孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

激変する国際秩序 保護主義のアメリカに代って中国が自由経済圏の「旗手」?!

2017-01-18 22:52:23 | 国際情勢

(スイス・ダボスで開幕した世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で講演する中国の習近平国家主席(2017年1月17日撮影)【1月18日 AFP】)

アメリカでトランプが登場したことで、「わが国の独裁者がまともに見えるようになった」】
まだ大統領に就任してもいないトランプ氏の過激と言うか、型破りな発言で、アメリカ国内的にも、外交・世界経済の面でも、あちこちで火の手が上がっているのは、連日の報道のとおり。

そのひとつが、トランプ氏の極めて保護貿易主義的な言動です。
また、ツイッターで個別企業を名指しして、半ば強制的に国内生産・投資させるという手法です。

****トランプ次期大統領 高い国境税で自動車メーカーなどに圧力****
アメリカのトランプ次期大統領は15日、ツイッターで、自動車メーカーなどに対して、国内で生産するよう改めて求めました。

トランプ氏は先週の会見でも、海外で生産した製品を輸入する場合、高い「国境税」を支払うことになると強調していて、圧力を通じて、企業から国内で雇用を増やす方針を引き出そうとする姿勢を続けています。

トランプ次期大統領は15日、ツイッターに「自動車メーカーなどは、もしアメリカでビジネスをしたいなら、再びアメリカで製品を作り始めなければならない」と書き込み、改めて国内で雇用を創出するよう企業に求めました。

トランプ氏は、大統領選挙のあと初めて開いた11日の会見でも、「国境を越えて、アメリカで売ろうとすれば、高い『国境税』を支払うことになる」と述べました。

トランプ氏が主張した「国境税」をめぐっては、国外に移転した工場から輸入される製品に高い関税をかける案と、法人税を見直して企業が輸出する際の税負担を軽くする一方、輸入には課税を強化する案の、2つの案が浮上しています。

いずれの案も保護主義的な色合いが強く、各国の反発が予想されるため、政策が実現するか先行きは不透明ですが、トランプ氏は圧力を通じて、企業から国内で雇用を増やす方針を引き出そうとする姿勢を続けています。【1月16日 NHK】
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トランプ氏は「就任前から雇用を生み出している」とご満悦で、ツイッターでも自慢していますが、自動車メーカーの動きは必ずしもトランプ氏の“恫喝”だけによるものではないとの指摘もあります。

****フォード、米国回帰の真相****
国内工場の新設はトランプの圧力ではなく、ブッシュとオバマ政権の経済政策のおかげ

米自動車メーカーのフォードが先週、投資額16億ドルのメキシコ新工場建設計画を撤回し、デトロイトのフラットロック組立工場に7億ドルを投じて700人を新規雇用すると発表した。

もしかして、「製造拠点を国外に移すな」というドナルド・トランプ次期米大統領のツイッター警告に怯えたのか?
 
確かにマーク・フィールズCEOは「トランプ政権と新議会が提唱する積極的な経済成長政策」を理由の1つに
挙げた。

しかし、第一義的には近年の市場要因に反応した決定だった。しかも背中を押したのはむしろ、ブッシュ前政権とオバマ政権の政策だ。
 
一般に、アメリカの自動車メーカーは大型で高価格、先端技術を駆使した車を造りたがる。安価な小型車よりも利益率がずっと高いからだ。(中略)
 
不景気とガソリン価格高騰の二重苦たった07~08年には、高価格で燃費の悪い車は売れなかった。だが景気と共
に雇用も回復し、ガソリン価格も下がれば、大型で高価で先端技術満載の車が売れ筋となる。

そもそも、固定費の高い米国内で低価格帯の車を生産することは理屈に合わない。アメリカの自動車メーカーは
2方面作戦を取らざるを得ない。低価格帯の車はメキシコで、もっぱら現地市場向けに生産し、米国内では高価格
帯の車を生産するという分業体制だ。
 
各社はハイテク化を競争力として利益確保を目指している。具体的には電動化と自動化だ。(中略)フラットロック工場で生産するのも、1回の充電で300マイル走れる電動小型SUVと、自動運転機能を備えたハイブリッド車やEVだ。
 
