(検問で体温測定を受けるウイグル人男性(クチャ県)【7月8日 Newsweek】)
【ウイグル人権法成立 自治区トップへの制裁措置も】
中国・新疆ウイグル自治区のウイグル族など少数民族迫害に関する問題は、米中間の対立のなかの1枚のカードとして、アメリカにおいてこれまで以上に大きく取り上げられています。
米議会は5月までに上下院で圧倒的な支持で「ウイグル人権法案」を可決していましたが、6月17日に(道義的に白黒がはっきりする人権問題より、善悪にとらわれない弾力的な取引を優先させたい)トランプ大統領もこれに署名し成立しました。
****米でウイグル人権法成立 トランプ氏、習氏に収容所で同調か****
トランプ米大統領は17日、中国新疆ウイグル自治区のイスラム系少数民族ウイグル族らへの人権弾圧に関与した中国政府高官らに制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名し、同法が成立した。ホワイトハウス報道官が確認した。
一方、米紙ウォールストリート・ジャーナルは同日、ボルトン元大統領補佐官(国家安全保障担当)が近く出版する回顧録で、トランプ氏が中国の習近平(シーチンピン)国家主席と会談した際、ウイグル族らの収容所に触れ、建設を進めるべきだとの考えを伝えていたことを明かしたと報じた。
ウイグル族に加え、他のイスラム系少数民族への人権侵害も非難しているウイグル人権法案は米上下両院議会で既に圧倒的な支持票で可決されている。
法案の成立を受け大統領は今後180日内に弾圧に絡んだ中国政府当局者や全ての個人を特定し、議会に報告書を提出することになる。
拷問、訴追や裁判なしの拘束延長、拉致や非人道的な処遇などの行為に加わった中国政府当局者らは制裁の対象となる。資産凍結、入国査証の取り消しや米入国への禁止などが科される。
ボルトン氏の回顧録の抜粋によると、トランプ氏は昨年の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)での夕食会に合わせて習氏と会談。通訳だけを交えた席で習氏はトランプ氏に収容施設の建設の理由を説明。
この通訳によると、トランプ氏は正しいことであり、建設するべきだと応じたという。また、米国家安全保障会議のアジア担当者はボルトン氏に、トランプ氏が2017年11月に訪中した際、似たような言葉を口にしたことも明かしたという。【6月18日 CNN】
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その後も、ウイグル族問題をめぐるアメリカ側の強い姿勢が続いています。
“米政府、ウイグル族を強制労働させた中国企業との取引停止を勧告”【7月2日 読売】
“ウイグル族ら強制収容施設でかつら製造か 米が中国から輸入の毛髪製品押収”【7月2日 毎日】
“米、超党派議員らが対中制裁要求 ウイグル人弾圧巡り”【7月3日 ロイター】
こうした流れを受けて、アメリカ政府は自治区トップという高官への制裁に乗り出しています。
****米、中国ウイグル自治区トップらに制裁 人権侵害で****
米政府は9日、中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害に関与したとして、同自治区トップの陳全国・共産党委員会書記ら当局者4人に制裁を科すと発表した。
陳氏は共産党政治局委員でもあり、米政府高官によると、米国がこれまでに制裁を科した中国当局者の中で最高位という。米中間の緊張がいっそう高まる可能性がある。(後略)【7月10日 ロイター】
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もちろん、中国は「内政干渉」との反発を強め、対抗措置を表明しています。
****中国が米制裁に対抗措置を表明 ウイグル人権侵害****
中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は10日の記者会見で、新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権侵害に関する制裁措置をポンペオ米国務長官が発表したことに対して、「米国の行為は深刻に中国の内政に干渉し、中米関係を害する」と非難した。その上で「もし米国が頑としてでたらめなことをするならば、中国は必ず断固として反撃する」と、対抗措置を取る方針を示した。(中略)
