孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカ  「マンデラはもういない」与党ANC 選挙結果によっては「共存」のかじ取りに変更も

2019-05-05 22:33:27 | アフリカ

ANCの選挙集会に集まった支持者ら=ヨハネスブルクで5日、AP55日 毎日】 未だ根強い支持者を有してはいますが、内部が朽ちている巨木の感も ラマポーザ大統領はマンデラの理想と現実のはざまで難しいかじ取りを迫られています。)

 

【腐敗の絶えない“マンデラの党” 「マンデラはもういない」との声も】

あまり情報が多くない南アフリカに関する話題。

下記記事で初めて知りましたが、今週8日には総選挙の投票が行われるようです。

 

南アフリカと言えば、ネルソン・マンデラが率いた「アフリカ民族会議(ANC)」がアパルトヘイト廃止後の政権を担ってきており、今回選挙でも勝利は確実視されています。

 

しかし、腐敗・汚職、白人と黒人の格差、黒人内部における格差、失業等々の問題にANAが有効に対応できていないという批判が次第に膨らんできており、「マンデラの党」が絶対視される状況でもなくなってきています。

 

昨年2月には、数々の「悪い噂」が絶えなかったズマ前大統領が辞任に追い込まれる事態も起きています。

 

*****岐路に立つ「マンデラの党」 南ア総選挙、8日投開票****

南アフリカ総選挙(下院、定数400、任期5年)が8日、投開票される。

アパルトヘイト(人種隔離)体制が打倒され、ネルソン・マンデラ氏(2013年死去)が初の黒人大統領に就任して25年間。以来一貫して政権を担ってきたアフリカ民族会議(ANC)が今回の選挙でも勝利する見込みだ。

 

ただ、近年のANCは金権体質に染まり「マンデラの党」の現状に失望する支持者も増えている。

 

しゃれたバーやレストランが立ち並ぶヨハネスブルクのローズバンク地区。ある週末の夜、黒人男性のフォーギブさん(25)が雨に打たれながら、客に小銭をねだっていた。

 

過去の選挙はANCに投票した。「それが当然だと思った。でも、今回は(主要野党2党に次ぐ)3番目の選択肢だね」

 

自宅は粗末な家が密集する郊外のタウンシップ(旧黒人居住区)。路上に汚臭を放つごみが放置され、道路や下水道の整備も一向に進まない。ANCに投票し続けても暮らしは良くならないと感じる。

 

歴代のANC政権は人種間の格差是正を目指し、黒人富裕層が生まれた。だが、経済成長は進まず、失業率は約27%と高止まり。黒人同士でも貧富の格差が広がり、フォーギブさんのような若年層の半数は無職だ。

 

多くの人々が日々の暮らしに不満を抱える中で、ズマ政権(09〜18年)時代に数々の汚職疑惑が発覚。ANCに対する支持離れは急速に進んだ。16年の地方選で、得票率は過去最低の53・9%。ヨハネスブルクなど大都市では国政第2党の民主同盟(DA)から市長が選出された。

 

都市部での黒人中間層の増加も党勢衰退の一因だ。この層は比較的教育レベルが高く、企業勤めをしている人も多い。また、アパルトヘイト撤廃後に生まれた「ボーンフリー」世代と呼ばれる若者は、地方の有権者のようにANCを絶対視しなくなり始めている。

 

中間層向けの住宅地が広がるミッドランド地区に住むコンサルタントのヨランダさん(26)は、与党政治家の腐敗にうんざりし、初めて野党に投票すると決めた。「両親はANC以外への投票には抵抗を感じているが、マンデラはもういない」

 

南アフリカ安全保障研究所のヤッキー・シリアーズ氏は「ANCは(黒人の経営幹部登用などを推進する)黒人優遇政策を導入したが、それが市場をゆがめた。党幹部を国営企業などの要職に送り、政権周辺が利権を独占する構造ができた」と指摘。

 

昨年就任したラマポーザ大統領は改革路線を掲げるが、「党内の抵抗を抑えて改革を進めるには今回の選挙で基盤を固める必要がある」と語った。【55日 毎日】

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ズマ前大統領に代わって南ア・ANCを率いることになったラマポーザ大統領は、南ア再生の「切り札」とも目されています。

 

****<南ア新大統領>交渉力光る「エリート」****

 南アフリカの新大統領=シリル・ラマポーザ氏(65)

28年前、黒人解放運動の指導者マンデラ氏が刑務所から釈放された直後に行った歴史的な演説の写真には、傍らに寄り添いマイクを向ける若き日の新大統領の姿が映っている。(中略)

