孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリアからのロシア軍撤退発表 和平協議に向けてプーチン大統領のアサド大統領への強い圧力か?

2016-03-15 21:44:53 | 中東情勢

(14日、モスクワのクレムリンで話すロシアのプーチン大統領(中央)とラブロフ外相(左)、ショイグ国防相(タス=共同)【3月15日 共同】)

例によって即断即決のプーチン外交
シリアで和平協議再開に合わせるように、ロシア軍が撤退を開始するという大きな動きがありました。

****ロシア 主要な航空部隊のシリア撤退を発表****
シリアの内戦終結を目指す和平協議がおよそ1か月ぶりにスイスで再開されました。シリアで空爆を続けてきたロシアは、主要な航空部隊を撤退させると発表し、和平協議が進展するか注目されます。

シリアを巡る和平協議はスイスのジュネーブにある国連ヨーロッパ本部で14日再開され、仲介役の国連のデミストラ特使がアサド政権側の代表のジャファリ国連大使と会談し、15日には反政府勢力側とも会談します。

同じ14日、ロシアのプーチン大統領は、シリアで続けている空爆などの軍事作戦について「全体として任務を遂行した」と述べたうえで、「主要な航空部隊の撤退を始めるよう命じる」と指示しました。

ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領はアメリカのオバマ大統領と電話で会談した際、撤退の方針を伝え、「内戦のすべての当事者にとってよいシグナルとなり、真の和平プロセスを始める条件をつくるのは確かだ」と述べ、決定の意義を強調しました。

ロシアとしては、再開した和平協議をロシアが妨害していると批判されるのを避けるため、機先を制する形で主要な航空部隊の撤退を発表し、今後の和平協議で主導権を握ってアサド政権を支えていくねらいがあるものとみられます。

一方で和平協議では、アサド大統領の退陣を求める反政府勢力側と政権側との主張の隔たりは大きく協議は難航が予想されていて、ロシアの今回の動きがどのような影響を与え、和平協議が進展するか注目されます。【3月15日 NHK】
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ロシア国内的には、プーチン大統領が外相・国防相との会議で指示を出したようです。

“プーチン氏は14日、ショイグ国防相とラブロフ外相との会合で、「ロシア軍の参戦により、シリア軍は国際テロリズムとの戦況の改善に成功した」と成果を強調。ショイグ氏によると、ロシア軍機は9千回以上出撃し、2千人以上の戦闘員を殺害。400の市町村を解放したという。”【3月15日 朝日】

“国際テロリズムとの戦況の改善に成功した”とは言うものの、ISはまだしぶとく残っています。
ただ、「IS攻撃」という名目とは別に、ロシアの狙いはアサド政権のテコ入れにあり、攻撃目標も多くは反体制派であったとされていますので、アサド政権側が優勢に転じた現在、プーチン大統領の真の目的は達成されたと言えなくもありません。

それにしても、部分的・形式的な撤退ではなく、本当に「主要な航空部隊の撤退」ということであれば、プーチン大統領の決断は、これまで同様素早いものがあると言えます。

ウクライナ問題といい、シリアにおける空爆参入といい、「即決即断」で事態の主導権を握るプーチン外交を高く評価する向きが多くありますが、これでまたプーチン株が上がるのかも。

強気のアサド政権姿勢で難航が予想される和平協議へのプーチン大統領の圧力?】
なお、3月8日ブログ“シリア停戦で「目に見える成果」も 和平協議再開は再延期 望まれる和平に向けたアメリカの強い姿勢”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160308でも触れたように、停戦実施に関し、“実はプーチンは焦っていた。ロシア軍は西部ラタキア空軍基地から週に約510回ものペースで出撃していたが、こうした大攻勢は数力月が限界だ。”【3月8日号 Newsweek日本版】という指摘もあります。

今回の撤退発表も、そういうロシア側の実情も影響しているのと思われます。

そうした側面も含めて、プーチン大統領としては、停戦実施から和平協議再開という事態が動き始めた今の段階で確かな成果を出したい、いつまでもズルズルとシリアの泥沼に引き込まれたくない・・・という思いがあるのでしょう。

ところが、支援してきたアサド政権側は有利な状況に立ったこともあって、和平協議に対してはアサド退陣を認めない強気の姿勢を見せています。

****<シリア>和平協議再開 アサド氏巡り難航か****
内戦が続くシリアのアサド政権と反体制派による和平協議が14日、ジュネーブの国連欧州本部で約1カ月半ぶりに再開した。2011年に内戦の引き金となった反政権デモが本格化してから15日で5年を迎えるが、最大の焦点であるアサド大統領の処遇を巡る対立は続き、和平進展は困難な状況だ。