こうした生産設備を米国内に建てることは理にかなう。EVや自動運転車は製造コストが高く、研究開発と組み
立てにも高い技術水準が求められるからだ。(中略)

重商主義的かつ経済ナショナリズム的なオバマ政権の後押しもあって、フォードは数年前からEVと充電池の研
究と生産に巨額の投資をしてきた。

しかもブッシュ政権の下で設けられたエネルギー省の融資保証制度により、電池の改良や電動化、燃費向上の技術開発に取り組む自動車会社や部品会社は融資を受けやすくなった。
 
フォードはこの保証制度を利用して09年に59億ドルを借り入れ、その資金を国内13工場の改修とサプライチェーンの確保に投じた。

結果、アルミ製ボディーのF150ピックアップトラックを生産できるようになり、燃費のいいエンジンも開発できた。
 
言い換えれば、フォードは公的資金でEVを国内生産するための研究開発を進めたことになる。今やフォードは
2種類のプラグインーハイブリッド車を売り出していて、両車種の月間売上台数合計は先行するGMのシボレー・
ボルトを上回る。
 
この数年で積み重ねた経験と技術、そして新開発の車台を強みとして、フォードは向こう5年間でEV13車種を
投入する。名車マスタングとF150もハイブリッド化し、国内で生産するという。

愛するアメ車が国内で生産される。素晴らしい話だ。しかもそれは(ドナルド・トランプではなく)ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマのおかげなのだ。【1月17日号 Newsweek日本語版】
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まあ、トランプ氏の“恫喝”おかげでも、ブッシュとオバマ政権の経済政策のおかげでも、どっちでもいいですが、こうした一部の国内生産拡大で、トランプ氏を熱烈に支持している“ラストベルト”の低所得白人労働者の生活が再びよくなるのか・・・という点では、疑問です。

“今や中国とインドは世界経済に組み込まれ、技術革新によって製造業の雇用は世界中で減っている。トランプが何と言おうと、製造業でこれまでのように給料のいい雇用を生み出すのは不可能だ”【1月17日号 Newsweek日本語版】というのが、経済構造の実態です。

****トランプが世界に巻き起こす大嵐****
米経済の迷走と国際経済システムの混乱 2017年はアメリカと世界の歴史の転換点となる
【ジョセフ・ステイグリッツ(コロンビア大学教授、ノーベル経済学賞受賞者】

・・・・米共和党は、グローバル化という名の世界の貿易と金融の統合を目指して邁進してきた。それなのに、その党から出馬した大統領候補がどちらも元に戻すと約束して勝利を収めたのだから、皮肉としか言いようがない。
 
もちろん元に戻すことなどできない。今や中国とインドは世界経済に組み込まれ、技術革新によって製造業の雇用
は世界中で減っている。トランプが何と言おうと、製造業でこれまでのように給料のいい雇用を生み出すのは不可
能だ。

やれることといえば、先端技術を駆使した業種(必要な人材は少数の高技能労働者に限られる)を後押しすることくらいだろう。

その一方で格差は拡大し、大衆、とりわけトランプに勝利をもたらした白人有権者の落胆は深まるだろう。(中略)

確かにオバマは、気候変動など一部の問題では「チェンジ」をもたらした。だが、経済に関しては(市場原理主義
的な)ネオリベラリズムによる30年がかりの実験を続けた。

彼らは、経済の自由化やグローバル化は万人に恩恵をもたらすと約束してきたが、実際にはひと握りのエリートがその恩恵をほば独占した。
 
格差の拡大、不公平な政治システム、そして人民のためと言いながら実はエリートを利する政府は、トランプが勝
利する環境を生み出した。

トランプは金持ちだが伝統的なエリートではない。それが「真の変革」を起こすという彼の言葉に信憑性を与えた。
が結局は、トランプ政権も旧態依然の政治を展開するだろう。(中略)

消えるアメリカのソフトパワー
トランプの成長重視策は、格差拡大や貿易戦争によっても打撃を受けるだろう。今やホワイトハウスも上下両院も共和党が支配しているため、労働組合の交渉力を弱め、各種業界の規制を緩和し、独占行為の取り締まりを甘くするのは簡単だ。そのいずれも格差の拡大につながる。
 
