孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スウェーデン  こじれる「中国人観光客のホテルトラブル」 背景には「スウェーデンの排外的感情」も

2018-09-25 23:34:14 | 欧州情勢

(【9月18日 CNN】ホテルの外に連れ出されて、泣き叫ぶ(ようなアピールをする)中国人観光客 相当にオーバーアクション気味です)

中国人観光客のホテルでのトラブル 中国人側に落ち度もあって、中国国内でも当該観光客への批判が
今や全世界に大挙して進出している中国人観光客が訪問先でいろんなトラブルを起こす、トラブルに巻き込まれる、あるいは差別的な扱いを受ける・・・・という話は枚挙にいとまがありませんが、その類のひとつがスウェーデンで起きた「事件」

その第一報は以下のような記事でした。

****中国人観光客にスウェーデン警察がひどい扱い、墓地に置き捨てにする****
(中略)環球網によると、中国人の曽(ズン)さんと両親の3人は今月2日未明、ストックホルム市内の宿泊施設に到着した。チェックインが可能になるまでまだ時間があったため、両親の体調を心配してロビーの椅子で休憩したいと伝えたところ、「すぐに出て行け」と言われ、警察に通報されたという。

曽さんは警察官に両親が服用している薬について説明し、両親だけでもホテルのロビーに留まらせてほしいと訴えた。だが警察官は曽さんの父親を椅子の上から抱えあげてホテルの外に放り投げるなどし、最終的には3人を警察車両に載せ、数十キロ離れた墓地に置き捨てにしたという。

曽さんから連絡を受けた現地の中国大使館と中国外交部は、スウェーデン側に厳正な申し入れを行った。曽さん一家はすでに中国に帰国したという。中国大使館はスウェーデンへの旅行者に対し注意を喚起している。【9月16日 レコードチャイナ】
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この記事を読む限りは、ホテル・警察の対応に“悪意”のようなものすら感じる、ひどい対応のように思えます。

もっとも、私個人の経験からすると、「未明のチェックインというのは(時間にもよりますが)何かとトラブルのもとになることもあるよね・・・」というのが第一印象。

例えば、夜中の12時頃にチェックイン予定だったのが、フライトが遅延して朝の5時頃になって、「3~4時間でもいいから部屋で休もう」とすると、当日の宿泊と誤解されて“予約がない”とか“チェックインは昼過ぎでないとできない”とか言われたりすることも。

単純な誤解ですが、お互いに言葉が十分に通じない状況では、「いや、そうじゃなくて・・・」と、話がこじれたりもします。“未明”だとホテル側も状況を把握している者がいなかったりも。(私が使う安宿の場合ですが)

今回の「事件」も、そんな誤解とか言葉の問題が関係しているのでは・・・とも思ったのですが、すぐに中国人宿泊客側の落ち度が報じられました。

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この一件について、スウェーデンにある中国大使館は「当該中国人とその家族はもともと、9月1日に現地ホテルにチェックインするつもりだった。しかし、中国人は予約を取り間違えており、実際には2日のチェックインとなっていた」と説明。1日深夜にホテルに到着したものの部屋は予約でいっぱいだったため、中国人は「使用料は払うので、1階のバーにあるソファで時間を過ごさせて欲しい」と頼むも、ホテル側は同意しなかったと伝えている。【9月18日 レコードチャイナ】
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1日の夜に宿泊するつもりだったのに、間違って2日で予約したため、2日未明(1日深夜)に到着しても「今夜は空きがない。予約の入っている2日のチェックインは昼過ぎからだ」・・・といった話のようです。

最近、外国でマナー違反などでトラブルを起こす観光客が多いので、中国国内でも「またかよ・・・」といった、問題を起こした中国人観光客への批判も多くあるようです。

****海外で問題起こす中国人、「ビッグベビー」とやゆ―中国メディア****
(中略)(網易の)記事は「中国人観光客一家3人がスウェーデンで粗暴な扱いを受け、ネットユーザーから激しい憤慨の声が出た。しかし、その後拡散した動画によって『ホテルで一泊追加するのにお金を払おうとせず、狭いロビーに居座ってホテルの営業に大きな影響を与えた』と伝えられると、中国国内のネットユーザーはほぼ一辺倒にこの中国人観光客について『ビッグベビー』『中国人の恥さらし』などと非難し始めた」とした。(中略)

