村上さんの短編小説を読んだら長編も読みたくなって、『ねじまき鳥クロニクル』を読み始めた。確実に15回は読んでいる。17回目か18回目のはずだ。
筋も完全にわかっているが、毎回新たな発見があるのだ。第一部から第三部までで文庫本でトータル1270ページもあると全部の文章を頭に焼き付けて読んでいるわけじゃない。それにノーベル文学賞に毎年名前が挙がる村上春樹が書く文章であってもなんとなく冗長だなあとか、くどいなあとか感じたりする部分もある。テンポの良い展開がずっと続いていくわけでもない。冗長だと思うような場面は面倒だと思いながらさらっと流してしまっている事もあるから、繰り返し読んでいる時にハッとさせられるのではないかと思う。こんな事が書いてあったのかと。
この本で最も引きつけられるのは何と言っても、第一部にある“皮剥ぎ”の場面だ。山本という民間人を装った軍人がモンゴル軍の兵士に生きながら皮を剥がされていく場面。その前後の本田伍長の不可思議な行動なども含めて間宮中尉によって語られていくところは残酷で気持ちが悪いところもあるが非常に引きつけられる。また、間宮中尉の手紙(こんなに長い手紙があるのか?)で語られる戦争体験の詳細は、ある程度事実に基づいているのだと思うが、亡くなった父親から聞いた戦争の話から形成された村上さんの戦争観が反映されているものだと思う。
加納マルタ、加納クレタ、赤坂ナツメグ、赤坂シナモン、笠原メイなど主要なキャラクターも非常に魅力的に配されていて、彼らと主人公との関わりも非常に面白い。面白いというのは興味深いという事。
村上さんはこの作品を三年くらい掛けてアメリカのボストンあたりで書いていたらしい。理想的な総合小説としてはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を挙げていて、現代においての総合小説を目指したものであると何かで読んだような気がする。その後、長めの長編としては『海辺のカフカ』、『1Q84』を書いていている。
そのほかの作品もどれもが魅力的なのだが、俺はこの『ねじまき鳥』に戻ってきてしまう。俺にとっては、引きつける力が一番強い作品なのだ。