孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マラリアワクチンが実現間近  殺虫剤処理蚊帳は有功か?  夢の抗ウイルス薬は?

2011-10-19 21:53:51 | 疾病・保健衛生

(中央アフリカの病院で親戚に見まもれながら、マラリアによる死を待つ女性 7時間後には死亡 あとには8人の子供が残りました。 病院にはスタッフは2人しかおらず、薬剤は数カ月前に略奪にあっています。 “flickr”より By hdptcar  http://www.flickr.com/photos/hdptcar/1251274944/

【「マラリアワクチンの史上最大の治験」】
マラリアという病気は、日本を含め先進国社会ではあまり切実な感じはありません。せいぜいが、戦争中南方に派兵されていたときに感染した・・・といった話を聞く程度です。
しかし、熱帯から亜熱帯に広く分布する原虫感染症であるマラリアは、今も“全世界で年間3 ~5億人、累計で約8億人の患者が発生し、死者数は100 - 150万人に上ると報告されている”【ウィキペディア】大きな脅威です。

マラリア対策としてワクチンの開発が強く望まれていますが、主な医薬品需要国である先進国の関心が高くないこともあって、未だ成功していません。
これまでもワクチン開発のニュースをときおり目にはしますが、下記記事のグラクソ・スミスクライン社によるワクチン開発は、世界的大企業の開発で、治験もフェーズ3という最終段階を迎えているということですので、その実現が期待されます。

****世界初のマラリアワクチンまであと一歩、フェーズ3治験で有望な結果****
英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)が開発し、サハラ以南のアフリカ諸国でフェーズ3の治験が行われている、実用化されれば世界初となるマラリアワクチンについて、子供の感染リスクが半減したとする有望な初期結果が18日公表された。

蚊が媒介するマラリアの死者は、アフリカを中心に年間80万人にのぼっている。死者の大半は子供だ。
マラリアワクチン「RTS,S」は、熱帯熱マラリア原虫からの防御のために免疫系を発動させるもので、ベルギーにある同社の研究所で1987年に開発された。細菌やウイルスではなくマラリア原虫をターゲットにしたマラリアワクチンはRTS,Sが初めて。

治験は1992年に欧米で健康体の成人を対象に始まり、1998年からは西アフリカ・ガンビアを皮切りにサハラ以南の7か国(ブルキナファソ、ガボン、ガーナ、ケニア、マラウイ、モザンビーク、タンザニア)でも開始された。治験には乳幼児1万5460人が参加し、同社は「マラリアワクチンの史上最大の治験」だとしている。

その初期結果が同日、米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル」電子版に掲載され、米ワシントン州シアトルで慈善財団ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が主催したマラリアフォーラムでも発表された。

■2015年までに実用化の可能性
初期結果はRTS,Sを3回注射した後12か月の経過観察が行われた生後5~17か月の子供6000人のデータを分析したもので、マラリア発症リスクが56%、重症化リスクが47%、それぞれ低減されていた。
マラリアに特に感染しやすい乳幼児に対するRTS,Sの効果を正確に判断するには、生後6~12か月の詳細なデータが必要で、これらのデータは来年公表されるという。

専門家によると、発熱や注射した部位が腫れるなどの副作用があるが、これらは他の病気の予防接種を受けた子供にもよく見られるという。ワクチンの効果はどのくらいの期間続くのか、費用はどのくらいかかるのかといった問題は今後の課題として残っている。

貧困国の予防接種に資金提供しているGlobal Alliance for Vaccines and Immunizationのセス・バークリー氏は、マラリアは世界で最も貧しい人たちにとって非常に大きな問題なのでワクチンは待ち望まれていたと指摘し、完璧ではないまでも一定の成果を収めたことは非常に大きな出来事だと語った。

グラクソ・スミスクラインのアンドリュー・ウィッティ最高経営責任者(CEO)によると、RTS,Sの開発には既に3億ドル(約230億円)を費やしている。2015年までには、アフリカの子供たちにこのワクチンを安価に提供したいと語った。【10月19日 AFP】
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ワクチンが効果を示すのは約半数といったところのようですが、それでもその恩恵は計り知れないものがあります。
アフリカにおける医薬品治験については、ファイザー社による人体実験を疑わせるような問題『09年2月27日ブログ「ナイジェリア  新薬開発の実態 米ファイザー社、賠償金支払いで和解」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090227)』もありますので、慎重を期す必要もありますが、その期待の大きさを考えると、一刻も早く実用化にこぎつけてもらいたいところです。

開発コスト・製品価格と所得のギャップ
今回ワクチン開発にすでに10年近い年月と3億ドルを費やしているように、医薬品の開発には膨大な時間と費用がかかります。
私企業としては、そのコストは製品価格に反映せざるを得ませんが、医薬品を必要とする貧困層の所得との間にギャップが生じます。
医薬品需要者からすれば「我々の命を金儲けに使うのか!」といった批判にもなりますが、上記のような私企業の立場を無視すれば、今後の医薬品開発が不可能にもなります。

エイズ治療薬に関しても同様な問題があって、開発企業以外のメーカーによる安価ではあるが国際法的には不法なコピー医薬品製造が行われ、そうしたコピー医薬品を承認する貧困国と開発企業の間のトラブルも発生しています。

厄介な問題ですが、国家的な支援やビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団のような団体の支援を含めて、現実的な対応について資金と知恵を出してもらいたいものです。

非常にうがった見方をすれば、人口爆発が続くアフリカで、今後マラリアのような脅威がなくなると、更に人口増加に拍車がかかり、貧困などの諸問題や食糧・資源をめぐる国家間の緊張を高めるのでは・・・といったことも考えられますが、だからといって現存する脅威を放置してよい理由にはならず、その後の問題は別途対策を講じるべきものでしょう。