また同大使館領事部の関係者によると、トラブル時に中国人一家とホテルとの間で掴み合いのケンカには至っておらず、過激な威嚇するような言葉も使われなかったという。

一方で、中国人客がその場で感情を高ぶらせて大声で交渉した可能性は排除しなかったとのことだ。(後略)【9月18日 レコードチャイナ】
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“感情を高ぶらせて大声で交渉した可能性は排除しなかった”とのことですが、“中国人客がルールに反してホテルのロビーに滞留し、警察との交渉に失敗すると転倒したふりをして大声で泣き叫ぶ”【9月19日 レコードチャイナ】といった騒動もあったようです。(CNN動画で見ると、中国人側に相当なオーバーアクションが感じられます)

そこらを含めて、当初の報道を行った政府系メディアでもある環球網の報道の在り方にも批判が向けられています。

****スウェーデンで「侮辱」の真相、中国メディアの3つの過ち―米華字メディア****
(中略)その後、中国外交部や駐スウェーデン中国大使館もスウェーデン政府に対し警察官の「非人道的扱い」への抗議、中国人客への謝罪要求といった圧力をかけた。

しかし、当時の現場の動画が数多く公開され、現地メディアの報道が出てくると、世論は当初の中国メディアによる報道内容の客観性に疑問を持ち始めた。

主な情報源であり、世論の先導者でもある中国政府系メディアが報道の手法や理念上で大きなミスを犯し、客観的に世論をミスリードしたことは残念であり、一部ネットユーザーからは激しい非難が出ている。

まず、当初の報道で環球時報は全面的な裏取りをすることなく、一方的に中国人観光客の話を信用した。これは明らかに報道の原則を逸脱するものだ。

次に、報道や評論に特定の立場を設け、民意を煽った嫌いがある。最初の報道ではタイトルから本文に至るまで事実の一面性のみを伝え、センセーショナルな表現を連ねた。しかも、事件本体から逸脱して、単純な民事紛争を両国の外交問題にまで昇華させた。

最後に、中国政府系メディアは「人道」と「規則」の境界をあいまいにし、スウェーデン側の「無礼」や「粗暴」を再三強調する一方、中国人客がルールに反してホテルのロビーに滞留し、警察との交渉に失敗すると転倒したふりをして大声で泣き叫ぶといった行為に出たことを「理性を失った中での挙動」で片づけた。

このような報道では、トラブル発生の原因を探る助けにはならない。

より重要なのは、世論からの批判を浴びた中国政府系メディアが自らの問題を反省することなくトラブルを煽り立て続け、自己弁護に走ったことだ。

これは一部中国政府系メディアが本来持つべき慎重な姿勢に欠け、基本的なニュース報道のルールに反していることを示している。

同時に、報道者は中国の世論環境の複雑性を見くびっている。彼らは、このような明らかに欠陥のある報道がひとたび公衆の目に触れたらどんな反応が起こるのか、そしてメディアの威信にどれほどのダメージが及ぶかを予想できないのかもしれない。【9月19日 レコードチャイナ】
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スウェーデンへの抗議をやめない中国 ヘイト的TV番組の問題で怒りもヒートアップ
中国人観光客にも落ち度があったようですし、報道にも偏りがあったとのことで、中国国内世論も懐疑的に見るようになっている・・・・ということで、この件は“済み”かと思ったのですが、中国外交当局のスウェーデンに対する抗議はおさまりませんでした。

中国側からすれば、事情がどうであれ、警官が“父親を椅子の上から抱えあげてホテルの外に放り投げる(あるいは“運び出す”)”という対応が適切だったのか・・・ということにもなるのでしょう。(もっとも、ホテル外でのオーバーアクションを見ると、ホテル内でも相当に厄介な客だったのでは・・・と思われますが)

「事件」は単なる観光客のトラブルを超えて、中国対スウェーデンの外交問題ともなりました。
そうしたなかで、スウェーデンTV番組による「第2幕」とも言える展開に。

****大使館も激怒した「中国人侮辱」のスウェーデン番組の内容とは****
中国の駐スウェーデン大使館は22日、現地で21日夜に放送されたテレビ番組で中国と中国人を侮辱攻撃する内容があったとして、テレビ局に対して強烈な抗議を行ったと発表した。

大使館は、番組は中国と中国系の住民に対する憎しみと対立を公然とあおったなどと主張した。同番組の一部は動画サイトのユーチューブに投稿された。

大使館は、番組中で紹介された中国地図にチベットと台湾がなかったことも問題視し、「中国の主権と領土の完全性を著しく侵害した。関連番組は人類の道徳の最低ラインを超え、人の良知に対する重大な挑戦であり、メディアの職業道徳に対する重大な違反だ」と表明。

