
(【7月2日 NHK】)
【前進はしているものの、迫力に欠けるロシア軍の夏攻勢】
ウクライナでの戦況は、ひと頃の停戦に向けた動きが下火となって、ロシア側はジワりとウクライナ東部で支配地を拡大しています。
****ロシア、停戦機運しぼみ戦線拡大 ウクライナ東部で前進****
ロシア軍がウクライナ東部で支配地を広げている。
6月に占領した地域は前月に比べて2割増えて、2024年11月以来の高水準となった。東部ドニプロペトロウスク州に攻め込むなど戦線を広げている。
ウクライナ軍は戦力の分散を迫られ、ドネツク州などの防衛が手薄になりかねない。(後略)【7月2日 日経】
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ロシア側は東部州のひとつ、ルハンスク州を「完全制圧」したと発表しています。
****ルハンスク州「完全制圧」 ロシア側行政府トップが表明****
ロシアが一方的に併合したウクライナ東部ルハンスク州のロシア側行政府トップ、パセチニク氏は6月30日の政府系テレビ「第1チャンネル」の番組で、ロシアが同州を完全制圧したと述べた。事実なら、ロシアが2022年9月に併合した東部・南部4州の中で初めての全域制圧となる。
パセチニク氏は番組で完全制圧の報告が「2日前に来た」と語ったが、ロシア国防省は発表していない。同氏は6月20日、ルハンスク州の完全制圧まで残り約20平方キロになったと表明していた。
一方、ロシアのプーチン大統領は6月30日、併合したウクライナ東部・南部4州の社会や経済の発展に関する政府会合を開いた。併合4州の住民生活の質や全ての主要な指標を30年までにロシア全土の平均水準まで高めなければならないと強調した。
プーチン氏は目標の達成のためには教育や文化、保健、スポーツの施設建設や再建のほか、道路や住宅、公共インフラの整備や雇用創出が必要だと訴えた。4州の生活基盤を整備し、実効支配を固める狙いとみられる。【7月1日 共同】
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ウクライナ東部のさらなる掌握を目指すロシア軍の攻勢は予想されていたものですが、ロシア軍の攻勢は迫力を欠いているとの評価も。
****迫力に欠けるロシア軍の「夏季攻勢」 ただしウクライナに喜びはなし****
ウクライナ政府ではこの数カ月、かねて予期されてきたウクライナ東部のさらなる掌握を目指すロシア軍の攻勢が話題となっていた。これまでのところ、ロシア軍の攻勢は迫力を欠いているものの、一部で領土を獲得しているほか、兵力を大幅に増強した地域もある。
停戦交渉が後回しとなるなか、ロシアのプーチン大統領は領土拡大の追求を続けている。プーチン氏は先週、いわれのない侵攻を正当化する主要な方途の一つを改めて表明した。
「私はロシア国民とウクライナ国民は一つの民族だと考えている。この意味で、ウクライナ全体は我々のものだ」(プーチン氏)
それでも、ウクライナは一部地域で反撃を開始したほか、国内の防衛産業を急速に発展させている。ロシアの戦時経済はより強い逆風に直面している。
ロシア軍は1200キロに広がる前線の複数の地域で前進を試みている。ウクライナ軍のシルスキー総司令官によれば、東部ドネツク州の要衝ポクロウスク近郊の最前線の一部だけで11万1000人のロシア軍が集結している。同地では毎日少なくとも50回の衝突が起きているという。ウクライナ軍参謀本部によれば、昨年12月に同地に駐留していたロシア軍は約7万人だった。
シルスキー氏は、ロシア軍による北部スーミ州への侵攻が阻止されたと主張した。米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は、ウクライナ軍がスーミ州の一部を奪還し、ロシア軍の前進のペースが鈍化したと明らかにした。
シルスキー氏は「敵がロシア領から開始した『夏季攻勢』の試みの波は消えつつあるといえる」と述べた。
しかし、状況は複雑だ。ここ数日、ロシア歩兵部隊がドネツク州とドニプロペトロウスク州との州境で勢力を拡大している。
