孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  緩衝国の悲劇  経済・エネルギーのロシア依存で更に難しい立場に

2014-09-25 22:16:33 | 欧州情勢

(革命の残滓が片付けられ、平穏な日常が戻ったように見えるキエフのマイダーン(広場) その片隅には革命と戦争の犠牲者を追悼する花が手向けられています。 “flickr”より By Robert Kincaid https://www.flickr.com/photos/robert_kincaid/15089007470/in/photolist-oP1d4w-pgRZn8-oZn7ed-pgS5ux-pgA4A6-oTYhm1-p5aNRt-pffEKv-oQHL2i-phZDGb-p5asMZ-oXfRBD-p3aLZk-oZt9RH)

NATO「双方が新たな停戦実現に向けて合意できると心から期待し、願っている」】
ウクライナ東部での政府軍と親ロシア派武装勢力などとの戦闘による死者はすでに3200人を超えています。

****ウクライナ死者3000人突破=1カ月で避難民倍増―国連****
国連のシモノビッチ事務次長(人権担当)は23日、ジュネーブの国連人権理事会でウクライナ情勢に関して報告し、東部での政府軍と親ロシア派武装勢力などとの戦闘による死者が、21日時点で計3245人に上ったと明らかにした。実際の犠牲者数は「これよりかなり多いとみられる」という。

国連は、政府軍兵士を除く市民らの死者が3日時点で少なくとも2905人と発表していた。

シモノビッチ氏は、7月に東部ドネツクで撃墜されたマレーシア航空機の犠牲者298人を含めると、死者は計3543人に上ると語った。

また、東部やロシアが編入したクリミアから国内の他の地域に逃れた避難民は、18日時点で27万5498人と指摘。「8月上旬から9月上旬までの1カ月間に倍増した」と述べ、戦闘の長期化に改めて懸念を示した。【9月24日 時事】 
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9月5日に停戦合意したものの、その後も散発的に衝突が繰り返され、不安定な状況が続いていましたが、9月20日にウクライナ政府と親ロシア派の間で緩衝地帯の設置などの停戦行動計画が合意されたことで、状況は一応小康状態を保っています。

****ウクライナ政府と親露派、緩衝地帯設定などの停戦行動計画に合意****
ウクライナ東部の戦闘終結を目指して19日からベラルーシの首都ミンスクで直接交渉していたウクライナ政府と親露派は20日未明、緩衝地帯の設置や欧州安保協力機構(OSCE)による停戦監視を柱とする9項目の行動計画に合意した。

行動計画によると、ウクライナ政府軍と親露派は21日未明までに撤退し、ウクライナの主要工業地帯でロシア語圏の同国東部をウクライナの残りの地域から分断している前線に沿って緩衝地帯を設け、OSCEが停戦監視団を配置する。また「外国の武装集団」や雇い兵も紛争地帯から全面撤退することになっている。

今回の合意は、ウクライナ政府と親露派が今月5日に合意しロシア政府も支持している停戦の維持に向けた取り組みを具体的に規定している。

ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は、この5か月間に3000人近くが死亡し、国の存続を脅かしている親露派との戦闘を終結させる道筋を模索していた。

こうした中、北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍のフィリップ・ブリードラブ最高司令官は20日、NATOの会合が開かれたリトアニアで、ウクライナ政府軍と親露派の衝突が続いているのは2週間前の停戦合意が「名ばかり」であることの裏付けだと述べ、ロシアが欧米諸国との関係を深めようとしているウクライナの分断を狙って自国の兵士を親露派に関与させていると非難。「(停戦合意は)名目上存在するが、現場では全く別のことが起きている」と述べた。

その上でブリードラブ氏は、ミンスクでのウクライナ政府と親露派の交渉に言及し、「双方が新たな停戦実現に向けて合意できると心から期待し、願っている」と交渉の成果に期待感も示していた。

また、OSCE議長国スイスのディディエ・ブルカルテル大統領は、「停戦を持続可能なものとする重要な一歩であり、危機の平和的な解決に向けた努力への大きな貢献」だとして、ミンスクでの交渉を歓迎した。

しかし、親露派の支配地域であるウクライナ東部ドネツク市当局者がAFPに語ったところによると、同市郊外にある旧ソ連時代の軍需工場が20日、9項目の行動計画が合意された数時間後に何者かによって数回砲撃されており、停戦が順守されるかどうかは不安視されている。【9月21日 AFP】
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ウクライナの苦渋の選択
この停戦行動計画合意に先立ち、ウクライナ議会は東部2州に3年間に限って大幅な自治権を付与する法案を可決しています。

****ウクライナ東部2州に大幅な自治 3年限定、議会可決****
ウクライナ東部の紛争をめぐり、同国最高会議(議会、定数450)は16日、東部ドネツク、ルガンスク両州の特定地域に、3年間に限って大幅な自治権を付与する法案を賛成多数で可決した。

