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墨子 巻十 経上と経説上(原文・読み下し・現代語訳)1から49まで

2022年03月05日 | 新解釈 墨子 現代語訳文付
墨子 巻十 経上と経説上(原文・読み下し・現代語訳)
「諸氏百家 中国哲学書電子化計画」準拠
巻十の経上、経下、経説上、経説下は、言葉の定義や概念を規定するものです。また、「経説」はおおむね「経」を解説する者です。そのため、この四篇をそれぞれ上下の区分で括り、それぞれの言葉に対し、A) 原文、B) 読み下し、C) 現代語訳を対にして紹介します。
ちなみに、表題の漢字が意味するように経編は言葉を定義し、経説編はその定義された言葉を解説します。


《経上》
A) 故、所得而後成也。
B) 故(こ)、得る所にして後に成るなり。
C) 「故」の定義とは、なにごとかを得るものがあって、物事が成り立つこと。

《経説上》
A) 故、小故、有之不必然、無之必不然。大故、有之必然、無之必不然、若見之成見也。
B) 故(こ)、小故は之(これ)有るも必ずしも然(しか)らず、之(これ)無ければ必ず然(しか)らず。大故は之(これ)有れば必ず然り、之(これ)無くば必ず然らず、之を見るは見(けん)を成す若(ごと)くなり。
C) 「故」の定義について、「小故」とは、なにごとかがあっても必ずしもそうでは無く、なにごとかが無ければ必ずそうでは無いこと。「大故」とは、なにごとかがあれば必ずそうであり、なにごとかが無ければ必ずそうでは無いこと。


《経上》
A) 體、分於兼也。
B) 體(たい)、兼より分かつなり。(體、四支也、総十二属也。兼、并也。)
C) 「体」の定義とは、併せた一体のものから、分割されたもの。

《経説上》
A) 體、體也、若有端。若二之一、尺之端也。
B) 體(たい)、體なり、端を有する若(ごと)し。一(ある)ものを二(わか)つ、尺の端の若(ごと)くなり。(體、四支也。二、分而爲二尺、規矩事也。端、用爲發緒。)
C) 「体」の定義について、「体」の定義、「併せた一体のものから、分割されたもの」であり、端緒を持つものである。ある一つのものを分割し、ものを測定する場合での端緒のようなものである。


《経上》
A) 知、材也。
B) 知(ち)、材なり。(材、又質性也。)
C) 「知」の定義とは、質性、生まれつきのもののこと。

《経説上》
A) 知、材、知也者、所以知也。而必知若明。
B) 知(ち)、材なり、知なるは知の所以なり。而して必ず知は明(あきらかにす)るが若(ごと)し。
C) 「知」の定義について、生まれつきものであり、「知」の定義の「生まれつきのもの」と云うものが、「知」と称する理由である。そのために必ず「知」とは、ものごとを明らかにすることと同じようなこと。


《経上》
A) 慮、求也。
B) 慮(りょ)、求むなり。(求、又招來也。)
C) 「慮」の定義とは、求めること。

《経説上》
A) 慮、慮也者、以其知有求也、而不必得之、若睨。
B) 慮(りょ)、慮(りょ)なるものは其の知を以って求むは有るなり、而して必ずしも之を得ざること睨(よこしま)の若(ごと)し。(睨、日斜如人睨目)
C) 慮について、「慮」の定義の「求めること」とは、それを知ることにより求めることではあるが、しかしながら必ずしも得られないことがあるのは、斜視でものを正しく見えないようなものと同じであること。


《経上》
A) 知、接也。
B) 知(ち)、接するなり。
C) 「知」の定義とは、ものごとに接すること。

《経説上》
A) 知、知也者、以其知過物而能貌之、若見。
B) 知(ち)、知なるものは其の知を以って物に過(わた)り、而して能く之を貌(ととのえ)ることを見るが若(ごと)し。(過、度也。貌、頌儀也。)
C) 知について、「知」の定義の「ものごとに接すること」と云うものは、その「知」、ものごとに接することにより、そのものごとに関わり、そして十分にものごとの姿や形の有り様を理解するようなこと。


