孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  メルケル首相の選択  紛争地への武器供与、財政問題など

2014-09-15 21:54:18 | 欧州情勢

(9月4日 NATO首脳会議でメルケル首相を迎えるキャメロン英首相(右)とラスムセンNATO事務局長(右) 今や完全に欧州をリードする立場になったメルケル首相です。 “flickr”より By North Atlantic Treaty Organization https://www.flickr.com/photos/n-a-t-o/14951805898/in/photolist-oM9njG-oTVDzb-oRYxrV-oZdjg3-p1WSc3-p96mrK-oUP3o4-p3t2my-p5tLBZ-p5J2T9-oQNFJv-oUtxDY-oNHuVF-pa5Tg3-paBKyC-p5Dx3V-oKCLJ1-p539is-oMeUYS-oLbesb-p3uSQr-oLh2xV-p3LguP-p3GGrv-oLgchh-p3uSSv-p3Jhvs-oMQ3fh-oQGT3M-oQHSwT-oLfJJE-oLgb3x-p4sNA2-p6dGxw-oLh2fR-p3qQTt-p3GdFv-p1HwN3-p5bvxv-p1X8VF-oJ9tt2-p1EmsE-oQLpdu-p7Zh5H-p1BoT3-p8dMpQ-p7ZgYa-oM9sJC-oM9GT1-p4CUKR)


【「それはわれわれが考える『責任』ではない」】
ドイツは世界第3位の武器輸出国ですが、欧州全土を戦争に巻き込んだ反省と、周辺国の警戒を招かないようにするためもあって、紛争地域への武器供与は自粛してきました。

しかし、メルケル政権は先月末、イラクで「イスラム国」と戦うクルド人勢力への武器供与を認め、これまでの基本方針を変更しました。

****イスラム国」の脅威重視=戦後の外交方針転換―紛争地へ武器供与・ドイツ****
ドイツのメルケル政権は8月31日、イラク北部で攻勢を強めるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」と交戦するクルド人部隊に、対戦車ロケット砲や小型携帯火器を引き渡す方針を決めた。

ドイツは紛争地域への武器供与を控えてきたが、「イスラム国」の勢力拡大は西側諸国の安全保障に影響すると判断。外交政策の転換に踏み切った。【9月1日 時事】
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なお、フランス、オーストラリアはイラクでの空爆にも参加を表明していますが、イラク空爆に関してはドイツは参加する考えはないことを明らかにしています。

アメリカなどNATOは、武器供与を認めるドイツの方針変更を歓迎しており、ウクライナなど欧州情勢が悪化するなかでこれまで以上の役割をドイツに期待しています。

****クルド武器供与:独の決断 欧米歓迎…背景に高まる緊張****
欧米は、ドイツのイラク北部クルド自治政府への武器供与方針を歓迎している。

ロシアのウクライナへの介入で欧州大陸の軍事的緊張が高まったうえシリア、イラク、リビアなどが大きく不安定化し、欧米が軍事的に関与する可能性が高まっているからだ。

北大西洋条約機構(NATO)の外交筋は「武器供与だけでなく、派兵や財政面での貢献も期待したい」と話す。

NATOは来週の首脳会議で、72時間以内に域内外に展開する「速攻部隊」の設立で合意する見通しだが、十分に訓練された兵員、輸送機などの装備、高額な維持費用が必要で、ドイツはじめ大国の貢献が期待されている。

ドイツの国防費は国内総生産(GDP)の1.3%(2013年)とNATOの目標の2%には届かず、負担増は義務との見方もある。

ドイツは、戦争責任も常に明確にしており、ガウク大統領は3月にギリシャ、5月にチェコを訪れナチへの反省と欧州での平和構築の重要性を強調した。

欧州内でドイツへの警戒感は皆無なのが実情だ。在ブリュッセルのドイツ外交筋は「ドイツは常にNATOと欧州連合(EU)の枠組みの中で慎重に外交を進めてきた。その信頼が、期待に変わった」と話す。【8月26日 毎日】
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しかし、ドイツ国内では供与した武器が過激派の手に渡ることへの懸念や、ドイツがテロの標的になるとの不安も強く存在します。

公共テレビZDFが8月22日に報じた世論調査によると、武器供与を支持した国民は27%にとどまり、反対は67%を占めています。【8月24日 産経より】

こうした国内批判に対し、メルケル首相は危機に立ち向かう責任を訴えています。

****テロ拡大の甘受」か「支援」か…ドイツの“危機”に対する責任とは****
「危険を冒さず、テロの拡大を甘受するのか。それとも勇敢に戦う人々を支えるのか。その選択だ」。

ドイツがイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に対抗するため、イラク北部のクルド人部隊への武器供与を決めた翌日の9月1日、メルケル首相が連邦議会の演説で訴えた。

欧州では戦地から戻った若者によるテロや、イスラム国がテロの拠点を確保することへの懸念が強い。首相はクルド人部隊が戦っているのは「われわれのためでもある」と謝意を示し、決定の理由を説明した。

決定は紛争地への武器供与を自粛してきたドイツ外交の方針転換といわれるが、テロの標的になるといった不安から国民の過半数は政府の決定に反対だ。

「そうした危険は当然、考慮した。だが、武器を送らなければテロ集団の深刻な危険はどうするのか」。そう答えた首相の訴えはさらに続く。「この危機に他人が立ち向かうのを待って願うことができるのか。いや。それはわれわれが考える『責任』ではない」(後略)【9月15日 産経】
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危機への対処を他人(他国)に期待するのは無責任であるとの考えには同感します。

現実世界では紛争が多発し、私たちが普遍的価値と信じる人権や自由が踏みにじられ、多くの市民が紛争の犠牲になっています。

決して武力だけで紛争が解決するものではありませんが、紛争を収めるためには、とにもかくにもまずは実力を行使して、人権を踏みにじる勢力に歯止めをかけることが必要になるケースが多々あります。

当然に、そうした行動は犠牲を伴いますし、負担も大きなものになります。
できることなら避けたいところで、その思いはどの国も同じです。

しかし、誰かがやらねばならないときに、“自分はできない、でも誰かにやってほしい・・・”というのは、やはり責任ある対応とはいいかねるように思います。

日本では憲法を遵守し、とにかく戦争に関与することを避けることを是とする考えや、国益とか国家の威信から近隣諸国との争いばかりに血道をあげる考えなどが多いようですが、たとえ地球の裏側であっても、アフリカや中東であっても、日本の利害や日本人の生命に直接関与しないものであっても、相当な犠牲が出ることが予想されるものであっても、守るべき価値を実現するために一定に関与することは、同時代を生きる人間としての責務であるように感じます。

そのような行動によって世界全体における人権とか自由といった価値観を守ることが、日本国内におけるそれらを守ることにもつながるものだとも考えます。

新規の国債発行を停止 ただし批判も
巨額の財政赤字・債務を抱える日本は、大きな痛みも伴う抜本的な財政改革には乗り出せずにいます。

一方、緊縮財政を進めるドイツでは新規国債を発行しないレベルにまで到達したそうです。
ただ、それはそれで問題も付随しています。

****<ドイツ>15年予算案 国債発行停止46年ぶり借金なし****
ドイツ政府は2015年予算案について、新規の国債発行を停止し、旧西独時代の1969年以来、46年ぶりに「借金なし」で歳出をまかなえる見通しになったことを明らかにした。
今月9日、ショイブレ財務相が連邦議会(下院)で述べた。

ドイツは近年の欧州債務危機で「緊縮財政」路線を進めて歳出削減に取り組んだことに加え、堅調な経済を背景にした税収増も後押しした。来年の歳出規模は2995億ユーロ(約41兆6000億円)を見込んでいるが、この全額を国債発行なしでまかなう方針という。

一方、緊縮路線の影響で、老朽化した道路や橋などの改修に予算が回らない懸念も指摘されている。

野党・緑の党からは「財政健全化自体が目的になってしまい、インフラ崩壊という負の遺産が放置されている」(キンドラー連邦議会議員)と政府の過度な緊縮策を批判する声も上がっている。【9月13日 毎日】
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財政健全化を国内だけでなく、財政問題を抱える他のEU諸国にも強く求めるドイツと、失業などの深刻な問題に悩む国々のあいだで大きな軋轢があることは周知のところです。

ドイツのやり方が正解なのか、あまりにも頑なにすぎるのか・・・判断に迷うところです。

反EU・ユーロ勢力の台頭
メルケル政権のもとで国内外の成果を生み、EU・ユーロにおける影響力を不動のものにしつつあるドイツですが、国内には不満も小さくないようです。

****反ユーロ党、新たに2州で議席=左派党初の州首相も―ドイツ****
ドイツ東部のテューリンゲン州とブランデンブルク州で14日、州議会選挙が行われ、欧州単一通貨ユーロに反対する新興政党「ドイツのための選択肢」が両州で議席を獲得した。

州レベルで初めて議席を得た8月31日のザクセン州議会選に続く躍進に、欧州統合を進めるメルケル首相は警戒を強めている。

「選択肢」の得票率はテューリンゲン州が10.6%、ブランデンブルク州が12.2%。ルッケ代表は「われわれは政治構造を変える勢力。国民が変化を切望していることは誰にも否定できない」と強調した。

「選択肢」は2013年2月に結党。同年9月の連邦議会(下院)選挙で、得票率が議席獲得に必要な5%にあと一歩の4.7%に達し、今年5月の欧州議会選で議席を獲得した。

テューリンゲン州では、旧東独支配政党の流れをくむ左派党が得票率28.2%で第2党となった。社会民主党、90年連合・緑の党との左派連立で、初めて州首相の座を獲得する可能性もある。【9月15日 時事】 
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新興政党「ドイツのための選択肢」は“メルケル政権によるギリシャほか欧州連合諸国への救済措置に不満を抱く勢力が中心となって結成された。欧州連合からの脱退を目標とし、ユーロ圏からの離脱とドイツ・マルクの復活を当面の最優先課題に挙げている。党の政策は全体的に右派色が強いが、国粋主義や移民排斥は掲げていないとされる”【ウィキペディア】とのことです。

自分たちは犠牲を伴いながら現状を達成した。これ以上働かない連中のために我々のカネを使うのは御免だ・・・という話でしょう。

メルケル首相としては、国内のこうした批判を抑えるためにも南欧諸国には財政規律を強く求めることになりますが、そのことで南欧諸国ではドイツ批判が強まり、それがドイツ国内の批判勢力を更に刺激するということで、悩ましいところです。

ただ、南欧諸国の財政規律をないがしろにした旺盛な需要で最も大きなメリットを得たのはドイツ経済だったとも言われますし、社会的にも、足手まといは切り離し、自分たちだけでやっていく・・・という考え方には危ないものを感じます。

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