独自の「民警」を持つ権限を与えるほか、12月7日に地方首長や議会の選挙を行うことなどを定めている。

同国政権と親露派武装勢力の和平合意に盛り込まれていた東部の「特別な地位」を具体化するもので、親露派が受け入れるかが当面の焦点となる。

法案には他に、(1)地元検察と裁判所の人事への関与(2)ロシア語を使用する権利の尊重(3)ロシアの自治体との関係強化(4)復興に向けた特別措置の導入-といった内容が盛り込まれた。

適用範囲となる「特定地域」は2州の州都など親露派の支配領域を指すとみられる。法案は大統領の署名を経て近く発効する見通しだ。

ポロシェンコ氏は、法案の定めた3年間で懸案の地方分権改革を進め、東部情勢の長期的な正常化につなげたい考えだ。

ただ、親露派の幹部はあくまでも東部の「独立」を追求する構えを崩しておらず、現状が固定化される懸念も強い。

一方、最高会議は16日、欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)を柱とする連合協定を批准する法案も可決し、ポロシェンコ氏は即日署名した。

EUとウクライナは12日、ロシアの反発に配慮し、FTAの発効を来年末まで延期することに合意している。【9月17日 産経】
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ポロシェンコ大統領・ウクライナ政府の立場からすれば、相当の譲歩をしたと思えます。
戦闘状態という、とかく民族主義的な強硬論が幅をきかす状況にあって、理性的な対応に努めているとも言えます。

ロシア・プーチン大統領があくまでも東部から手を引かない姿勢を明確にしており、一時は優位にたった戦局もロシアのあからさまな支援で困難な事態となりつつあること、ウクライナ経済がロシアに依存しており、ロシアとの決定的な対立はウクライナにとって耐えがたいものであること・・・などを踏まえての苦渋の判断でしょう。

****このままではウクライナ経済は奈落の底に****
・・・・欧州において、ウクライナは最も貧しい国の1つである。1人あたりの年間GDPは、せいぜい4000ドルに届くか届かない程度である。

ウクライナ政府の実効支配が及ばないドンバス地域(東部2州)は、ウクライナにとってGDPの20%近くを占めている。
そして、ロシアとの経済関係が途絶した今、ウクライナは輸出の40%が失われたままなのである。

今後とも戦争が長引けば、今年のウクライナ経済の落ち込みは、GDP成長率マイナス6%~7%も覚悟せざるを得ないという。

とりわけ、ロシアからのガス供給停止がこの先も続く中で、ウクライナは氷点下20度を下回る寒い冬を迎えようとしている。
ウクライナは、欧州からのガスの逆輸入で当面の危機を何とか乗り越えようとしているが、決して楽観できる状況ではない。

ウクライナではこの10月26日に議会選挙が行われるが、この日付が選ばれたのも、冬になる前に選挙を行い、できるだけ経済問題が現政権の支持率に影を落とさないようにするためであると言われている。

ウクライナの大半の知識人によれば、選挙では、ポロシェンコ大統領の政治ブロックを中心に安定的なコアリション(連合)が形成されることが予想されている。その意味では、ウクライナは革命の情熱を乗り越えて、徐々に理性の道を歩んでいると言ってよいだろう。
【9月25日 JB PRESS  松本 太氏 “国の存続をかけて ロシアと「戦争」するウクライナ”】
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緩衝国としてのウクライナ 「(NATOは)ウクライナのために戦争はしない」】
松本 太氏は上記記事において、今後の展開に関する4つのシナリオを挙げています。
第1はウクライナにおいて強力な独裁政権が生まれるシナリオ、
第2は、ドネツク州とルガンスク州からなる「ドンバス」と呼ばれる地域との間でウクライナの連邦制を形成するシナリオ、
第3は、現在の「戦争」と「平和」の間にある不安定な現状が継続するシナリオ、
第4は、旧ユーゴスラヴィアのようにウクライナが分裂するシナリオ。

どのシナリオが現実のものとなるかについては、当事者ではないと表に出てこないロシア・プーチン大統領の思惑が大きく影響します。

松本 太氏は、それについては以下のようにも指摘しています。

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中長期的にはロシアは何を目論んでいるのか。
ウクライナの国防専門家によれば、クリミア半島を併合し東部2州を事実上の管理下においた後、戦略上の必要性から、クリミアへの陸路の回廊を形成し、オデッサを含む黒海沿岸、すなわちウクライナ南部をおさえ、さらにはロシア系住民が多いモルドバ東部のトランス・ドニエストル地域まで虎視眈々と狙いを定めているという。
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一方、ウクライナ政府を支援している欧米諸国・NATOがどこまで本気でウクライナを支える気があるかと言えば、なかなか厳しい国際政治の現実があります。

****NATO>ウクライナ加盟は「空約束」、前事務総長明かす****
北大西洋条約機構(NATO)のデホープスヘッフェル前事務総長が毎日新聞のインタビューに応じ、「ウクライナとグルジアを将来NATOに加盟させる」と決めた2008年のNATO首脳会議の合意について、「絶対に実現不可能だ」と述べた。

