孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン南部 分離独立へ向けて ②山積する課題

2011-01-17 21:07:35 | 国際情勢

(08年、帰属問題解決のロードマップに沿ってアビエイ地区から撤退する南部SPLA兵士 アビエイ地区の問題、SPLA兵士の社会復帰は今後の大きな課題です。 “”より By La Salle International
http://www.flickr.com/photos/lsif/4454851579/ )

国際援助・石油権益の誘惑
昨日のブログ「スーダン南部 分離独立へ向けて ①独立容認の流れ加速(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110116)」では、スーダン南部の分離独立が現実のものとなりつつある環境をとりあげましたが、そうなると今度は「独立して本当にうまくやっていけるのだろうか?」という不安も頭をもたげます。

今後のスーダン南部にとって最も基本的な課題は、殆んどインフラが整備されていない現状から国づくりを進めていくだけの統治能力を示せるか?という点にあります。
国際援助と石油資源に依存した状況は、往々にして政権内部の汚職・腐敗を生みます。
そうした権力に伴う魔力に惑わされることなく、国民の期待に応えていけるか・・・という、政治の姿勢ともいうべき基本的な問題です。
この点に関しては、10年11月11日ブログ「スーダン 南部独立への動きにみる“国際開発援助の限界”( http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101111)」でも取り上げましたので、ここではこの点の指摘のみにとどめます。

棚上げされたアビエイ地区帰属問題
南部独立に向けて、あるいは独立後に、まっさきに直面するのは北部との関係です。
今回の住民投票にあたって、南北境界にある油田地帯アビエイ地区の帰属については棚上げされ、今後の課題とされています。

現在アビエイ地区は大統領府直轄の特別行政区とされ、その治安は国連軍とスーダン北部、南部の特別合同部隊が担っており、北部政府軍と南部自治政府軍の立ち入りは禁止されています。
アビエイ地区の石油産出は2004年のピーク時には日量8万2千バレルを誇り、スーダン全体の産出量の約4分の1を占めています。
現在は、収入はいったん北部にある中央政府に入り、特別行政区は2%が還元される仕組みですが、南部への帰属が決まれば、中央政府は恩恵を受けられなくなる可能性があります。
住民投票期間中も武力衝突が起こり、今後が懸念されています。

****スーダン:南北境界付近で武力衝突 30人以上死亡*****
南部の分離独立を問う住民投票が実施されているアフリカ・スーダンで、南北境界付近に位置する油田地帯アビエイ地区周辺で7日以降、断続的に武力衝突が発生。11日までに30人以上が死亡、一部地域で住民投票が一時中断された。北部のアラブ系遊牧民と南部のアフリカ系農耕民との戦闘とみられる。帰属が未確定の油田地帯を巡り、南北間でなお確執があり、南部の独立に足かせになっていることを改めて見せつけた。

地元メディアなどによると、境界北側にある南コルドファン州と南側にある北バハルアルガザル州の境で10日、南部の住民らが車で投票に向かう途中、アラブ系遊牧民ミッセリアの武装集団に襲撃された。市民10人が死亡、18人が負傷した。
南部自治政府は武装集団の背後に北部・中央政府軍の支援があるとの見方を示す一方、住民投票を平和裏に履行するため「北部側の挑発に乗らないように」と自制を促した。
さらに、周辺では7、8日にも衝突が発生。この影響で一部地域で9日の投票が停止された。投票延長も検討されている。

北部を拠点に同地区に南下し、家畜の放牧を続けてきたミッセリアの投票権を巡り、北部・中央政府は有効と主張。一方、南部自治政府を主導するディンカ人主体の「スーダン人民解放運動」は「和平合意でアビエイはディンカの領域と規定された」「遊牧民を住民とは規定できない」などの理由で投票権を認めず、議論が暗礁に乗り上げている。