「協議が失敗すれば、さらにひどい戦いになるだけだ」。仲介役を務める国連のデミストゥーラ特使(シリア担当)は14日の記者会見で、協議進展への決意を表した。特使は双方の交渉団と個別に会談しながら、新たな統治機構の設置、憲法改定、18カ月以内の大統領・議会選挙の実施について協議を進めたい意向だ。

ただ、双方の思惑は大きく異なる。「大統領を選ぶのはシリア国民だけの権利だ。特使に大統領選挙について話す資格はない」。シリアのムアレム外相は12日の記者会見で、デミストゥーラ氏の議題設定に反発した。

反体制派は新統治機構の設立時にアサド氏が退陣するよう強く求めている。しかし昨年9月にロシアが軍事介入して以降、政権側は戦闘を優位に進めており、アサド氏の処遇でも一切妥協しない構えだ。 

シリア国内では2月27日、米国とロシアが主導した一時停戦が発効し、一定の戦闘抑止効果が出ている。
反体制派支配地域では停戦発効後に政権側の空爆が減った地域もあり、数十〜数百人単位で反政権の街頭デモを行うようになった。北西部イドリブ県でデモに参加した教員のフアド・イブラヒムさん(33)は「革命を諦めていないと世界に伝えたかった」と話した。

ただ、和平協議への期待感は乏しい。北西部ラタキア県の反体制活動家、アンマル・フアードさん(20)は「外国の干渉が解決を困難にしている」と話す。

ロシアとイランがアサド政権、米国やサウジアラビア、トルコが反体制派を支援。各国の思惑が絡み、和平協議が複雑化する一因となっている。また、内戦の混乱に乗じて勢力を拡大した過激派組織「イスラム国」(IS)にも多数の外国人戦闘員が流入した。

在英の民間組織シリア人権観測所によると、11年3月以降の死者は27万人を超えた。国民の半数を超える1240万人以上が自宅を追われ、食料や医薬品の確保が困難な地域も多い。政府軍の無差別空爆やISの虐殺による被害も多発。トルコを経由して欧州に逃れる難民が続出している。

和平協議は1月下旬に約2年ぶりに開かれたが、反体制派が政権側の空爆や人道支援の規制を批判し、本格協議に入らないまま中断していた。米露は一時停戦や人道支援拡充を主導し、双方に協議復帰を働きかけていた。ISや国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」は、和平協議や一時停戦から除外されている。【3月14日 毎日】
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ロシアは、ロシアの影響力が残る形であれば、アサド大統領個人の処遇にはあまりこだわっていない・・・と、かねてより指摘されていました。“アサド抜き”のアサド政権存続でもかまわないという姿勢です。

昨年10月にロシア主導で和平案の協議が始まった頃から、ロシア側のそうした意向は流れており、驚いたアサド大統領が慌ててモスクワに飛んでプーチン大統領の真意を確認するといった場面もありました。
(2015年10月26日ブログ“シリア情勢 存在感を強めるロシアが「和平案」を提示 今後の協議の軸に”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151026

そうしたあたりで、アサド大統領とプーチン大統領の考えは必ずしも一致していないのではないでしょうか。

プーチン大統領としては、アサド退陣を一切認めない政権側の強気の姿勢のせいで、和平協議が破綻してもらっては困る、なんらかの“アサド抜き”で話がまとまるなら、それで構わない・・・といったところでは。

今回の“突然”のロシア軍撤退発表は、事前にはアサド大統領にも知らされていなかったとも言われています。
“クレムリンの発表によると、プーチン大統領は長年の同盟相手であるシリアのバッシャール・アサド大統領に電話をかけ、この突然の決定を伝えたという。”【3月15日 AFP】

本当だろうか?本当なら、さぞかしアサド大統領は驚き、怒ったのでは・・・とも思いますが、そういう流れであれば、今回のロシア軍撤退発表は、ロシア・プーチン大統領によるアサド政権側への強い圧力、「調子に乗るな!とにかく和平協議をまとめろ」との圧力と考えられます。

もちろん、事後的にはシリア側もロシアと撤退にかんする歩調をそろえてはいます。

****シリア政府は空爆継続の可能性示唆****
ロシアのプーチン大統領がシリアに展開中のロシア軍の一部撤退を指示したことについて、シリア大統領府も声明を出し、「アサド大統領とプーチン大統領の電話会談で、シリアに駐留するロシア空軍の数を減らすことで合意した」と発表しました。

その一方で、「ロシア空軍の協力によって多くの地域で治安を回復できた。ロシアはテロとの戦いにおいてシリアへの支援を継続することを約束した」として、今後もロシア軍が「テロとの戦い」を掲げてシリア国内で空爆を続ける可能性を示唆しました。【3月15日 NHK】
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なお、現地ネット情報によれば、ロシアとともに、イランを背景にアサド政権を地上軍として支えてきたヒズボラも一部撤退を開始したとの話もあるようです。真偽はわかりません。