一方、トランプが公約どおり中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げれば、より大きなダメージを被るのは中国ではなくアメリカだろう。

現行のWTO(世界貿易機関)の枠組みでは、中国は米製品に報復関税を課せるだけでなく、アメリカの特定の選挙区の雇用に打撃を与えるような商品をその対象に選ぶこともできる。

報復合戦になれば、オープンな国際経済秩序が崩壊することにもなりかねない。
 
国際的な法治主義も、トランプ時代では後退を余儀なくされるだろう。というのも、これまでの国際的なルール
は、主に経済制裁を通じて遵守を強いる形が取られてきた。
もしウクライナ東部で、親ロシア勢力の活動が激化したら、トランプはどう対応するだろう。
 
これまではオープンな民主主義の要であることが、アメリカのソフトパワーを高めてきた。だが現在の世界では、
民主的手続き故に混乱が拡大している地域は多く、民主主義への信頼は低下している。

その上アメリカでトランプが登場したことで、「わが国の独裁者がまともに見えるようになった」という発言が、多くのアフリカ諸国で聞かれるようになった。
 
今後もアメリカのソフトパワーは大幅に低下し、国際秩序は一段と不透明な時代に突入するだろう。17年はアメ
リカと世界にとって、歴史の転換点になるだろう。【1月17日号 Newsweek日本語版】
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習近平主席 グローバル化や世界経済秩序の最大の支持者として存在感を見せつける
国際経済秩序におけるアメリカのソフトパワー大幅低下を予感させるような“出来事”が現実のものともなっています。

スイスのダボスで17日開幕した世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に、習近平国家主席が中国の国家主席として初めて出席しています。

習氏は「米国第一」を掲げ内向き志向をみせるトランプ次期米政権を尻目に、自由貿易とグローバリゼーションの「新旗手」としての中国を世界に印象付けています。

****ダボス会議】中国が自由経済圏の救世主という不条理****
<リーダーぶる資格は中国にはないが、トランプの保護主義でアメリカが縮む今、グローバル・エリートが頼れる大国は他にない>

中国国家主席で中国共産党総書記の習近平は火曜、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で基調演説をした。中国の最高指導者がダボス会議に出席するのは初めてだが、そのブランクをものともせず、グローバル化や世界経済秩序の最大の支持者として存在感を見せつけた。
 
保護主義のドナルド・トランプ次期米大統領とは対極の自由を訴えた習は世界最大の共産党の指導者であるにも関わらず、世界中から集まった「グローバルエリート」に歓迎された。

アメリカの政治リスク専門のコンサルティング会社、ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長は「演説は大成功」とツイッターに投稿し、後でこう付け加えた。「世界の自由貿易のリーダーが中国とは、資本主義はピンチだ #ダボス」

英金融調査会社HISマークイットのナリマン・ベフラベシュ首席エコノミストは、「習国家主席は非常に緻密かつ正確な言葉でグローバル化を擁護した」と評価。スウェーデンのカール・ビルト元首相もツイッターに投稿した。「グローバル経済のリーダーは空席で、習近平は明らかにその後釜を狙っている。今回も少し目的を達成した」

中国が唯一のグローバルパワー
習の演説は、米大統領選でドナルド・トランプが勝利して以来、わき上がったテーマの延長線上にある。

中国の国営メディアはトランプに対し、駆け出しの指導者は既存の国際秩序を擁護すべきで、弱体化させるべきでないと警告してきた。だが、数十年も人権や市場原理といった世界秩序のしがらみに苛立ってきた中国がこう指摘すること自体、皮肉だらけだ。

それでも習は、まるでそんな批判は承知のうえだったかのように、演説でこう述べた。「中国は可能性と秩序のある投資環境を用意していく。外国人の投資家による中国市場へのアクセスを拡大し、高度で実験的な自由貿易圏を作る。知的財産権の保護を強化し、中国市場をもっと透明化してより良い規制を敷き、安定した経済活動を行なえる土壌を整える」
 
