孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト シシ大統領の進める新首都建設 政権と軍部の利益共同体強化で長期政権の基盤にも

2019-05-07 22:25:55 | 北アフリカ

(【38日 産経】 建設が進む新首都 住居エリアのように見えます。 ただ、この新首都に移転するのは富裕層で、一般市民はそのままカイロに残る(残される?)ことにも)

 

【シシ大統領任期延長 2030年までの長期政権を視野に 社会安定の一方で強権的支配も】

周知のように、エジプトではシシ大統領が憲法を改正し、国民投票での88%という圧倒的多数の賛成をもって、2030年までの任期延長を実現しています。

 

シシ大統領の統治については、人権・民主主義という面では強権的性格が目立ち、国際的にも評判は芳しくありませんが、経済運営・治安回復向けた強い指導力という点では、特に国内的に多くの国民から支持を受けています。

 

治安については、2月にもカイロ旧市街やギザで爆弾テロがあり、シナイ半島ではテロが相次いでいるように、イスラム過激派のテロを封じ込めてはいませんが、ムバラク政権崩壊から前政権時に至る政治・社会混乱は力で抑え込んでいる状況であり、そこが国民から支持されるところでしょう。

 

****エジプトに広がる異論許さぬ閉塞感 抵抗の火種まく****

シーシー氏が大統領に就任した2014年以降、エジプトでは反体制派やメディアの弾圧が強化されてきた。今回の憲法改正で同氏の出身母体である軍の政治介入が進み、司法にも大統領の意向が強く反映される公算が大きい。

 

「シーシー時代」の長期化で、異論を許さない閉塞(へいそく)感が拡大するのは確実な情勢だ。

 

「2期8年(の任期)を守る」。シーシー氏は17年、米メディアのインタビューでこう確約していた。国民投票で示された「民意」に従うとの立場を示すとみられるが、正当性をめぐる疑問は少なくない。

 

国会は16日、531対22の圧倒的多数で改憲案を可決し、その4日後には投票が始まった。内容を理解せず賛成票を投じた人もおり、ネット上には投票後に食べ物などが配られたとする写真も出た。

 

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチなどによると、政権は2、3月、160人以上の反体制派を拘束または訴追。改憲反対を呼びかけたネットのサイトは開設の数時間後、アクセス不能になった。

 

有力メディアはほぼ国家の統制下にあるとされ、野党議員のタンタウィ氏(39)は「人権状況はムバラク政権時代(1981〜2011年)より劣悪だ」と話す。

 

シーシー氏は歴史的に政権と緊張関係にあるイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」や、スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の制圧を進め、世俗派の支持を得てきた。

 

ただ、「治安に対する脅威」という大義名分は反体制派の摘発にも使われているとの見方がある。首都カイロのある大学教授は「政権は同胞団の脅威を誇張しすぎだ。政権浮揚に利用しているようにみえる」と話した。

 

軍は幅広く経済分野に進出し、カイロ郊外で建設が進む首都機能移転やスエズ運河拡張など、国の威信をかけた巨大プロジェクトを手がける。改憲を機に軍の肥大化がさらに顕著になり、民間の成長や競争を妨げることになりそうだ。

 

政治的な締め付けや経済低迷が長引けば、「アラブの春」でムバラク政権が崩壊したように、いずれ民衆の大規模な抗議デモとなって政権を揺るがしかねない危うさをはらんでいる。【424日 産経】

******************

 

****強権で「盟主」目指すエジプト シシ大統領2030年まで任期延長****

(中略)強権的なシシ政権には治安回復などへの期待がある一方、軍の力が一層強まり、司法の独立が脅かされる懸念も指摘される。

 

「エジプトは再びアラブのリーダー国家を目指している。シシ氏はそのために権力を自身に集中させ、改革を一気に進めたいと考えている」。中東政治に詳しいヨルダン大学戦略研究所のムーサ・シュテイウィー所長はそう分析する。

 

エジプトは20世紀の中東戦争でイスラエルと何度も戦火を交え、「アラブの盟主」として君臨した。だが資源大国サウジアラビアの影響力拡大、非アラブのトルコやイランの台頭もあり、近年は中東での存在感が相対的に低下。

 

11年の中東民主化要求運動「アラブの春」では約30年続いたムバラク政権が崩壊し、その後モルシ政権もクーデターで倒され、混乱が続いた。

 

14年に発足したシシ政権は「治安維持」を理由に反政府活動家らを次々に拘束し、強権で国民の不満を抑えてきた。

 

