透明タペストリー

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「箱男」を読む

2024-06-29 | A 読書日記

 安部公房の代表作の一つ『箱男』が映画化され、8月に公開されるという。是非観たい。どのような映像表現がされているのだろう・・・。映画を観る前に読んでおこうと、残りの他の作品に先んじて『箱男』(新潮文庫1982年10月25日発行、1998年5月15日31刷)を読んだ。


『箱男』を箱本(などという言葉はないと思うが)、箱入りの単行本で読んだのは1977年だった。その後、文庫本で1998年、2009年に読み、2021年にも読んでいる。

やはり安部公房の代表作である『砂の女』は要するに人間が存在すること、とはどういうことなのかという問いかけだった。既に書いたけれど、これは安部公房がずっと問い続けたテーマだった。『箱男』のテーマも『砂の女』とそう差異はないのではないか、と思う。箱をかぶることで自己を消し去るという、実験的行為。他者との違いは何に因るのか、他者と入れ替わるということは可能なのか・・・。

読んでいて、贋箱男なのか本物の箱男なのか混乱してくる。注意深く読み進めればそんなこともないのだろうが、どうもいけない。注意力も記憶力も読解力も低下している。いや、安部公房はテーマに沿って意図的に読者を混乱させようとしていたのかもしれない。

今のSNS上の人間って、ダンボール箱をかぶって、のぞき窓から人を観察する箱男と同じではないか。自分が誰であるかを明らかにしないで、即ち自己を消し去って、SNS上に情報を発信し、SNS上の情報を受信する人間と箱男は重なる。

『箱男』は表向きエロティックな小説である。このことを示す箇所の引用はさける。2021年2月に読んだ時の感想を次のように書いている。**単なる覗き趣味のおっさんの物語じゃないか、などという感想を持ってしまった。いや、そんなはずはない・・・。やはり僕の脳ミソはかなり劣化している。**

自己の存在を規定するものは何か、それを手放すとどうなる・・・。安部公房が読者に問うているテーマは今日的だ。そして難しい・・・。


手元にある安部公房の作品リスト

新潮文庫23冊 (文庫発行順 戯曲作品は手元にない。2024年3月以降に再読した作品を赤色表示する。*印の5作品は絶版)

今年(2024年)中に読み終えるという計画でスタートした安部公房作品再読。6月28日現在12冊読了。残り11冊。7月以降、月に2冊のペースで読了できる。 

※『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』を買い求めたのでリストに追加した(2024.06.29)。


『他人の顔』1968年12月
『壁』1969年5月
『けものたちは故郷をめざす』1970年5月
『飢餓同盟』1970年9月
『第四間氷期』1970年11月

『水中都市・デンドロカカリヤ』1973年7月
『無関係な死・時の壁』1974年5月
『R62号の発明・鉛の卵』1974年8月
『石の眼』1975年1月*
『終りし道の標べに』1975年8月*

『人間そっくり』1976年4月
『夢の逃亡』1977年10月*
『燃えつきた地図』1980年1月
『砂の女』1981年2月
『箱男』1982年10月

『密会』1983年5月
『笑う月』1984年7月
『カーブの向う・ユープケッチャ』1988年12月*
『方舟さくら丸』1990年10月
『死に急ぐ鯨たち』1991年1月*

『カンガルー・ノート』1995年2月
『飛ぶ男』2024年3月
『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』2024年4月


 


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