05年の「包括和平合意」では、南部の分離を問う住民投票とは別に、アビエイ地区で、南北いずれかへの帰属を問う住民投票を同時に実施する予定だったが、棚上げ状態だ。
米国務省高官らは11日、ワシントンで、住民投票の結果を北部が受け入れたうえで、アビエイ地区の帰属問題解決▽テロ支援の停止--などが満たされれば、テロ支援国家指定解除を行うという従来の方針を強調。北部に圧力をかけた。(後略)【1月12日 毎日】
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定住農耕するアフリカ系黒人には「自分たちの土地だ」という思いがありますが、北部アラブ系遊牧民のミッセリアの立場からすれば、南部に編入されると土地を奪われ、報復をを受けるという思いがあります。
****スーダン南部編入なら「武力抵抗」 焦点の中部アビエ、アラブ系遊牧部族****
現在、スーダンの首都ハルツームに生活拠点を置くバボニミル氏は「ミッセリアは1年のうち約8カ月をアビエ付近で遊牧する。有権者となるのは当然だ」と語る。約100万人のミッセリアに投票資格が与えられれば南部編入派の定住民を上回るのは確実という。
バボニミル氏は南部編入について「(内戦中に敵対した)SPLMの報復があるのは間違いなく、受け入れられない」と不信感をあらわにする。その上で「問題は石油ではなく土地を奪われるかどうか。戦う準備はできている」と強調。「そうなれば北部の政府軍はわれわれを支援するだろう」と、南北の本格対立につながる可能性を示唆した。ミッセリアの装備については、内戦中からの蓄えや「SPLMの横流しで入ってくる武器もある」と証言した。【1月11日 産経】
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住民投票を前にして、“中央政府は最近、アビエイの開発資金の送金も停止。住民は南部に合流する動きへの嫌がらせと疑っており、対立の構図が続く”【1月11日 朝日】という話もありますが、一方で、“南部自治政府は警察官の制服を着せた兵士をアビエイに送り込み、ミッセリアの戦闘員と衝突を起こしているという” 【1月11日 AFP】という情報もあり、南北双方が働きかけを行っているようです。

南部内部にくすぶる火種
独立後の南部内部の安定性にも懸念があります。
ひとつは、これまで銃を手に戦いの日々を送ってきた兵士をどのように武装解除して、定職につかせるかという問題です。
****武装解除進まず=兵士ら不安定要因に―スーダン南部****
スーダン南北内戦を終結に導いた2005年の包括和平合意に盛られた武装解除が停滞している。15日まで続く南部独立の是非を問う住民投票に沸く中、最大都市ジュバ郊外の軍事キャンプでは、武装した兵士たちが「和平が確実に訪れたとは言い切れない」と厳しい表情を崩さない。半年後にも独立が実現する見通しだが、武装解除の問題は大きな不安定要因となりそうだ。
和平合意では、南北双方9万人ずつの兵士を削減することが決められ、兵士が市民生活を始めるため、教育や職業訓練を受けた後に社会復帰する計画だった。しかし、南部自治政府関係者によれば、こうした教育や訓練を受けている南部の旧反政府勢力スーダン人民解放軍(SPLA)兵士の数は約1万人にすぎない。まだ約400人が社会復帰しただけだ。
兵士の削減が進まない背景には、「独立国家が樹立され、安定するまで予断はできない」と戦闘再燃を警戒する軍指導部の判断もあるもようだ。【1月13日 時事】
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今後のインフラ整備などに大量の資金が必要となる南部にとり、民兵を含むと数十万人とされるSPLA兵士の給与は大きな負担になります。雇用がないため社会復帰も難しく、過去には給与への不満から暴動が起きたこともあります。

更に、問題を難しくしているのは、南部における部族問題です。
“南部にはSPLM主流派のディンカ人のほか、ヌエル人、シュルク人など数十の黒人系民族がおり、それぞれに独自の言語や文化を持つ。内戦中は同じSPLMに属しながらも、分裂や衝突を繰り返した” 【1月11日 産経】という状況で、北部という南部住民にとっての「共通の敵」を失ったことによる問題が表面化する恐れがあります。

****独立歓喜、対立の火種も=最大部族の支配に不満―スーダン南部*****
・・・・北部への隷属からの解放や、半年後にも実現する独立を前に、南部は歓喜に沸いている。だが、その陰で2005年の和平合意後、最大部族ディンカ族による支配が強まった。少数派からは「新たな支配の始まり」との声も出ており、新たな内戦の火種がくすぶっている。(中略)
南部の中にも対立の構図は存在する。部族数は40を超え、09年には部族間抗争で2500人以上が死亡した。解放闘争を主導したディンカ族が、キール大統領を筆頭に南部自治政府や治安機関の要職を占める中、少数派からは公的機関での雇用や、住民サービスをめぐる差別的な扱いに不満も出ている。
ウガンダ国境近くの南端に住む少数部族出身のヨブ・アネットさん(26)は「どうして新たな支配のために独立に投票しなければならないのか」との思いから棄権した。
地元紙ジュバ・ポストの編集者によれば、南北統一維持に票を投じた人が、投票所で治安機関に連行されたとの情報がある。内戦の論功行賞による能力無視の人選や、ディンカ族による縁故人事も目立っており、同紙がある閣僚の不正を紙面で批判したところ、武装した護衛を伴う閣僚が編集局に殴り込んできたこともあるという。【1月12日 時事】
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社会復帰に期待できない多数の兵士が、こうした南部内部の対立・混乱に乗じる形で、再び戦闘の日々を選択する可能性もあります。