対抗措置の内容については明らかにしなかったが、「すぐに分かることになる」と近く表明することを示唆した。【7月10日 産経】
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【ウイグル人など少数民族の女性に対し不妊手術を強制しているとする報告書】
アメリカ側の強硬姿勢の背景には、中国当局が新疆ウイグル自治区の人口抑制策として、ウイグル人など少数民族の女性に対し不妊手術を強制しているとする報告書が発表されたこともあると思われます。
****中国、人口抑制でウイグル人に不妊強制か 報告書****
中国当局が新疆ウイグル自治区の人口抑制策として、ウイグル人など少数民族の女性に対し不妊手術を強制しているとする報告書が29日、発表された。国際社会からは直ちに非難の声が巻き起こっている。
報告書は、新疆ウイグル自治区での中国当局の政策を告発してきたドイツ人研究者エイドリアン・ゼンツ氏が、現地の公式データや政策文書、少数民族の女性への聞き取り調査に基づいてまとめたもの。中国はその内容を事実無根と批判。米国のマイク・ポンペオ国務長官は、報告書が指摘する政策の即時廃止を要求した。
報告書によると、当局はウイグル人などの少数民族の女性に対し、既定の人数を超えた妊娠の中絶を拒否した場合、罰則として再教育施設への強制収容を科すと警告。
さらに、子どもの数が中国で法的に許可されている2人に達していない女性に対しても子宮内避妊具の装着を強制しているとされる。聞き取りに応じた女性の中には、不妊手術を強要された人もいたという。
報告書ではまた、少数民族が人口の多数を占める新疆ウイグル自治区で公式に記録された不妊手術の施術率が2016年に急増し、全国水準を超えたと指摘。2017年から2018年にかけ、同自治区の人口増加が、漢民族が多数を占める省の人口増加の平均を下回ったとした。 【6月30日 AFP】AFPBB News
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ポンペオ米国務長官は「ショッキング」で「憂慮すべき」内容だとして中国を強く批判しています。
【「文化的どころか紛れもないジェノサイドと言っていい」】
この「ショッキング」で「憂慮すべき」エイドリアン・ゼンツ氏の報告書内容について、Newsweekが報じています。
****ウイグル女性に避妊器具や不妊手術を強制──中国政府の「断種」ジェノサイド****
エイドリアン・ゼンツ(共産主義犠牲者記念財団・中国研究上級フェロー)
<中国政府のウイグル人に対する産児制限は、国連の定めるジェノサイドの定義に該当する>
「達成目標 その1 子宮内避妊器具(IUD)を524人に装着。その2 不妊手術を1万4872人に実施」
これは新疆ウイグル自治区南部に位置する人口253万人のホータン(和田)地区の中心地ホータン市の2019年版家族計画書からの引用だ。
隣のグマ県(人口32万2000人)も同年に5970人にIUDを装着し、8064人に不妊手術を実施するという数値目標を掲げている。
中国の少数民族ウイグル人が多く住むこの2地域の当局は、1年間に18~49歳の女性の14~34%に不妊手術を実施する目標を掲げた。人口に対する割合では、1998年から2018年までの20年間に中国全土で実施されたよりも多くの不妊手術が計画されたことになる。
新疆ウイグル自治区保健委員会の文書を見ると、ウイグル人が多数を占める南部全域で、2019年と20年にこうした計画が立てられたようだ。
中国西北部の新疆ウイグル自治区では2017年以降、ウイグル人、カザフ人などテュルク系の少数民族が最大で180万人強制収容所に入れられた。
これはホロコースト(ナチスのユダヤ人大虐殺)以降では世界最大規模のマイノリティー排除の暴挙である。亡命ウイグル人らはこの動きを「文化的なジェノサイド(集団虐殺)」と呼ぶ。
文化的どころか紛れもないジェノサイドと言っていい。国連のジェノサイド条約には「集団内の出生を防止することを目的とした措置を課すこと」は集団虐殺に当たると明記されている。
私は米シンクタンク・ジェームズタウン財団と共に先月発表した調査報告書で、中国当局が新疆ウイグル自治区でまさにこれに該当する行為を行っている証拠を示した。