 

卓越した交渉能力で一目置かれ、94年に黒人初の大統領に就任したマンデラ氏も自身の後継者に嘱望したとされる。

 

当時は与党内の支持が得られなかったが、実業家に転身して成功。米経済誌フォーブスによると2015年の総資産は4億5000万ドル(約478億円)に上り、民主化以降に登場した「黒人エリート」の代表格だ。(中略)

 

16日の演説では約9年間のズマ政権時にはびこった腐敗体質にメスを入れ、経済再建に取り組むことを宣言した。南ア再生の「切り札」の呼び声は高い。一方で、副大統領時代には政府の汚職への言及が少なかったのも事実だ。

 

国家経済は政権中枢に取り入った実業家に牛耳られ、白人と黒人の格差是正はおろか黒人同士の貧富の差も広がっている。かつてのマンデラ氏の右腕は、巧みな交渉術に加えて指導力を発揮し、改革を進められるか。その手腕が問われる。【2018218日 毎日】

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上記のような期待を担って登場したラマポーザ大統領ですが、マンデラなきANCの混迷は未だ改善されないようです。

 

****与党ANCの腐敗は深刻 「政治殺人」が多発****

与党アフリカ民族会議(ANC)の腐敗は深刻だ。ANCの地盤として知られる東部クワズールー・ナタール州では、ANC党内での利権争いや対立に絡んだとみられる「政治殺人」が多発している。

 

同州ウムジムクル。人口20万人弱のこの地方都市で2017年7月、ANCの地元有力議員シンディソ・マガカ氏(当時34歳)が殺害された。

 

車に乗っていた時に、2人の男が近付き自動小銃を乱射。病院に運ばれたが、2カ月後に死亡した。後部座席にいたノンツィケレロ・マファ議員(29)は「46発の銃弾が撃ち込まれた。マフィアのような手口だった」。

 

事件の背景には、地元の党幹部らが推進した公共工事があったとされる。約6年前に始まった工事計画は大幅に遅れ、費用は当初の9倍の3700万ランド(約3億円)にふくれあがった。

 

不正を疑ったマガカ氏は議会で追及し、第三者による監査を要求。その後、同調した議長や議員が相次いで殺害された。捜査当局は、マガカ氏暗殺に地元首長や党幹部が関与した疑いがあるとみて調べている。

 

ANC指導部の登竜門である青年同盟の幹事長を務めたこともあるマガカ氏の追悼式には閣僚らも参列。盟友だったタビソ・ズールー氏(37)はスピーチで「殺されたのは汚職を暴露したからだ」と公言した。

 

だが、ズールー氏はその後に尾行や盗聴を受け、友人らの家を転々とする逃亡生活を送る。ズールー氏は、ANCをマフィアに例え「血のおきてを破った(秘密を暴露した)者は始末される」と語った。

 

クワズールー・ナタール大のメアリー・デハース研究員の調査によると、同州では16年以降、政治絡みとみられる事件で約70人が死亡。被害者の大半がANC関係者で「かつての政治殺人は敵対する政党間で起きたが、今は身内で殺し合っている」と言う。【55日 毎日】

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【白人資産接収ではなく黒人優遇政策で「共存」めざす そこに腐敗を生み出しやすい土壌も】

「アフリカ民族会議(ANC)」に腐敗がはびこるのは、白人資産の接収は行わず、「共存」をはかりながら黒人優遇政策で時間かけて是正を行っていくというアパルトヘイト廃止後の事情・政策を考えると、下記記事が指摘するように、一定に“必然”とも言える要素があります。

 

しかし、そこからANCが、あるいは南アフリカが脱却できるかどうかは、単にANCと南アフリカの問題にとどまらず、混迷する世界にあって一筋の光明ともなったマンデラの理想が実現するかどうかという問題でもあります。

 

****ズマ大統領辞任の背景にある南アフリカの理想と現実****

(中略)

南アフリカで汚職が蔓延している理由

体制が大きく転換し、それまでの既得権益層から利権をはく奪し、国民各層にその利益を均霑しようという時、南アフリカに限らずどこでも、大なり小なり汚職が横行する。

 

日本でも、明治維新に際し、武士階級を廃し産業基盤たる財閥を育成した時、それなりのことはあったろうし、社会主義圏で体制転換の時、多くのオリガルキーが生まれたことは周知のことである。

 

南アフリカでもアパルトヘイトが廃止され、新生南アフリカとして再出発した時、似たような状況が生まれた。

 

というのも、南アフリカには白人が築いた一大産業構造があったからである。通常、アフリカ諸国は、こういう白人層の富裕資産を新政府が接収する。それが脱植民地化なのである。

