孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン容疑者を米軍殺害

2011-05-02 21:08:51 | 国際情勢

(オサマ・ビンラディン容疑者殺害の発表に、ワシントン・ホワイトハウス前に集まり喜びを爆発させるアメリカ国民 “flickr”より By thisisbossi http://www.flickr.com/photos/thisisbossi/5678901329/

【「アルカイダ打倒の戦いの中で、最も大きな成果」】
アメリカは9.11の“宿敵” オサマ・ビンラディン容疑者の殺害で興奮に沸いているようです。
****ビンラディン容疑者を米殺害 パキスタン首都郊外で作戦****
オバマ米大統領は1日夜(日本時間2日)、ホワイトハウスで、2001年の米同時多発テロを首謀したとされる国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン容疑者が死亡したとする声明を発表した。米軍などがパキスタンの首都イスラマバード郊外で殺害し、遺体も確保したという。同容疑者の死亡によって、約10年に及ぶ米国のテロとの戦いは大きな節目を迎えた。

オバマ大統領は声明の冒頭で、ビンラディン容疑者が「数千人の無実の男女や子どもを殺害した責任を負う」とし、「米国の作戦によって死亡したと、米国民と世界に報告する」と語った。ビンラディン容疑者を拘束または殺害することが就任以来の最優先課題だったとし、「アルカイダ打倒の戦いの中で、最も大きな成果」と強調した。

米政府高官によると、米中央情報局(CIA)が昨夏、ビンラディン容疑者がパキスタンに潜伏しているとの情報を入手。その後、同国北部アボタバードの潜伏先を特定した。オバマ大統領は4月29日、身柄を確保するための作戦を許可した。
作戦は現地時間の1日早朝に実施され、小規模の実行部隊がヘリコプターを使って潜伏先を襲撃した。ビンラディン容疑者は銃撃戦の末に死亡し、遺体は米側が確保した。この際、同容疑者の側近2人や息子らも死亡した。
米メディアによると、実行部隊は米海軍特殊部隊(SEALS)とCIAの軍事部門。ビンラディン容疑者は襲撃に抵抗し、頭部に銃弾を受けた。米当局は身元の確認のため、遺体のDNA鑑定を実施しているという。一方、AP通信によると、同容疑者の遺体は海ですでに水葬された。イスラム教の慣習で死後24時間以内に埋葬すべきだとしていることや、遺体の受け入れ国を探すのが困難なことなどが理由という。

米政府高官は、ビンラディン容疑者の死亡について「アルカイダや関連武装勢力に壊滅的な打撃となる」と指摘。一方、指導者を失ったアルカイダ側が「米国を攻撃する努力を加速させかねない」とし、米政府が世界各地の大使館に「報復テロ」への警戒を呼びかけたことを明らかにした。
オバマ大統領も「我々は国内外で警戒心を保たねばならない」と述べたが、イスラム世界への配慮から「米国はイスラム世界と戦争しているわけではない」とも強調した。

米同時多発テロの直後、ブッシュ前米大統領はアフガニスタンのタリバーン政権(当時)に対し、国内に潜伏しているとされた同容疑者の引き渡しを要求したが、タリバーン側が拒否。これを受けて米英軍はアフガン攻撃に踏み切った。
オバマ政権は今年7月、アフガンに駐留する米軍約10万人の部分撤退を始める。アルカイダとの戦いで「最も偉大な勝利」(米政府高官)を受けて、約10年に及ぶ泥沼の戦いからの出口がようやく見え始めたとも言える。

同容疑者は、1957年、サウジアラビアで建設業で財をなした富豪を父に生まれた。旧ソ連がアフガンに侵攻した79年以降にイスラム・ゲリラに参加。91年の湾岸戦争でサウジが米軍駐留を認めたことへの反発から反米闘争を始めた。93年の世界貿易センタービル爆破事件でも資金援助した疑いがあるほか、98年のケニア、タンザニア両国での米大使館爆破テロ事件でも首謀者だったとされる。【5月2日 朝日】
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小さなビンラディンたち
どのメディアも報じているように、テロ勢力の“象徴”である国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンの殺害がアメリカの長年の対テロ戦争の一つの“節目”であることは間違いありませんが、世界各地にネットワーク化したテロ勢力の活動がこれで止む訳でもありません。

“ビンラーディンの真の脅威は、すでに1人の人間を優に超え、異教徒に対する容赦ないジハード思想が中東のみならずイスラム世界全体に「運動」として浸透していることだ。ビンラーディンの言葉はインターネットを通じて瞬時に世界に伝播、それに感化された小さなビンラーディンたちがさらに過激な呼びかけを行い、欧米人も含む普通の市民がテロの先兵となっている恐怖の現実は、ビンラーディンの死では消えない”【5月2日 読売】

ここ当分は報復テロの危険も高まり、アメリカなど各国は警戒レベルを引き上げています。
“外務省所管の財団法人・中東調査会の高岡豊研究員は「今後1、2年はビンラーディン容疑者を慕う有象無象の組織が、ランダムにテロを起こす可能性があり、テロの拡散が懸念される」と分析する”【5月2日 産経】

