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「バーナード・リーチ日本絵日記」を読む

2023-12-04 | A 読書日記

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『バーナード・リーチ日本絵日記』(講談社学術文庫2022年第20刷)
いつもの朝カフェで読了 2023.12.04

 『バーナード・リーチ日本絵日記』という本があることは知っていた。今まで読む機会はなかったが、原田マハさんの『リーチ先生』(集英社文庫)を読んで、この本も読んでみようと思った。幸い松本の丸善にあったので買い求めて読んだ。

リーチはたびたび来日し、というような紹介文を目にするが、具体的には何回来日したのだろう・・・。幸い、この本の巻末にリーチの詳しい年譜が掲載されている。それによると1909年(明治42年)4月、22歳の時に初来日し、1974年(昭和49年)の10月、87歳の時に11回目の来日をしている。

『バーナード・リーチ日本絵日記』は1953年(昭和28年)の2月、66歳の時に3回目の来日をして、翌1954年の11月に帰国するまでのおよそ1年10カ月の間に全国各地を巡った時の様子や芸術等に関する論評を綴った日記をベースにまとめられた本。

読み始めて次の件(くだり)を読んで驚いた。**今日はまた思いがけないことに亀ちゃん(森 亀之助)の従妹が私を訪ねてくれた。**(45頁) 『リーチ先生』に亀ちゃん(沖 亀乃介)というリーチの助手が登場するけれど、この架空の人物は実在したこの亀ちゃんに想を得たのかもしれない。

1953年の3回目の来日は2回目(1934年~1935年)から18年経過していて、リーチは日本がすっかり変わってしまっていることについて、次のように書いている。**善であり、真であり、美であった多くのものが消え失せ、いまやその反対のものが存在している。(中略)混合は大規模に行われ、変遷は非常な早さで進み、風雅なおもむきなどが珍しくなってしまった。外から見た大都市は醜く喧騒で卑俗だ。**(94頁) 2回目の来日は戦前、3回目は戦後だが、やはり戦争がこの国に大きな影響を及ぼしたのだろう。

このように嘆き、悲しむ一方、次のようにも書いている。長くなるが引用する。**田舎は都市と比較にならないほど美しい。旅で、信じられぬほど我慢強い畑地と農夫たち、ひたむきな愛情と労苦に色どられた激しい手仕事に出会い、私は驚嘆する。
日本は真の藝術の国だ。(中略)この感受性、魂を養う五官を通じての感得、味わい、色彩、秘められた魅力。それは長い洗練の歴史を通じて生み出されたものであり、ここでは藝術が、外国の藝術すらもが、生活の一部として適切な位置に存在している。**(94頁) 

ここでは藝術が云々という最後の件はリーチが捉え得た限られた範囲での日本の姿と解しておきたい。

**時間の余裕がなかったため、多くの事柄を省略したし、またそれ以上に書こうとしなかったこともたくさんある。**(308頁)と断りの文章も書いているが、リーチが、東北、北陸、中部、山陽、山陰、四国、九州と全国各地を巡り、綴った日記を読み、リーチが描いた素描を観た。どちらも興味深かった。リーチが松本で描いた素描については稿を改めて書きたい。

まず驚くのは66、7歳という高齢(*1)のリーチが全国をかなりハードなスケジュールで巡り、講演をし、制作をし、展覧会を開催し、書物の執筆もしていること。そして日記も書いている。また、各地での歓待もすごい。陶芸家としてリーチの知名度は高かった、ということが分かる。

10の章から成る本章の第十章 むすびそしてお別れ でリーチは次のように鋭く洞察する。**日本人は、しばしば東と西、内と外、旧と新の間で混乱させられたように私には思われる。**続けて、**日本人は、深く、無意識的に、長らく禁じられていた、非常に新しく力のある西洋世界への参入を望み、自分たちのためになると考える故に彼らの文化遺産を捨ててしまうことを望んだ。**(313頁)

これに続く文章でリーチは濱田庄司と濱田の作品を激賞するが、ここでは省略する。

リーチが日本に滞在していた時、なにかと世話をしていた柳 宗悦はリーチについて**その日々は実に勤勉で、ほとんど無駄に時間を過ごしているのを見たことがない。**(18頁)と書いている。

年譜を見ても分かるし、『リーチ先生』を読んだ時も思ったけれど、バーナード・リーチの人生は実に充実していたが、陶芸家としてのリーチの人生を決したのはリーチが20歳のときロンドンの美術学校で高村光太郎と出会ったことだった。

やはり人生を決するのは人との出会いか・・・。


*1 ネットで調べて、1950~55年のイギリス人の平均寿命は男が66.7歳ということが分かった。


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