前から一度読んでみたかった、ひろさちやさんの本。
著者のひろさちやさんは、元大学の哲学の教授で、仏教を中心にわかりやすく宗教を説く本を何冊も書いておられます。
この本を店頭で見るまでは、阪神ファンだとは知りませんでした。
それも、今や絶滅が危惧されるオールドタイプのファンです。
ダメ虎だった阪神と共に辛酸を嘗め、アンチ巨人&アンチ東京。わたしの親ぐらいの年代以上の人は、たいていこのタイプです。
阪神タイガースのファンというのは、阿呆ばかりやと思いますね…
実際には、賢い人はあまり阪神ファンにはならず、どこか他のチームのファンになっていますし、逆に阪神ファンであり続けるためには、相当の阿呆でなければ無理ですね。賢い人は、あんな球団はすぐいやになってしまいます…
わたしが大学教授をやっていたある日、大学でトイレに入った。ところが、なぜかおチンチンが出てきません…すててこを後ろ前に穿いていたのです…
だが、その夜、阪神タイガースが試合に勝った。
それでわたしはそれからの五日間、ずっとすててこを後ろ前に穿いていました。
しかし、わたしがそんな不便な生活をしているのに、いっこうに阪神タイガースは勝たない。
その結果、ついにわたしは、
〈要するに、阪神タイガースは”だめ虎”なんだ〉
という真理を再確認したのですが、同時につくづくと自分の阿呆さ加減を知ることになったのです。そして、
〈阪神ファンって、みんな阿呆ばかりと違うんか…〉
と悟りを開き、心の平安を得たのです…
要するに、阿呆でなければ阪神ファンをやってられないし、阪神ファンをやっていれば、いずれそのうち自分の阿呆さに気づき、阿呆さに気づけばやがて「心の平安」が得られます。そういう仕組みになっているのです。
こんな調子で始まるのですが、最近阪神のファンになった人の中には、この文章に違和感を感じる人もいるかもしれません。
「え? 阪神強いやん。なんで?」
と思われるかもしれませんが、阪神はその歴史のほとんどの間、「だめ虎」であり続けでした。
TVをつけたら負けてるし、珍しく大量リードを奪って、なんぼなんでも今日は勝つやろうと思って、後でスポーツニュースを見たら負けてるし、毎年4月5月は絶好調で「今年こそ優勝か」と思わせるんですが、6月になると失速し、七月以降は消化試合。連勝したら必ずその後、それに匹敵する連敗を喫する。優勝は20年に1回の周期。
こんなだめ虎時代は、それほど昔のことではありません。2002年までそうだったんです。
当然、ファンは応援しているうちに、親馬鹿の親か、だめんずうぉーかーな女性のような心境になってしまいます。
「ダメな子ほど可愛い」
「わたしが見捨てたら、この人は終わってしまう」
ひろさちやさんもそうみたいです。
こんなタイガースでもいいんだ。いや、こんなタイガースだからこそ、すばらしいんだ。タイガースよ、おまえの阿呆なところが俺は好きなんだ。だから、負けたっていい。優勝できなくってもいい。おまえがおまえであっていいんだ。そのように思えるようになるのです。無理にでも、そのように思わねばなりません。そうでないと阪神ファンをやっていられないからです。
競争をし、勝負事をすれば、当然、勝った者と負けた者が生じます…競争というものは、そんな結果にこだわらず、ゲームを楽しむのが本来でしょう。ある意味では結果なんてどうだっていいのです。
それは人生というゲームでも同じです…
ですが、現代日本の社会風土では、競争を楽しむなんてとんでもない。みんな血眼になって勝とう勝とうとしています。
そんななかで、阪神タイガースだけは、
―負けたかてかめへんやんか。楽しければええんや―
といった、いわば仏教の教えを地で行くチームでした…仏教の慈悲の精神を実践して、他のチームを喜ばせ、みずからはゴーイング・マイ・ウェイ的に敗者の地位を楽しんできました…
おそらく、今の阪神ファンには2つの世代があるんじゃないかと思います。
ひろさちやさんのような第一世代のファンと、2003年以降にファンになって阪神は強いと思っている第二世代のファン。
でも、阪神は本当に強くなったんでしょうかね。
たしかに、毎年のように優勝争いに絡むようにはなりましたが、
「からんでるだけやん」
ともいえそうです。
去年、阪神は後半一気に首位を奪い、盛り上げるだけ盛り上げて最後はヘタってしまいました。さんざん期待させて最後は裏切るところは、だめ虎時代と全然変わっていません。
でも、盛り上げるだけは盛り上げるので、ファンはつい「夢を、感動をありがとう」と思ってしまうんですね。
今年だって、前半あれだけ独走していたのに、今や巨人と1ゲーム差です。
もう笑うしかありません。
わたしはもう、この3連戦は3タテを覚悟しています。
間もなく首位がいれかわっても驚きませんよ。
「強い阪神が好き」「優勝できそうだから応援する」なんて言ってたら、とても身が持ちません。
「こんなギャグマンガみたいな阪神が好き」と思うしかないでしょう。
ひろさちやさんは、ご自身を「旧人類、化石人類的ファン」と呼んでおられますが、阪神の本質が変わらない以上、ひろさちやさんの教えは今も有効です。
負けたかて かめへんやんか 虎が好き
これが阪神ファンの心意気です
勝っても負けても、強くても弱くても、優勝してもしなくても、あるがままのが大好きよん