竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉雑記 色眼鏡 番外雑話 後撰和歌集と万葉集の重複歌

2020年04月18日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 番外雑話 後撰和歌集と万葉集の重複歌

 万葉集編纂史や読解の研究では、古今和歌集と万葉集の重複歌の研究、また、後撰和歌集と万葉集の重複歌の研究が平安初期から中期までの人たちの万葉集に対する理解度や万葉集の編纂状況を推定するのに重要な位置にあります。
 弊ブログでは「万葉雑記 番外編 万葉集と古今和歌集の重複歌」で古今和歌集と万葉集の重複歌の状況について報告させていただいています。その帰結において、「古今和歌集と万葉集との重複歌を確認しましたが、歌の解釈次第により重複と認められるもの一首、重複とするための校訂を行えば重複となるもの一首の計二首以外に重複は無いことが確認できます。議論は有りますが、平安貴族は重複がないとしたことは十分に根拠があります。」とし述べました。その最大の可能性は次の二首です。

古今集歌番号192
原文 左夜奈可止夜者不遣奴良之加利可祢乃幾己由留曽良尓月和多留見由
和歌 小夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空に月渡る見ゆ
万葉集集歌1701
原文 佐宵中等夜者深去良斯鴈音所聞空月渡見
訓読 さ宵中(よひなか)と夜は深けぬらし鴈し音(ね)しそ聞く空し月渡る見ゆ
和歌 佐宵中等夜者深去良期鴈音所聞空月渡見
廣瀬 サヨナカト ヨハフケヌラシ カリカネノ キコユルソラニ ツキワタルミユ
和歌 佐宵中等夜者深去良斯鴈音所聞空月渡見
西本 サヨナカト ヨハフケヌラシ カリカネノ キコユルソラニ ツキワタルミユ

古今集歌番号247
原文 月草尓衣者寸良武安左川由尓奴礼天乃々知者宇川呂日奴止毛
和歌 月草に衣は摺らむ朝露に濡れての後は移ろひぬとも
万葉集集歌1351
原文 月草尓衣者将揩朝露尓所沾而後者徒去友
訓読 月草(つきくさ)に衣は摺らむ朝露にそ濡れに後はただうせるとも
和歌 月草尓衣者持揩朝露尓所沾而後者従去友
廣瀬 ツキクサニ コロモハスラム アサツユニ ヌレテノノチハ ウツロヒヌトモ
和歌 月草尓衣者将揩朝露尓所沾而後者徒去友
西本 ツキクサニ コロモハスラム アサツユニ ヌレテノノチハ ウツロヒヌトモ

 これを重複歌とみるか、盗古歌/類型歌とみるかは、立場になります。さらに、鎌倉時代になって古今和歌集の歌を下に万葉集の歌に訓じを与えた可能性もあります。このように厳密に重複歌を調べると、昭和時代までは万葉集の歌は鎌倉時代に整備された訓読み歌を擬似原典として扱いますから、原文からの歌の解釈や景色について微妙な問題が生じます。
 ここで、本題の後撰和歌集と万葉集の重複歌とを見ていきます。一般には重複歌は二十四首とされ、それは以下の組み合わせです。

後撰和歌集
歌番号22
和歌 わかせこに みせむとおもひし うめのはな それともみえす ゆきのふれれは
解釈 吾が背子に見せむと思ひし梅の花それとも見えす雪の降れれば

万葉集
集歌1426
原文 吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者
訓読 吾が背子に見せむと念(おも)ひし梅し花そともそ見えず雪の降れれば

評価:重複歌と考えて良いと考えます。


後撰和歌集
歌番号23
和歌 きてみへき ひともあらしな わかやとの うめのはつはな をりつくしてむ
解釈 来て見べき人もあらしな我が屋戸の梅のはつ花折りつくしてむ

万葉集
集歌2328
原文 来可視 人毛不有尓 吾家有 梅早花 落十方吉
訓読 来て見べき人もあらなくに吾家(わがへ)なる梅し早花(はつはな)散りぬともよし

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号33
和歌 かきくらし ゆきはふりつつ しかすかに わかいへのそのに うくひすそなく
解釈 かきくらし雪はふりつつしかすかに我が家の苑に鴬ぞ鳴く

