透明タペストリー

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「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」を読む

2024-07-02 | A 読書日記

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『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆(集英社新書 2024年4月22日第1刷発行、5月19日第3刷発行)を読んだ。この本は今ベストセラーになっているそうだ(6月22日付日経新聞読書(書評)面ほか)。

著者の三宅さんは本が読めなかったから、会社を辞めたとのこと。本の虫。**好きな本をたくさん買うために、就職したようなもの**(14頁)とまで言う三宅さん。

本も読めない働き方が普通の社会っておかしくないか、という問題意識から明治以降の読書の歴史を労働との関係から紐解き、読書の通史として示している。読書史と労働史を併置し、どうすれば労働と読書が両立する社会をつくることができるか、を論じている。

本書の終盤のなぜ本は読めなくてもインターネットはできるのか、という論考は興味深い。三宅さんは本は知りたいことだけでなく、「ノイズ」も含まれている、インターネットの情報はノイズが除去されていて、知りたいことだけ提供されてると指摘し、次のようにまとめている。**読書は欲しい情報以外の文脈やシーンや展開そのものを手に入れるには向いているが、一方で欲しい情報そのものを手に入れるに手軽さや速さではインターネットに勝てない。**(207頁)


『映画を早送りで観る人たち』稲田豊史(光文社新書2023年 過去ログ

映画を早送りで観る人たちが話題になったことも本書で取り上げられている。映画を鑑賞モードではなく、情報収集モードで見る人たち。効率よく情報を得るのに、ノイズ混じりの読書は不向きだ。ノイズのない情報をいかに効率よく収集するか、現在の労働社会では情報収集の効率性が求められる。だから読書ではなくインターネット、という図式。

**本が読めない状況とは、新しい文脈をつくる余裕がない、ということだ。自分から離れたところにある文脈を、ノイズだと思ってしまう。そのノイズを頭に入れる余裕がない。自分に関係のあるものばかりを求めてしまう。それは余裕のなさゆえである。だから私たちは、働いていると、本が読めない。**(234頁)

だが、自分とは異なる価値観、自分には関係がないと感じる知識、ノイズこそ大切だ、と三宅さんは説く。**他者を人生に引き込みながら、人は生きていかなくてはならない。**(230頁)のだから。他者を自分の人生に引き込むとは、自分とは関係ないと思われるノイズを排除しないで受け入れること。

それを可能にするために三宅さんは全身全霊をやめよう、全身労働社会から半身労働社会、分かりやすく言えば働きながら本を読める社会への転換を提言する。

「『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』ってどんなことが書かれた本ですか?」とKちゃんに問われれば(Kちゃんでなくても)、「要するにワーク・ライフ・バランスを最適化しましょう、と説いた本」とぼくは答える。「読書好きな著者の三宅さんはワーク・ライフ・バランスのライフを読書に代表させて「仕事と読書の調和」の必要性を説いている。これを個人の問題に帰着させてしまうのではなく、働き方と関係づけて論じたところがミソかな」と。そして、「巻末に示されている参考文献は10頁にも及ぶ。このような多くの文献をベースに分かりやすく論じているところも本書の魅力」と付け加える。


 


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