孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  再度のガス騒動 大統領と首相の確執 ロシアの思惑

2009-03-13 21:13:13 | 国際情勢

(ウクライナのティモシェンコ首相 かつてはロシアからの天然ガス輸入に際しロシア高官に賄賂を贈ったとしてロシア検察から指名手配を受けていたぐらいで、反ロシア派でしたが、最近は大統領選挙に向けて、ロシア・プーチン首相に接近しているようです。
“flickr”より By Minirobot
http://www.flickr.com/photos/minirobot/173621687/)

【ティモシェンコ、プーチン両首相の“密約”】
今年1月、ウクライナとロシアの天然ガス輸出価格交渉が決裂し、ロシアが1月1日からウクライナへの天然ガス輸出を停止、7日にはウクライナによるガスの抜き取りなどを理由に同国経由の欧州向けガス供給も停止、欧州17ヵ国を巻き込んだ大騒動になったことはまだ記憶に新しいところです。

この3月にも、ウクライナ国内の大統領と首相の対立から国営企業ナフトガスへの強制捜査が行われ、これに反発するロシアは、ウクライナ側の2月の天然ガス代金支払いが遅れる場合再度ガス供給を停止する旨をウクライナに警告する・・・といった騒ぎがありました。

ただ、今回はウクライナの経済危機、ロシアの旧ソ連圏への影響力回復の思惑などあって、これまでとは少し異なる様相も見せています。

****ウクライナ:ガス供給不安再燃、大統領と首相の対立激化で****
ロシア産天然ガスの供給などを巡り同国と対立するウクライナで、ユーシェンコ大統領直轄の治安部隊がティモシェンコ首相とロシアの「密約」を暴くため、国営ガス企業ナフトガス本社に乗り込むなど、両首脳の確執が深まっている。ロシアのプーチン首相はウクライナと欧州向けのガス供給停止の可能性に言及し、ロシア産ガスの供給不安が再燃する恐れも出ている。

国家保安局の武装要員は4日、ナフトガス本社で強制捜査を行い、翌5日にも私服の捜査員が捜索した。大統領側は、今年1月にティモシェンコ、プーチン両首相の主導でロシア産ガスの供給再開が合意された際、両者の間で次期ウクライナ大統領選などを巡り「密約」が交わされたとみて、証拠文書の押収を試みた模様だ。
地元メディアなどによると、来年初めまでに行われるウクライナ大統領選でロシアがティモシェンコ首相を支持する見返りに、同首相はウクライナのガスパイプライン事業へのロシア企業の参入容認を約束した、との観測が流れている。ウクライナの法律は、パイプライン事業への外国企業の参入を認めていない。
今回の強制捜査について大統領報道官は「法律に基づき行動した」と主張。ティモシェンコ首相は「ナフトガスの活動を妨害し、国民を恫喝しようとした」と批判している。

一方、プーチン首相は5日、「(ナフトガスの)関係者が逮捕され、ガス料金が支払われないような場合、ウクライナと欧州向けのガス供給を停止する」と警告。その後、ナフトガスが2月分のガス料金を支払い、供給停止は避けられたが、プーチン発言は捜査を主導したユーシェンコ大統領への不信感をあらわにした格好だ。
プーチン首相はかつて、欧米寄りの姿勢を取っていたティモシェンコ首相を批判していた。しかし、昨夏のグルジア紛争の際、ユーシェンコ大統領がロシア批判を展開したことから、「交渉相手としてユーシェンコ氏を見限り、ティモシェンコ氏に乗り換えた」(ウクライナの政治評論家)とみられている。 【3月9日 毎日】
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ウクライナのユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相はかつてのオレンジ革命の同志ですが、現在では、来年早々に行われる次期大統領選挙をめぐって激しいライバル関係にあります。
ウクライナ・ロシアの天然ガス問題がこじれるのも、この両者の政治対立が背景にあると言われています。
今年1月末にも、大統領が突然TV演説で首相を批判するドタバタ劇が報じられていました。

****突然TV演説「経済危機は首相のせい」ウクライナ大統領****
経済危機が深まるウクライナで30日夜、ユーシェンコ大統領が突然国民に向けてテレビ演説し、「今の経済状態を招いた全責任はティモシェンコ首相にある」と名指しで批判、議会に09年予算の見直しを求めた。1月のガス紛争を収束させるため同首相がロシアと結んだガス価格契約についても、ウクライナに不利な内容だと文句をつけた。

これに対しティモシェンコ首相は「大統領のテレビ演説は虚偽とパニックとヒステリーのちゃんぽんだ」と声明を出して反論。「大統領は経済危機で苦しむウクライナに必要なリーダーではない」と切り捨てた。 【1月31日 朝日】
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今回3月のトラブルについては、ウクライナ・ナフトガスが支払うガス代金の期限は7日で、5日夕までに総額の約2割にあたる5千万ドルが未払いでしたが、 ロシアからの警告直後に全額送金され、とりあえず1月の二の舞は避けられたようです。

【「パートナーにとどめを刺すのは良くないことだ」】
一方、ロシア・プーチン首相からは、ウクライナ取り込みを狙った“余裕”の発言も出ているようです。

****ロシア首相、「ウクライナは財政破たんの瀬戸際」****
ロシア通信(RIA)によると、ロシアのプーチン首相は、ウクライナは財政破たんの瀬戸際だと述べた。首相は、ウクライナは天然ガス供給契約に違反しているが、ウクライナの財政破たんを招きかねないため、罰金は請求しないとしている。

世界的な景気悪化を受け、ウクライナ経済は急激に悪化している。鉱工業生産は前年比で30%超減少、2009年の国内総生産(GDP)は6%縮小する見通し。通貨も昨年一時期、対ドルで50%下落した。
RIAによると、プーチン首相は「ウクライナは破たんの瀬戸際にある。だが、パートナーにとどめを刺すのは良くないことだ」と述べた。
ロシアも世界的な金融危機の影響を強く受けているが、プーチン首相は、準備金が豊富なため、他国より良い状態にあるとの認識を示した。【3月12日 ロイター】
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経済が破綻に瀕しているウクライナは多額の債務をロシア・ガスプロムに抱えており、50億ドルの金融支援が必要とされています。
ロシアは2月にこの金融支援を申し出ましたが、いまのところウクライナ政府はこの申し出を拒否しているようです。しかし、EUからの支援の見通しが立たない場合はロシアからの誘惑にあらがえなくなるかも・・・・とも報じられています。【3月18日号 Newsweek】

【拡大するロシアの影響力】
上記Newsweek誌によると、ベラルーシはロシアからの20億ドルの融資を受け入れた後、ロシア主導の対空防御システムを構築することを同意、キルギスもロシアから20億ドルの融資を受けて米空軍基地閉鎖を発表、ロシアの勢力拡大に抗するEUの“東方パートナーシップ”をモルドバが“対ロシア包囲戦略”と批判し参加を拒否・・・など、ロシアは経済危機に喘ぐ旧ソ連圏の国々への影響力を拡大しているようです。

今後はロシアとEUの綱引きとなりますが、3月9日ブログでも取り上げたように、西欧諸国は自国の経済危機対策で手一杯という状況です。
ロシア・プーチン首相の引き寄せる綱に更に力が入りそうです。
ウクライナでも、親ロシア政権へ転換という目もありそうです。




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