《経上》
A) 𢜔、明也。
B) 𢜔(ち)、明なり。(𢜔、知也。)
C) 「𢜔」の定義とは、明らかにすること。

《経説上》
A) 恕、恕也者、以其知論物而其知之也著、若明。
B) 恕(じょ)、恕なるものは、其の知を以って物を論じ、而して其の之を知るの著(いちじる)しことを明(あきらかにす)るが若(ごと)し。(恕、忖也、仁也。)
C) 恕について、「恕」の定義の「明らかにすること」と云うものは、それを理解することによりものごとを論じ、そして、そのものごとを理解したことがはっきりしていることを明らかにするようなこと。


《経上》
A) 仁、體愛也。
B) 仁、體(たい)愛(あい)なり。(體、猶親也。)
C) 「仁」の定義とは、親を愛しむこと。

《経説上》
A) 仁、愛己者、非為用己也。不若愛馬。著若明。
B) 仁、己を愛しむは己に用いるが為に非ざるなり。馬を愛しむ若(ごと)くならず。著(おもいや)るは明らかにするが若(ごと)し(著、思也。)
C) 「仁」の定義について、己を愛しむこととは、己自身に利用するためにするのではない。馬を愛しむと云うことがらとは違う。思いやることがものごとを明らかにすることのようなもの。


《経上》
A) 義、利也。
B) 義(ぎ)、利なり。
C) 「義」(正義)の定義とは、相手を利すること。

《経説上》
A) 義、志以天下為芬、而能能利之、不必用。
B) 義(ぎ)、志の天下を以って芬(ぶん)と為し、而して能く之を能利(のうり)するも、必ずしも用いられず。(芬、和也。)
C) 「義」(正義)の定義について、志により天下をもって和となし、そしてよく相手を利することに努力することだが、必ずしも「義」は用いられないことがあること。


《経上》
A) 禮、敬也。
B) 禮(れい)、敬うなり。
C) 「礼」の定義とは、敬うこと。

《経説上》
A) 禮、貴者公、賤者名。而俱有敬曼(人偏+曼)。焉等、異論也。
B) 禮(れい)、貴(とうと)きものは公(おおやけ)、賤(いや)しきものは名(な)。而して俱(とも)に敬(けい)慢(まん)有り。焉(ここ)に等(さべつ)あるは、異論なり。(名、又自呼名也。等、又等級也。)
C) 「礼」の定義について、身分が貴き者は公(公の事業)と称し、身分が賤しき者は名(正名、名を正す)と称す。そしてともに敬うと驕るとの区別がある。礼には身分の等級があるとするのは、異なる論である。

10
《経上》
A) 行、為也。
B) 行(こう)、為すなり。
C) 「行」の定義とは、為すこと。

《経説上》
A) 行、所為不善名、行也、所為善名、巧也。若為盜。
B) 行(こう)、為す所の名(ほまれ)を善(おお)きくせざるは行なり、為す所の名(ほまれ)を善(おお)きくするは巧なり。盜(とう)を為すが若(ごと)し。(名、又名譽也。善、大也、猶多也。)
C) 「行」の定義について、為すことにより己の名誉を大きくしないのが「行」であり、為すことにより己の名誉を大きくするのが「巧」であること。「巧」は盗みをするようなもの。

11
《経上》
A) 實、栄也。
B) 實(じつ)、栄(さかえ)るなり。(秋行夏令爲華,行春令爲榮。)
C) 「実」の定義とは、盛んなこと。

《経説上》
A) 實、其志氣。之見也、使人如己。不若金聲玉服。
B) 實(じつ)、其の志氣。之を見るや、人に己を如(いた)らしむ。金聲(きんせい)玉服(ぎょくふく)の若(ごと)くにあらず。(如、又往也,至也。)
C) 「実」の定義について、その人の心意気と気力のこと。他の人にこれを見させると、見た人に己を理解させるようなもの。(人に分からせるとしても、)鐘の音や文彩された服のようなものではない。