 

しかし、南アフリカはそれをせず、白人資産はそのままとし、白人と黒人が共生する道を選んだ。マンデラ大統領が目指したレインボー・ネーションである。

 

しかし、片や、食うや食わずの黒人層がひしめき、他方で裕福に生活する白人層がいる。これでは社会は成り立たない。

 

そこで南アフリカ政府がしたのが、黒人優遇政策いわゆるアファーマティブ・アクションである。民間企業は、黒人を一定割合、幹部に登用しなければならず、また、一定割合の株を提供しなければならない等である。これにより実質的に白人資産を黒人に移転した。

 

ところが、どこでも、こういう時の資産移転を公平に行うことは難しい。結局、南アフリカに出現したのは、巨大な資産を抱える新たな黒人成金層だった。そして、この成金が生まれる過程で数々の汚職が蔓延したのである。(中略)

 

南アフリカに渦巻く「理想」と「現実」の問いかけ

しかし、これから南アフリカがどうなるか、つまり、南アフリカの帰趨がどうなるかは、単に南アフリカだけに関わることではない。

 

先に述べたとおり、南アフリカはアパルトヘイト撤廃後、通常であれば白人資産を接収するところを、マンデラ大統領の崇高な理念に従い、接収することなく白人と黒人による共生の道を選んだ。

 

その時、白人は、どうせマンデラはきれいごとを言っても、黒人が差配する新生南アフリカがこのままうまく治まるはずがない、やがて、「破綻国家」の道を歩むのは必定だ、と言った。

 

他方、黒人は、マンデラはきれいごとを言って、白人と黒人の共生などというが、それがうまくいくはずがない、どうして白人資産を接収し貧しい黒人に分け与えないのか、それをしないからいつまでたっても黒人貧困層がなくならないのだ、と言った。

 

つまり、ことは単に一つの国が安定し繁栄するかどうかを越え、より高次の、脱植民地化の過程で旧支配層と被支配層が財産接収という暴力的行為を経ることなしに、平和裏に共存することが可能かという、壮大な試みに関係することであり、さらにはまた、異なった人種がアパルトヘイトという特殊な経験を経ながらも共に一つの国家を築いていくことができるかという、崇高な理念の妥当性に関することなのである。

 

人類は理念のもとに生きることが可能なのか、あるいは所詮、現実の世界の中でしか生きられないのか、といった問いでもある。

 

もっとも、白人資産を接収したアフリカ諸国の経済が、その後その多くが立ち行かなくなっていったとの事実は、マンデラの理念の方が現実に適合し成功を収める、ということなのかもしれない。【2018222日 WEDGE

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【白人農場主の土地収用に乗り出すラマポーザ政権 “国を分断しない方法で”】

上記記事最後に指摘されている“白人資産を接収したアフリカ諸国の経済が、その後その多くが立ち行かなくなっていった”国の代表が、ムガベ前大統領のジンバブエでしょう。

 

しかし、それをもって“マンデラの理念の方が現実に適合し成功を収める、ということなのかもしれない”と言うのは、残念ながらやや楽観に過ぎるところがあります。

 

白人資産を接収したムガベ前大統領は、国際的評価はさんざんでしたが、南アフリカの貧困黒人層では人気がありました。

 

そしてラマポーザ政権も、やはり黒人優遇政策だけでは限界があるとして、白人農場主の土地収用に乗り出す考え方針を示し、白人至上主義に甘い・共鳴しているとも批判されるトランプ大統領が昨年8月にこの政策を問題視するツイートを発信したことでの騒動があったのは記憶に新しいところです。

 

****トランプ氏、南アを刺激 人種隔離政策の傷痕に踏み込む****

トランプ米大統領が南アフリカの土地政策にツイッターで「介入」し、波紋を呼んでいる。

 

南ア政府が少数派の白人が所有する農地を収用できるようにする方針だと懸念を示し、ポンペオ国務長官に調査を命じたことを明らかにした。アパルトヘイト(人種隔離)政策の傷痕に踏み込む発言に、南ア政府は強く反発している。

 

トランプ氏は22日夜、「ポンペオ国務長官に、南アの土地農地の収用問題と大規模な農家殺害について詳しく調査するよう頼んだ」とツイート。これに対し、南アフリカ政府は23日、公式ツイッターで「かつての植民地時代を思い起こさせる狭い見方を拒否する」と反発した。

 

南アフリカでは1991年、少数派の白人が大半の土地を所有する結果を生んだアパルトヘイト関連法が廃止されたが、土地所有の現状は大きく変わっていない。

 

