透明タペストリー

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「源氏物語と日本人」を読む

2024-01-23 | A 読書日記

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 NHKの大河ドラマ「光る君へ」が始まり、書店には紫式部、「源氏物語」に関連する書籍が並んでいてその数はかなり多い。

先日、松本の丸善で『眠れないほど面白い空海の生涯』由良弥生(王様文庫)と『源氏物語と日本人 紫マンダラ』河合隼雄(岩波現代文庫 2016年6月16日第1刷発行、2021年5月25日第2刷発行)を買い求めた。先に「空海」を読み、次にこの本を読んだ。

著者の河合さんは第1章 人が「物語る」心理 の冒頭に**『源氏物語』は光源氏の物語ではない。これは紫式部という女性の物語である。**(2頁)と書き、さらに少し先に**物語に登場する女性群像が光源氏という主人公の姿を際立たせるためではなく、紫式部という女性の分身として見えてきたのである。紫式部という一人の女性が、彼女の「世界」をこのようにして描ききったのだ、と思った。**(2頁)と書いている。なるほど。これが心理療法の研究者としての河合さんの見方、見解なのだ。

『源氏物語』は多くの女性を光源氏の相手役に据えて、様々な恋愛模様を描いた物語で、紫式部が宮中などで知った女性たちをモデルにしていると一般には解釈されよう。河合さんは次のように指摘している。**「内向の人」である紫式部は、自分の体験を外在する人たちとの関係として見るよりも、むしろ、自分自身の内界の多様性として受けとめたと思われる。**(93頁)

河合さんは源氏物語に登場する女性たちを光源氏との関係(関係性という言葉の方がよく使われるように思うが、両者の違いがよく分からない)によって「妻」「母」「娼」「娘」の領域のいずれかに捉え、この順番に扇形に四分割した円(マンダラ)に位置付けている(202頁の図)。

「娼」の円弧上には六人の女性が夕顔、朧月夜、六条御息所、空蝉、未摘花、藤壺の順にプロットされている。夕顔と朧月夜は光源氏との関係、振る舞いが似ているという印象だったがマンダラでもそのことが示されている。

また「娼」の隣の「娘」にプロットされているのは秋好中宮、明石の娘、玉鬘、朝顔。この四人の中で朝顔は「娼」の夕顔に最も近い位置にプロットされている。なるほど、確かにふたりは似ているが夕顔は「娼」で、朝顔は「娘」という位置付けは納得できる。マンダラという図によってビジュアルに示されると分かりやすい。本書に示されているマンダラについてこのように書いても理解できないどころかイメージすら浮かばないだろうから、興味のある方は書店で確認していただきたい(講談社+α文庫にも収録されている)。

河合さんは紫の上を「娘」から「娼」までマンダラの四つの領域をすべて経験してきた女性として捉え、その内容を解説している。一つの領域に留まっていなかったということだ。なるほど、確かに紫の上は光源氏との関係が密であり長期間続く存在感のある女性だ。このことはマンダラ四領域通過ということからも理解できるということだろう。

本書の章立ては次の通り

第一章 人が「物語る」心理
第二章 「女性の物語」の深層
第三章 内なる分身
第四章 光の衰茫
第五章 「個」として生きる

第三章から俄然面白くなる。

言葉の定義がよく分からず、充分理解できないところもあったが、物語に登場する女性たちを紫式部の分身と捉えるという本書の論考はなかなか興味深い内容だった。


この機会に「源氏物語」の関連本を他にも読みたい。