首脳会議は前事務総長が議長を務めたが、特にウクライナについて「実際に加盟させるとなると、加盟国が全会一致で合意できない。その状況は当時から現在も変わらない」と語り、当初から「空約束」だったことを明らかにした。

ロシアのプーチン大統領は、このNATOの合意を根拠に今年3月のクリミア半島編入や東部の親ロシア派支援などウクライナへの介入を進めてきた。

だが、実体のないNATOの決定にロシアが反発し、ウクライナ危機が深まったのが実態といえそうだ。

NATO首脳会議は08年4月、ルーマニアの首都ブカレストで開かれた。前事務総長によると、ウクライナとグルジアの加盟を強く推すブッシュ米大統領(当時)と、ロシアへの刺激を避けたいサルコジ仏大統領(同)、メルケル独首相らが対立した。

協議は行き詰まり、随行の官僚や家族を退席させ、首脳だけでひざ詰めの話し合いを続けたという。
しかし結局、合意できず、加盟目標の期日を特定しない「将来、加盟させる」との「ブカレスト宣言」を採択した。

前事務総長はこの宣言がNATOの基本方針であることは現在も変わりないとしながらも、「悲しい結論」で「妥協」だったと述べた。

グルジアとウクライナでは03年以降、「バラ革命」、「オレンジ革命」と呼ばれた民主革命が相次ぎ、親欧米派政権がそれぞれできた。

これがロシアの反感を招いたが、08年当時はさらに米国が欧州で進めていたミサイル防衛(MD)計画にロシアが猛反発し、欧米側との対立が深まった。

前事務総長はブカレスト宣言採択当時、「ウクライナとグルジアの加盟に一片の疑いもない」と記者会見などで説明していたが、ロシアに対する欧米の結束をアピールする狙いがあったとみられる。

だが、実際には加盟の実現性はないと当時から判断していた。

前事務総長は「正直に言えば、ウクライナは常にロシアの影響圏と西側の影響圏の緩衝国であり続ける。地政学的な現実は否定できない」とし「(NATOは)ウクライナのために戦争はしない。加盟問題を再検討するのは賢明でも知的でもない」とウクライナを突き放した。

前事務総長はオランダ外相を経て、04年から09年までNATO事務総長を務め、01年の米同時多発テロ後のNATOのアフガニスタン介入などを主導した。【9月21日 毎日】
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停戦行動計画で緩衝地帯設置が合意されていますが、そもそもウクライナという国家自体が欧米とロシアの緩衝地帯であり、NATOは“ウクライナのために戦争はしない”というのが現実です。

前出の松本 太氏は以下のように論じています。

****ウクライナに本当の友人はいるか****
ロシアと西欧の間にあるウクライナは、2つのパワーの間の、いわば「緩衝国家」として生きざるを得ない宿命を背負っている。

もちろん、自らのことを緩衝国家と呼ぶことなど、誇り高いウクライナ人には無理な相談である。

残念ながら、ロシアにしてもEUにしても、本音を言えば、ウクライナを自らの勢力圏内に完全に統合したいとは必ずしも考えていないだろう。

そしてそれはウクライナから見れば、危機の際に助けてくれる真の友人はいないということを意味する。

すなわち、ウクライナの知識人に言わせれば、プーチン大統領も口では2週間以内にキエフまで占領できると言ったとしても、ウクライナのキエフまで侵攻するような意図はいささかもないし、EUも外交上はようやくウクライナを加盟候補国と認め、政治的な支援を確約しても、すぐさまウクライナをEU加盟国に本当に格上げしたいとは、本音ではいささかも考えていないということなのだ。

辛口のウクライナ人は、米国ですら、今のウクライナの不安定な情勢を“戦略的には心地よい状況”と考えているに違いないとまで言う。

すなわち、ロシアとの直接的な対決に米国が巻き込まれないのであれば、不安定なウクライナの存在こそが、米国にとっての利益になっているからだと断言する。(後略)【前出“国の存続をかけて ロシアと「戦争」するウクライナ”】
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冷戦が終結して存在意義が問われていたNATOは、ウクライナ危機・ロシアの脅威によって、その存在が再確認されています。

この状況を喜んでいる者もいるのでしょう。

ただ、緩衝地帯をはさんだ均衡と言うのは常に不安定な状況です。
もし、プーチン大統領がやりすぎだ・・・と考えられる事態となれば、均衡を崩しても全面的に対決するのか、あるいはなし崩し的な力による国際秩序変更を認めるのか・・・という選択を迫られます。

ウクライナ政府について言えば、緩衝地帯という現実を逆手にとって、中国が北朝鮮を切れないように、最大限の利益を欧米側から引き出す外交を展開する・・・ということでしょうか。

もっとも、経済的にも、エネルギーにおいてもロシアに依存しているウクライナの立場は極めて困難です。
さしあたっては、この冬をどうするのか・・・・。

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