12
《経上》
A) 忠、以為利而強低也。
B) 忠(ちゅう)、以って利と為し而して低(した)に強(し)うるなり。(低、下也。)
C) 「忠」の定義とは、行うことにより相手に利を行い、そして下の者に強いるもの。

《経説上》
A) 忠、不利、弱子亥足将入止容。
B) 忠(ちゅう)、利にあらず、子亥(しがい)の足の将に容(うつわ)に入るを止(と)むに弱(ゆだ)ねむ。(弱、委也。)
C) 「忠」の定義について、相手に利を与えることが目的ではなく、乳飲み子の足が器に入るのを止めさせることを行うようなもの。

13
《経上》
A) 孝、利親也。
B) 孝(こう)、親を利するなり。
C) 「孝」の定義とは、親に利を与えること。

《経説上》
A) 孝、以親為芬、而能能利親。不必得。
B) 孝(こう)、親に以って芬(ぶん)を為し、而して能く親を能利(のうり)するも、必ずしも得られず。(芬、和也、又乱也。)
C) 「孝」の定義について、子が親に対して和を行い、そしてよく親に利を与えることに努力することだが、しかしながら必ずしも孝の行いは得られない。

14
《経上》
A) 信、言合於意也。
B) 信(しん)、言の意に合うなり。
C) 「信」の定義とは、言葉が心意に合致すること。

《経説上》
A) 信、不以其言之當也。使人視城得金。
B) 信(しん)、其の言の當(あた)るを以ってせず。人に城を視せて金を得らしむ。
C) 「信」の定義について、その言葉が相応しいかどうかには拠らない。例えば、ある人に城を見せて、実際にその人に城内を探させて城に隠された金を探して得るような、実利実行があるもの。

15
《経上》
A) 佴、自作也。
B) 耳(じ)(人偏+耳)、自ら作(な)すなり。
C) 耳(人偏+耳)とは、自分から行うこと。

《経説上》
A) 佴、與人遇、人衆、𢝺。
B) 耳(じ)(人偏+耳)、人と遇(ぐう)し、人衆は𢝺(したが)ふ。
C) 耳(人偏+耳)とは、人とともに自ら行い、それにより民衆がそれに従うこと。

16
《経上》
A) 𧨜、作嗛也。
B) 𧨜(けん)、嗛(けん)を作(な)すなり。(嗛與謙同、敬也、致恭也。𧨜、本字涓、又潔也、又擇也。)
C) 「𧨜」の定義とは、敬意を表すこと。

《経説上》
A) 𧨜、為是為是之。台彼也弗為也。
B) 𧨜(けん)、是(これ)を為すは之の是(ぜ)を為す。彼(か)を台(と)くや、為さざるなり。(台、説也。𧨜、本字涓、又潔也、又擇也。)
C) 𧨜について、「𧨜」の定義である敬意を表すこととは、敬意を表すと云う正しいことを行うこと。敬意を表すことを、ただ論説だけをすることは、してはいけない。

17
《経上》
A) 廉、怍非也。
B) 廉、非を怍(は)づるなり。
C) 「廉」の定義とは、ただ、ものごとを非難することを恥じること。

《経説上》
A) 廉、己惟為之、知其也。𦖷也。
B) 廉(れん)、己の之を為すと惟(いへ)ども、其を知るなり。𦖷(し)なり。(𦖷、本作諰、思之意、又直言也。)
C) 「廉」の定義について、己がこのことを行ったとしても、その行いのことがらを理解すること。また、あることがらを思うこと。

18
《経上》
A) 令、不為所怍也。
B) 令、怍(は)づる所を為さざるなり。
C) 令とは、心に恥じることがらを行わないこと。

《経説上》
A) 所令、非身弗行。
B) 所令(しょれい)、非は身に行はず。
C) 所令とは、ただ、ものごとを非難することを、己自身に行いないこと。

19
《経上》
A) 任、士損己而益所為也。
B) 任、士は己を損じて而して為す所を益(えき)するなり。
C) 任とは、士は自分を犠牲にし、なにごとかを行うことがらに利益を与えること。

《経説上》
A) 任、為身之所悪、以成人之所急。
B) 任(にん)、身の之を悪(にく)む所を為し、以って人の之を急する所を成す。
C) 任とは、自分の身に為せば嫌うことがらを自身に行い、人が為すことを望むことがらをその人に行うこと。

20
《経上》
A) 勇、志之所以敢也。
B) 勇、志す所を以って敢(はば)からずなり。
C) 「勇」の定義とは、志すことがらを行うことに憚らないこと。

《経説上》
A) 勇、以其敢於是也、命之。不以其不敢於彼也、害之。
B) 勇(ゆう)、以って其の是において敢(あえ)てするなり、之は命(めい)なり。以って其の彼(か)において敢えてせずをなすなり、之は害(がい)なり。(彼、不如彼。)
C) 「勇」の定義について、それが正しいことであれば、敢えて行うこと、これは「命」(使命)と定義する。その正しいことを、敢えて行わないこと、これは「害」と定義する。

21
《経上》
A) 力、刑之所以奮也。
B) 力、刑(かたち)、之は奮(うご)く所以なり。(刑、法也。)
C) 「力」の定義とは、法則であり、物体が動くことの理由となるもの。

《経説上》
A) 力、重之謂、下與重、舊也。
B) 力(りょく)、之を重(じゅう)と謂い、下(か)と重(じゅう)は舊(ゆえ)なり。(重、下、底也、落也。舊、故也。)
C) 「力」の定義は「法則であり、物体が動くことの理由となるもの」であるが、これを「重」と定義し、「下」(落下)と「重」(重量)はものごとの原因と定義する。

22
《経上》
A) 生、刑與知處也。
B) 生、刑(かたち)と知の處(ところ)なり。(刑、通“形”也。處、留也、定也。)
C) 「生」の定義とは、肉体と知覚とが宿るところ。

《経説上》
A) 生、楹之生。商不可必也。
B) 生(せい)、楹(えい)、之は生なり。商(ふへん)は必ずしも可(か)あらずなり。(楹、柱也、亭也。商、度也、又常也。)
C) 「生」の定義について、肉体と知覚との宿るところ、これが「生」の定義である。その「生」が不変であることは必ずしも可能ではない。

23
《経上》
A) 臥、知無知也。
B) 臥、知の無きを知るなり。(臥、休也)
C) 臥とは、知覚の働きが無いことを知ること。

《経説上》
A) 臥(が)、(欠文)

24
《経上》
A) 夢、臥而以為然也。
B) 夢、臥して而して以って然(しか)りと為すなり。(臥、寢也)
C) 夢とは、寝て、そうだと思うこと。

《経説上》
A) 夢(む)、(欠文)

25
《経上》
A) 平、知無欲悪也。
B) 平(へい)、悪を欲する無しを知るなり。
C) 平とは、憎むことを願わないことを理解すること。

《経説上》
A) 平、惔然。
B) 平(へい)、惔然(たんぜん)なり。(惔、燔也、又燎也。然、燒也。)
C) 平とは、すべてを燃え尽くすこと。

26
《経上》
A) 利、所得而喜也。
B) 利(り)、得て而して喜ぶ所なり。
C) 利とは、それを得て喜ぶことがらである。

《経説上》
A) 利、得是而喜、則是利也。其害也、非是也。
B) 利(り)、是を得て而して喜ぶ、則ち是は利なり。其は害なるや、是は非(あら)ずなり。
C) 利とは、これを得て喜ぶ、つまりこれを「利」と定義する。それは害なのか、害は「利」ではない。

