助け合ったりしながら、いつか最強のコンビとなろうと頑張っています。
 マリンは、「マリンビューティ歩き」なるオカシナ技法を編み出したりして、密かに鍛錬を続けています。また、マリンとニコは、伝説のカメラマン・木屋野が住んでいる瀬戸内の小島に行って、そこで修行を積みます。
 こうして二人は、名の通ったエージェントから東京に出てこないかと誘いを受けるまでになります。その誘いに二人の心は揺らいだものの、結局は、もう少し地方で鍛錬を積んでみようということになるのでした。

 映画の舞台は香川県、香川県のご当地映画といえば、最近では映画『UDON』(注1)でしょう。デジャヴかなと一瞬思ったのは、マリンが出場した「香川オリーブガールコンテスト」のシーンで、それが開催されたステージ(瀬戸大橋記念公園内のマリンドーム)は、なんと『UDON』でも見かけました(注2)。
 これだけでなく、讃岐うどんに関連付けたマリンの姿をニコが撮ったりと、この映画も『UDON』同様、地方色豊かな作品となっています(注3)。



 それに、全般的にコメディタッチに仕上げられています。たとえば、本名が木村千代子だから“チョッキーナ”といわれるプロのグラビアモデル(中島愛理)が登場しますが、じゃんけんのチョキを出したりチョッキを着たりして写真を撮られたり、マリン同様このコンテストの選に漏れ、怒って東京に帰る時に、「東京に“直帰”する」などとどうしようもないダジャレを言ったりします。
 マア、つまらないことは何も考えずに、単純に見て楽しむ映画といえるでしょう。

(2)ここで、前日取り上げたブログ「はじぱりlite!」における議論との関係をみてみましょう。
 この映画で中心的に取り扱われているのはグラビア写真です。
 それはまさに、「堂々と目の前に広がる風景を写しとること」を実践して制作されるものでしょう。すなわち、グラビアカメラマンは、グラビアアイドルに“堂々と”正面からカメラを向けて、どんどん撮影していくわけで、前日の記事で取り上げました「盗撮」とは完全にベクトルが逆を向いていると考えられます。

 さらに言えば、グラビア写真の撮影の場合、グラドルは決して「自然」の様ではなく、一定のポーズをとることが求められます。
 ポーズには過去からの蓄積があるようで、マリンとニコがその下で修行した木屋野(マリンたちが島を後にした後、急死してしまいます)の遺影が、ある程度こうした点を象徴的に示しているのではないかと思われました。なにより、グラドルを相手に撮ることを専門とするプロ・カメラマンが、今度は自分が被写体になると(この写真はニコが撮影しました)、1966年の資生堂ポスター(モデル:前田美波里)に若干ですが類似したポーズをとってしまうのですから!





 また、グラビア写真の場合、カメラマンは、いうまでもなく隠れた存在ではなく、表の存在ではあるものの、それだけに却ってグラビアアイドルの名前の陰に隠れて注目されない存在になってしまうことが多いのではないでしょうか(注4)?
 これに反して、盗撮の場合は、逆に、撮影する姿を悟られないようにするがために、かえって「監視」の目に曝されてしまうことにならないとも限りません。

 といっても、上で述べたように、マリンとニコは、瀬戸内の小島に行って修行を積んだりします。特に、ニコが木屋野に言われて取り組んだのは、撮影技法ではなく讃岐うどんの打ち方の習得でした。ただ、美味しい讃岐うどんが作れるようになると、カメラ撮影の腕の方も飛躍的に上達しているのです。
 ここらあたりは、前日の記事で触れた『愛のむきだし』において、ユウがロイドマスターの下で盗撮の修行をするのにヨク対応しているといえ、そうしてみれば、盗撮とグラビア写真の撮影とは、そんなに距離が遠いものとも言えないのかもしれません。

(3)最後に前回の議論と合わせて考えてみましょう。
 確かに、写真の本質が「自然」をありのままに撮ることであれば、「盗み撮ること」が写真の本質といえそうです。
 ただ、もっと大雑把に、写真とは単に「ものを写すこと」だと言ってしまえば、人工的に作られた姿などを正面から隠れることなく撮ることも写真の本質の中に入ってくるのかもしれません。
 なにより、当初の写真で中心的だったのは肖像写真だったのでしょうから(注5)。



(注1)本広克行監督、2006年。
(注2)映画『UDON』では「さぬきうどんフェスティバル」の模様が描かれていて、マリンドームにおいては、主演のユースケ・サンタマリアと小西真奈美の司会のもとで、「さぬきうどん王選手権」が開催されました。
(注3)主人公の名前が「マリン」というのは、あるいは「マリンドーム」のように、香川県には「マリン」の付くものが多いことによっているのかもしれません。また、競演の男子高生が「ニコ」とされているのは、彼がいつも持っているカメラが「ニコン」であることに、またマリンの妹(飯田里穂)の名前が「ラム」というのも、伝説のグラドル「アグネス・ラム」にちなんでいるのかもしれません。
(注4)たとえば、ここで挙げたモデルの前田美波里とカメラマンの横須賀功光氏との関係はどうでしょうか?
 尤も、最近の篠山紀信氏の場合のように、青山墓地でのヌード撮影をして、その写真を公表したりすれば、警察の介入を招くという結果につながってしまうわけで(30万円の罰金)、であればカメラマンが隠れた存在になるものでもなく、ここらあたりの図式的な関係性は確信をもって言えるわけではありませんが。
(注5)1839年に公開されたダゲレオタイプは、当初、直射日光の元でも露光時間が10分程度もあって撮影する対象は限られていたものの、スグニ改良されて露光時間は2~3分となり、「肖像写真」が可能となって社会に浸透していった、とされています〔『写真の歴史入門―第1部「誕生」』(三井圭司/東京都写真美術館監修)P.17〕。
 ちなみに、東京都写真美術館では、「侍と私-ポートレイトが語る初期写真-」なる展覧会が開催されているところです。