AcousticTao

趣味であるオーディオ・ロードバイク・車・ゴルフなどに関して経験したことや感じたことを思いつくままに書いたものです。

3699:レコード

2016年04月29日 | ノンジャンル
 レコードはエリック・サティのピアノ曲を収録したものであった。サティはフランス近代音楽において独自の位置を占める作曲家である。
 
 生涯反アカデミズム、反ロマン主義的立場を一貫して取り続け、ユニークな作品も多い。それゆえか、生前は広く認められることはなく不遇であった。

 エリック・サティの「ジムノペディ 第1番」のゆったりとして、どことなく哀愁を帯びた旋律がTANNOY GRFから流れだした。

 TANNOY GRFはコーナー型のキャビネットを有する。この部屋はTANNOY GRFを使用することを前提に設計された。両コーナにはちょうど良い間隔を持ってスピーカーがセッティングされている。

 この曲は心を穏やかな方向へ沈静化させる効能が高い。ややぬるめで白濁した温泉に肩まで浸かっている時のような、沈静効果を私の心にもたらす。

 ロードバイクでの高速走行で疲れた体は、その疲労を徐々に回復し、心からはこびりついた様々な不要な残滓が溶け出していくような感覚に捉われた。

 この曲は心理療法でも使われることがあるという。そのことがすっかりと納得されるような体験である。

 ジャック・フェヴリエの演奏は無駄な装飾がない。この曲に深くそして自然に寄り添い、一音一音を大切に紡ぎ出している。

 淡泊な演奏と評する向きもあるとは思うが、ピアニストというフィルターを除いた自然なサティの横顔が垣間見えるような気がする。

 レコードの片面をレコード針がトレースし終わると、レコードは次なるものに変えられた。それは、ディヌ・リパッティの演奏によるショパンのピアノ曲を収めたものであった。

 ディヌ・リパッティは1917年ルーマニアに生まれ、1950年にわずか33歳でこの世を去った。「天才は夭折するもの・・・」であるが、彼は典型的な天才型。

 リパッティのピアノの音色は、清潔で繊細な詩情に覆われている。天才の演奏は、孤高のセンスとテクニックによって、ショパンの音楽の持つ詩情を、適切に過不足なく伝えてくれる。

 リパッティは、不治の病と闘いながら、レコーディングに取り組んでいたと言われている。初期のモノラル録音であるので、コンディションの良いレコードは比較的少ないが、その演奏からは、命を削りながらの渾身の演奏の様がひしひしと伝わってくる。

 そこには避けがたい死を目前にして、それを運命として受けいれた人間の精神的な穏やかさや強さ、あるいは何かを見通したかのような透明な視線を感じる。

 苦悩に顔を歪めることはなく、純粋に芸術としての音楽の精神性の高みを極めようとするリバティの強さをも感じる。

 TANNOY GRFからは、音楽が持つ「気」のエネルギーが霧のようになって吹きだされる。それを体に受けると、心身ともにリフレッシュされる。

 レコード、とりわけオリジナル盤にはそういった「気」が濃厚に記録されている。その「気」を、Aさんのシステムは上手に拾い上げるようである。
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