ウクライナの分析グループ「ディープステート」によれば、ウクライナ軍の防衛は急速に崩壊し続けており、ロシア軍はそうした地域で、継続的な攻撃によって大きく前進している。
クレムリン(ロシア大統領府)はかねて、ウクライナ東部に位置するドネツク州とザポリージャ州、ヘルソン州の全域を掌握するまで軍事作戦を継続すると主張してきた。ルハンスク州については、すでに大部分がロシア軍の占領下にある。
現在の進捗(しんちょく)率では停戦には何年もかかりそうだ。トランプ米政権が停戦交渉の促進にそれほど熱心ではないように見えることから、戦闘は今年の年末から来年まで継続する可能性が高そうだ。
3方面の戦場は今や、ドローン(無人機)主導の巧妙な特殊作戦と非常に基本的な歩兵による攻撃というあり得ない組み合わせとなっている。
その一方で、6月上旬に行われたウクライナによるロシアの戦略爆撃機への大胆な攻撃では、ロシア領奥地に配備されたトラックから発射されたドローンが使われ、約10機の航空機が破壊された。
ウクライナ保安局(SBU)は28日、新たなドローン攻撃によって、クリミア半島にあるロシア空軍の基地に大きな被害が出たと主張した。
対照的にロシア軍の兵士は徒歩やバイクで、ときには12人以下の集団となってウクライナ東部の見捨てられた集落に進攻している。ドローンを遮蔽(しゃへい)物として利用しているものの、装甲車両は見当たらない。
このようなやり方はウクライナ軍に戦術の変更を迫り、より小規模な陣地への移行を促している。ウクライナのウメロウ国防相は先に、地形にあわせて防御を偽装して、探知を避けるために規模を縮小していると明らかにしていた。【6月30日 CNN】
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【深刻化する兵士・兵器の不足】
支配地域を一定に拡大をはしているものの「迫力に欠けるロシア軍」背景には、異常なほど高い兵士の死亡・負傷があり、兵器の不足も深刻化し、もはや自国だけでは対応できず、イラン・北朝鮮に頼っている状況で、更には中国にも頼らざるを得ない状況。
****プーチンの大誤算、軍で起こっている異常事態!兵士、戦車の膨大な喪失…ロシア軍は本当に強いのか?***
ロシア軍がウクライナ侵攻で、前線の占領地を拡大しているとの情報が繰り返しもたらされている。ただ、俯瞰すれば戦争は決定的な局面を迎えないまま3年半近くが経とうとしているのが実情で、ロシア軍はウクライナの最大の支援国だった米国が支援に否定的な姿勢を示しているにもかかわらず、決定打を打てていない。
一方でウクライナ軍は6月1日、ドローンを使った大規模攻撃で、ロシア国内の複数の軍用飛行場でロシア空軍に大打撃を与える「蜘蛛の巣作戦」に成功するなど、ロシア軍のもろさともいえる状況も浮かびあがっている。
5月に来日した欧州高官は、日本側に「決して、ロシアが戦況を優位に進めているとの情報だけに耳を傾けてはならない」と警告して、ロシア軍をめぐる状況は決して容易ではないと伝えたという。事実、ロシア軍の死傷者数は80万〜100万人規模に達していると推計されている。ウクライナ戦争が、第二次世界大戦以降でロシアに最大の損害を与えているのは事実で、兵器の損失も著しい。
ロシアは、強大な国力を十分に生かすことができず、膨大な損失を被りながら、戦争を続けている実態が浮かび上がってくる。(中略)
圧倒的な差
ロシア軍は現在、ウクライナに対しどれほどの戦力を有しているのか。ドイツの調査会社「スタティスタ」が今年2月に発表した2025年時点の統計によれば、主要な項目だけでも、おおよそ以下のような差がある。
現役兵士 ウクライナ・・90万人 ロシア・・132万人
予備役兵士 ウクライナ・・120万人 ロシア・・200万人
戦闘機 ウクライナ・・70機 ロシア・・833機
ヘリコプター ウクライナ・・136機 ロシア・・1651機
戦車 ウクライナ・・1100両 ロシア・・5000両超