さらに、「番組責任者からは、これは娯楽番組だとの説明を受けたが、われわれは絶対に受け入れない」として、納得できる謝罪などがなければ「さらに一歩進んで措置をとる権利を留保する」と説明した。

問題の発端は、スウェーデンのホテルを中国人客3人が予約より前に到着し、ロビーで待つことを求めたがホテル側が受け入れられず、警察に通報して3人を強制的に排除したことだった。

21日放送の問題の番組は、時事問題を扱う番組のパロディーだ。問題の発端になった中国人がホテルから強制排除された様子を撮影した動画を放送する。

警察官2人に両手両足を持ち上げられた中国人が「This is killing(これは殺人だ)」と何度も叫ぶシーンでは、キャスター役がその、口真似をする。そのシーンには笑い声がかぶせられる。

同番組は、現地リポートに見立てたコーナーも放送した。女性リポーターが中国人に話しかける設定で、音声は中国語で現地語は字幕で出る。女性リポーター役は、中国人がスウェーデンを訪れることを歓迎すると述べた上で、「注意するようお勧め」することがあると発言。

リポーター役はまず、「歴史的建物の周囲で大便をしてはいけません」と述べる。画面には、「大便禁止」のパロディー標識が写る。リポーター役は次に「それから、トイレで手に少し大便がついたりしたら、私たちスウェーデン人は手を洗います」と説明。暗に「中国人はそのような場合でも、手を洗わない」と言っているようだ。

リポーター役はさらに、「あなたが犬を散歩に連れて出ている人を見つけたとしても、彼は昼ごはんを買ってきたのではありません」と発言。中国の一部に犬を食べる習慣があることを茶化したとみられる。

リポーター役は次に「私たちはナイフとフォークを使って食事をします。そして食事中には大便をしません」と述べた上で、「私たちとあなた方には、それ以外にも違いがあります」と述べた上で、「あなたたち中国人は人種差別主義者ですが、スウェーデンでは、黒人も大人もアラブ人も同性愛者も暮らしています。なぜならスウェーデン人は、ひとりひとりの平等な権利という原則を支持しているからです。でも、この原則はあなたたち中国人には適用されません。中国の皆さんがスウェーデンに遊びに来ることを熱烈に歓迎します。でも、あなたたちのお行儀が悪ければ、お尻を叩きますからね」と述べた。(後略)【9月23日 レコードチャイナ】
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台湾はともかくチベットも地図にないということになると、中国に挑戦的な“確信犯”的番組のようです。

内容も、“平等な権利”云々はともかく、大便云々はあきらかにヘイト的な表現です。

中国が激怒するのも当然で、中国側の抗議に対しテレビ局側は謝罪はしましたが、中国は納得していません。

****スウェーデンのテレビ局が“謝罪声明”、中国大使館「謝罪になってない」と突っぱねる****
2018年9月24日、観察者網によると、中国を侮辱する内容の番組を放送したとして非難を浴びたスウェーデンのテレビ局が「謝罪声明」を発表したが、中国大使館が声明の受け入れを拒む姿勢を見せた。

(中略)スウェーデンにある中国大使館は22日、(テレビ局の)SVTに対して謝罪を求める抗議声明を発表した。

SVTは24日、公式サイト上に番組チーフディレクターの名前による声明を出したが、これについて観察者網は「番組が表現しようとした内容に至らぬ点があったことは認めたものの、人種差別との指摘や非難に対してはなおも言い逃れをして、謝罪しなかった」と伝えている。

中国大使館は25日朝、改めて今回の件についてSNS上で声明を発表。「STVの番組責任者が24日に出した声明を注視したが、その言論は番組中における人種差別的言動についての言及を故意に回避し、詭弁を弄して責任逃れをしようとしている。このような『謝罪』は決して受け入れない。われわれは改めてSVTの番組スタッフに深い反省と、即時の誠意ある謝罪を求める」とした。

中国外交部の耿爽(グン・シュアン)報道官も24日にSNS上で「完全にメディアとしての職業道徳に乖離(かいり)しており、強く非難する」としてすでに同部としてもスウェーデン側に抗議を行ったことを明かした。