東部シナイ半島や砂漠地帯ではイスラム過激派によるテロも起きるが、シシ政権は過激派掃討作戦を強化。11〜12年に1〜2%台だった経済成長率は15年以降、4%台に回復した。シシ氏は首都機能移転などの大型事業も進め、ある国会議員は「強権で息苦しいが、経済改革には手腕を発揮している」と話す。

 

近隣国では今月に入り、強権的な指導者が国民の抗議デモを受けて相次いで失脚し、「アラブの春第2幕」などと評されている。(中略)

 

こうした中、今回の改憲案ではエジプト軍の義務について「憲法と民主主義の擁護」との項目が加えられ、軍による政治介入強化の懸念も浮上。近隣国の動きの「飛び火」を防ぐため、国民への締め付けが強まる可能性もある。

 

改憲案では、司法当局者の任命権限も大統領に大幅に付与されるため、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「軍が強化され、司法の独立も脅かされている」と警告した。(後略)【419日 毎日】

******************

 

【威信をかけて進める新首都建設 「現代のファラオ」による「現代のピラミッド」】

そのシシ大統領が、IMFから財政支援を受ける厳しい財政事情にありながら、自らの威信と政治生命をかけ、巨額の資金を投下して進めるのが首都カイロの移転です。

 

おそらく今回の任期延長も、首都移転をなんとしても自分の手で実現し、歴史に名を残したいという思いもあってのことではないでしょうか。

 

「ナセル氏はアスワンハイダム(1970年開業)を建設し、サダト氏は第4次中東戦争(73年)のときの大統領として国民の記憶に残っている。シーシー氏はこれらの過去の大統領にならって新首都計画を成し遂げ、歴史に名を刻みたいのでは」(カイロ大のサイエド教授)【38日 産経】

 

首都移転の背景には、人口爆発によるカイロ人口の増加、それを上回る自動車の増加で、交通渋滞が深刻化し、都市機能が低下する現状があります。

 

新首都はカイロの東45~60kmほど、カイロとスエズの中間地帯の広大な砂漠エリアに建設されています。そのスケールは「現代のピラミッド」とも評されています。建設するのは「現代のファラオ」。

 

****不毛の砂漠に超高層ビルも エジプトの首都機能移転は「現代のピラミッド」か****

エジプトの首都カイロ。首都圏の人口は約2500万で、アフリカ大陸最大の都市だ。交通渋滞は年々悪化する。

 

エジプト政府は首都の混雑を解消するためとして、砂漠の真ん中に行政機関を移す計画を打ち上げ、2015年から建設を始めている。

 

カイロから東に45キロのところに建設中の新行政首都に行ってみると、古代エジプト文明のピラミッド建設を想起させる大規模な都市建設が進んでおり、度肝を抜かれた。

 

在日エジプト大使館によると、約700平方キロの面積に700万人を擁する都市を建設する計画で、今年末から大統領府や議会、中央省庁の移転を始め、2022年までに完了する予定という。

 

600を超す病院や教育施設や、1000を超す宗教施設、計4万室のホテル、米ニューヨークのセントラルパークの2倍の大きさの公園などをつくる予定という。発電所や空港に加え、中国企業が参画し、アフリカで最も高い超高層ビルを建てる計画だ。

 

アイマン・アリ・カーメル駐日エジプト大使は、インタビューに「現在のカイロはそのまま残るが、新行政首都には官庁、企業、大使館などが移る。空港や基幹道路もできることで『生きたハブ』になる」と話した。(中略)

 

案内をしてくれた政府系研究機関の研究員によると、勤め先の一部は新行政首都にオフィスを移したという。通勤を考えて、その研究員もカイロの外に自宅を構えていた。


政府系アハラム紙電子版に4月に載った記事は、政府が新行政首都を「国内初のキャッシュレス都市」にすると報じていた。

 

新首都内の住宅は高額で、まず公務員と富裕層だけが移り住むようだ。カイロに戻るタクシーで、運転手に新行政首都の話を振ると、「政府は国民の血税を新首都の建設や道路建設につぎ込み、新しい道路を通るたびに通行料をとられる。物価は高騰し、生活は苦しくなるばかり。国民のことを少しも考えていない」と怒りをあらわにした。会社の助手に聞いても、「行政機関が移るだけ」と素っ気ない。

 

カイロの混雑を解消する、という目的は理解できる。ひどい交通渋滞はカイロの空気を汚し、人々のイライラを悪化させているように思えるからだ。

 

だが、このような砂漠の真ん中に大規模な都市を造るとなれば、目的はそれだけではないだろう。HPのイメージ画像を見ていると、「美しく、近代的なエジプト」を諸外国に印象付けたいのでは、と思えてならなかった。

 

新行政首都の建設と並行して、カイロでは最近、街中のスラム街が行政により壊されている。新行政首都は、現代のファラオによる「ピラミッド建設」に思えてきた。【55日 GLOBE+

****************

 

ピラミッドがどういう目的で建設されたのかはいまでも諸説・議論があるところですが、この「現代のピラミッド」も後世いろいろな議論を呼ぶのかも。

 

【新首都建設でカイロに残される住民は?】

カイロの首都機能がマヒ状態に近づいているのは間違いない話です。

 

****新首都建設が進むエジプトの今****

人口増加が続くカイロ市

問 エジプトの首都カイロ市は、エジプトの総人口約9,000万人に対し、約2,000万人弱が居住していると言われ、人口集中が顕著だと 思われますが、現在はどのような状況にありますか。

 

答 カイロ市への人口流入が続き、総人口は増加傾向にあります。先日までエジプトの総人口は8,500万と言われていましたが、最近 9,300万人に修正されました。エジプトは正確な統計が得られにくい国であるため、大幅な修正が発表されることがあります。そのため、 総人口は1億人に達しているのではないかという憶測すらあるほどです。

 

カイロ市では出生率が高く、1世帯あたり45人の子供がいると思われます。出生率の減少傾向も見られません。

 

2009年頃からカイロ市の過密が顕著となり、都市としての機能不全を実感しています。渋滞に左右されない地下鉄などの交通手段を 用いるなど、渋滞を考慮して移動する必要があります。歩いて30分程度の距離に2時間以上かかることもあり、タクシーにも乗れなく なってしまいました。

 

そうした中で、大統領が首都移転を打ち出したのは自然な話だと思います。ムバラク大統領時代にも首都移転の話はありましたが、これまでは時間、資金の目途がつかなかったのでしょう。 【201612月 早稲田大学地域・地域間研究機構 主任研究員 研究院准教授 鈴木 恵美氏】

*******************

 

カイロは観光旅行で2回行ったことがあり、交通渋滞の一端も経験したことがありますが、渋滞・駐車スペース不足はエジプト・カイロだけでなく、インフラ投資を行わないまま人口・車が急増いている多くのアジアの国々の大都市でごく普通に見られることなので、特段の印象は残っていません。

 

新首都に移住するのは政府関係者や富裕層が中心になると思われますが、カイロに残る2000万人とも言われる一般市民の生活はどうかわるのか?

 

********************

労働者向け住宅も建築される予定ですが、中心部の瀟洒(しょうしゃ)な地域は富裕層向けの住宅のみになるでしょう。 また、実業家や軍関係者を中心とした富裕層は新首都に移動し、現首都には中産階級以下の階層が居住することになる可能性が高いで しょう。

 

既に大気汚染の悪化を受けて、富裕層や政府関係者はカイロ市の郊外に建設中のニュー・カイロ・シティの西端に位置する第5 集合地区に居住し、カイロ市に通勤しています。ニュー・カイロ・シティの東部でも開発が進んでいて、ビルが多く建設されています。

 

問 カイロ市の現首都に残る居住者にとっては、生活環境の改善ニーズが残るのではないでしょうか。また、スラム街は解消されないのでしょうか。

 

答 新首都建設に伴う移住を受けて、多少の混雑は改善されることが期待できます。 しかし、半ば違法状態のスラム地区は手つかずのままでしょう。

 

かつて、スラム地区の近隣に居住していましたが、見捨てられているといった印象を受けました。ただ、政府の意向によりスラムクリアランスが行われることはあり得ます。過去にも公園建設を理由に、100万人程度が居住すると思われる地区を一掃したことがありました。

 

資金の目処がつけば現首都の大規模開発も実施されるのではないでしょうか。カイロ市への思い入れもあるでしょうし、カイロ市周辺 にベッドタウンが建設され成功した事例もあります。そのことから、新首都を建設する能力はあると考えています。【同上 鈴木 恵美氏】

******************

 

100万人程度が居住すると思われる地区を一掃”・・・・強権シシ政権なら可能でしょうが、不満爆発の導火線になる危険もあります。

 

なお、上記の“ニュー・カイロ・シティ”は、カイロ市街の東に隣接する形で建設が進むニュータウンです。この更に数十km東に新首都が建設されます。

 

“現時点では、ニュー・カイロ・シティは新首都と は一体化しない計画のようですが、最終的にはベッドタウン的な位置づけになると思われます。ニュー・カイロ・シティの開発と新首都 の開発は並行して実施されるようです。”【同上 鈴木 恵美氏】

 

【経済における軍の比重増大 長期政権の基盤に 民業圧迫の懸念も】

新首都建設は、現在すでに経済分野に広く進出している軍関係企業の比重を更に増大させ、そうした軍関連の利益を増大させることで政権と軍の関係をより強固にし、長期政権の基盤とする・・・といった構図・思惑も見えてきます。

 

ただ、そのような経済分野における軍の更なる比重増大は、民業圧迫ともなり、長期的に見た場合、エジプトにとって問題を深める恐れもあります。

 

****政治生命かけた首都機能移転 エジプト・シーシー大統領****

エジプトの首都カイロ近郊で首都機能移転に向けた大規模建設が進んでいる。2020年末には大統領府のほか首相府や国会など政府の中枢が先陣を切って「新首都」(ニュー・キャピタル)に移転する計画だ。

 

カイロの人口増加や渋滞、公害などの都市問題を緩和する狙いがあるが、国際機関から財政支援を受ける現状の下、移転の推進には懐疑的な見方もある。シーシー大統領(64)はなぜ、政治生命を賭して巨大プロジェクトを推進するのか。背景とその成否を探った。

 

「新たな世代の街」

(中略)シーシー氏も「新たな世代の街を創造するのだ」などと意義を述べ、現場にしばしば足を運んで進行状況を見守っている。

 

プロジェクト担当企業のソリマンさんによると、エジプト軍が同社の株51%を持ち、450億ドル(約5兆円)と発表された総工費は「建設用地の売却」で捻出したという。

 

シーシー氏や担当企業のトップは軍の出身。自らも同様だというソリマンさんは、「軍は新首都の建設事業を管理、監督するのが主な業務だ」と話したものの、それ以上の詳細に踏み込むのを避けた。

 

シーシー政権下ではここ数年、国防相や内務相、陸軍参謀総長など軍・治安当局幹部の異動が相次いだ。担当企業の持ち株を考慮すれば同政権が新首都建設で軍を重用して、重要な支持基盤の引き締めを図っているように受け取れる。

 

軍は全国でホテルやガソリンスタンド、スーパーなどのチェーン展開も行い、幅広くビジネスを手がける。こうした事業の目的として、貧しい人々の暮らしの支援を掲げている。

 

経済活動の詳細な規模は明らかになっていないものの、こうした軍に連なる組織が新首都建設で恩恵を受け、軍の経済活動が水面下で肥大化している可能性も否定できない。

 

広がる貧富の格差

エジプトの対外債務は2月現在で約930億ドルに上り、国際通貨基金(IMF)の支援を受けている。昨年には燃料や水道などの料金が値上げされ、インフレ率は10%以上で推移。貧富の格差も広がっているといわれる。

 

こうした状況の下、新首都建設に伴って軍の経済活動が拡大するようであれば、民間企業の成長を圧迫するといった弊害をもたらしかねない。

 

カイロ大のサイエド教授は取材に対し、「首都機能移転事業は、その是非を問う国民規模の対話もなしに計画が進んでいる。建設の財源など詳細も不透明だ」とし、国際競争力がある製造業の育成や教育レベルの向上など、ほかに優先すべき課題があると主張した。(中略)

 

シーシー氏が長期在任の実現を視野に入れているとすれば、出身母体で国内に大きな影響力を誇る軍に加え、それを取り巻く企業集団の支持は不可欠だ。軍を重用した上で、新首都建設を是が非でも成功に導きたいと願っていたとしても不思議ではない。

 

半面、政権と軍の持ちつ持たれつの関係が深まれば、エジプト経済の将来を担う民間の活力を奪うことにもなりかねないという危険性をはらんでいる。

 

サダト氏の後で約30年間、大統領を務めたムバラク氏は在任中、南部アスワン近郊に運河を建設してナイル川から水を引き、砂漠の中に都市を建設してカイロなどからの移住を促進する大規模開発計画をぶち上げた。しかし移住は進まず、「政府の失敗」として人々に記憶されている。

 

ムバラク氏の教訓を乗り越えて巨大プロジェクトを成功に導き、自らの権力の長期化に道筋をつけられるか。新首都建設がその過程における重要な一歩だとすれば、失敗が許されないことはシーシー氏自身が最もよく理解しているはずだ。(後略)【38日 産経】

*****************

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする