孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  イスラム武装勢力との微妙な関係 高まる反米感情

2011-04-29 20:59:22 | 国際情勢

(4月22日のアメリカ無人機による攻撃で多数の民間人犠牲者がでたとして,星条旗を燃やして激しく抗議するパキスタン市民 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5644792433/

パキスタン・アメリカ軍部トップが批判の応酬
個人同士の私的な関係でも、表面的なものと実際との違いは普通にあるように、国家間、あるいは国家とある勢力の関係も表面的な関係だけでは判断できない複雑なものがあります。
アフガニスタン情勢のカギを握るパキスタン国軍とタリバンなどイスラム武装勢力との関係も、そうした“よくわからない関係”のひとつでしょうか。

アメリカがアフガニスタンでの対テロの戦いを遂行する上で、イスラム武装勢力の補給地、または本拠地ともなっているパキスタンの国境地帯でのイスラム武装勢力の掃討をパキスタンに強く要請しており、その要請に応じてパキスタン側が掃討作戦を実行していることも事実です。
イスラム過激派と戦うためにパキスタンがアフガニスタンとの国境付近に展開している兵力は、NATO軍がアフガニスタン全土に展開している兵力より多いと言われています。

その報復としてイスラム武装勢力側によるパキスタン軍を狙ったテロも頻発しています。
26日は、南部カラチで海軍当局者を乗せたバスを狙った同時爆弾テロがあり、現地情報によると海軍幹部を含む4人が死亡、50人以上が負傷しています。
更に、28日朝には同じ南部カラチで路肩爆弾によって再び海軍の通勤バスが爆破され、地元メディアによると、5人が死亡、18人が負傷したとのことです。
いずれの事件についても、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が犯行を認めています。

一方で、パキスタン国軍、特に軍情報機関(ISI)とイスラム武装勢力が強いつながりがあることも良く知られているところです。アフガニスタンのタリバン成立にもアメリカCIAとともにパキスタンISIが関与しています。
一般的には、宿敵インドに対抗して、アメリカ撤退後のアフガニスタンへの影響力を保持したいとの目論見で今でも武装勢力との関係を維持していると言われています。

アメリカの要請でイスラム武装勢力を攻撃しながらも、背後ではそうした武装勢力の後ろ盾として支援する・・・“よくわからない関係”です。
アメリカも、パキスタンのこうした曖昧な対応には苛立ちをつのらせており、先日も米軍トップのマレン統合参謀本部議長がISIと武装組織のつながりを強く批判しています。

****マレン米統合参謀本部議長の発言にパキスタン軍が反発****
2011年04月22日 20:21 発信地:イスラマバード/パキスタン
パキスタンを訪問した米軍制服組トップのマイケル・マレン統合参謀本部議長が20日、パキスタンの三軍統合情報部(ISI)はテロリストとつながっており、アフガニスタンの旧勢力タリバンとの戦いにおける取り組みが不十分だと批判したことに対し、パキスタン軍は翌21日、これを強く否定する声明を発表した。

パキスタン軍上層部との安全保障会談のために20日に同国入りしたマレン米軍統合参謀本部議長は、独立系放送局Geo TVのインタビューで、北西部アフガニスタン国境の部族地域に潜伏するタリバン勢力とISIについて、「ISIの全員がそうだというわけではないが、ISIはハッカニ・ネットワークと長年にわたって関係がある。これは事実だ」と批判した。
ハッカニ・ネットワークとは、アフガニスタンの軍閥の長、シラジュディン・ハッカニ氏が率いる国際テロ組織アルカイダ系の組織で、パキスタン側の部族地域にある北ワジリスタン地区を拠点としている。
アフガニスタン東部ホースト州で米中央情報局(CIA)要員7人が死亡した2009年の米軍基地自爆攻撃などを実行したとされる。

マレン議長の発言を受けてパキスタン軍は21日、アシュファク・キアニ陸軍参謀長は「パキスタンの取り組みが不十分で、パキスタン軍が透明さに欠けているとするネガティブなプロパガンダ」を断固として否定するという声明を発表した。またキアニ参謀長は「現在進めている作戦は、テロリズム打倒に向けたわが国の決意を証明するものだ」と述べたという。
またキアニ参謀長は、テロリズムとの戦いの勝利の鍵となるのはパキスタン国民の支持だが、波紋を呼んでいる米軍の無人機による攻撃は、「テロリズムに対するわが国の努力だけでなく、我々の努力に対する世論の支持も損なっている」と批判した。【4月22日 AFP】
*************************

今年1月、CIA嘱託職員がパキスタン東部ラホールで地元の若者2人を射殺した事件がパキスタン国内の反米感情を強く刺激し、更に、この職員が遺族に和解金を払うなどして釈放された直後の3月、CIAが無人機でパキスタン北西部を空爆しています。
こうしたことから、パキスタンとアメリカの関係は最近悪化していますが、今回の両国軍部トップ同士の批判の応酬はこうした情勢が背景にあります。
パキスタン軍によると、20日キアニ陸軍参謀長はマレン統合参謀本部議長と会談し、無人機攻撃について「対テロ戦での我々の努力への国民の支持を失わせる」と批判したとのことです。

