備忘録として

タイトルのまま

2013-02-12 00:11:13 | 映画

シンガポールは中国正月で休日が続くということもあり帰国して3連休をとっている。入院中の愛犬の見舞いに行き、撮りためていた映画やドラマを観て、上野国立博物館に円空展を見に行った。

「夢」1990、監督:黒沢明、出演:寺尾明ら、黒沢明晩年の作品である。高校生の時、文化祭で映画部が上映する「七人の侍」に感激し、黒沢明の作品を見ようと劇場に足を運んで観たのが「どですかでん」だった。「七人の侍」のような活劇を期待していた高校生にとって「どですかでん」は何とも意味不明の映画だった。その後、黒沢映画全30作の大半を観てきたが、「どですかでん」以降のカラー作品には前半の白黒作品にある娯楽性が薄れ、後期の「乱」や「影武者」はストーリーよりも芸術性や映像美を追求しているように感じ好きではなかった。黒沢自身、映画の成否は脚本にかかっていると言っていたのに、後年映像美や心理描写をしつこく映像で見せるようになったことは、老化の所為ではないかと生意気にも思っていた。そのため、黒沢の老人の夢を映像化した「夢」はその最も典型的なものであるはずだという先入観があり観ようという気さえ起きなかった。

だから期待せずに見始めたが、冒頭の”狐の嫁入り”や次の”ひな祭り”はやはりという感じだった。ところが、”トンネル”で全滅した連隊に会うあたりから徐々に夢に引き込まれ、あとは原発事故、環境破壊、スローライフなど今日的なメッセージが込められていて、特に最後の水車の村で笠智衆のおじいさんが語る文明論、人生論は良かった。いい人生を送った人を送るお葬式はお祝いなのである。とはいえ前期白黒作品と比較すると、★★★☆☆

「東京物語」1953、監督:小津安二郎、出演:笠智衆、東山千恵子、原節子、山村総、杉村春子、香川京子、尾道の老夫婦が、それぞれ独立し家庭を持って東京で生活する息子や娘を訪ねる。東京の子供たちには自分の生活があり、長男の家と娘の家に泊まったあと、しばらくすると老夫婦は熱海の安宿に体よく放り出され、東京に戻ると泊まる場所さえなくなってしまう。老母は戦争で死んだ次男の嫁(原節子)の家に泊まり、老父は旧友と飲みつぶれて夜中に娘の家に帰ってくる。老母は旅が身体に障ったのか東京からの帰り道体調を崩し尾道に戻るとすぐあっけなく亡くなってしまう。その死に際してあまりにも義務的な長男と長女の態度に末娘は怒りを露わにするが、ひとり残された老父は怒るわけでもなくその境遇を淡々と受け入れる。老夫婦が何度も広島風アクセントで口にした「ありがと」という言葉に二人の優しさや謙虚な生き方が感じとれ、情のない息子や娘さえも許せる気持ちにさせられた。子を産み育て、年老いていく人生は感謝の気持ちさえ持っていればそれなりに幸せなのかなと思う。それにしても笠智衆は「男はつらいよ」の御前様の印象ばかり強かったが、この俳優はすごい。1953年の「東京物語」から37年後の「夢」でも同じように笑顔の素晴らしい老人を演じている。笠智衆(1904生~1993年没)

この映画は英国映画協会(British Film Institute)の監督が選ぶ世界の映画のトップ100で1位、評論家が選ぶトップ250で3位に選ばれている(http://explore.bfi.org.uk/sightandsoundpolls/2012)。黒沢明の「羅生門」や「七人の侍」よりも上位にランクされている。玄人受けする理由はよくわからないが、登場人物の会話や何気ない態度を見ているうちに各人の性格や価値観や関係性や背後にある人生が自然と見えてくる。物語は淡々と進み、よくある安物のヒューマンドラマのように、出来事をことさらドラマチックに見せるわけではないので、感情が大きく揺さぶられて泣いたり笑ったりする場面はなかった。人間の日常をリアルに切り取ったら東京物語になるのだと思う。それでも映画を観終わると、しみじみと人生、親子、家族、生死を考えさせられるのである。★★★★☆

「ARGO」2012、監督:ベン・アフレック、出演:ベン・アフレック、ブライアン・クランストン、1979年のイラン革命ではアメリカ大使館が占拠され大勢の大使館員が人質にとられた。占拠直前に大使館を抜け出した6人はカナダ大使館に保護される。CIAは、6人をSF映画の撮影班に偽装してイランを脱出させようとする。脱出に際して、素性がばれそうになったり、計画をめぐって上層部と対立したり、この計画に一番懐疑的だった男が活躍したり、既視感いっぱいの危機が連続するだけなのだが、6人の運命にはらはらさせられた。アルジェリアの人質事件があったばかりだった所為かもしれない。★★★☆☆


最新の画像もっと見る