中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

第7回紬きもの塾――布を織る

2016年10月27日 | 紬塾 '13~'16
今期も4名の染織実習コースの方が4回目で紬の小さな布を織り上げました。
4回の実習の各回を振り返ってもらいました。
みなさんの素直な気持ちや感動が伝わってくるレポートです。
長文もありますが、ぜひお読み下さい。

初心者だからテキトーな素材や指導の仕方ではなく、私がしている同じレベルの道具や素材を使い、織物の基本である糸と向き合い、道具の扱い方から大事なことは何かを一人ひとりが気づきながら進められるようにしています。
それぞれデザインなど四人四様ですが、ふっくら風合いの良い、紬らしい布が生まれました。
紬といっても糸の味わいや堅牢さのことよりも中途半端な作為や自己表現系の気持ちの悪いものも多い中、糸や色と、また限られた時間内で真摯に向き合った、私が見てもそれぞれに美しく、ずうっと見ていたいような布が生まれました。みなさんはどう思われますでしょうか?

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[真綿から糸を紡ぎ、糸を草木で染め、糊を付けて設計し、手織りをする。
文字で書くと一行だけれども、その過程は発見と驚きの連続である。
行間にこそ味わいがある。
昔、くず繭と言われた真綿が高級品になり、手紡ぎの糸が最高級品となった
訳は糸をつむいでみて初めてわかる。
均一に糸を引きだし、つむぐのは至難の業。集中力と技術が必要である。
大変難しい。わずか真綿2枚、28mの糸を紡ぐのに2時間以上。私の
糸は細くなったり、太くなったり・・着物や帯の長さを紡ぐのには経験と技術
が不可欠である。
先生のお宅の庭の木を切って、細かく砕き植物から色をいただく。
まさに植物の命をいただく。春・夏・秋・冬と同じ木でも出る色が変わる。
自然の素晴らしさ、色の美しさを知るのは驚きであり、心が震える。
自分の手でつむいだ糸を自分で枝を切った植物で染める。
28mの柿の木で染めたベージュの糸を管に巻き、杼に入れた時に神聖な気持ち
になった。
先生が使っている機を使わせていただく贅沢な時間。
実際に織り始めると考えていた設計通りには行かなかったけれど、集中して機と向き合い、糸が布になっていく感覚、実感にこの時間がいつまでも続けばいいのに・・とさえ思った。
わずか3寸の味のある布。けれども、とっても愛おしい。
着物を愛する私にとってこの経験は大変貴重だった。
本物を知る、本物に触れる。
またひとつ違った視点を持って着物に向き合える気がしている。
貴重な時間と場所を提供してくださった先生に心から感謝して、これからも着物を着ていきたいと思っている。 K.A]

<講評>「私は不器用だから」とおっしゃられていましたが指示に従って進むにつれ、後半は私がそばで見ていなくても自分の力で織り進んでいきました。これだけできれば十分です。
コントラストのある色糸を選ばれ、スッキリしたモダンなデザインです。

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[『繭からひく糸と真綿からつむぐ糸。初めて真綿からつむぐ糸は、太くて立派な糸が出来ました。
桜の木、柿の木を煮出して、染色。優しい色に染まって感激です。
煮出す時間で、色が変わるのも、同じ色が出ないのも個性で楽しい。鉄とアルミで違う色に一瞬で変わるのも手品みたいでした。
設計図を書くのに単位が良く解らず、四苦八苦。
初めての機織りは、あっちを気にすると、ひとつ忘れる―と、中々頭と身体の動きが一致せず、大変でした。
出来上がりは、とっても優しく、ずっと見ていても飽きなく、嬉しかったです。見る角度で、表情が変わり、可愛く思えました。また、やってみたいです。
とても手間がかかる事、大切な物である事、実感しました。
持ってる着物大切に着ていこうと思います。素敵な時間をありがとうございました。』 S.Y ]




<講評>随分シンプルな設計で、色も自分の糸ともう1色のみ。どんな布になるのかしら?と楽しみに傍らで見ていましたが、ご覧のような柔らかな優しい雰囲気の布になりました。糸も確かに立派でした!!