貿易に目を向けると、中国に拠点を置く外国企業は様々な規制にさらされ、市場へのアクセスも不足しているうえ、中国企業との合弁や技術共有なども義務づけられる。またEUとアメリカはこれまで何度、中国をダンピングでWTO(世界貿易機関)提訴したかわからない。中国は、輸出大国であると同時に保護主義大国でもあるわけだ。
 
それでも、トランプが自由貿易支持に転じない限り、世界貿易に影響力を行使できるグローバルパワーは中国だけだ。

「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」を掲げる経済政策は、結果的に世界経済に貢献する可能性があると、トランプ政権で上級顧問になる予定のアンソニー・スカラムッチはダボスで説明した。

米国内の賃金が上昇すれば、いずれその購買力は国境を越えてグローバル経済の成長に寄与することになるという(トランプの公約どおり、既存の貿易協定を破棄して貿易戦争をすると脅すことが、アメリカの購買力に大打撃を与えかねない点については説明はなかった。習は演説で「貿易戦争で勝者は生まれない」と言ったが、スカラムッチは米中貿易戦争が起きればアメリカが勝つと、自信さえのぞかせていた)

米中の自己矛盾
彼はトランプが「グローバル主義への希望を体現する」とも言った。だがそれは、共産党一党独裁を率いる習近平が多文化の国際主義にとっての希望の象徴になる、と言うのと同じ自己矛盾だ。

習近平がグローバル化の救世主となり、これから中国は開放型の世界経済の発展に向けて積極的に取り組むと意欲を見せる一方で、トランプはNATOやEUをこき下ろす──世界はひっくり返った。こんな時代でも変わらないのは、ロシアはこれまで通りのトラブルメーカーであり続けるだろうということぐらいだ。【1月18日 Newsweek】
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第1次ニクソン・ショック再現への心構えも
中国が自由貿易とグローバリゼーションの「新旗手」・・・・半年前には笑い話にさえならなかったことですが、トランプ氏が保護貿易主義的言動で大衆受けを追い求めている現在、一概に無視できない現実となっています。

1月16日、安倍首相は訪問中のベトナム・ハノイで記者会見を開き、「自由でルールに基づく公正なマーケットを作り上げていかねばならない」と述べ、環太平洋連携協定(TPP)の早期発効を目指す考えを重ねて表明し、トランプ次期米大統領の保護主義的な発言を念頭に、自由貿易体制の重要性をあらためて強調しています。

奇しくも、かねてから対抗意識が強い中国・習近平主席と日本・安倍首相が同じ方向を向いているようにも見えます。(もちろん、安倍首相のTPPは中国封じ込めが狙いでしょうが)

アメリカが保護貿易主義に走り、中国が自由貿易とグローバリゼーションの「新旗手」となる、“何でもあり”の世界になるのであれば、コペルニクス的転換で、日本も“組む相手”を思い切って変えるなんてことも“あり”なのかも。

最近は、南シナ海の人工島アクセスをめぐる米中のせめぎあいも注目されていますが、再三言っているように、どうせ、トランプ政権は経済・軍事面で中国と激しくやりあっても、本気で喧嘩する気はなく、あくまでも“取引”を有利に進めるためでしょう。

トランプ次期米政権で上級顧問となる予定のアンソニー・スカラムッチ氏は、アメリカはより釣り合いの取れた通商協定を策定し、中国とは「驚くべき関係」を結びたいと語っています。【1月18日 ロイターより】

「驚くべき関係」とは何でしょうか? 政治的には、かつて取り沙汰された“中国とアメリカで太平洋を二分割する”類になるのではないでしょうか。1971年の第1次ニクソン・ショック(ニクソン訪中宣言)の再現でしょうか。

トランプ氏によって中国に売り渡される前に、コペルニクス的転換を考えるのも“あり”かも。
なまじ“同じ価値観を有するはずの”アメリカの大統領ということで、その言動が神経に障るところが多々ありますが、相手が中国なら、どうせ異質な国ですので、すべては“取引”と割り切ることも可能でしょう。

そんな“悪い冗談”を考えてみたくなるほど、鬱陶しい昨今です。

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