竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集 集歌1047から集歌1051まで

2020年10月16日 | 新訓 万葉集
悲寧樂故郷作謌一首并短謌
標訓 寧樂の故(ふ)りにし郷(さと)を悲しびて作れる謌一首并せて短謌
集歌一〇四七 
原文 八隅知之 吾大王乃 高敷為 日本國者 皇祖乃 神之御代自 敷座流 國尓之有者 阿礼将座 御子之嗣継 天下 所知座跡 八百萬 千年矣兼而 定家牟 平城京師者 炎乃 春尓之成者 春日山 御笠之野邊尓 櫻花 木晩牢 皃鳥者 間無數鳴 露霜乃 秋去来者 射駒山 飛火賀塊丹 芽乃枝乎 石辛見散之 狭男牡鹿者 妻呼令動 山見者 山裳見皃石 里見者 里裳住吉 物負之 八十伴緒乃 打經而 思並敷者 天地乃 依會限 萬世丹 榮将徃迹 思煎石 大宮尚矣 恃有之 名良乃京矣 新世乃 事尓之有者 皇之 引乃真尓真荷 春花乃 遷日易 村鳥乃 旦立徃者 刺竹之 大宮人能 踏平之 通之道者 馬裳不行 人裳徃莫者 荒尓異類香聞
訓読 やすみしし 吾が大王(おほきみ)の 高敷かす 大和し国は 皇祖(すめろき)の 神し御代より 敷きませる 国にしあれば 生(あ)れまさむ 御子し継ぎ継ぎ 天つ下 知らしまさむと 八百万(やほよろづ) 千年(ちとせ)を兼ねて 定めけむ 平城(なら)の京師(みやこ)は かぎろひの 春にしなれば 春日山 三笠し野辺に 桜花 木の暗(くれ)隠(こも)り 貌鳥(かほとり)は 間(ま)無くしば鳴く 露霜の 秋さり来れば 射駒(いこま)山 飛火(とぶひ)が塊(たけ)に 萩の枝を しがらみ散らし さ雄鹿(をしか)は 妻呼び響(とよ)む 山見れば 山も見が欲(ほ)し 里見れば 里も住みよし 大夫(もののふ)の 八十伴の男(を)の うち延(は)へて 念(おも)へりしくは 天地の 寄り合ひの極(きは)み 万代(よろづよ)に 栄えゆかむと 念(おも)へりし 大宮すらを 恃(たの)めりし 奈良の京(みやこ)を 新世(あらたよ)の ことにしあれば 皇(すめろぎ)し 引きのまにまに 春花の 移(うつ)ろひ易(かは)り 群鳥(むらとり)の 朝立ち行けば さす竹し 大宮人の 踏み平(なら)し 通ひし道は 馬も行かず 人も往(い)かねば 荒れにけるかも
私訳 天下をあまねく承知なられる吾等の大王が天まで高らかに統治なられる大和の国は、皇祖の神の時代から御統治なされる国であるので、お生まれになる御子が継ぎ継ぎに統治ならせると、八百万、千年の統治なされる歳とを兼ねてお定めになられた奈良の都は、陽炎の立つ春になると春日山の三笠の野辺に桜の花、その樹の暗がりにはカッコウが絶え間なく啼く、露霜の秋がやって来れば、生駒山の飛火の丘に萩の枝のシガラミを散らして角の立派な牡鹿が妻を呼び声が響く。山を見れば山を眺めたくなり、里を見れば里に住みたくなる。立派な男たちの大王に仕える男たちが寄り集まって願うことには、天と地が重なり合う果てまで、万代まで栄えていくでしょうと、念じている大宮だけでも、頼もしく思っていた奈良の都だが、新しい時代のことであるので、天皇の人々を引き連れるままに、春の花が移ろい変わり、群れた鳥が朝に寝床から揃って飛び立つように旅たっていくと、すくすく伸びる竹のような勢いのある大宮の宮人が踏み均して宮に通った道は、馬も行かず、人も行かないので荒れてしまったのでしょう。

反謌二首
集歌一〇四八 
原文 立易 古京跡 成者 道之志婆草 長生尓異利
訓読 たち易(かは)り古き京(みやこ)となりぬれば道し芝草(しばくさ)長く生ひにけり
私訳 繁栄していた時代とは立ち代り、古い都となってしまったので、路に生える芝草が長く伸びてしまった。

集歌一〇四九 
原文 名付西 奈良乃京之 荒行者 出立毎尓 嘆思益
訓読 なつきにし奈良の京(みやこ)し荒(あ)れゆけば出(い)で立つごとに嘆きし増さる
私訳 慣れ親しんだ奈良の都が荒れていくと、都度、立ち寄るたびに嘆きが増してくる。
注意 末句「嘆思益」の「思」は音文字として鑑賞しています

讃久邇新京謌二首并短歌
標訓 久邇の新しき京(みやこ)を讃(ほ)むる謌二首并せて短歌
集歌一〇五〇 
原文 明津神 吾皇之 天下 八嶋之中尓 國者霜 多雖有 里者霜 澤尓雖有 山並之 宜國跡 川次之 立合郷跡 山代乃 鹿脊山際尓 宮柱 太敷奉 高知為 布當乃宮者 河近見 湍音叙清 山近見 鳥賀鳴慟 秋去者 山裳動響尓 左男鹿者 妻呼令響 春去者 岡邊裳繁尓 巌者 花開乎呼理 痛可怜 布當乃原 甚貴 大宮處 諾己曽 吾大王者 君之随 所聞賜而 刺竹乃 大宮此跡 定異等霜
訓読 現(あき)つ神 吾が皇(すめろぎ)し 天つ下 八島(やしま)し中(うち)に 国はしも 多(さわ)くあれども 里はしも 多(さわ)にあれども 山並みし 宜(よろ)しき国と 川なみし たち合ふ郷(さと)と 山背(やましろ)の 鹿背山(かせやま)の際(ま)に 宮柱 太敷き奉(まつ)り 高知らす 布当(ふたぎ)の宮は 川近み 瀬の音(と)ぞ清(きよ)き 山近み 鳥が音(ね)響(とよ)む 秋されば 山もとどろに さ雄鹿(をしか)は 妻呼び響(とよ)め 春されば 岡辺(おかへ)も繁(しじ)に 巌(いはほ)には 花咲きををり あなおもしろ 布当(ふたぎ)の原 いと貴(たふと) 大宮所 うべしこそ 吾が大王(おほきみ)は 君しまに 聞かし賜ひて さす竹の 大宮(おほみや)此処(ここ)と 定めけらしも
私訳 身を顕す神である吾等の皇が天下の大八洲の中に国々は沢山あるが、郷は沢山あるが、山並みが願いに適い宜しい国と、川の流れが集る郷と、山代の鹿背の山の裾に宮柱を太く建てられて、天まで高だかに統治なされる布当の都は、川が近く瀬の音が清らかで、山が近く鳥の音が響く。秋になれば山も轟かせて角の立派な牡鹿の妻を呼ぶ声が響き、春になれば丘のあたり一面に岩には花が咲き豊かに枝を垂れ、とても趣深い布当の野の貴いところよ。大宮所、もっともなことです。吾等が大王は、君の進言をお聞きになられて、すくすく伸びる竹のような勢いのある大宮はここだと、お定めになられたらしい。

反謌二首
集歌一〇五一 
原文 三日原 布當乃野邊 清見社 大宮處 (一云 此跡標刺) 定異等霜
訓読 三香(みか)し原布当(ふたぎ)の野辺(のへ)を清(きよ)みこそ大宮所 定めけらしも
私訳 三香の原の布当の野辺が清らかなので大宮所と定められたのでしょう。
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