映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

矢島美容室

2010年06月10日 | 邦画(10年)
 『矢島美容室 THE MOVIE 〜夢をつかまネバダ〜』を、丸の内ピカデリーで見てきました。
 TVで活躍するコメディアンの映画は普段あまり見る気にならないのですが、前田有一氏の映画評の評点が70点と高いうえに、「今週のオススメ」にもなっているので、マアそれならと思って出かけてみたわけです。

(1)何しろ、前田有一氏は、その映画評の中で次のように述べているのです。
 「木梨憲武や石橋貴明の女装顔のドアップを大スクリーンで見たときには、おそらく金を払ってなんでこんなモノを見なくてはならないのだろうと切ない気持ちになること請け合いだが、それを補って余りある楽しさが本作にはある」。
 「これは、日本国内専用ミュージカル作品。ターゲットが絞られているから、合致した観客にとっては下手に『NINE』なんぞの海外の大作を見るより遥かに面白いだろう。映画館の席に座っているのがもどかしいほどだ」。
 「楽曲の良さを唯一無二の武器とし、チームワークで乗り切ったスタッフキャストの皆さんには敬意を表したい。賞味期限の短い流行品ではあるが、日本人のためだけの楽しいミュージカルとして、気軽に見るにはオススメの一品である」。

 ですが、私には、こんなに退屈きわまる映画は最近見たことがないというほど駄目な出来の映画でした。
 まず、オペラと同様に、ミュージカルに目覚ましいストーリーを求めてもお門違いも甚だしいのかもしれませんが、それにしても、この映画は酷すぎます。
 なにしろ映画の中で展開されるのは、母マーガレット(木梨憲武)の長女ナオミ(DJ OZMA)が出場するビューティコンテストの話と、次女ストロベリー(石橋貴明)が主力選手となっているソフトボールとラズベリー(黒木メイサ)が率いるチームとの因縁試合の話ぐらいなのですから。
 それも、前者は、ラスベガスのマスコミ界を握る男(大杉漣)が審査委員長で、自分の娘の黒木メイサが第1位になることが分かっているという、どこにで見みかけるつまらないことこのうえないコンテストなのです。
 後者は、試合に遅れて登場したストロベリーが大活躍して、9回裏の大逆転によって勝利するという、これまた絵に描いたような展開〔スコアボードの数字をちらっと見るだけで、その後の進行ぶりが完全に予測できてしまうシロモノ〕(注)。

 それでも、普段、TVで見られるような「とんねるず」の面白さがこうした物語の展開の中で見られるのでしたら救いはあります。ですが、いくら見ていても、一向に面白いギャグも面白い話も何一つ出てこず、ただただ真面目にストーリーが進行するだけなのです。
 まさに、前田氏が言うように、「おそらく金を払ってなんでこんなモノを見なくてはならないのだろうと切ない気持ちになること請け合い」なのですが、それがどうして、「それを補って余りある楽しさが本作にはある」などという文章につながってしまうのでしょうか?

 加えて、こんな退屈な物語の合間に、「矢島美容室」のヒットナンバーが次々に歌われるという仕掛けです。
 あるいは、前田氏が言うように、「演じる3人の世代、アラフォーからアラフィフあたりの琴線に触れる曲調で統一された矢島美容室のヒットナンバーは、映画ならではのハイテンションでゴージャスなパフォーマンスで大いに盛り上がる」のかもしれません。
 ですが、私には、何の新鮮味もない、歌謡曲の延長線上にあるナンバーとしか思えませんでした(これまでにもTV番組などで何度も聴いていますし)。

 こうした曲を「日本人のためだけの楽しいミュージカル」とわざわざ前田氏が高く持ち上げるには、なにか魂胆があるのではと疑いたくもなってきます。
 ひねくれ者による見当外れの見方にすぎないでしょうが、映画の中で歌われる「ニホンノミカタ」には、「リョーマは泣いてやしませんか?」、「ニュースキャスターは今夜も沈みきってます暗い顔」、「ブシドウは首都高速ですか」、「それでもニホンが愛してます」などといった政治的な歌詞が含まれていますし、「ニホンジンニナリタイ」にも、「願いが叶うのならばここで夢を見ていたい/ニホンジンニナリタイ/刺身醤油 ポン酢醤油 モミジオロシ」といった歌詞が出てきます。
 こうした歌が、最近頓に政治的な立場を鮮明にしている前田氏等の「琴線に触れ」、「アラフォーからアラフィフ」あたりを大感激させたのではないかと思いたくもなってきます。
 といっても、平日のラストの入りは、有楽町の「丸の内ピカデリー」でも6人ほどにしかすぎませんでしたが!


(注)前田氏は、美人女優の野球シーンがお好きなのかも知れません。賛否両論で姦しかった『チーム・バチスタの栄光』(中村義洋監督、2008年)の映画評においても、「竹内の吸引力は強烈すぎる……白衣はもとより、ソフトボールの生足ユニホームなどコスプレ満載、意図したわけではなかろうが、まるで彼女のアイドル映画だ」などと述べているくらいですから!


(2)他の映画評論家の見解はどうでしょうか?
 いつもその論評を信頼している渡まち子氏は、「バラエティー番組という出自をマックスに利用して悪ふざけを正当化。その極みともいえる演出が最後の最後に仕込まれている」として50点も付けているのには驚きました。ただ、「劇場の大スクリーンでこれを見る価値があるかどうかはこの際別問題」と言ってみたり、「無駄に豪華なゲスト出演と確信犯的にユルい物語」と述べているところの裏をくみ取るべきなのかもしれませんが!

 むしろ今回は、30点しか付けない福本次郎氏の映画評に共感してしまいます。
 すなわち、福本氏は、「「矢島美容室」というユニットに対して何の予備知識もなく映画を見に行くと、おそらくスクリーンを見つめ続けているのが苦痛になってくるはず」で、「作り手が楽しんでいるのはよくわかるのだが、TVの人気キャラがふざけているだけの作品だった」と述べています。
 さらには、「宇宙の果てから飛んできた3人の顔をした隕石が地上に落ち、そのままリズムを刻んで「Miracle」を歌いだすプロローグは、愉快なミュージカルを予感させる。……だが、映像に集中できたのはそのあたりまで。肝心の物語があまりにも見る者をバカにした代物で、ギャグのレベルも非常に低くて笑えなかった」とまで述べています。
 
 福本氏が言うような「「矢島美容室」というユニットに対して何の予備知識もなく映画を見に行く」人などマズあり得ないとは思いますが、この映画の評価についてはまさにおっしゃるとおりではないでしょうか?


★☆☆☆☆