透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「玉鬘」

2022-06-01 | G 源氏物語



「玉鬘 いとしい人の遺した姫君」

 源氏物語に登場する多くの女性の中で夕顔の知名度は高いのでは。私も以前から名前だけは知っていた。夕顔は光君が恋焦がれた女性だった。光君との逢瀬の最中にものの怪が現れ、夕顔は急死してしまった。その後、ずいぶん長い年月(20年近く)が流れたが光君は夕顔のことをひと時も忘れることはなかった。

玉鬘はその夕顔の娘。4歳の時に備前国は筑紫に移り住み、美しい娘に成長していた。その様は次のように描かれている。**母君よりなおお見目麗しく、今は内大臣となっている父(かつての頭中将)の血筋もあって、気品があって愛らしい。おっとりした気性で申し分がない。**(10,11頁)**二十歳ほどになると、すっかり大人になり、理想的な美しさである。**(11頁)

こうなると周辺の男たちがほうっておかない。中でも大夫監という男は強引に迫る。乳母と子どもたちは玉鬘と船で京に逃れる。しかし京では頼るあてもなく、九条で仮住まい。で、神仏に救いを求めて、八幡に、それから初瀬の観音(長谷寺)にお参りにいく。

宿である女性と出会う。**じつは、このやってきた人は、夕顔をずっと忘れることなく恋い慕っている女房の右近なのだった。**(20頁)この偶然の再会が玉鬘に幸運をもたらすことになる。

右近は光君の邸に参上して、一連のできごとを知らせようとするが、それがなかなかできずにいる。夜になって光君が足を揉ませるために呼び・・・。**「さっきの、さがし出した人というのはどういう人なの。尊い修行者とでも仲よくなって連れてきたのか」と光君が訊くと、
「まあ、人聞きの悪いことを。はかなく消えておしまいになった夕顔の露にゆかりのあるお方を、見つけたのでございます」と右近は言う。**(30頁)

連続ドラマなら、この場面はある回のクライマックス。ここで次回に続くとなるだろう。

光君は玉鬘を養女として引き取ることにする、それも父親に内密に。六条院に移ってきた玉鬘の世話をすることになったのは花散里。この人は家庭的で律儀な女性だと思う。

**恋ひわたる身はそれなれど玉かづらいかなる筋を尋ね来つらむ(あの人を恋い慕ってきたこの身は昔のままだけれど、玉鬘のようなあの娘はどういう筋をたどって私の元を尋ねてきたのだろう)**(38頁)光君がこう考えるのももっともなこと。**本当に深く愛していた人の形見なのだろうと紫の上は思う。**(38頁) 

夕顔の君の再来。光君は養女にした玉鬘に次第に惹かれていく・・・。先が気になるけれど一日一帖。 『源氏物語』を読む始めた時、連作短編集という印象だったが、今は違う。これは壮大な構想をもとに書かれた大河小説だ。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