イスラム化推進の北部での問題
南部を失う形の北部側にも課題があります。
バシル大統領は、求心力確保のため、北部のイスラム化を一層推し進める構えをみせていますが、この動きは北部の非イスラム教徒からの反発を強めることにもなります。

****スーダン北部、イスラム化の波 南部の独立濃厚、焦る大統領****
スーダン南部の独立が現実味を増す中、領土維持の失敗という「屈辱」を味わっている同国のバシル大統領が、求心力確保のため、北部のイスラム化を一層推し進める構えをみせている。非イスラム教徒からの反発は大きく、政権の出方次第では北部が再び不安定化する懸念もある。国際社会が今後、どうバシル政権に穏健化を促していくかが、同国安定の鍵を握る。

バシル氏は昨年12月の演説で、住民投票で南部が独立を選んだ場合、憲法を改正し北部で施行されているイスラム法(シャリーア)を強化する考えを示した。(中略)
独立に向けた南部の自決権を容認したことは、「南部をイスラム共同体(ウンマ)の一部とみなすイスラム主義者からすれば裏切り行為」(外交筋)とされた。バシル氏にとっては大幅な譲歩だったが、米国などによる経済制裁は緩和されず、経済が一向に上向かないことへの国民の不満も強まっている。
バシル氏の「シャリーア強化」発言からは、北部社会に強い影響力を持つイスラム主義勢力の歓心を買い、権力基盤を盤石にしたいとの焦りがにじむ。

これに対し周辺諸国は、シャリーア強化が実行に移されれば、紅海に面した戦略的要衝に位置するスーダンの情勢不安を招くと危機感を募らせている。アラブ系イスラム教徒中心の北部にも非イスラム教徒は少なくない上、内戦中にバシル政権側と戦った黒人系民族が多い青ナイル州や南コルドファン州なども抱えるためだ。
隣国エジプトのスーダン専門家は「こうした地域がイスラム化に反発するのは確実。20年余に及んだ内戦の二の舞いにもなりかねない」と指摘する。(後略)【1月12日 産経】
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また、北部には多数の南部出身者も暮らしています。
北部で働く南部出身者の仕事は清掃業や建設業が多く、大半が首都ハルツーム郊外の三つのキャンプで暮らしています。
今回の住民投票を機に、これまでの生活を捨てて南部に帰還する人々も多いようです。南部での新たな生活は大変ですが、北部に残る人々も“外国人”としてのこれまで以上に厳しい新たな試練に直面します。

住民の期待に応えるために
分離独立の将来に期待が高まるスーダン南部ですが、以上のような問題は山積しています。
****水も電気も教育もない」=独立に希望託す寒村―スーダン南部****
スーダン南部独立の是非を問う15日までの住民投票は、独立支持が大半を占めるもようだ。最大都市ジュバから約20キロ離れたニシジュ村の住民も、独立により南北内戦終結が確実となり、水や電気などの住民サービスの到来を待ち望んでいた。
「水も電気も十分な教育も、医者もいない」―。村の投票所で独立賛成に投じたアシリア・ムーイさん(50)は、長年の内戦に苦しめられた人生にもついに幸福の時がやってきたと喜びをかみしめた。しかし、積年の生活苦から今や視力をほとんど失い、足取りもおぼつかない。
ジュバからの道のりは、南部最大の貿易相手国ウガンダとの幹線道路に当たるが、未舗装の悪路が続き、電線や水道施設などの生活基盤もない。村の住民は泥や植物で建てた質素な家に住み、家財道具らしきものはほとんどなく、硬い土の床に寝転がる生活だ。
村には、わずか1カ所の井戸があるだけ。人々はほそぼそとした農業やまきを路上で売って生計を立てている。肌を焦がすような太陽の下、ある母親は疲れた様子で寝転がり、子供たちは木陰で過ごしていた。【1月12日 時事】 
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こうした南部住民の切実な期待に応えていくために、南部指導者には、一過性の熱狂・興奮ではなく、長く地道な努力が求められています。
そして、南北間あるいは南部内部の紛争を避け、安定と平和を維持することが最優先です。



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