アメリカ国内事情の面では、安全保障について弱腰との保守派からの批判も受けていたオバマ政権にとっては大きな“得点”であり、再選に向けた追い風にはなるでしょう。

【「反米闘争の英雄」】
ビンラディン容疑者の殺害までにこれほどの時間を要したことについては、“(アメリカが)追跡に真剣でなかったとの見方”も指摘されています。
****ビンラディン容疑者殺害:悪の権化、英雄…反米でカリスマ*****
国際テロ組織アルカイダを率いたウサマ・ビンラディン容疑者(54)を、ブッシュ前米大統領は「世界で最も危険なテロリスト」と呼んだ。米国が敵視すればするほどイスラム急進・過激派の間ではカリスマ性を高めた。世界にはイスラム教徒に限らず、無差別テロを憎んでも「反米」という一点で共鳴した人も少なくなかったのではないだろうか。

1991年の冷戦崩壊後、米国が単独主義的な傾向を強めるのと軌を一にして、ビンラディン容疑者は「反米闘争の英雄」になった。その存在は世界での米国に対する反発や憎悪を映す鏡であり、「民主主義」や「人権外交」を掲げつつ強引な世界戦略を推し進めた米国の「もう一つの顔」をも投影していた。

同容疑者は元は反米ではなく、むしろ米国の側にいた。79年のソ連のアフガニスタン侵攻に伴い、ムジャヒディン(イスラム聖戦士)を助けるアラブ義勇兵として参戦する。ゲリラ勢力を支援したのが米国だった。
91年、米国が湾岸戦争に乗じてイスラム教の聖地があるサウジアラビアに進駐したことに反発、反米に転じる。(中略)
サウジ最大のゼネコンのオーナーだった父親から引き継いだ膨大な資産を闘争の原資にしたとされる。だが本人の生活は質素、物静かでイスラムの戒律に厳格だったと多くの関係者が証言する。息子の一人は英紙に「食事はパンとホウレンソウに少々の肉」と語った。大富豪の地位を投げ捨て反米闘争に身をささげた姿が、イスラム教徒の純真な若者たちを引きつけた面もあったに違いない。
(中略)
同容疑者の用心深さはともかく、偵察衛星などハイテク機器を駆使して追跡していた米国がどうしてかくも長く捕捉できなかったのか。米国は世界での覇権を強めるため、「正義の米国」と対決する「悪の権化」を必要とし、追跡に真剣でなかったとの見方もある。米国をテロ国家と見る向きにも一理ありとすれば、両者の関係はコインの裏表だったのかもしれない。【5月2日 毎日】
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“反米のカリスマ”という点では、中国のネット上の反応にも「反米の英雄」とする見方も少ないそうです。
****ビンラディン容疑者殺害:中国TV、過去の活動に高い関心****
中国政府は公式なコメントを出していないが、2日午前から国営新華社通信が死亡を速報し、中国国営・中国中央テレビ(CCTV)も長時間にわたりビンラディン容疑者の過去の活動について放送するなど高い関心を示した。
また、中国のネット上では同容疑者を「反米の英雄だ」と評価する見方や、「多くの米国人を傷つけた」と批判する書き込みが掲載され、賛否が分かれている。【5月2日 毎日】
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懸念されるパキスタンとの関係
ビンラディン容疑者については、これまで死亡説や、イスラム武装勢力が拠点とするパキスタン北西部の部族地域などの山岳地帯に潜んでいるとの見方がありました。
“昨年10月、米メディアなどが北大西洋条約機構(NATO)当局者の話として、容疑者はパキスタン北西部の一般の住宅に住んでいると報道。パキスタン国内で生存している可能性があるとの見方が出ていた。”【5月2日 朝日】ということで、首都から数十キロの場所に住んでいたことについては、個人的にはそれほどの驚きはありません。

ただ、そうなると、そのことをパキスタン側、特にイスラム過激派とのつながりも指摘される軍の情報機関ISIが情報を把握していなかったとは考えられない・・・といようにも考えられます。
しばしば指摘されてきたように、“パキスタン軍に保護されている”という見方を裏付けるともとれます。

今回作戦はアメリカ軍によって行われましたが、オバマ大統領は会見で「パキスタンと共同で行ったテロ対策がビンラディン容疑者と隠れ家の特定につながった」と述べ、一応パキスタンとの関係を損なわないようになっていますが・・・・。
4月29日ブログ「パキスタン イスラム武装勢力との微妙な関係 高まる反米感情」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110429)でも取り上げたように、現在アメリカとパキスタンの関係は非常に悪化していますので、ビンラディン容疑者をパキスタン情報機関が“保護”していたのかどうかをめぐる不信感、更に、今回作戦が首都近郊でアメリカの部隊によってなされたことへのパキスタン国民の反発なども、今後懸念されるところです。


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