歌番号 311
詞書 物へまかりける人に、むまのはなむけし侍りて、あふきつかはしける
詠人 よしのふ
原文 和可礼地遠 部多川留久毛乃 多女尓己曽 安布幾乃可世遠 也良万本之个礼
和歌 わかれちを へたつるくもの ためにこそ あふきのかせを やらまほしけれ
読下 わかれちをへたつる雲のためにこそ扇の風をやらまほしけれ
解釈 別れ路を隔て隠す雲のためにこそ、その雲を追いやる扇の風を吹き送りたいものです。(そのための、扇が、これです。)
歌番号 312 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 和可礼天者 安者武安者之曽 左堂女奈幾 己乃由不久礼也 可幾利奈留良无
和歌 わかれては あはむあはしそ さためなき このゆふくれや かきりなるらむ
読下 別れてはあはむあはしそ定なきこのゆふくれや限なるらん
解釈 一旦、別れてしまっては再会する再会しないは確かではありません、だから、この夕暮れは貴方との最後かもしれません。
歌番号 313 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 和可礼知八 己比之幾比止乃 布三奈礼也 々良天乃美己曽 美万久本之个礼
和歌 わかれちは こひしきひとの ふみなれや やらてのみこそ みまくほしけれ
読下 わかれちはこひしき人のふみなれややらてのみこそ見まくほしけれ
解釈 別れ路は恋しい人の手紙でしょうか、旅に遣らない、その言葉の響きではありませんが、手紙を遣るだけでなく、直接に顔を合わせて逢いたいものです。
歌番号 314 拾遺抄記載
詞書 物へまかりける人のおくり、せき山まてし侍るとて
詠人 つらゆき
原文 和可礼由久 遣不者万止比奴 安不左可八 可部利己武比乃 奈尓己曽安利个礼
和歌 わかれゆく けふはまとひぬ あふさかは かへりこむひの なにこそありけれ
読下 別れゆくけふはまとひぬあふさかは帰りこむ日のなにこそ有りけれ
解釈 貴方が別れ行く、その今日は相坂の名に戸惑いました、逢坂の関とは、貴方が帰って来る日の、その日のための名前だったのでしょう。
歌番号 315 拾遺抄記載
詞書 伊勢よりのほり侍りけるに、しのひて物いひ侍りける女のあつまへくたりけるか、相坂にまかりあひて侍りけるに、つかはしける
詠人 よしのふ
原文 由久寸恵乃 以乃知毛志良奴 和可礼知者 个不安布左可也 加幾利奈留良无
和歌 ゆくすゑの いのちもしらぬ わかれちは けふあふさかや かきりなるらむ
読下 ゆくすゑのいのちもしらぬ別ちはけふ相坂やかきりなるらん
解釈 これからの行く末の命なども判らない、別れ路は、今日、この相坂ではありませんが、貴女と逢うこの坂の路での出会いが最後の別れとなるかもしれません。