■ 久しぶりの一気読み。昨晩から読み始めた中島京子さんの直木賞受賞作『小さいおうち』文春文庫を今日(13日)の午前中に読み終えた。
東北は山形の田舎で育ち、昭和5年の春に尋常小学校を卒業して東京で女中奉公をしたタキ。晩年タキが綴った回想録、そこで明かされる奉公先の中流家庭の奥さんの密かな恋愛・・・。
**今朝見た帯が、目に入った。いまでも、はっきり、覚えている。後姿の、帯の模様がいつもと逆になっていた。 (中略) あの独鈷の帯が解かれるのが、その日、初めてではないのかもしれないと思うと、心臓は妙な打ち方をした。**(192、3頁)
あらすじは書かない。終盤はミステリー小説を読むようだった。最終章はタキおばあさんが亡くなった後、甥の次男の健史が書いているという設定。
映画の予告編で、松たか子演じる奥さんに手紙を書くように勧めるタキさん(黒木華)。だがタキさんは奥さんの書いた手紙を板倉(恋愛相手、夫の部下)に渡さなかった・・・。
タキおばあさんの死後に健史が見つけた未開封のその手紙。奥さんの息子の恭一の消息を知った健史は石川県の小さな町に恭一を訪ね、そこで手紙を渡す・・・。
**「いや、いい。全幅の信頼を置くよ。いま、開いて、ここで読んでくれ」** (中略) **僕は不器用に手紙を開いた。そこには、美しい女性の手跡があった。**(336、7頁)
なかなか構成のよくできた小説だった。戦争に流れていく時代の雰囲気もうまく織りこんでいた。
巻末に作者の中島京子さんと船曳由美さんの対談が収録されているが、その最後で**タキはなぜ泣いたのか、何を後悔していたのか、いろいろ考えられるけれども、真実が語られあかされないところがなみなみならぬ小説なのです**という船曳さんの発言に対して中島さんは**ありがとうございます。私が考えている理由はあるんですけれども、読んでくださったかたが自由に想像してくださったらうれしいですね。**(348頁)と答えている。
太平洋戦争のさなか、入営直前の板倉を訪ねて行こうとした奥さんをなだめて、手紙を書くように促したタキさんはなぜその手紙を板倉に渡さなかったのか・・・。
**私は奥様に申し上げた。「こうしましょう。お手紙をお書きくださいまし。今日、タキが届けて参ります。明日、昼の一時にお会いしたいとお書きください」**(248頁)
**「(前略)でも、もし明日、板倉さんがお見えにならなかったら」
「ならなかったら?」
「お諦めになってください」**(248頁)
もしかしたらタキさんも板倉に恋慕の情を募らせていたのかもしれない・・・。女心の分からぬ中年男の推測は外れか?