強制収容所に入れられていた女性たちが所内で注射を打たれ、その後に月経周期が変わったり、なくなったりしたことを語り始めたのは2018年以降のことだ。収容される前にIUDの装着や不妊手術を強制されたという証言もあった。
公表されたデータを見ると、2018年に新疆ウイグル自治区における人口の自然増加率(出生と死亡の差。移住は含まない)は急減している。
ウイグル文化の中心地であるカシュガル地区とホータン地区の人口の自然増加率は2015年の1.6%から2018年には0.26%と、実に86%も減った。
一部のウイグル人地域では、2018年には死亡数が出生数を上回った。2019年には自治区全体の出生率は24%低下し、とりわけ少数民族地域では30~56%も低下した。一方、中国全土の出生率は2018年から19年にわずか4.2%低下しただけだ。
気になるのは、ウイグル人地域の最新の出生率が公表されていないこと。ホータン地区は毎年3月か4月には人口動態の統計を発表していたが、今年は6月末時点で未発表だ。
収容の理由は産児制限違反
カシュガル地区は人口動態統計を公開し始めて以来初めて、今年は出生率と死亡率を発表していないが、前年と比べ人口は減っている。明らかに地区当局は何かを隠そうとしているのだ。(中略)
文化大革命の混乱期でさえ、ほぼ一定していたウイグル人の出生率が急激に減り始めたのはなぜか。何らかの強制力が働いているとみていい。男たちが大量に収容されていることも出生率を下げる要因だろうが、それだけではここまで減らない。
公式文書のデータや文言を付き合わせると、当局による組織的な民族浄化の実態が見えてくる。そのやり方とは、少数民族の出生率を抑え込む一方で、漢族の労働者や入植者の大量流入を奨励する、というものだ。
漢族の当局者や学者は長年、新疆ウイグル自治区における「少数民族の人口の過剰な増加」を危惧してきた。ある学者はウイグル人の人口増加率が高いために自治区内の民族隔離が進み、「特定の民族集団が特定地域の占有権を主張するようになる」と警告している。
そうした主張は「中華民族のアイデンティティーと国家の統合を弱め、統治と安定を揺さぶる」危険性があるというのだ。
とはいえ、産児制限を強制する当局の試みは必ずしも成功しなかった。潮目が変わったのは2017年だ。
前年に自治区トップに就任した陳全国(チエン・チユエングオ)の方針でウイグル人の大量収容が実施され、強制の下地が整った。私の調査では、収容されたのは主に一家の家長だ。家長を連行すれば、当局は残った妻や娘に不妊手術を強制できる。
2月にリークされたホータン地区カラカシ県の文書「カラカシ・リスト」には収容された数百人の収容理由が書かれている。
驚くことに最も多い理由は産児制限違反だ。それも自治区で定められた数より1人多く子供を儲けただけで収容されたケースが多い。また、産児制限違反が唯一の収容理由である人も多かった。
その一方で、中国では2016年に一人っ子政策が廃止され、人口増加を維持するため2人の子供を持つことが推奨されている。出生率を押し上げるために、税制上の優遇措置を講じたり、結婚や出産に奨励金を交付する省もある。
カラカシ・リストによると、産児制限違反を理由に収容されたウイグル人は、2018年春に急増している。ちょうどその頃、新疆ウイグル自治区の複数の地区で、産児制限違反を厳格に取り締まるルールが発表された。3つの県級市では、違反者は収容所に送られることを明記している。
カラカシ県の2018年の政府活動報告には、「産児制限違反を厳しく抑制した」結果、「出生数と自然人口増加率は劇的に低下した」とある。2016年から2年間で、同県の自然人口増加率は83%も低下したという。
だが、産児制限違反者を収容所送りにすることは、少数民族の出生率を抑制する戦略の1つにすぎない。第2の戦略は、IUDの事実上の装着強制だ。
ジェノサイドの定義に合致
2018年、中国で行われたIUD装着手術の80%が新疆ウイグル自治区で行われた。2019年までに、南部の4つの自治州では、出産年齢人口(18~49歳)の女性の80%に、「長期的に効果のある産児制限措置」を施す計画をまとめた。
ある自治州では、保健当局が認める診断書で医学的なリスクが証明された女性以外は、「ただちに」IUDを装着させなければならないという声明が出された。
だがすぐに、第3の、最も過酷な産児制限措置が施行されるようになった。不妊手術だ。
ごく最近まで、新疆ウイグル自治区では不妊手術はめったに行われなかった。住民の大多数を占めるイスラム教徒の宗教感情に配慮してのことだ。
