オムライス弁当

①オムライス
②鶏ハム
③グリーンアスパラ
④ミックスベジタブル
⑤河内晩柑
⑥いちじくのワイン煮柚子添え


その麗人は、蔦のからまるお邸に（多分）一人で住んでいる。
ご主人はとても素敵な気鋭の建築家だったが
ガンで若くして亡くなられた。

地元のテレビでコメンテーターをされていたので
私は秘かに憧れていて、まだ40になるかならずで
亡くなられた時、びっくりしたものだ。

相思相愛のご主人が亡くなられてから
泣き明かして暮されるのか、と思いきや
こだわりのパン屋を開業されたから
”女はたくましい…”と思った。

しかし、優雅なパン屋で、
週4日の営業。
ゴールデンウィーク、お盆、正月は10日近くの休業。
配達もやっているようだが、
基本的に、予約注文のパンを
蔦のからまるお邸に取りに行く。

ご本人は大抵不在で
注文した客は、名前を貼ってカゴに置いてあるパンを取って
代金は袋に入れて、翌週の注文を書いていく。

お邸は、熊本市内のど真ん中にあるのに
鬱蒼として、庭には、花が咲き乱れ
一種世離れた空間だ。

そこにパンを取りに行くのは、
何だか楽しい。

麗人は知り合った頃と少しも変わらず
蟲惑（こわく）的な瞳で魅了する（東京の深窓の令嬢だった、とか）

そのパン屋、皆に教えてあげたいけど、教えたくない。
あのひっそりとしたお邸にパンを取りに行く楽しみは
私だけのもの…ごめん。