歌番号 230 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 右衛門督公任
原文 志毛遠可奴 曾天多尓佐由留 布由乃世尓 加毛乃宇者計遠 於毛飛己曽也礼
和歌 しもおかぬ そてたにさゆる ふゆのよに かものうはけを おもひこそやれ
読下 しもおかぬ袖たにさゆる冬の夜にかものうはけを思ひこそやれ
解釈 霜が置かない袖であっても冷え切った冬の夜には特別に、鴨の背羽、あの霜を置いたような羽色の姿に想いを寄せましょう。
歌番号 231
詞書 題しらす
詠人 たちはなのゆきより
原文 以計美川也 己保利止久良无 安之可毛乃 世布可久己衛乃 左者久奈留可奈
和歌 いけみつや こほりとくらむ あしかもの よふかくこゑの さわくなるかな
読下 池水や氷とくらむあしかもの夜ふかくこゑのさわくなるかな
解釈 池の水面に張った氷が融けるのだろうか、葦鴨が夜深くに鳴き声の騒ぐようだ。
歌番号 232
詞書 題しらす
詠人 紀友則
原文 止飛加与不 遠之乃者可世乃 佐武个礼者 以計乃己保利曽 左衛万左利个留
和歌 とひかよふ をしのはかせの さむけれは いけのこほりそ さえまさりける
読下 とひかよふをしのはかせのさむけれは池の氷そさえまさりける
解釈 飛び通う鴛鴦の羽風が寒いからか、池に張った氷が一層に透明へと冴え増さった。
歌番号 233 拾遺抄記載
詞書 題しらす
詠人 よみ人しらす
原文 美川乃宇部尓 於毛飛之毛乃遠 布由乃世乃 己保利八曾天乃 毛乃尓曽安利个留
和歌 みつのうへに おもひしものを ふゆのよの こほりはそての ものにそありける
読下 水のうへに思ひしものを冬の夜の氷は袖の物にそ有りける
解釈 水の上のことと思っていたのだが、冬の夜の氷は袖の上にも張るものだったのですね。
歌番号 234 拾遺抄記載
詞書 屏風に
詠人 平兼盛
原文 布之徒遣之 与止乃和多留遠 計左美礼者 止遣无己毛奈久 己保利之尓个利
和歌 ふしつけし よとのわたりを けさみれは とけむこもなく こほりしにけり
読下 ふしつけしよとの渡をけさ見れはとけんこもなく氷しにけり
解釈 置き漬け漁の柴(ふし)を付け置く、その淀川の渡りを今朝眺めると、融ける機会もしれないほどに氷付いていました。