万葉集
集歌1441
原文 打霧之 雪者零乍 然為我二 吾宅乃苑尓 鴬鳴裳
訓読 うち霧(き)らし雪は降りつつ然(し)かすがに吾家(わぎへ)の苑(その)に鴬鳴くも

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号37
和歌 きみかため やまたのさはに ゑくつむと ぬれにしそては いまもかわかす
解釈 君かため山田のさはにゑく摘むと濡れにし袖は今もかわかす

万葉集
集歌1839
原文 為君 山田之澤 恵具採跡 雪消之水尓 裳裾所沾
訓読 君しため山田(やまだ)し沢しゑぐ摘むと雪消(ゆきげ)し水に裳し裾濡れぬ

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号62
和歌 はるくれは こかくれおほき ゆふつくよ おほつかなしも はなかけにして
解釈 春暮れは木隠れおほき夕月夜おほつかなしも花かけにして

万葉集
集歌1675
原文 春去者 紀之許能暮之 夕月夜 欝束無裳 山陰尓指天
訓読 春されば樹(き)し木(こ)の暗(くれ)し夕(ゆふ)月夜(つくよ)おほつかなしも山蔭(やまかげ)にして

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号177
和歌 ひとりゐて ものおもふわれを ほとときす ここにしもなく こころあるらし
解釈 独ゐて物思ふ我を郭公ここにしもなく心あるらし

万葉集
集歌1476
原文 獨居而 物念夕尓 霍公鳥 従此間鳴渡 心四有良思
訓読 ひとり居に物思ふ夕(よひ)に霍公鳥(ほととぎす)こゆ鳴き渡る心しあるらし

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号187
和歌 たひねして つまこひすらし ほとときす かむなひやまに さよふけてなく
解釈 たひねしてつまこひすらし郭公神なひ山にさよふけてなく

万葉集
集歌1938
原文 客尓為而 妻戀為良思 霍公鳥 神名備山尓 左夜深而鳴
訓読 旅にしに妻恋すらし霍公鳥(ほととぎす)神南備(かむなび)山(やま)にさ夜(よ)更(ふ)けに鳴く

評価:重複歌と考えて良いと考えます。


後撰和歌集
歌番号199
和歌 わかやとの かきねにうゑし なてしこは はなにさかなむ よそへつつみむ
解釈 我が屋戸の垣根に植えし撫子は花にさかなんよそへつつ見む

万葉集
集歌1448
原文 吾屋外尓 蒔之瞿麦 何時毛 花尓咲奈武 名蘇經乍見武
訓読 吾が屋外(やと)に蒔きし瞿麦(なでしこ)いつしかも花に咲きなむ比(なそ)へつつ見む

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号204
和歌 なてしこの はなちりかたに なりにけり わかまつあきそ ちかくなるらし
解釈 なてしこの花ちりかたになりにけりわかまつ秋そちかくなるらし

万葉集
集歌1972
原文 野邊見者 瞿麥之花 咲家里 吾待秋者 近就良思母
訓読 野辺(のへ)見れば撫子(なでしこ)し花咲きにけり吾(あ)が待つ秋は近づくらしも

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号234
和歌 たまかつら たえぬものから あらたまの としのわたりは たたひとよのみ
解釈 玉蔓たえぬものからあらたまの年の渡はたたひとよのみ

万葉集
集歌2078
原文 玉葛 不絶物可良 佐宿者 年之度尓 直一夜耳
訓読 玉(たま)葛(かづら)絶えぬものからさ寝(ぬ)らくは年し度(たび)にただ一夜(ひとよ)のみ

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号239
和歌 あまのかは とほきわたりは なけれとも きみかふなては としにこそまて
解釈 天の河遠き渡りはなけれとも君が船出は年にこそまて