【「早々に結論付けることは望ましくない」】
蚊を媒介とするマラリアに関しては、医薬品のほか、蚊帳、特に殺虫剤を練り込んだ蚊帳が予防策として推奨されてきました。
日本の住友化学が、蚊帳の糸に殺虫剤を練り込んだ蚊帳「オリセット」を開発し、日本政府はその生産・普及にODAによる支援をおこなっています。

この殺虫剤処理蚊帳については、その効果への疑問や、蚊帳の中で過ごす裸の子どもたちが蚊帳の裾に体を巻きつけたり、中には裾を口に入れてしゃぶることが予想されるとして、発がん性や乳幼児の脳の発達を阻害する可能性などのリスクを危惧する声もあります。
下記記事は、殺虫剤処理蚊帳の効果に疑問があるとの指摘です。

****殺虫剤処理した蚊帳は逆効果?蚊に耐性か、セネガル研究****
世界保健機関(WHO)がアフリカでマラリア対策として配布している殺虫剤を練り込んだ蚊帳(かや)に、かえって局地的なマラリアの再流行をもたらす恐れがあるとの研究結果が18日、英医学誌ランセットの感染症専門誌「The Lancet Infectious Diseases」に発表された。

セネガルの首都ダカールにある仏研究機関「開発研究所(IRD)」の現地研究施設では、殺虫剤処理された蚊帳を2008年に導入した同国中部の村ディエルモ(Dielmo)で、蚊帳の効果を調査した。
IRDのジャンフランソワ・トラプ医師らの研究チームは、蚊帳導入の1年半前から4年間、村の住民500人以上に健康診断を実施してマラリアの罹患者数を調べると同時に、蚊の個体数を調査した。

すると罹患者数は、蚊帳を導入した08年8月~10年8月までは導入前の8%未満にまで劇的に減少したが、10年9月~12月の間に急増し、導入前の84%になったことが分かった。また、成人と10歳以上の子どもで、罹患者数の増加率が導入前よりも高くなった。

一方、マラリア原虫を媒介するハマダラ蚊の中で、蚊帳に使われている殺虫剤ピレスロイドへの耐性を持つタイプの占める割合が、07年の8%から10年末までに48%へと急激に増えていることが確認された。

さらに、蚊の個体数の減少によって住民の免疫力が低下しつつある可能性も浮上した。今回の研究報告では臨床的証拠が示されていないが、特に高齢者でマラリア原虫への免疫力が徐々に衰えていき、そのため蚊の数が再び増加した時に感染抵抗性がなくなった疑いがあるという。

だが、解説記事を寄せた米テュレーン大の専門家らは、調査期間が短すぎる上に1つの村だけを対象にした研究である点を指摘し、この研究結果だけをもって「殺虫剤処理された蚊帳には欠陥がある」「結果はアフリカ全体に当てはまる」などと早々に結論付けることは望ましくないと注意を促している。【8月18日 AFP】
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先述した“発がん性や乳幼児の脳の発達を阻害する可能性などのリスク”については、“科学的根拠に乏しい言いがかりだ”との反論もありますし、想定される危険性についても、使用によるメリットも合わせて論じられるべきものです。
また、上記セネガルでの調査についても、記事にもあるように性急な結論は危険とも指摘されています。
それ以上は素人には判断しようがありません。「WHOが認めているのだから、問題ないのだろう・・・」といったところでしょうか。

比較的冷静に効果・副作用、検討課題を論じたサイトとして、「ODAによるオリセットへの支援について」(08年8月12日 すぺーすアライズ http://www12.ocn.ne.jp/~allies/library/blog/081202.html)がありました。参考までに。

ウイルス感染の治療法に革命をもたらす・・・・?】
マラリアを離れて、最近目にした保健衛生関連記事でインパクトのあった記事が、下記の15種類のウイルスを殺せるという夢のような抗ウイルス薬に関するものです。

****複数のウイルスに効く新薬開発****
人間や動物の細胞に感染するさまざまなタイプのウイルスを探し出して殺してしまう新しい薬が発表された。11種の哺乳類の15種類のウイルスを殺せるという。冬の鼻風邪の原因ウイルスから命に関わる病気を引き起こすウイルスまで、1つの薬で幅広いウイルスに対する効果が示されたのは初めてのことだ。


研究論文の共著者で、マサチューセッツ工科大学(MIT)リンカーン研究所および同大学比較医学部門に所属するシニアスタッフ科学者であるトッド・ライダー(Todd Rider)氏は次のように話す。「数十年前の抗生物質の発見と製造は、細菌感染の治療法に革命をもたらした。今回の発見が、同じように、ウイルス感染の治療法に革命をもたらすことを期待している。この治療薬は、風邪やインフルエンザのウイルスから、HIV、肝炎ウイルスなどのより深刻な病原体、さらにはエボラや天然痘などもっと致死率の高いウイルスまで、すべてをカバーする」。(後略)【8月23日 National Geographic News】
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“風邪やインフルエンザのウイルスから、HIV、肝炎ウイルスなどのより深刻な病原体、さらにはエボラや天然痘などもっと致死率の高いウイルスまで、すべてをカバーする”ということで、あまりに凄過ぎて言葉もありません。俄かには信じ難い話です。

“現在ほかのウイルスを使ったマウスの実験が行われているが、さらに大型の動物で効果と安全性が確かめられたら、アメリカ食品医薬品局(FDA)が人間の臨床試験を承認するだろうとライダー氏は話す。それでも、「薬局でこの薬を買えるようになるまでには、少なくとも10年はかかる」という。”【同上】とのことですが、本当に実現したら、まさにペニシリン発見以来の画期的偉業です。
しかし、そんな薬が本当にできるのかね・・・・?


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