数字を見る限り、依然として圧倒的な差がある。しかしそれでも、ロシア軍の前進のペースは限定的であり、戦争は泥沼化している。戦争開始当初のウクライナ北部戦線などでロシア軍の失敗は広く知られているが、ロシア軍がウクライナ軍を圧倒的できない背景には何があるのか。
政権への忠誠求められる軍幹部
ロシア軍の現状について、米連邦議会は今年5月に詳細なリポートを発表した。リポートは、ロシア軍は甚大な兵士、装備の損失に直面する一方で、硬直的な指揮系統と未熟な兵士を利用しなくてはならない現状に直面しており、それが戦況の膠着状態を打開できない大きな要因になっていると指摘している。ただ、まだ当面は、現在の作戦のペースを維持できる状況にあると解説している。
ソ連軍は強い中央集権型の指揮系統だったが、ロシア軍もその指揮系統は大きくは変化していないとされる。ロシア軍ではまた、戦果以上に政権幹部に対する忠誠心の強さも、上級士官の人事を左右するといわれる。ウクライナ侵攻開始以降、政権との問題が原因とみられる軍幹部の更迭などもみられ、大組織ゆえの弊害ともいえる実情が浮かび上がっている。
非効率な軍の運営を改善しようという動きもある。昨年5月には、プーチン政権はショイグ国防相を更迭し、元経済閣僚のベロウソフ氏が後継に抜擢された。
このような動きは、戦争の長期化が鮮明になる中、戦費の拠出を効率化する狙いがあったとされる。ロシア軍は、そのような改革の動きと、硬直的な組織の運営が織り交ざりながら、戦争を続けているのが現状だ。
高額報酬で兵員を補填
ロシア軍が直面する最大の課題は、異常ともいえる規模の兵員と軍装備の喪失だ。
英国防省は6月、ロシア軍の死傷者数がほぼ100万人に達したと発表した。数字は発表する国で多少のずれはあるが、大きな変化はない。比較されることが多いソ連のアフガニスタン侵攻では、ソ連軍の死傷者は約6万5000人と推定されていて、その15倍に達していることになる。
ロシアは人口規模が日本とほぼ同じだ。その日本と比較した場合、約100万人という政令指定都市と同等規模の人口が死傷したら、空前の事態だといえる。政権が持つことは考え難い。
しかし、国内メディアへの統制やプロパガンダ、反政府勢力の芽をつぶす戦略で、ロシアは国内世論を反政権に向かないように仕向けているのが実情だ。
現実問題として、ロシア軍はどのように損失した兵力を補充しているのか。プーチン大統領は2024年9月に、軍の現役兵士の人員数を150万人規模にするよう命じた。むやみに徴兵規模を拡大すれば国民の反発を招くのは必至で、そのような人員の穴を埋めているのが、金銭で入隊する契約兵だ。
彼らに支払われる一時金はロシアの平均的な月収の20倍以上とされ、特に地方の貧困層の引き入れに効果を発揮している。また、通常の徴兵においても、徴兵忌避に対する罰則の強化や、除隊の条件を厳しくするなどして、現役兵の人員数の維持を図っているという。
経験不足の新兵ら
ただ、人員規模を維持すれば、以前と同様の兵力を維持できるということではない。 侵攻開始以前にあった、経験豊富な部隊や兵士らは、戦争により当然、減少する。その代わりに入るのが契約兵ならば、彼らは当然、経験不足などから兵力は落ちる。
実際に、契約兵として軍に加入する人々は軍務経験がほとんどなかったり、60代など高齢の市民も少なくないという。生活に困窮する高齢者らが、高額の報酬につられて契約兵として入隊しているのが実情だ。
大量の兵器損失
兵器の喪失も深刻な問題となっている。調査によれば、ロシア軍は侵攻開始以降、すでに3000両を超える戦車を失ったとされるが、これは戦争開始時に常備兵力としてロシア軍が保有された戦車台数を上回るとされる。
他の兵器も大量に損失しており、ロシア国内では軍事産業の稼働率を大幅に引き上げたり、当局が民間企業に対して軍事利用できる部品供給を命じるなどで対応している。財政への負担も深刻で、25年の連邦予算は実に4割が軍事・治安維持関連の支出になる見通しだ。
ただ、このような戦時経済体制がどこまで維持できるかは不透明だ。欧米の経済制裁により、兵器の部品調達が困難なロシアは、損失分をソ連時代などの旧式兵器で補っている。
労働力不足も深刻で、軍事工場の稼働率の向上には限界がある。民間企業が生産している製品を部品などに代替利用するケースもあるというが、そのようなものは、やはり効率が劣るという。
砲撃数でウクライナが近接か
このような中、ウクライナ軍からは圧倒的に自軍を上回っていたロシア軍の攻撃規模との差が、徐々に縮小しているとの証言が出ている。
米議会の報告書は、ウクライナ軍幹部の証言として、かつては10倍ほどの差があったロシア軍との砲撃の回数の差が、現在は最大まで2倍程度の差にまで縮まっているとの発言を紹介している。事実であれば、ロシア軍の攻撃能力は、戦争開始当時と比べ大幅に下落している可能性がある。
このような状況をロシア軍が単独で押し返すのは容易ではない。今後の情勢を左右するのは、友好国との関係にあるとみられる。すでに地上軍兵力でロシアを支援する北朝鮮のほか、事実上の経済支援を展開する中国、またドローンを供給するイランなどとの関係が、今後のロシア軍の戦闘継続能力の行方を大きく左右するとみられる。
現在の攻勢は、損害規模や、相手国の民間人の犠牲などを度外視しながらウクライナ側を追い詰めようとするロシア側の戦略の一端だといえる。
しかし、軍事力の甚大な消耗は、ロシア軍にとり、何よりの脅威となっていることは確実だ。そのような状況からの脱却を他国に頼らなくてはならない事態を招いたことは、プーチン大統領にとり大きな誤算であったと言わざるをえない。【6月27日 WEDGE】
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【苦しい状況はウクライナも同じ】
兵士・兵器で苦しいのはウクライナも同じです。
ただでさえ支援に消極的なトランプ政権・アメリカの支援が得にくくなってきているのに、そのアメリカが自国の兵器在庫が減り過ぎると言い出しています。
****トランプ政権、ウクライナへの兵器供与停止-ロシアの大規模攻撃下で****
トランプ米政権は、ウクライナへの砲弾や防空システムの供与を停止する方針を示した。ロシアによるミサイルやドローン(無人機)攻撃が激化する中、ウクライナが切実に求める兵器の提供が見送られる。
今回の停止措置を巡っては、米政治ニュースサイトのポリティコが先に報じており、ホワイトハウスが報道内容を認めた。ポリティコによると、今回の決定は米国の弾薬備蓄の見直しを経たもので、備蓄が過度に減少しているとの懸念が背景にあるという。
米報道番組「PBSニュースアワー」によると、供与停止の対象には、155ミリ砲弾、 地対空ミサイル「スティンガー」、地上配備型迎撃ミサイルシステム「パトリオット」、空対地ミサイル「ヘルファイア」が含まれる。
ホワイトハウスのアンナ・ケリー報道官は、電子メールでの声明で報道を認めた上で、「今回の決定は、世界各国への軍事支援を巡る国防総省の見直しを受け、米国の利益を最優先するために下されたものだ」と述べた。
ロシアによる大規模攻撃はウクライナ全土で続いている。ウクライナは29日、ロシアが「大規模」攻撃でミサイル60発と無人機477機を使用したと発表。一晩での飛来数としてこれまでで最多という。
ロシアはここ数週間で攻撃を激化させており、プーチン大統領は和平交渉のための停戦を求める米欧の呼びかけに応じていない。
ポリティコによれば、停止措置を主導したのは国防次官(政策担当)のエルブリッジ・コルビー氏だという。コルビー氏は、米国が海外で軍事的に過度に関与していると長らく主張。欧州の安全保障、特にウクライナ防衛については欧州の同盟国がより大きな責任を負うべきだとの考えを、ヘグセス国防長官とともに繰り返し述べている。
コルビー氏は声明で、国防総省は「この悲劇的な戦争を終結させるという大統領の目標に沿い、ウクライナへの軍事支援継続に向けた強力な選択肢を提供し続ける」と指摘。「同時に、国防総省はこの目標の達成に向けた方針を厳密に検証・適応させつつ、政権の防衛優先事項に対する米軍の即応体制を維持する」とも語った。【7月2日 Bloomberg】
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ロシアもウクライナも厳しい消耗戦に直面しています。