万葉集
集歌2055
原文 天河 遠度者 無友 公之舟出者 年尓社候
訓読 天つ川遠き渡りはなけれども君し舟出(ふねで)は年にこそ待て

評価:重複歌と考えて良いと考えます。


後撰和歌集
歌番号243
和歌 あまのかは せせのしらなみ たかけれと たたわたりきぬ まつにくるしみ
解釈 天の河湍瀬の白浪高かけれどただわたり来ぬ待つに苦しみ

万葉集
集歌2085
原文 天漢 湍瀬尓白浪 雖高 直渡来沼 時者苦三
訓読 天つ川湍瀬(せせ)に白浪高けども直(ただ)渡(わた)り来(き)ぬ待たば苦しみ

評価:重複歌と考えて良いと考えます。


後撰和歌集
歌番号244
和歌 あきくれは かはきりわたる あまのかは かはかみみつつ こふるひのおほき
解釈 秋くれは河霧わたる天河かはかみ見つつこふる日のおほき

万葉集
集歌2030
原文 秋去者 河霧 天川 河向居而 戀夜多
訓読 秋されば河(かは)し霧(き)らふる天つ川河し向き居(ゐ)に恋ふる夜(よ)ぞ多(まね)

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号295
解釈 秋の田のかりほのやとのにほふまてさける秋はきみれとあかぬかも
和歌 秋の田のかりほの宿のにほふまで咲ける秋萩見れと飽かぬかも

万葉集
集歌2100
原文 秋田苅 借廬之宿 尓穂經及 咲有秋芽子 雖見不飽香聞
訓読 秋田刈る刈廬(かりほ)し宿(やど)りにほふまで咲ける秋萩見れど飽かぬかも

評価:重複歌と考えて良いと考えます。


後撰和歌集
歌番号300
和歌 しらつゆの おかまくをしき あきはきを をりてはさらに われやかくさむ
解釈 白露の置かまく惜しき秋萩を折りてはさらに我やかくさん

万葉集
集歌2099
原文 白露乃 置巻惜 秋芽子乎 折耳折而 置哉枯
訓読 白露の置かまく惜しみ秋萩を折りのみ折りに置きや枯らさむ

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号305
和歌 わかやとの をはなかうへの しらつゆを けたすてたまに ぬくものにもか
解釈 我が屋戸の尾花かうへの白露をけたずて玉にぬく物にもか

万葉集
集歌1572
原文 吾屋戸乃 草花上之 白露乎 不令消而玉尓 貫物尓毛我
訓読 吾が屋戸(やと)の草花し上(へ)し白露を消(け)たずに玉に貫(ぬ)くものにもが

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号359
和歌 かりかねの なきつるなへに からころも たつたのやまは もみちしにけり
解釈 雁がねの鳴きつるなへに唐衣たつたの山はもみちしにけり

万葉集
集歌2194
原文 鴈鳴乃 来鳴之共 韓衣 裁田之山者 黄始南
訓読 雁鳴きの来(き)鳴(な)きしなへに韓(から)衣(ころも)龍田(たつた)し山は黄葉(もみち)始(そ)めなむ

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号376
和歌 いもかひも とくとむすふと たつたやま いまそもみちの にしきおりける
解釈 妹が紐解くと結ぶとたつた山今そ紅葉の錦おりける

万葉集
集歌2211
原文 妹之紐 解登結而 立田山 今許曽黄葉 始而有家礼
訓読 妹(いも)し紐解(と)くと結びに龍田(たつた)山(やま)今こそ黄葉(もみち)始(そ)めにありけれ

評価:万葉集を参考にした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号377
和歌 かりなきて さむきあしたの つゆならし たつたのやまを もみたすものは
解釈 雁なきて寒き朝の露ならし竜田の山をもみたす物は

万葉集
集歌2181
原文 鴈鳴之 寒朝開之 露有之 春日山乎 令黄物者
訓読 雁鳴し寒き朝明(あさけ)し露あらし春日し山を黄葉(もみ)たすものは

評価:万葉集を参考とした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号441
和歌 なかつきの ありあけのつきは ありなから はかなくあきは すきぬへらなり
解釈 長月の在明の月はありなからはかなく秋はすきぬへらなり

