「篝火 世に例のない父と娘」
■ この帖(巻)は短く、「角田源氏」では4ぺージ(実質3ページ)しかない。
内大臣が引き取った近江の君の評判が芳しくない。この姫君の扱いをめぐって内大臣が非難されている。世間の噂を聞くにつけ、玉鬘は自分も実の父親である内大臣のおそばに参っていたら、恥ずかしい思いをしていたかもしれないと思い、光君に引き取っていただいて良かった、としみじみ幸運を感じている。
光君は玉鬘に下心を持ってはいるものの、男女の関係を迫ろうとはしない。で、玉鬘も次第に心を開くようになる。秋のある夜、**光君は琴を枕にして姫君とともに添い寝している。**(124頁) こんなことをしているのに・・・。
その夜、光君は女房に見咎められるかもしれないと思って帰ろうとするけれど、庭先の篝火に照らされる玉鬘があまりにも美しいので、帰りがたくてぐずぐずしている。そこで、**「篝火にたちそふ恋の煙(けぶり)こそ世には絶えせぬ炎なりけれ」**(124頁)と恋心を詠む。このくだりを読んでいて、「君といつまでも」と願う気持ちは加山雄三の歌にもあるなぁ、と思う。
これに対する玉鬘の返歌が実に好い。**「行方なき空に消(け)ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば」**(125頁)篝火のついでに立ちのぼる程度の恋なんですね。そんな恋の煙なんて果てのない空に消し去ってくださいな。やはりこの姫は賢い、いや紫式部は賢い。
この後、夕霧と柏木たちが招かれて笛を吹いたりする。玉鬘を実の姉とも知らずに恋心を抱く柏木は、彼女を前に緊張しながら琴を弾くのだが、この場面はわたしにはどうでもよくて(今後の展開上意味があるのだろうけれど)、この短い帖は上に挙げた玉鬘の返歌に尽きると思う。
1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