歌番号 326 拾遺抄記載
詞書 源弘景、ものへまかりけるに、さうそくたまふとて
詠人 三条太皇太后宮
原文 堂飛比止乃 川由者良不部幾 可良己呂毛 万多幾毛曾天乃 奴礼尓个留可奈
和歌 たひひとの つゆはらふへき からころも またきもそての ぬれにけるかな
読下 旅人の露はらふへき唐衣またきも袖のぬれにけるかな
解釈 旅人が路の草の露を払うべき唐衣、それが旅立つ前から、頂いたこの唐衣の袖が別れの涙により露気に濡れてしまいました。
歌番号 327 拾遺抄記載
詞書 橘公頼、帥になりてまかりくたりける時、としさたか継母内侍のすけの、むまのはなむけし侍りけるに、さうそくにそへてつかはしける
詠人 つらゆき
原文 安万多尓八 奴比加左祢々止 可良己呂毛 於毛飛己々呂者 知部尓曽安利个留
和歌 あまたには ぬひかさねねと からころも おもふこころは ちへにそありける
読下 あまたにはぬひかさねねと唐衣思ふ心はちへにそありける
解釈 数多く縫い重ねたものではない、この唐衣、それでも大宰府の師として下って行く貴方を思う気持ちは千重にもあります。
歌番号 328
詞書 題しらす
詠人 つらゆき
原文 止保久由久 比止乃堂女尓八 和可曽天乃 奈美堂乃多麻毛 遠之可良奈久尓
和歌 とほくゆく ひとのためには わかそての なみたのたまも をしからなくに
読下 とほくゆく人のためにはわかそての涙の玉もをしからなくに
解釈 遠くに旅立って往く人のためには、私の袖を濡らすでしょう涙の玉も流すことを惜しいとは思いません。
歌番号 329
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 遠之武止天 止末留己止己曽 加多可良女 和可己呂毛天遠 本之天多尓由計
和歌 をしむとて とまることこそ かたからめ わかころもてを ほしてたにゆけ
読下 惜むとてとまる事こそかたからめわか衣手をほしてたにゆけ
解釈 別れが残念であったとしても、それを取り止めることは出来ないでしょう、せめて、別れの涙で濡れた私の衣手を干してから旅立ってください。ねぇ、貴方。
歌番号 330
詞書 ゐなかへまかりける時
詠人 つらゆき
原文 以止尓与留 毛乃奈良奈久尓 和可礼知者 己々呂本曽久毛 於毛本由留可奈
和歌 いとによる ものならなくに わかれちは こころほそくも おもほゆるかな
読下 糸による物ならなくにわかれちは心ほそくもおもほゆるかな
解釈 糸に撚るものではありませんが、別れ路は、心細く思われるものです。