万葉集
集歌2300
原文 九月之 在明能月夜 有乍毛 君之来座者 吾将戀八方
訓読 九月(ながつき)し有明(ありあけ)月夜(つくよ)ありつつも君し来(き)まさば吾(われ)恋ひめやも

評価:万葉集を参考とした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号581
解釈 かくこふる物としりせはよるはおきてあくれはきゆるつゆならましを
和歌 かくこふる ものとしりせは よるはおきて あくれはきゆる つゆならましを

万葉集
集歌3038
原文 如此将戀 物等知者 夕置而 旦者消流 露有申尾
訓読 かく恋ひむものと知りせば夕(ゆふへ)置きに朝(あした)は消(け)ぬる露ならましを

評価:万葉集を参考とした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号670
和歌 しらなみの よするいそまを こくふねの かちとりあへぬ こひもするかな
解釈 白浪のよするいそまをこく舟のかちとりあへぬ恋もするかな

万葉集
集歌3961
原文 白浪乃 余須流伊蘇末乎 榜船乃 可治登流間奈久 於母保要之伎美
訓読 白波の寄する礒廻(いそま)を榜(こ)ぐ船の楫取る間(ま)なく思ほえし君

評価:万葉集を参考とした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号743
和歌 つきかへて きみをはみむと いひしかと ひたにへたてす こひしきものを
解釈 月かへて君をは見むといひしかと日だに隔てず恋しきものを

万葉集
集歌3131
原文 月易而 君乎婆見登 念鴨 日毛不易為而 戀之重
訓読 月(つく)易(か)へに君をば見むと思ふかも日も易へせずに恋し繁けむ

評価:万葉集を参考とした盗古歌と考えます。


後撰和歌集
歌番号1298
和歌 われもおもふ ひともわするな ありそうみの うらふくかせの やむときもなく
解釈 我も思ふ人も忘るなありそ海の浦吹く風のやむ時もなく

万葉集
集歌606
原文 吾毛念 人毛莫忘 多奈和丹 浦吹風之 止時無有
訓読 吾(あれ)も念(も)ふ人もな忘れたな和(にぎ)に浦吹く風し止(や)む時なかれ

評価:万葉集を参考とした盗古歌と考えます。

 以上、重複歌と紹介される歌を確認しました。おおむね同じ音表記の歌を重複とし、音表記において五句中四句が似ているだけでは重複と認めないとしますと、重複歌は五組となります。残りの十九首は万葉集の原歌を十分に理解した上での本歌取り技法の盗古歌と考えます。
 後撰和歌集1425首中に5首の万葉集歌の重複は、それほど重大な採歌ミスとは思えませ。特に万葉集歌が漢語と万葉仮名と称される漢字だけで表現された歌ですから、編集点検時に仮名文字で表記されていたと推定される後撰和歌集歌とは表面上の表記からは比較・確認が出来ませんから、まずまず、重複をなくす編集は成功していると考えます。
 また、歴史として梨壺の五人衆は、宮中女房たちのための万葉集の平仮名表記への翻訳本作成と並行して後撰和歌集の編纂も行っていたと考えられていますから、万葉集の平仮名表記へと直したときに、時代に合わせた表現に変更したり、そこから盗古歌のような歌を作成したりした可能性はあります。さらには後撰和歌集の編纂上での都合で、万葉集や古今和歌集と比較して不足すると思われるパートを盗古歌などで補った可能性もあります。
 この辺りは、万葉集、古今和歌集、後撰和歌集の編纂と歌の分布比較が必要になると思いますので、その専門家による比較検討に待ちたいと思います。

 今回は中途半端になりましたが、後撰和歌集は序文を持たないために編纂方針が明確ではありません。そのため、万葉集や古今和歌集との重複を避けたかどうかは明確ではありません。通説として古今和歌集に入らなかったものを集めて編んだものと考えられていて、重複は無いだろうとの考えです。ただ、推測ですから完全に避けたかどうかは不明です。
 このような背景がありますから、ご了解ください。
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