直ちに悪影響を排除する措置を取ることを求めるともに、中国政府としてさらなる措置を取る権利を留保するとの姿勢を示している。【9月25日 レコードチャイナ】
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背景には「スウェーデン国内の排外的感情」も 極右勢力台頭で政権運営も困難に
事態がこじれている背景に「ダライ・ラマ14世」の問題と、「スウェーデン国内の排外的感情」があるとの指摘が。

****スウェーデンの「中国への侮辱」が外交問題に発展した2つの理由****
(中略)(米華字メディア・多維新聞の)記事は「スウェーデンは西側諸国の中で真っ先に中国を承認した国であり、中国がWTOに加入した直後の2000年には華為(ファーウェイ)の現地進出を認めた。
中国による投資に対しても寛容で、EU域内における中国の投資額が最も多い国となっている。

こうして見ると、両国の関係は決して悪くないのだが、どうして今回の件では互いに突っ張り合っているのか」とした上で、その謎を解く2つのヒントを提示している。

1つめは、中国政府が分裂主義者と敵視してるチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が12日にスウェーデンを訪問し、公開演説に出席したことを挙げた。

「中国外交部は『断固』という表現を複数回用いてスウェーデン政府を非難した」とし、「今回の中国人観光客事件とは必然的な関係はないが、確かに事件への中国の反応を激化させた要因だろう」と論じた。

2つめは、スウェーデン国内の排外的感情が関係していると指摘。「外交的には悪い関係ではないが、国内の反中感情は決して小さくない。難民が急増する中で国内の排外感情はますます際立っており、『危険なエリア』も拡大している。市民は不安感とともに排外的な感情を強めている」ことが背景にあるとしている。【9月25日 レコードチャイナ】
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ダライ・ラマ14世が訪問した国では、その後に中国とのトラブルが起きる・・・というのは、これまでも多々見られるところです。

看過できないのは、2番目の「スウェーデン国内の排外的感情」です。

スウェーデンでは9日に総選挙が行われ、与野党いずれの陣営も過半数を獲得できませんでした。一方、「反移民」を掲げて支持を集める極右「スウェーデン民主党」は、選挙前に「第1党になる可能性も・・・」懸念されていましたが、第3党にとどまったものの、勢力は大きく伸長しました。

結果、左派にしろ、右派にしろ、極右「スウェーデン民主党」を排除した形での政権運営が困難な情勢にもなっているようです。

****スウェーデン議会、ロベーン首相の不信任決議 政局不透明に****
スウェーデン議会は25日、ロベーン首相の不信任を決議し、ロベーン首相は退陣することになった。

同国議会は、9月9日の総選挙の結果、単独過半数議席を有する政党がない「ハングパーラメント(宙づり議会)」となっており、誰が次期政権を担うかは不透明だ。

現在、議会は、ロベーン首相が率いる社会民主労働党などの中道左派ブロックが144議席で、野党の中道右派連合のアライアンスが1議席少ない143議席。

不信任投票では、反移民を掲げるスウェーデン民主党(62議席)が野党・アライアンスの支持に回った。

アナリストは、議会議長が新政権樹立をアライアンスの最大政党、穏健党のクリステルソン党首に託すと予想している。ただ、穏健党も過半数議席を持たないため、白人至上主義のスウェーデン民主党か中道左派の支持を必要とする。

ロベーン首相は「アライアンスが最少数会派として政権運営することを選択すれば、スウェーデン民主党に完全に依存することになる」と述べた。

スウェーデン民主党のオーケソン党首は25日、新政権を支持するのと引き換えに政策に同党の主張が反映されるよう改めて要求した。

しかし、アライアンスを構成する穏健党、中央党、自由党、キリスト教民主党は、スウェーデン民主党とは交渉しない方針をすでに示している。ロベーン首相は、アライアンスを支持する可能性を否定しており、政局は流動的になっている。

議長は4回まで新政権樹立交渉を付託することができ、それでも事態が打開しなければ3カ月以内に再選挙を実施することになる。【9月25日 ロイター】
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デンマークはすでに、閣外協力する極右政党の意向で政策が決まるような状況になっています。

ドイツも、メルケル首相の与党の支持率は28%で過去約20年で最低に下落。新興の極右「ドイツのための選択肢(AfD)」は18%で社民党を抜いて初めて2位になっている状況で、連邦憲法擁護庁のマーセン長官の極右擁護発言で迷走していることは周知のところです。

これらの国々では、排外的極右政党は政権を担うところまではいかなくても、政権の方向を左右する影響力を発揮する段階に至っています。「排外的極右政党が」というより、「国民の排外的感情が」というべきでしょう。

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