だが、国が一切の宗教活動を迫害し始めると、そのタガも外れた。2018年には中国全体より7倍も多く不妊手術が行われた。
2019年に刑務所や強制労働施設に送られる男性が増えると、大規模な不妊手術強制キャンペーンが始まった。「無料家族計画技術支援サービス」なるこのプロジェクトが、とりわけ積極的に展開されたのが新疆ウイグル自治区南部の州だった。
その目的は、これらの州の2020年の出生数と人口増加率を、2016年のレベルよりも「少なくとも」0.4%下げること。無料の「産児制限手術」には、IUDの装着や人工妊娠中絶、不妊手術が含まれる。そのために2019~20年の2年間で2億6000万元(約39億円)が投じられた。
具体的には、子供が2人以下の女性の一部と、子供が3人以上いる女性の多くまたは全員に不妊手術を施すことが目標だ。ウイグル人が大多数を占めるある県は、3人以上の子供がいる女性に不妊手術を施すことを、2019年の政策目標に掲げている。(中略)
新疆ウイグル自治区では2019年と20年、子供が2人以下(つまり中国の法律ではもう1人持つことができる)の女性が、自発的にIUD装着手術または不妊手術を受けた場合、報奨金を支払うために、15億元(約228億円)の予算を組んだ。
自治区全体の「無料家族計画サービス」の予算と、地元の予算を合わせると、南部地域では18~49歳の既婚女性の約12%(約20万人)に不妊手術を施せる資金が確保された。さらに少なくとも1つの自治州は、国からも補助を受けているから、さらに多くの女性が「無料キャンペーン」の対象になる恐れがある。
こうした措置とIUD装着を組み合わせれば、中国政府はウイグル人の自然人口増加率を、過去20年間の85~95%程度に維持できるだろう。新疆ウイグル自治区は、「産児制限違反ゼロ」を掲げる。つまり国の意に反して生まれる少数民族の子が1人もいないようにするというのだ。
新疆ウイグル自治区は、中国政府の猛烈な同化政策の対象にもなっている。近隣地域から漢族(特に35歳以下の若い家族)を大量に移住させて、少数民族の文化的・人種的な希薄化を図っているのだ。
2015~18年に新疆ウイグル自治区に移住してきた漢族は200万人にも上る。地域当局は、漢族男性とウイグル人女性の結婚も奨励している。
こうした事実は、中国政府が国連の定めるジェノサイドの定義の1つである「集団内の出生を防止する措置」を取っている証拠だ。今こそ国際社会は、断固たる対応を取らなくてはならない。【7月8日 Newsweek】
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これまで、中国政府のウイグル族弾圧・強制収容所の問題は、ウイグル族の文化・宗教を根絶やしにするという観点で論じられてきましたが、上記報告書は生物学的なウイグル族の抹殺・人口抑制策がとられていること、それは「ジェノサイド」そのものであると批判しています。
****亡命ウイグル人、中国の「ジェノサイド」捜査をICCに要請****
亡命ウイグル人らは7日、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所に対し、中国がジェノサイド(大量虐殺)と人道に対する罪に及んだ証拠をまとめた膨大な書類を提出し、中国に対する捜査を要請した。
提出書類は、中国がウイグル人を含むイスラム教徒系少数民族100万人以上を再教育施設に収容し、女性に対し不妊手術を強制したと主張。
一方で中国は、強制不妊疑惑は事実無根だとし、新疆ウイグル自治区の施設はテロ行為からから人々を遠ざけるための職業訓練所だと説明している。
ウイグル人らが樹立を宣言した東トルキスタン亡命政府のサリヒ・フダヤル首相は、米首都ワシントンとオランダ・ハーグでインターネットを通じて開かれた記者会見で、「今日はわれわれにとって非常に歴史的な日だ」と述べた。
中国はICC非加盟だが、ウイグル人らの弁護団は、ICCが同じく非加盟国のミャンマーによるイスラム系少数民族ロヒンギャの扱いに関して捜査を行っていることから、中国に対する捜査も可能だと指摘した。
ICCは2018年、ミャンマーの状況が加盟国である隣国バングラデシュの人々に影響を与えるとの理由で、ロヒンギャ問題の捜査が可能だとの判断を下している。 【7月8日 AFP】
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