ラマポーザ大統領は「不平等を是正する」とし、白人所有の土地を補償金なしで収用し黒人に再配分する方針を提示。7月には、これを可能にするための憲法改正を進めるとした。

 

トランプ氏のツイートの直前、保守系の米FOXテレビがこの動きを取り上げ「人種差別的な土地没収だ」と報道。「トランプ政権はこの人権の悲劇にどう対処すべきか」と、経済制裁などの可能性に言及した。トランプ氏はこの報道に反応したとみられる。

 

トランプ氏は、これまでもツイッター北朝鮮やイランを挑発してきた。視聴者が自らの支持層と重なるFOXテレビに呼応することで、11月の中間選挙に向け、南アの白人農家に同情的な白人層にアピールしたい思惑が見える。

 

米国務省のナウアート報道官は23日の会見でトランプ氏から指示があったことを認め、「補償なしの土地の没収は南アを間違った道に進ませる恐れがある」と懸念を示した。

 

トランプ氏がほのめかす南アでの白人農家の大規模殺害は確認されていない。ヘイトクライムを監視する米NGO「南部貧困法律センター」は、トランプ氏のツイートが白人至上主義者の主張に沿うものだとして「大統領が人種差別主義の考えにつかっていることを示す最も驚くべき例だ」と批判した。【2018825日 朝日】

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トランプ大統領の白人至上主義的傾向の問題はさておき、南アの白人土地収用がこれまで「共存」路線の大きな変更になるのも事実ですし、そうした政策でうまくいくのかどうかを疑問視する声もあります。

 

****南アフリカの白人農場主の土地収用にトランプ反発 これも「虐げられた」白人のため*****

<白人農場主が苦しんでいると聞いて、俄然やる気を出したトランプ。白人と黒人の格差解消に取り組む南ア政府は猛反発しているが>

(中略)ラマポーザは731日、白人農場主の土地を補償なしで収用できるように憲法を改正する、との政府方針を発表。全ての主要政党が、白人から黒人に土地を再配分する改革の必要性で一致した。

 

南アフリカでは、人口の8%しかいない白人農家が、72%の土地を所有している。土地所有を巡る不平等な構図は、アパルトヘイト(人種隔離政策)廃止から20年以上経った今も、白人と黒人の間に根強く残る貧富の差を象徴している。

初めて「アフリカ」に関心
トランプのツイートの翌823日、南アフリカ政府はツイッターで、「われわれの国を分断し、植民地支配を思い起こさせる偏狭な見方を断固拒否する」、と反発。さらに、「慎重で包括的なやり方で土地改革のペースを上げていく。国を分断しない方法でだ」、と説明した。

トランプのツイート発言をまとめたサイト「Trump Twitter Archive」を検索すると、大統領就任以降、トランプが「アフリカ」という単語を使用したのは今回が初めて。

 

今年1月には、移民政策を議論するための会合で、アフリカ諸国やハイチを「肥だめのような国」とも言っている。逆に「ノルウェーのような国」からの移民をもっと増やすべきだと主張したため、人種差別だと国内外で批判された。(中略)

南アフリカ政府は補償金を巡って白人農家との交渉が行き詰ったケースで、すでに土地収用を始めている。現地紙シティー・プレスの819日の報道によれば、同国北東部リンポポ州にある2つの農場が、政府が提示した補償金額を拒否した結果、強制収用された。補償金は、農場側が求めた額のわずか10分の1だったという。(中略)

ジンバブエと同じ失敗の恐れも

今、南アフリカの白人農家の殺害の発生率は過去20年間で最低水準だ。ただし襲撃事件に関しては、20162017年に478件だったのが、20172018年は561件まで増加した。(中略)


白人系の野党など土地改革の反対派は、不景気の中で強制的な土地収用を行えば経済危機になる恐れがある、と警告する。

 

隣国ジンバブエでは2000年以降、ロバート・ムガベ前政権の下で白人の土地の強制収用を実施した結果、農地の荒廃と経済の破綻につながった。【2018824日 Newsweek
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「慎重で包括的なやり方で土地改革のペースを上げていく。国を分断しない方法でだ」・・・・微妙なかじ取りが要求される施策ですが、これをやらないと黒人貧困層から不満を押さえられなくなっている現実があっての施策でしょう。

 

8日に行われる選挙の結果によっては、この“かじ取り”の変更を迫られることもあり得ます。

微妙なかじ取りで、あるいは、かじ取りの変更によって、マンデラの理想に近づくのか、遠のくのか・・・注目されます。

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