ロシア・ヒズボラが手を引けばアサド政権側たたちまち現在の優位性を失います。
ここはロシアの意向に沿って和平の線で動くより仕方がない・・・・ということにもなります。

下記記事も、大筋において上記のようなロシアの意向を推察する見方です。

****<シリア>アサド政権「ロシアとの盟友関係は不変****
 ◇ロシア軍主要部隊のシリア撤収決定を受けて
「ロシアは今後も『テロとの戦い』を支援すると確約した」−−。シリア内戦を「テロとの戦い」と位置付けるアサド政権は14日、シリアから露軍主要部隊が撤収しても、ロシアとの盟友関係に変わりはないと強調。「露軍の協力で多くの地域で治安を取り戻した」と戦果を誇示し、露軍の撤収も政権との合意に基づく判断だとした。

だが、露軍の撤収はアサド政権にとって大きな軍事的打撃となる。

アサド政権は昨年春から夏にかけて、反体制派や過激派組織「イスラム国」(IS)に支配地域を次々と奪われ、大統領自身が兵員不足を認めざるを得ないような状況だった。戦局を覆す要因となった露軍が介入を弱めれば、再び劣勢に転じる可能性がある。

「露軍の撤収は、アサド政権に対して和平協議に真剣に取り組むよう求める警告だ」。反体制派主要組織「シリア国民連合」幹部のサミル・ナシャル氏は毎日新聞の電話取材に対して、ロシアの判断を歓迎する考えを示した。

ジュネーブで14日に再開された和平協議を前に、米国やロシアなど関係国が提示した和平案には「18カ月以内の大統領選挙の実施」が含まれていた。

だが、シリアのムアレム外相は12日、大統領選挙を議題にすることを拒否。ナシャル氏は、こうしたアサド政権の強硬姿勢にロシアがいらだちを募らせたとの見方を示した。

ただ、政権側にとってアサド大統領の留任は譲れない一線だ。反体制派側は、和平プロセスの起点となる新統治機構の発足と同時にアサド氏が退任するよう強く求めており、同氏の処遇で歩み寄りがなければ和平協議の進展は困難とみられている。【3月15日 毎日】
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ロシアの意向は昨年10月段階の和平案では、以下のようにも伝えられていました。

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3、自由シリア軍及び国内反政府派を含む対話会議の準備。その結果、総ての逮捕者の釈放、議会及び大統領選挙の準備、恩赦、憲法改正のための国民一致内閣の設立,大統領権限の首相への移管に合意すること

4、アサドが立候補しないことに関するプーチン大統領の保証、然し、アサド家又は政権の他の者の立候補は可能なこと 【2015年10月26日ブログより再録】
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新統治機構(移行政権)にはアサド氏は大統領として残るが、権限は大幅に制限する。大統領選挙にはアサド氏本人は出ない・・・・という内容ですが、アサド退陣を認めない政権側、アサド退陣が最初から必要とする反体制派、双方の「落しどころ」としては妥当な線ではないでしょうか。

反体制派は“ロシア軍の主要な航空部隊が撤退を始めたことを歓迎しながらも、「ロシアがシリアへの介入をやめることはない」とする慎重な見方を崩していません”【3月15日 NHK】とのこと。まあ、それはそうでしょう。ただ、ロシア軍の大幅撤退が実現すれば大きなインパクトにはなるでしょう。

アメリカはあまり表に出てきません。
オバマ大統領はプーチン大統領との電話会談で、“オバマ大統領としてはアサド大統領の退陣が必要だという立場を改めて伝え、ロシア軍の主要な部隊を撤退させるもののアサド政権への支援を続けるプーチン大統領をけん制した形です。”【3月15日 NHK】とのことです。

アメリカとしては、本音は別として、今更アサド容認はの旗を振ることはできませんので、ロシア主導で反体制派も上記のような線で動くなら、それはそれで結構・・・というところではないでしょうか。

今後、情報が出てくれば、まったく違う展開にもなるのかもしれませんが、とりあえず今日段階でロシア軍撤退発表に関して個人的に思う所は以上です。

それにしても、本当にプーチン大統領のロシア軍撤退発表がアサド大統領にも事前に知らされていなかったとすれば、大国の思惑に翻弄されるアサド氏も気の毒な感もあります。

これで和平協議が実際にロシア主導でまとまれば、鮮やかなプーチン外交ともなるのでしょうが、ロシアの熾烈な空爆によって亡くなった大勢の一般市民が存在していることは忘れてはならないでしょう。
“力による外交”の評価は難しいものがあります。

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