(このお話はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係がありません)
飛龍からも爆撃に備えて、上空警戒のために13機が舞い上がった。爆撃機を認めると、必死で追いかける。
しかし、敵の数が多いので防御しきれない。
戦争は数だ、とおれはつくづく思った。「一騎当千」なんて言葉があるが、そんなのは「ガンダム」でもなきゃ無理だ。
ついに飛龍に爆弾が命中した。続いて3発、中部甲板に命中。
飛行甲板が使い物にならなくなり、画面に大きく「Game Over」の文字が表示された。
結局、史実通りの展開になってしまった。おれと敦はぐったりと畳に突っ伏した
「こ、こんなに、臨場感があるっつーか、やりごたえがあるっつーか、疲れるゲームは初めてだぜ」
敦は仰向けになって言った。
後はCGアニメを見るだけだ。大和の艦橋に場面が切り替わった。
大和を中心とする戦艦群はこの戦いの「主力部隊」のはずなのだが、南雲機動部隊とは別行動かと思われるような進路をとっている。
そのため、戦況がまるでわからず、えらいさんの中には、「もうそろそろ勝利の報告があってもいいのに、うんともすんとも言ってこない。どうなっているのか」なんて、のんきなことを言っている奴もいる。山本にいたっては、将棋を指していた。
そこへ、赤城がやられたという報告が飛び込んで来た。艦橋に動揺が走る
続いて、加賀の悲報がもたらされた。山本は、「ほう、またやられたか」と、落ち着き払って将棋の駒を動かした。
山本だってショックだったろうが、連合艦隊司令長官たる自分がここで慌てふためいては収拾がつかなくなると思い、あえて泰然自若を装ったのだろう。
だけど、こんなの、サッカーの監督なら即刻クビではないだろうか。
「だよなー。まあいえば、試合の最中に監督がピッチサイドを離れて将棋を指しにいってる間に、チームがめちゃ負けしたようなもんだろ。まず、次の試合は指揮させて貰えねえだろうな」
敦も言う。サッカーの監督は、それでなくてもすぐにクビをはねられてしまうのだ
この頃になっても、赤城はまだ炎に包まれて海上を漂っているという。本当に、軍艦は爆弾では沈まないんだなあ。
しかし、そのままにしておくというのも何なので、味方の魚雷で自沈させようという意見が出た。
すると、「天皇陛下の艦にそんなことをしていいのか」という反対する者がいた。どうも、えらいさんの議論というのは、現場と論点がずれているような気がする。
結局、アメリカに持っていかれるくらいならと、自沈させることに決まった。
えらいさんの中には、南雲が自決するのではないかと心配する者もいた。山本は一言、
「南雲は帰ってくるよ」
この一言に、山本の南雲に対する評価が凝縮されているような気がする。
南雲とはおよそ対照的な炎の闘将山口は、飛龍と運命を共にした。部下が、「せめて何かお形見を」と頼むと、かぶっていた戦闘帽をひょいと投げて寄越したという。映画のワンシーンのようなカッコ良さだ。
山本は、良くも悪くもこういう男らしさが南雲にないことを知っていたのだろう。
やがて、山本の予想通り、南雲が大和に到着した。さすがに画像はもとに戻っているが、十も年を取ったようなやつれようだ。
山本は南雲を責めなかった。どころか、茶菓をふるまってねぎらった。南雲にすれば、銃殺にされた方が楽だったかもしれない。
おれは、ゲームをする前に「予習」した時は、この戦いに負けたのは南雲が優柔不断だったからだと思っていた。
だが、今は、一番責任があるのは総司令官の山本ではないかという気がした。
なぜ、山本は戦闘を南雲機動部隊に丸投げして、自分達ははるか後方にいたのだろう。
せめて、戦況がどうなっているかわかる位置にいて、南雲がテンパッていたら一言指示を出してやっていれば、あんな負け方はしなかったんじゃないだろうか。山本が南雲の性格を把握していたのなら、なおのことだ。
ミッドウェー島からの攻撃を受けた時「雷装のまま待機」、『運命の5分間』の時に「爆装のまま出撃せよ」と、一言いってやっていれば、あるいは結果は変わっていたかもしれない。
敦も、「わっかんねーなあ、この人」と首を捻っている。
ゲームソフトについていたリーフレットを読むと、史実と逆の決断をしたからといって、必ずしも勝敗がひっくり返るとは限らないとあった。どんな決断にも必ずメリットとデメリットがあるからだ。
たとえば、ミッドウェー島から攻撃を受けた時、あくまで雷装のまま待機していたとしても、DF零戦が一機でも敵を通してしまえば、赤城は同じ運命を辿ったかもしれない。
その意味では、何度やっても楽しめるのだが、おれも敦も二度とやる気になれそうになかった。
重い。重すぎる
自分の国が負けるストーリーだったからかもしれないが、痛い、切ない。みんな、あんなに頑張ったのに。
やっぱり戦争はスポーツとは違う。やられたら終わりでリベンジなんかできないんだ。
父さんには悪いけど、おれはもうこのソフトは使わないだろう。
アニメが終わって、エンディングテーマが流れた。少しハスキーで可憐な女性ヴォーカルだった。
わたしたち どこで間違えてしまったのだろう
どこまで引き返せばやり直せるんだろう
万里の波濤を乗り越える船を造っても 天翔る翼を与えられても
いつも戦いに使ってしまう
わたしたち 今頃は月に住んでいるはずだった
宇宙ステーションの窓から地球を眺めているはずだった
宇宙船に乗り込んで 星の海を進んでいたかもしれなかった
なのに まだ地上にへばりついて 血を流し合っている
わたしたち いつになったら 手を取り合えるんだろう
相手を自分色に塗りつぶすのではなく
お互い違ったままで微笑みあえるんだろう
群青の海は何も言わず ただたゆたっている
すべてをのみこんだまま 黙って揺れている (終わり)
全てがバッドエンディングのゲームって
確かに、そんなゲームが存在すれば重すぎるゲームですね
ここまで凄いストーリーを書かれましたね。
でも、要点はエンディングテーマと「やっぱり戦争はスポーツとは違う。やられたら終わりでリベンジなんかできないんだ。」
・・・ってところかなって感じはしましたね
基本、本を読むのは好きではないし・・・
(おかげさまで国家試験受かるのに普通の人以上に苦労したかもwww)
ましてや小説なんて書いたこともないからわからないですけど・・・
やっぱり、こう言う話を書くのって・・・
最初にエンディングが頭に浮かんで、逆算していくのですか
毎回コメント頂き、励みになりました。
この話は、太平洋戦争関係のドキュメントとか読んでいるうちに、何かアウトプットしたくなって書いたという感じです。
わたしは出だしが決まったらいきあたりばったりに書いていくタイプですね(^^;;
今回は史実があったので、ストーリーは考えなくてすみましたが、楽しく読めて、戦争について考えるきっかけになるような話になっていればいいなあと思いながら書きました。