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[実習では真綿から糸を紡ぎ染めて織る過程を大まかに経験することが出来ました。
実習全体を通して印象に残っていることは材料も水も媒染材も限りあるモノであり無駄にせずに必要な分を使うという先生の姿勢でした。
染める布や糸の分量に対して必要な分量の木の枝を準備して刻んだこと。
染めの作業で使う水もためすすぎで良いところとそうでないところの指示があったこと。
織りで糸を継ぎ足す際に糸を無駄にせず足すこと。
材料や資源に向き合う基本的な姿勢を学びました。
実際に素材に触れてその感触や色を見るという経験も貴重でした。
角真綿からの糸紡ぎは初めての経験で指が思うように動きませんでしたが糸が出来る様を感触で知るとこが出来ました。
染めでは直前に切った柿や桜の枝から仕上がりの色が出てくるまでの楽しみがありました。
織りでも糸の色の組み合わせや太さの違いで出てくる風合いは想像以上でした。この実習を通してどの工程もさらに深めていきたいという意欲を持つことが出来ました。先生の技術、また貴重な材料をふんだんに取り入れての学びに感謝しています。H.Y]

<講評>こちらもシンプルなデザインですが真ん中の濃いピンクが効いています。
一越一越細かく地糸と色糸を混ぜるデザインでしたが耳もとてもきれいです。

杼の置き方を意識すると耳糸がきちっと絡み合います。みなさんメジャー通りに織るだけで精一杯なのですが、私が傍について「はい上、はい今度は下」\(^o^)_と最初は指示を出していましたが、そのうち全員の方が自分でできるようになりました。着尺は特に耳が大事です。

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[4回の染織実習は、毎回、学びの多い有意義な時間だったと同時に、先生の着物が見る人の心をうつ理由を解き明かすドキュメントのようにも感じました。

1回目は糸をつむぎました。
それまで製糸した糸を見て好みの糸を選ぶ範疇に留まっていた私は、蚕が一心不乱に休むことなく首を振り糸を吐き続けて繭を作り、それが節のない生糸や節のある紬糸になるというお話を伺い、単なる糸ではなく生命が宿る糸として再認識することになりました。
そして、真綿から糸口を見つけてつむぐと次々と絡み合い、最後まで一本の糸に繋がっていくことを知り、蚕の営みに感嘆しました。
また、つむいだ糸が4人全く違う表情となりました。「糸の表情が景色をつくる」という先生の言葉を実感するのは最後の織り実習に託されました。
2回目は紡いだ糸と帯揚げの染色です。
庭の桜の小枝と柿の葉を全体を見ながら木の成長を促すようにあっち、こっちと切り、更に切り口を斜めにした細かいチップにし、持っている色を最大限生かすようにして煮出しました。
この染色で強く心に残ったことがあります。紡いだ糸を柿の無媒染で染めましたがとても淡い色合いでした。しみじみときれいだなと見入りましたが、ふと顧みると、いつもの私は、もう少しもう少しと濃く染めることを考えていたように思いました。この微妙な色を感じとれる感覚を胸に刻みたいと強く思いました。
また、帯揚げを桜の鉄媒染で染めましたが、鉄は吸収しやすくムラになりやすいからと先生は全身でのめり込むように布を動かし、その勢いに圧倒されました。
干す時もしっかり広げて空気酸化を促し自然光の中で色がさえわたっていくことを教えて下さいました。
草木染めへの畏敬の念を隅々に感じ、五感と身体全体で染める姿を見るにつけ、草木から色の命を頂くという本当の意味がわかったような気がしました。
3回目は糸の糊付けと織物設計です。糊は糸の状態によって固さを変えるということです。
経糸に節のある糸を使う難しさを糊付けの試行錯誤でのり越えてこられた先生のこだわりを垣間見た気がしました。
4回目はいよいよ織物実習です。
経糸に節のある糸を使って織るのは初めてで、途中で大きなかたまりの節が出るたびに先生に助けを求めました。
節を個性的な我が子をあやすように、上手に生かして織り進めていくように思え、難しいけど楽しいと感じました。
また、経糸がこすれてダメージを受けるのを防ぐ踏木の踏み方や杼の置く位置、緯糸の接ぎ方などを教わりました。一つひとつ無駄なく道理に適ったやり方に感心するばかりでした。
更に織物設計図に従って織りつつも本数や太さを変えたり、撚りの強弱で違う表情をつくったり、同系色の濃淡の違う糸をもう一本添わせることで奥行きを出したりしながら全体の景色をつくっていくという繊細な織り方も実際に教わりました。相当高度な技だと思うのですが、私ももっと深く掘り下げ、美しさに敏感になって織物に向き合っていきたいと強く思いました。

毎回、細やかに惜しみなく教えて下さることに胸が熱くなりました。
そして心をうつ作品は作家の感性に頼るところからは生まれない、なまやさしいものではないことを強く感じた染織実習でした。N.T]

<講評>この方は絹の染織経験のある方です。いろいろ悩みながら制作されているようですが、今回の経験から大事なことを掴んだように思います。最後の一行を肝に銘じてほしいです。
これからは創ること、着ることの両輪で確かなものにしていって下さい。








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