AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
日々ブログレッシヴに生きる

火の鳥 ~ラヂヲ編~

2021年04月19日 | 二酸化マンガ
さて、先週のTOBICHI京都での『好調!和田ラヂヲ展』で購入した『和田ラヂヲの火の鳥』なんですが。


ピストルズの『勝手にしやがれ』カラー装丁が鮮やかな本書は、2年前に手塚治虫生誕90周年を記念して刊行された企画雑誌『テヅコミ』にて、一年半に渡って毎月8ページ、「火の鳥」をテーマとして連載されていたのをまとめた和田ラヂヲ先生によるトリビュート作品である。




正直手塚原理主義者の私としては、このテヅコミ企画にはほとんど興味が持てなかったが、以前よりその不条理なギャグのセンスとシュールな画にただならぬ魅力を感じていた和田先生が、あの手塚治虫がライフワークともしていた壮大なスケールで描かれた不朽の超大作『火の鳥』を、一体どのように料理したのかと大変興味をそそられた。


購入したその日に京都四条大橋前の鴨川を見はるかす見晴らしのいい喫茶店で、普段なら絶対注文しない季節限定の桜どうのラテを(大ハズレ!)片手にワクワクしながら本書を熟読したのであるが・・・


う~む・・・・これは、さすがは和田先生。


手塚先生の急逝で完結することが叶わなかった『火の鳥』。
和田ラヂヲ先生がその意志を受け継ぎ、作品の抜けていたパーツを見事に補完してくれた、これは手塚治虫が最後に描こうとしていた火の鳥の『現代編』と言えるのではないか。




まぁ完結しなかったとはいえ、『火の鳥』は編ごとに時代背景も主人公も全く違う独立した物語なので、結末がとうとう謎のままに終わったぁーーっていう残尿感の残る未完作ってワケではなく、各編ごとでは十二分に完結している物語なのです。
なので手塚先生が最後に描こうとしていた『現代編(大地編)』の内容も、全く誰にも予想のつかないまた別次元の物語が用意されていたに違いない。

今回和田ラヂヲ先生は、それをさらに1話完結の物語にまとめてるんだからモノ凄い離れ技をやってのけたと言うほかない。
もともと2~4コマ(あるいは2ページ程度)マンガが主流の作家さんなので、8ページもの長編に挑んだのは今回が初めてらしく、その創作苦労とプレッシャーは我々の想像を絶するものであったかと。


まぁ本書を読んで、何人かの人は「なんだよ、火の鳥全然出てこねぇじゃねーかよ!」とか、「銘柄だけかよ!」と憤慨した方もいらっしゃるかと。



だが、『火の鳥』の原作を読み込んでいる者ならみなわかっていると思うが、手塚治虫の『火の鳥』でも、火の鳥はなかなか出てこないってこと。
平安時代末期が舞台の『乱世編』などでは、“火焔鳥”として言い伝えられるだけで、火の鳥は全く出てこないまま物語が終わったと記憶している(ただし角川文庫版での話)。
まぁ出てきても、せいぜい夢の中で主人公に語りかけるか、化身と思われる姿になって現れる程度。
そう、和田先生はその手塚の手法を自分なりの描き方で踏襲しているに過ぎないのである。

ただ、原作の火の鳥は、出てきたら出てきたでクンロクが多くよくしゃべり、お節介かつエコ贔屓も極端で、しかもイケメンに弱いときてるので(すぐ永遠の命の血を与えようとする)、手塚ファンの間では一番きらわれている存在かと。

その点和田版の火の鳥は実に寡黙で控えめなところが好感がもてる。



本書で注目に値するのが、やはりダンディ口髭のこのおじさん。



この髭のおじさんは、容姿と性癖からしておそらく同一と思われる人物として少なくとも三編に渡って登場する。
ただ、各編ごとに社会的地位が違っており、時代や国も微妙に異なっているかと思われる。

「航空編」では機長。



私はこれは、手塚が火の鳥の中で描いたテーマのひとつである“輪廻転生”を表しているのではないかと。
(でなければスターシステムの導入か?)

『火の鳥 -鳳凰編-』より。



この髭のおじさんは、なにかの罪で何度生まれ変わっても女の尻に執着するという永劫の罰を火の鳥によって課せられたのだと。
それが罰といえるのかどうかは議論の余地があるが。


「エリア51編」ではアメリカ国家機密区域施設の所長を務める。
ここでも尻ウォッチングをやめられない所長としての苦悩が描かれている。



実は第3話の「ジュピター編」でも、よく似た顔のケツアゴの口髭おじさんが登場する。
非常にシモネタが好きっぽい。
宇宙旅行が可能な時代だから、これはだいぶ未来の話と受けとることができる。
この人物があの尻ウォッチングおじさんの遠い子孫かどうかは別として、この作品にも手塚作品への強いオマージュを感じ取ることができる。

たとえば、この冷凍睡眠してる人の起こし方である。



手塚版『火の鳥』の「未来編」で実は同じような場面がある。


5千300年後・・・


そう、冷凍睡眠中の人間の起こし方には、慎重さが必要なのだ。


手塚版の「未来編」では、このように永遠の命を授かったものの孤独の苦しみや、救いようのない絶望的な未来が延々と描かれていて読んでて非常につらいのだが、だからこそ和田先生は逆に、鉄鎚で割っても平気な冷凍睡眠が可能な技術の発達した、そんな明るい未来が描きたかったのではないだろうか。

和田先生は、おそらくポジティブな性格の作家さんなのだろう。


全くといっていいほど手塚キャラらしいキャラが登場しないこの『火の鳥』に納得のいかない手塚ファンに気を使ってか、本編とはべつにメジャーな手塚キャラが登場するおまけの短編が巻末に4話ほど収録されている。

「ブラックジャック」。


合成人間であるピノコをちゃんと年相応の6~7等身の姿で描いてあげているところに先生のやさしさが窺える。


そして、本書を刊行する際に新たに書き下ろされた「旅の宿編」。



これは和田先生の出身地であり、活動拠点でもある愛媛県松山市の道後温泉からインスパイアされた物語なのではないだろうか?
まぁ和田先生なりの“望郷編”といったところだろうか。望郷ゆーてもずっとここに住んではるみたいやけど。

道後温泉はなにを隠そう、手塚治虫の『火の鳥』とコラボしてる温泉施設ですので、和田先生が『火の鳥』を描くことは必然の事だったんだと。

いつかきっと行ってみたい場所のひとつ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« はじめての和田ラヂヲ展 | トップ | 4DXの脅威 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

二酸化マンガ」カテゴリの最新記事