孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  経済制裁の影響できしみも 今後を左右する原油価格動向

2014-09-30 22:07:18 | ロシア

(原油価格の推移 楽天証券 https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/clc1.html より)

我慢比べのEUとロシア
ウクライナ問題で、EUとロシアは互いに経済制裁を課す“消耗戦”を行っています。

7月29日、EUとアメリカは、ロシアがマレーシア機撃墜事件のあともウクライナの親ロシア派への支援を続けているとして追加制裁に踏み切り、ロシアの政府系銀行による資金調達を制限するなど、大がかりな追加制裁を決定しました。

これに対抗してロシアは、8月6日、アメリカやEU、それにオーストラリアなどからの農産物や食料品を1年間、輸入禁止にすると発表しました。

一方、EUは9月12日、ロシアがウクライナ東部に軍事介入しているとして追加経済制裁を発動しました。

****<EU>12日に追加制裁を発動…ロシアは報復措置準備****
ロシアがウクライナ東部に軍事介入している問題で、欧州連合(EU)は11日、大使級協議を開き、12日に対ロシア追加経済制裁を発動することを決めた。

制裁はロシア石油大手ロスネフチなどのEU内での資金調達禁止を柱とする内容。ロシアの収入源の柱である石油産業は打撃を受けそうだ。

制裁発動には米国も同調する見通し。これに対し、ロシアは報復措置として自動車や軽工業品などの輸入制限に踏み切る方針を示した。ロシアと欧米の対立は厳しさを増している。

EUの発表や報道によると、ロスネフチのほか石油大手ガスプロムネフチなど3エネルギー企業、防衛大手3企業の社債による資金調達を禁じた。

また、政府系金融機関5行への融資を新たに禁止した。深海や北極海での油田探査・石油生産、シェールオイルの開発などで試掘や掘削などの技術援助も禁止。軍事に転用できる民生品に関し、ロシアの9企業への製品輸出を禁じた。ウクライナ東部の親露派武装勢力に関与する24人の資産凍結もする。(後略)【9月12日 毎日】
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当然、こうした制裁合戦は双方に痛みをもたらしており、我慢比べの様相も呈しています。

制裁がこのまま続けばロシア経済は縮小 国民の不満も
ウクライナ情勢は、9月20日、緩衝地帯の設置や欧州安保協力機構(OSCE)による停戦監視を柱とする9項目の行動計画にウクライナ政府と親ロシア派が合意し、戦闘は現在も散発しているものの、一応の小康状態にあります。

合意の背景には、ロシアの強力な介入によって戦局が不利になりつつあったウクライナ政府側が危機感を募らせたことがありますが、一方で、戦局が好転しつつあった親ロシア派が合意に応じたのは、これ以上の経済制裁を避けたいロシアの意向もあったと推察されます。

表向きは強気なロシアですが、経済制裁はそれなりにロシア経済に影響を与えており、経済状況の悪化は高い支持率を誇るプーチン大統領にとっても看過できない問題です。

****高級車から魚まで:効き始めたロシアへの経済制裁****
北極海に面したロシアの港町、ムルマンスク。旧ソビエト時代のぼろぼろな水産加工場を利益の出る企業に変える試みを20年以上続けてきたミハイル・ズブさんは、何度か破綻の淵に立たされてきた。しかし、今回はそのどれよりも厳しい状況に置かれている。

ウクライナ関連の経済制裁への報復としてロシア政府が先月、西側諸国からの食料品輸入を禁止したために、ノルウェーからの魚の供給が一夜にして絶たれたのだ。

ロシア経済全体にきしみ
(中略)厳しい状況に直面しているのはムルマンスクだけではない。西側諸国からの制裁が6カ月目に入り、ロシア経済全体がきしみを見せ始めている。

世界銀行は新たにまとめた報告書で、制裁がこのまま続けばロシア経済は2015年に0.9%、2016年にも0.4%それぞれ縮小する恐れがあると警告している。

昨年も低迷していた固定資産投資は、今年に入ってからの8カ月間で2.5%減少した。また、モスクワ証券取引所で活動する独立系証券会社では最大手となるBCSプライムは、今年の年末までにインフレ率が8%に達すると見込んでいる。

この悪い組み合わせのために、ロシアの経済成長を長期間それなりに支えてきた消費需要も落ち込んでしまった。物価の上昇と融資拡大ペースの減速のせいで、今年の1月から8月の間に実質所得の増加に急ブレーキがかかったのだ。(中略)

新車販売が2ケタの大幅減、心理の冷え込みが経済以外にも波及する恐れ
最も劇的な変化を見せた市場の1つに自動車市場がある。欧州ビジネス協議会(AEB)によれば、8月の新車販売台数は前年同月比で26%も減少した。今年1~8月期の新車販売台数も前年同期比で12%減っている。(中略)

ロシアの一般市民に見られる心理の冷え込みは、経済以外の分野にも影響を及ぼしかねないと見る向きもある。
実質所得の伸びがほぼ止まるという現象は、直近では2011年に見られたが、それはウラジーミル・プーチン大統領に抗議する街頭デモに数万人のモスクワ市民が参加した後のことだった。

独立系の調査機関レバダ・センターが8月に行った世論調査によれば、ロシア人が今日最も恐れている5項目は、物価の上昇、貧困、所得格差の拡大、経済危機、失業となっており、すべて経済に関係することだった。

この流れを好転させるのは難しいだろう。「ロシアが高成長軌道に戻れるかどうかは、民間の投資の確固たる伸びと消費者心理の改善が実現するか否かに左右されることになろう。だが、その実現のためには予測可能な政策環境を整備することと、未解決の構造改革問題に手をつけることが必要になる」。世界銀行の報告書はそんなコメントで締めくくられている。

経済制裁で結束を固める大統領の取り巻き
しかし、西側の政策立案者たちの期待とは裏腹に、経済制裁はプーチン大統領にウクライナ政策の修正を強いるのではなく、大統領の取り巻きたちを団結させる方向に作用している。

ロシアでも指折りの実業家ウラジーミル・エフトゥシェンコフ氏は現在、自宅に軟禁されている。同氏所有の石油会社バシネフチを、国営石油会社ロスネフチの傘下に置きたいがために取られた措置だと見られている。

またこれとは別にロシア政府は、西側の懲罰的措置により打撃を被った企業への支援を、経済制裁への対応の中心に据えると約束している。(中略)

援助を求める行列の先頭にいるのはズベルバンク、VTB、ロシア開発対外経済銀行(VEB)の国有銀行3行と、ロシア最大級のエネルギー会社数社だ。これらの企業はいずれも、西側の資本市場からほぼ完全に締め出されている。

ロシアの中央銀行は、ズベルバンク、VTBおよびVEBがハードカレンシー建ての債務を返済する際に、中央銀行の外貨準備を使ってこれを支援するよう指示されている。

ほかの企業も助けを求めており、その筆頭格のロスネフチは1兆5000億ルーブル(約4兆1600億円)の資金援助を要請している。

これは万一の場合に備えて石油収入から積み立てられてきた、ロシアの国民福祉基金(NWF)の財産のほぼ半分に相当する金額だ。

2009年の金融危機と比較する声
こうした支援要請を背景に、2009年の金融危機との比較も始まっている。あの危機ではロシア政府が銀行に360億ドルの援助を行ったが、それでもあの年は深刻な景気後退に苦しめられた。

モスクワに駐在する欧州連合(EU)の経済当局者はロシア経済に関する評価報告書の中で、向こう18カ月間に3大銀行だけで750億ドルの資金を中央銀行から借り入れる必要が生じ、外貨準備がその分減るだろうと警告した。

もしそうだとすれば、輸入額の6カ月分を賄うには少なくとも1800億ドルの外貨準備を維持する必要があるため、投機筋による攻撃や資本逃避からルーブルを防衛するのに使える外貨は1150億ドルしかない計算になる。
今年3月の初めには、中央銀行がわずか1日のうちに113億ドルをルーブルに換えた時があった。

「従って、ロシアのマクロ金融情勢がいずれ逼迫するという可能性は排除できない」。評価報告書はそう結論づけている。【9月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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ソ連時代も今もロシアの勢いは原油価格次第
ロシアは石油収入による巨額の積み立て金を有しており、当面はこの資金で事態を乗り切るつもりですが、もちろん、その資金にも限りがあります。新たな資源開発の資金調達にも支障がでます。

こうしたロシアの財政事情に大きく影響するのが、国家歳入の大きな部分を占める原油の価格動向でしょう。

原油(WTI原油先物)価格は6月には1バレル=105ドルを超える水準にありましたが、7月、8月と低下し、9月は93ドル前後で推移しています。(ここ1週間ほどはやや回復し、29日は94.32ドル)

****原油価格」でロシアを追い詰める「新冷戦」の構造****
国際原油価格がじわじわと下落していることに、ロシアが戦々恐々としている。ロシアのノバク・エネルギー相は9月16日、突然ウィーンの石油輸出国機構(OPEC)本部を訪れ、OPEC幹部と会談したが、目的は原油価格下落に歯止めをかけるためといわれる。

エネルギー関係者は、世界的な石油のだぶつきと需要減で、原油価格は今後2-3年、1バレル=70ドル台で推移する可能性があるとみている。

その場合、輸出収入の7割が石油・ガスというエネルギー依存のロシア経済は大打撃を受け、国民生活が困窮し、政府批判が高まりかねない。ウクライナ問題に端を発した「新冷戦」の推移は、原油価格がカギを握っている。

米・サウジの密談
ロシアがクリミアを併合した直後の今年3月末、オバマ米大統領はサウジアラビアを訪れ、アブドラ国王と会談したが、ロシアの保守系紙プラウダ(4月4日付)は、オバマ大統領はクリミアでのロシアの行動を「懲罰」するため、原油価格を協力して引き下げるよう提案したと報じた。

原油価格が1バレル当たり12ドル下落すれば、ロシアの国家歳入は400億ドル減少する。プラウダは「オバマはサウジにロシア経済の破壊を持ちかけた」と伝えた。

この情報は確認されていないが、その後の原油価格の推移からみて、サウジが価格引き下げに応じた形跡はない。サウジの国家予算は1バレル=85ドルを前提にしており、価格引き下げは自らの首を絞めることになる。

過去には、米国とサウジが協力して原油価格を大幅に下落させたことがあった。

1979年のソ連軍アフガニスタン侵攻後、レーガン政権はサウジに対し、ソ連に打撃を与えるため、原油価格引き下げを要請。イスラム同胞であるアフガンへの侵攻に激怒していたサウジは同意し、石油大増産に着手。80年代中盤から90年代末まで原油価格は1バレル=10-20ドル台で推移した。

これがソ連経済を直撃し、ペレストロイカの破綻やエリツィン改革の失敗につながった。プラウダは「原油価格の下落がソ連崩壊の真の理由だ」と書いた。

1998年には原油価格は同9.8ドルの最安値を記録し、ロシアは同年夏、デフォルト(債務不履行)に陥った。これを受けてエリツィン大統領は盟友のクリントン大統領に価格引き上げを懇願し、米側もロシア支援のため了承。サウジも賛同したとされる。

その後、中国など新興国の需要増や地政学リスクが重なり、原油価格は21世紀に入って急騰。2007年に1バレル=147ドルの史上最高値を付けたのは周知の通りだ。

「イスラム国」も標的
「エリツィンの遺産」の最大の受益者がプーチン大統領だった。プーチン政権はエネルギー企業の国家統制を強め、膨大なオイルマネーを国庫に還流させ、給与、年金の引き上げなどバラマキ政策を推進した。

ロシアは毎年6-7%台の高成長を達成し、マクロ指標も好転。世界トップ10の経済大国となり、プーチン大統領は「救世主」として高い支持率を誇った。

だが、プーチン政権の経済政策の失敗は、経済をすっかり資源依存体質にし、製造業を軽視したことだった。08年のリーマンショックで原油価格が一時1バレル=40ドル前後に急落すると、ロシア経済は翌年、マイナス7.8%成長に転落。その後、低成長時代に入った。

経済危機に沈んだ90年代、エリツィン政権は旧ソ連諸国の領土保全を尊重し、他国に干渉せず、クリミアもウクライナ領と認定した。

ところがプーチン時代に富国強兵が実現すると、ロシアは90年代のトラウマから脱却すべく、周辺諸国に干渉し、遂にはクリミアを併合してしまった。

オイルショック後の原油価格高騰で潤った70年代、旧ソ連は中東・アフリカへの「革命の輸出」など対外膨張路線を進めたが、ソ連時代も今もロシアの勢いは原油価格次第なのだ。

オバマ大統領は9月10日、アブドラ国王と電話協議し、今回はイラクやシリアで猛威をふるうイスラム過激組織「イスラム国」を封じ込めるため、組織の資金源となっている石油の価格引き下げを要請したという。

米政府は他の湾岸諸国にも価格引き下げを働きかけている模様だ。オバマ政権の原油価格引き下げは、当面の敵である「イスラム国」とロシアを標的にしているかにみえる。

英紙フィナンシャル・タイムズ(9月6日付)によれば、サウジはこれより先、アジアや欧州向け原油価格を10月に引き下げることを決めた。

原油供給が過剰となる中、サウジの減産説があったが、当面減産はしない方針という。国際原油価格は8月中旬に1バレル=108ドルの高値を付けた後急落し、9月中旬には同91ドルまで下落した。

「ウクライナ停戦」も経済危機から
エネルギー専門家は「イランやイラクが石油のダンピング攻勢をかけているほか、米国もシェールオイルの輸出を解禁するなど、原油供給が過剰になっている。一方で、欧州連合(EU)の経済停滞や中国経済の減速で石油需要が低下しており、今後原油価格の下落が続くのは確実。地政学リスクは今回は考慮されていない」と指摘する。

原油価格が1バレル=91ドル台となった9月15日、ロシアの通貨ルーブルは1ドル=38.18ルーブルとプーチン時代で最安値を更新した。

ウクライナ問題に伴う欧米の経済制裁で、株安・通貨安・債権安のトリプル安が続いていたが、市場は今後の原油安を想定し、ルーブルを売りまくっているようだ。

これが物価高や資金逃避の悪循環を招いている。加えて、ロイター通信(9月8日)によれば、西シベリアの油田が枯渇化により生産量が低下しており、来年からロシアの石油生産が低下する見通し。新規油田開発が急務だが、欧米の経済制裁で掘削技術は禁輸となった。

ロシアの国家歳入の約半分は石油・ガス収入といわれ、1バレル=104ドルを前提に国家予算を策定している。原油価格下落は歳入を減少させ、プーチン大統領得意のバラマキ政策や国防近代化計画に支障が生じる。

モスクワのセルゲイ・グリエフ新経済学院前学長はモスクワ・タイムズ紙(8月17日付)で、「前例のない欧米の経済制裁は、既にロシアに強力な打撃を与えている。ロシア政府も投資家も追加制裁を恐れている。ロシアは自給自足経済になりつつあり、それは国民の生活水準を低下させ、プーチンの支持基盤を揺るがしかねない」と指摘した。

経済の低成長や欧米の経済制裁に原油価格下落が加わるなら、ロシア経済にはトリプルパンチとなる。9月5日のウクライナ政府との停戦合意は、ロシアに忍び寄る経済危機の文脈でみる必要がある。

原油価格下落が続くなら、ロシアは弱体化し、融和姿勢への転換があるかもしれない。【9月19日 フォーサイト 名越健郎氏】
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アメリカとサウジアラビアの原油価格に関する調整には、世界の流れが見えないところで決まっていくような空恐ろしさも感じますが、現実世界というのはこういうものなのでしょう。

ただ、アメリカやサウジアラビアの思惑通りに価格が動くか・・・という話になると、いろんな経済・政治事情が絡んで、そう単純な話でもないでしょう。

また、「イスラム国」の資金源問題で原油価格の協議を行ったというのは、得られる効果に比べて方策のもたらす影響が甚大すぎる感があり、本当だろうか?という感じもあります。

いずれにしても、資源依存体質のロシアにとって原油価格の動向が死活的に重要なファクターであることは間違いなく、ウクライナ情勢もそこに連動します。

“原油価格は今後2-3年、1バレル=70ドル台で推移する可能性がある”・・・・このあたりは、どうなるか実際のところはわかりません。

一方のアメリカは、「イスラム国」相手の戦争に突入し、しょせん緩衝国であるウクライナの動向に構っている余裕はないというのが実情ではないでしょうか。
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