ただ、アメリカとしては、アフガニスタン国境地帯での武装勢力掃討、アフガニスタンへの物資補給路確保のためにはパキスタンの協力がどうしても必要であり、パキスタンの対応を批判はしつつも、懐柔策もとっているようです。
****米、パキスタンに小型無人機85機供与へ****
ロイター通信は22日までに、米軍当局者の話として、米政府が無人偵察機85機をパキスタンに提供すると伝えた。パキスタンは米国に無人機の技術提供を求めており、その要求にこたえる動きの一環。提供するのはカラー映像撮影機能を備えた小型無人機「レイブン」。【4月23日 産経】
*************************

沸騰する反米感情、補給路遮断
キアニ陸軍参謀長がアメリカの無人機攻撃を批判した会談後の4月22日には、パキスタン北西部のイスラム武装勢力が拠点とする部族地域北ワジリスタン地区で、アメリカの無人機による攻撃があり、地元メディアによると、女性や子どもら民間人を含む25人が死亡したと報じられています。
パキスタン軍は従来、米CIAによるパキスタン国内の無人機攻撃を“黙認”していましたが、国内での反発が強まっています。【4月22日 朝日より】

パキスタン国内の反米感情は沸騰しつつあり、市民によるNATO補給路遮断という事態に至っています。
****パキスタン:無人機空爆に抗議の市民、NATO補給路遮断****
パキスタン北西部のペシャワル郊外で23、24の両日、米国による無人機空爆に反発する市民数千人が幹線道路に座り込み、アフガン駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍に送られる補給物資の通過を遮断した。これまで武装勢力がタンクローリーなどを攻撃し、NATOへの補給を停止に追い込んだことはあるが、住民が補給路を断ったのは初めてだ。
現地からの報道によると、抗議行動は、パキスタンのクリケットチーム元主将として世界的に知られ、野党「正義のための運動」を率いるイムラン・カーン氏(58)が呼びかけた。物資輸送再開は25日以降になる見通しだ。

NATO側は、2日間の補給路遮断では、アフガンでの作戦展開に影響はないという。だが、米・パキスタン両軍の関係がぎくしゃくする中、住民が実力行使に出たことで、米国のアフガン戦略はますます困難となりそうだ。
カーン氏の党は08年の総選挙をボイコットしたため、議会に議席を持たないが、親米とみなされるザルダリ大統領・ギラニ首相の現政権が不人気を極める中、「反米」を強く打ち出したカーン氏が存在感を強めている。

パキスタン軍トップのキヤニ陸軍参謀長は3月、米中央情報局(CIA)がパキスタン北西部の部族地域を無人機で空爆し、民間人ら約40人が死亡したことを「許されない」と指弾していた。キヤニ氏は今月20日、パキスタンを訪問した米軍トップのマレン統合参謀本部議長と会談し、空爆停止を求めたとみられるが、その2日後には同じ地域で空爆が再度実施され、住民の怒りを招いていた。
**********************************

【「レーガン・ルール」、「アメリカ抜き」和平構想
パキスタン軍部の思いについては、次のような指摘もあります。
****米パの亀裂をアルカイダが笑う*****
対テロ パキスタンとの関係がいくら悪化してもアフガン問題を抱えるアメリカは強気に出られない
・・・・・陰で実権を握り続けるパキスタン軍も、ここ2年のアメリカの諜報活動に不安と怒りを募らせている。彼らにしてみればデーピスの一件や無人機の空爆によって、自分たちが領土を完全に掌握できていないという現実を日々突き付けられている。

パキスタンのアシュファク・キヤニ陸軍参謀長やアハメド・パシャー軍統合情報局(ISI)長官が望んでいるのは「レーガン・ルール」への回帰だ。
このルールは80年代にさかのぼる。当時、CIAとサウジアラビア当局はISIに資金と武器を提供し、アフガニスタンに侵攻したソ遂軍と戦うイスラム・ゲリラ組織ムジャヒディンを支援させた。CIAとISIはまさに盟友だった。
米政府は基本的に干渉せず、作戦や戦争の遂行はISIに任せていた。パキスタン側にも、主権や尊厳を脅かされているという感覚はほとんどなかった。
レーガン・ルールには、パキスタンの核開発を黙認するという暗黙の合意も含まれていた。しかし89年にソ連がアフガニスタンから撤退すると、アメリカはパキスタンの核開発に対する制裁を実施。90年にはF16戦闘機など、パキスタンが支払いを済ませていた武器の供給を突然中止した。パキスタン軍はあの裏切りを忘れていない。・・・・・【4月27日号 Newsweek】
****************************

なお、アフガニスタンのカルザイ政権もアメリカの支援で成立している一方で、アメリカからはその汚職体質を強く批判されているという微妙な関係にあります。
対米不信感を強めるアフガニスタン、パキスタン両国が、タリバンと和解を目指す合同委員会の設置で合意するという、「アメリカ抜き」で当事国同士が和平構築を模索する動きも見られることも注目されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする