孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  拡大する少数民族武装勢力の攻勢 注目される中国の動向

2023-11-25 23:08:19 | ミャンマー

(ミャンマー・シャン州で投降した国軍兵士らに向かって話す武装勢力関係者【11月20日 共同】)

【少数民族武装勢力の攻勢、拡大の様相】
民主派勢力(アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員らが設立した「国民統一政府」(NUG))の民兵組織及び少数民族武装組織と国軍の間で戦闘が続くミャンマーにおいて、10月27日に中国国境も近い北東部シャン州で三つの少数民族武装組織が連携して攻勢(「1027作戦」)を開始したことは、これまでも取り上げてきました。
に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

今回が3回目になりますが、取り上げる度に混乱は拡大し、国軍支配にとって深刻な状況になりつつあります。

シャン州での少数民族武装勢力の攻勢に国軍が有効に対応できない状況を受けて、想定されたように各地の少数民族武装勢力も国軍への武闘を開始し、戦線が拡大しています。

****ミャンマーで新たな戦線、反軍政派が攻勢 数千人がインドに避難****
軍事政権下のミャンマーで13日、少数民族の反軍政派が治安拠点を攻撃した。反軍政側などが明らかにした。2つの新たな戦線が開かれたほか、数千人が戦闘から避難するため隣国インドに越境した。

10月下旬に3つの少数民族武装勢力が協調して攻撃を開始し、一部の町や軍拠点を奪取。軍政にとっては2021年のクーデターによる政権掌握以来、最大の問題となっている。

反軍政勢力の一角で西部ラカイン州を拠点とするアラカン軍(AA)の広報担当者は、約200キロ離れている2地域で拠点を抑えたと語った。

インドと国境を接するチン州でも戦闘が発生し、インド当局者らによると、反軍政勢力が軍駐屯地2カ所を攻撃した。

ミャンマーからは約5000人がインドのミゾラム州に渡ったという。

軍政の報道官からは今回の戦闘について今のところコメントを得られていない。【11月14日 ロイター】
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アラカン軍はシャン州で「1027作戦」に参加している組織で、その動向が注目されていましたが、本拠地ラカイン州でも国軍への攻勢を始めたようです。

少数民族武装勢力側は、国軍から投降者が相次いでいると発表しています。(このあたりの情報は、「大本営発表」的なプロパガンダの側面がありますので、どこまで信用できるかは注意する必要があります。)

****ミャンマー軍政、数十人の治安要員投降 少数民族武装勢力が発表****
ミャンマー軍事政権の治安要員数十人が投降したり、身柄を拘束されたと、反軍政武装勢力が15日に発表した。

同国では10月下旬に3つの少数民族武装勢力が協調して軍政に対する攻撃を開始し、一部の町や軍拠点を奪取。軍政は2021年のクーデターによる政権掌握以来、最大の難局に直面している。

反軍政勢力の一角で西部ラカイン州を拠点とするアラカン軍(AA)によると、少なくとも28人の警察官が武器を放棄して投降したほか、10人の兵士が身柄を拘束されたという。ロイターはAAの情報が正確なのかどうか確認できていない。

ラカイン州の州都シットウェには夜間外出禁止令が出されている。【11月15日 ロイター】
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ラカイン州の州都で夜間外出禁止令が出されているということは、国軍側にとって警戒すべき状況ではあるようです。

【辺境での少数民族の攻勢が全土の抵抗に結びつくのか】
民主派組織NUG=国民統一政府の外相が来日して、軍事政権について「崩壊はもはや時間の問題だ」と主張、日本を含む国際社会に支援を求めていますが、このあたりはプロパガンダ的な政治的発言でしょう。

****ミャンマー民主派組織幹部「少数民族武装勢力との連携で成果、軍は都市部の支配喪失し始めている」****
来日したミャンマーの民主派組織NUG=国民統一政府の外相が会見し、クーデター後、民主派などへの弾圧を続ける軍との戦闘について少数民族武装組織との連携で「成果をあげている」と強調しました。

ミャンマー民主派組織「NUG(国民統一政府)」ジンマーアウン外相 「(ミャンマー軍との戦いについて)少数民族との戦闘の連携で成果をあげている」

ミャンマーの民主派勢力は、少数民族武装勢力と連携し軍への大規模な攻撃を進めていますが、NUG=国民統一政府で外相を務めるジンマーアウン氏は会見で、農村部での軍の支配地域は40%以下になっていると指摘。「都市部での支配も失い始めている」と強調しました。

一方、現在の軍政に対する日本政府の対応については、「ミャンマーで現在起きていることに合っていない」と批判したほか、今後、軍政から逃れようとする多くの国民に対して国際社会からの支援が必要だと訴えました。【11月24日 TBS NEWS DIG】
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プロパガンダ的発言ではありますが、このまま衝突が拡大すると、場合によっては・・・という可能性もあります。
タリバンの攻勢であっけなく崩壊したアフガニスタン政府軍の事例もありますので。

ただ、アフガニスタンと異なるのは、(軍の能力の問題は別にして)、タリバンを主導していたのがアフガニスタンにおける最大部族パシュトゥン人であったのに対し、ミャンマーでは攻勢をかけているのは自治拡大・独自の権益拡大を目論む少数民族であり、今後多数派ビルマ族社会がこの動きにどのように反応するのかが事態の推移に大きく影響します。

約70%を占めるビルマ族社会にあっても多くの国民が国軍支配を嫌悪しているのは間違いないですが、少数民族との共闘で彼らの権利拡大を容認するのか・・・民主派組織「NUG(国民統一政府)」は州を基本としてそれが集まって連邦国家を作る「The Federalとしての連邦制」を掲げ、少数民族との連携を基本枠組みとしていますが、一般世論にどこまで受け入れられるのか・・・。

そうした少数民族と多数派ビルマ族の連携によって国軍への抵抗が辺境地域だけでなくミャンマー全土に広がるのかどうか・・・が、今後の展開にとって重要です。

【「静観」する中国 今後は?】
そしてもう一つのカギは中国の動向でしょう。

中国はミャンマー国軍に制裁を課す欧米とは異なり、国軍とも一定のつながりを持ち、「一帯一路」事業を進めています。
一方で、シャン州の中国国境付近の州数民族武装勢力にもこれまで支援を行ってきたとされています。

そして、今回の衝突は中国が重視する「一帯一路」事業展開エリアで起きています。
「一帯一路」事業への影響を防ぐため、そして、これまでの中国と国軍との関係を考えると、中国が少数民族武装勢力に圧力をかけて沈静化させる・・・というシナリオが考えられますが(実際、従来はそうしたような動きがありました)、今回は中国は表だって動いていません。

その背景には、中国国境付近で活動する(国軍も関与しているとも言われる)中国系詐欺グループ摘発に国軍が有効に動いていないことに中国が苛立っていることがあると指摘されています。

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(「1027作戦」を行っている三つの少数民族武装勢力で構成する)同胞同盟は(国境近い詐欺グループ拠点)ラウッカインを包囲してから間もなく、攻撃のタイミングを慎重に計っていた。中国はこの出来事を受け、ミャンマーの軍事政権にしびれを切らしていた。

中国政府はこの1年、軍事政権に対し、主に中国人集団によって稼働している詐欺センターを閉鎖するよう圧力をかけてきた。詐欺センターに閉じ込められている人身売買の被害者が残忍な扱いを受けていることが広く知られるようになり、中国政府はきまりの悪い思いをしている。

中国側の圧力は、ワ族など多くのシャン州の民族勢力を説得し、詐欺への関与が疑われる人々を中国の警察に引き渡すことにつながった。8月から10月にかけて4000人以上が中国側へ送られた。しかし、ラウッカインの人々は、年間数十億ドルを生み出してきたこのビジネスを停止することに難色を示した。

現地の情報筋がBBCに語ったところによると、10月20日に、ラウッカインで閉じ込められている数千人の一部を解放しようとする試みがあったが失敗に終わったという。

詐欺センターで働く警備員たちが、脱出を試みた大勢の人を殺害したと考えらえている。その結果、隣接する中国側の地元政府から、責任を負う者に裁きを受けさせるよう求める強力な内容の抗議文書がミャンマー側へ送られた。

同胞同盟は好機と見て攻撃を仕掛けた。中国を落ち着かせるために詐欺センターを閉鎖すると約束した。中国は公には停戦を求めているが、同胞同盟のスポークスマンは、中国政府から直接、戦闘をやめるよう要請は受けていないとしている。【11月10日 BBC】
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“混乱収束が見通せない中、武装勢力に一定の影響力を保持する中国は攻勢を静観している。BBCは静観の理由を、ミャンマーで中国国内を標的とした複数の詐欺グループが活動する中、「中国が国軍の無策にいらだちを感じている」ためだと指摘。一部武装勢力には詐欺容疑者の身柄確保を巡って中国に協力する動きがあり、事態は複雑さを増している。”【11月15日 産経】

こうした状況を受けて、国軍側も動いた・・・のでしょうか。

****特殊詐欺容疑者3万人を移送 ミャンマーから中国に****
中国公安省は21日、中国人を標的にした特殊詐欺に関わった疑いがあるとして、これまでに隣国ミャンマーで拘束された計3万1千人の容疑者が中国に移送されたと発表した。

中国では海外を拠点としたグループによるインターネットや電話を利用した詐欺被害が深刻化している。公安省は今年9月からミャンマー側と協力し、国境を接する同国北部で取り締まりを強化していた。

王小洪公安相は10月末、ミャンマーの首都ネピドーで軍政トップのミンアウンフライン総司令官と会談し、両国の司法機関の連携強化について協議した。【11月21日 共同】
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3万1千人・・・・小さな都市の全人口にも匹敵するけた外れの数ですが、一度にという訳でなく、これまでの累計でしょう。(その大部分は強制的に働かせられていた加害者兼被害者の人々でしょう)

摘発は、中国側の公安主導で行われたようです。

****ミャンマー拠点のネット詐欺、中国への容疑者引き渡し3万1千人****
中国公安部は21日、ミャンマー北部を拠点とした中国人に対するネット詐欺犯罪が深刻な状況にあることを受け、雲南省などの警察機関に国境警察任務・法執行協力を持続的に進めるよう手配し、複数回にわたる摘発を連続して実施したと明らかにした。

ミャンマー北部の関連地域の法執行部門がこれまでに中国側へ引き渡した詐欺容疑者は、資金提供者や組織幹部など63人、指名手配中の逃亡者1531人を含む3万1千人に上り、摘発は目覚ましい成果を上げている。【11月22日 AFP】
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中国絡みでは、国軍側の中国への圧力ともとれる動きも。

****「テロ支援やめろ」ミャンマーで親軍政派が反中国デモ****
クーデターによる軍政が続くミャンマーで、政権を支持する団体が中国を非難する異例のデモを行ったと現地メディアが報じました。

現地メディアによりますと、19日、軍政を支持する50人ほどのグループが最大都市ヤンゴンにある中国大使館の前でデモを行いました。

ミャンマー北東部の中国との国境地帯では先月27日以降、少数民族武装勢力と軍との間で激しい戦闘が続いていますが、参加者の一部は“中国がこうした武装勢力に武器を売っている”と非難。

「中国政府よ、テロリストへの支援を中止せよ」などと書かれた横断幕を掲げ、“ミャンマーに流血の事態をもたらしているのは中国だ”などと声をあげたということです。

2021年の軍事クーデター以降、欧米からの制裁が続く一方で、軍政への支援を表明するなどミャンマー政府の“後ろ盾”となってきた中国に対し、こうした抗議活動が行われるのは異例です。

あらゆる抗議活動が厳しく取り締まられるミャンマー国内で、政権寄りの団体により公然と反中国デモが行われたことが、今後のミャンマーと中国の関係にどのような影響を与えるのか注目されます。【11月21日 TBS NEWS DIG】
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更に、今のところどちらが行ったよくわからない攻撃も。

****ミャンマー 中国との貿易拠点でトラック100台以上炎上****
ミャンマーと中国の国境地帯にある貿易拠点でトラック100台以上が炎上し、ミャンマー軍と抵抗勢力の双方が相手側による攻撃だと主張したと報じられています。

ミャンマーの国営紙によりますと、北東部・シャン州の国境近くにある対中貿易の拠点で、23日、大規模な火災が発生しました。

この火災により、衣類や建築資材などの物資を積んだトラックなど258台のうち、およそ120台が焼けたということです。

火災の原因については、「軍との戦闘を続けている少数民族や民主派などの武装勢力がドローンを用いて爆弾を投下した」としています。

一方、ミャンマーの独立系メディアは「軍側が近くの基地から無差別な砲撃を行った」のが原因だったと報じ、ロイター通信は「人びとの利益となるものを破壊するような攻撃を行うことはない」とする武装勢力側の主張を伝えています。

2年前のクーデターで軍が実権を握ったミャンマーでは、先月から中国との国境地帯で激しい戦闘が続いていて、軍政寄りの団体が中国に対し「武装勢力を支援している」と激しく非難するなど、後ろ盾となってきた中国を巻き込んだ異例の緊張状態が生まれています。【11月25日 TBS NEWS DIG】
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炎上したトラックはおそらく中国のものでしょう。
国軍にしても、少数民族武装勢力にしても、中国を怒らせるような攻撃の理由がよくわかりません。

詐欺グループ摘発や上記の攻撃などを受けて、中国の対応がこれまでの「静観」から変化するのか、しないのか・・・変化するならどちら側につくのか・・・注目されるところです。

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