27
《経上》
A) 害、所得而悪也。
B) 害、得て而して悪(にく)む所なり。
C) 害とは、それを得て憎むことがらである。

《経説上》
A) 害、得是而悪、則是害也。其利也、非是也。
B) 害(がい)、是を得て而して悪(にく)む、則ち是は害なり。其は利なるや、是は非ずなり。
C) 害とは、これを得て憎むこと、つまりこれを「害」と定義する。それは利なのか、利は「害」ではない。

28
《経上》
A) 治、求得也。
B) 治(ち)、求めて得るなり。(治、又有所求乞也。)
C) 「治」の定義とは、願って得るもの。

《経説上》
A) 治、吾事治矣、人有治南北。
B) 治(ち)、吾が事は治(おさ)まり、人の南北を治むは有り。(治、又有所求乞也。)
C) 「治」の定義について、自分が願うなにごとかを求めて得られ、人民の東西南北の四方が求めるものが得られることがあること。

29
《経上》
A) 誉、明美也。
B) 誉(よ)、美を明するなり。(美、善也、又好也)
C) 「誉」の定義とは、善の行いを明らかにすること。

《経説上》
A) 譽、之必其行也。其言之忻、使人督之。
B) 譽(よ)、之は其の行(こう)を必(ひつ)するなり。其の言(げん)は之を忻(よろこ)び、人をして之を督(さつ)せ使(し)む。(必、又果也。督、察也。)
C) 「誉」の定義について、善の行いを明らかにすることはその行為を成らせるだろう。それを誉める言葉は善の行いを喜び、人々に誰かが行った善の行いを判らせること。

30
《経上》
A) 誹、明悪也。
B) 誹(ひ)、悪を明するなり。
C) 「誹」の定義とは、悪を明らかにすること。

《経説上》
A) 誹、必其行也、其言之忻。
B) 誹(ひ)、其の行を必するなり、其の言は之を忻(あきらかに)す。(忻、闓也、猶明也。)
C) 「誹」の定義について、悪の行いを明らかにするのに必要なもののこと。その誹る言葉は悪の行いを明らかにする。

31
《経上》
A) 舉、擬實也。
B) 舉、實を擬(はか)るなり。(擬、度也。)
C) 挙とは、実体を明確にすること。

《経説上》
A) 譽、告以文名、挙彼實也、故。
B) 譽(ほまれ)、文名を以って告げ、彼(か)の實を挙ぐる、故なり。(故、使爲之也。)
C) 譽について、名前を書して告げ、その実体を明確にする。名前を知らしめること。

32
《経上》
A) 言、出挙也。
B) 言(げん)、挙を出(いだ)すなり。
C) 「言」の定義とは、実体を明確にすることを提示すること。

《経説上》
A) 言也者、諸口能之、出民者也。民若畫俿也。言也謂、言猶石致也。
B) 言(げん)なるは、諸(もろもろ)の口の之を能(よ)くし、民(きざし)を出だすものなり。民(きざし)は俿(こ)を畫(か)くが若(ごと)くなり。言(げん)なるや、言は猶(な)ほ石を致(いた)すを謂ふなり。(民、古謂民曰萌。畫、界也、又截止也。石、山體曰石。)
C) 「言」の定義について、人々の口から実体を明確にすることを提示することを行い、さらに兆候を指し示すものである。兆候とは実体の虎を絵に描くようなものである。また、「言」というものは、言葉が、例として、石と云う言葉で山全体を示すようなことを言う。

33
《経上》
A) 且、且言然也。
B) 且(しょ)、且(しょ)の言は然(しか)なり。(且、祖者且也。祖、始也,上也,本也。)
C) 且について、「且」の定義とは、最初や根本を示す言葉のこと。

《経説上》
A) 且、自前曰且、自後曰已。方然亦且。若石者也
B) 且(しょ)、前よりするを且(しょ)と曰ひ、後よりするを已(い)と曰ふ。方(ほう)は然(しか)らば亦(また)且(しょ)なり。石なる者の若し。(方、法也、又道也。石、又堅也。)
C) 且について、事前におこなうことを「且」と定義し、事後におこなうことを「已」と定義する。そうすると、方法/規定とは「且」となる。「且」とは堅固なもののこと。

34
《経上》
A) 君、臣萌通約也。
B) 君、臣萌(しんぼう)の通約なり。(萌,民也。通、又亨也,順也。約、君子約言)
C) 「君」の定義とは、臣や民が君子の言葉に従うこと。

《経説上》
A) 君、以若名者也。
B) 君(くん)、以って名の若(ごと)しものなり。(君、尊也、又凡有地者、皆曰君。)
C) 「君」の定義について、「君」という名称が示すものである。

35
《経上》
A) 功、利民也。
B) 功(こう)、民を利するなり。
C) 「功」の定義とは、民に利を与えるもののこと。

《経説上》
A) 功、不待時、若衣裘。
B) 功(こう)、時を待たず、衣裘(いきゅう)の若(ごと)し。
C) 「功」の定義について、時機を待たないこと、それは寒暖や場面に従って適宜に衣装を選択するようなもの。

36
《経上》
A) 賞、上報下之功也。
B) 賞(しょう)、上の下の功に報(むく)ふなり。
C) 賞とは、上の者が下の者の功績に報いるもののこと。

《経説上》
A) 賞、上報下之功也。
B) 賞(しょう)、上の下の功に報(むく)ふなり。
C) 賞とは、上の者が下の者の功績に報いるもののこと。

37
《経上》
A) 罪、犯禁也。
B) 罪(つみ)、禁を犯すなり。
C) 「罪」の定義とは、禁制を犯すこと。

《経説上》
A) 罪、不在禁、惟害無罪、殆姑。
B) 罪(ざい)、禁の在らざれば、害(がい)すと惟(いへど)も罪無し、姑(そ)は殆(あやう)しなり。(殆、危也。姑、且也、祖者且也。)
C) 「罪」の定義について、禁制が規定されていなければ、害を行っても罪はない。事後法で処罰を行えば、法の根本が危うくなること。

38
《経上》
A) 罰、上報下之罪也。
B) 罰(ばつ)、上の下の罪に報(むく)うなり。
C) 罰とは、上の者により下の者の罪に報うこと。

《経説上》
A) 罰、上報下之罪也。
B) 罰(ばつ)、上の下の罪に報ふなり。
C) 罰とは、上の者により下の者の罪に報うこと。

39
《経上》
A) 同、異而俱於之一也。
B) 同、異にして而(しかる)に之の一に於いて俱(とも)にするなり。
C) 「同」の定義とは、異なるものがなにがしらのことがらで一つのことを共有すること。

《経説上》
A) 侗、二人而俱見是楹也、若事君。(倥侗、古作空同、より同の異字体とする)
B) 侗(どう)、二人、而して俱(とも)に是の楹(えい)を見るなり、君に事(つか)へるが若(ごと)し。(楹、柱也、亭也。)
C) 「同」の定義について、二人がともに王宮を見ることで、君に仕えることを示すようなもの。

40
《経上》
A) 久、彌異時也。
B) 久(きゅう)、異時に彌(わた)るなり。
C) 久とは、異なる時間に渡ること。

《経説上》
A) 今久、古今且莫。
B) 今久(こんきゅう)、古今に且(そ)は莫し。(祖者且也。)
C) 今久とは、古今に明確な始めの時は無いこと。

41
《経上》
A) 宇、彌異所也。
B) 宇(う)、異所に彌(わた)るなり。
C) 宇とは、異なる場所にわたる/ひろがること。

《経説上》
A) 宇、東西家南北。
B) 宇(う)、東西は南北に家(そん)す。
C) 宇とは、空間に東西南北の方向性が存在すること。

42
《経上》
A) 窮、或有前不容尺也。
B) 窮(きゅう)、或(いき)の有(ま)た前(まえ)に尺を容(い)れざるなり。(或、域也。尺、規矩事也。)
C) 「窮」の定義とは、その空間のその前の空間に対し計測測定することが出来ないこと。

《経説上》
A) 窮、或不容尺、有窮、莫不容尺、無窮也。
B) 窮(きゅう)、或(いき)、尺を容(い)れざるは、窮(きゅう)は有り、尺を容れざるが莫(な)きは、窮は無きなり。(或、域也。尺、規矩事也。)
C) 「窮」の定義について、その空間で計測測定することが出来ない場合、「窮」というものが存在する。計測測定することが出来るのであれば、「窮」は存在しない。

43
《経上》
A) 盡、莫不然也。
B) 盡(じん)、然(しか)らざるは莫(な)きなり。(然、燒也。)
C) 盡とは、これ以上、焼き尽くすものが無いようなこと。

《経説上》
A) 盡、但止動。
B) 盡(じん)、但、動を止める。
C) 盡とは、ただ、ものがその動きを止めること。

44
《経上》
A) 始、當時也。
B) 始、時に當(あた)たるなり。(當、又適可也。)
C) 「始」の定義とは、時が適切なこと。

《経説上》
A) 始、時或有久、或無久、始當無久。
B) 始(し)、時に或(ある)ひは久は有り、或ひは久は無し、始に當(あた)り久は無し。
C) 「始」の定義について、時間の経過が長い場合もあり、短い場合もあるが、ことの始めでは時間の経過は無い。

45
《経上》
A) 化、徵易也。
B) 化、易(か)わる徵(きざ)しなり。
C) 化とは、変わる兆しのこと。

《経説上》
A) 化、若蛙為鶉。
B) 化(か)、蛙が鶉と為すが若(ごと)し。
C) 化とは、蛙が鶉に変身するようなもの。(中国古典での予想外の変化を示す比喩)

46
《経上》
A) 損、偏去也。
B) 損、偏去(へんきょ)するなり。
C) 損とは、一部分を失うこと。

《経説上》
A) 損、偏也者兼之禮也。其體或去存、謂其存者損。
B) 損(そん)、偏(へん)なるものは兼(けん)の禮(れい)なり。其の體(たい)は或(いき)に去存(きょざい)し、其の存(ざい)は損と謂う。(禮,體也。)
C) 「損」の定義について、一部分を失ったものとは、そのもの全体の一部分である。その一部分がある場所に存在していれば、その存在するものを損という。(損失と損耗との区分)

47
《経上》
A) 益、大。
B) 益、大(だい)なり。(大、又徧也。)
C) 益とは、ものごとをあまねくすること。

《経説上》
A) 益(欠文)

48
《経上》
A) 儇、稹秖。
B) 儇(さとし)、秖(じ)を稹(ただ)す。(儇、慧也。稹、音眞、正也。秖、辞也。)
C) 慧とは、辞を正すこと。

《経説上》
A) 儇、昫民也。
B) 儇(さとし)、民に昫(あまねく)するなり。(儇、慧也。昫、音詡、遍也,大也。)
C) 慧とは、民に遍くすること。

49
《経上》
A) 庫、易也。
B) 庫(こ)、易なり。(易、守宮也、治也。)
C) 「庫」の定義とは、治めること。

《経説上》
A) 庫、区穴若斯、貌常。
B) 庫(こ)、区穴(くけつ)は斯(か)くの若く、貌(ぼう)の常なり。(區,藏物處。貌、五事也。)
C) 「庫」の定義について、物を納める場所が空なのは、このように行政行為の常であること。

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墨子 現代語訳について (作業員)
2022-03-05 10:16:37
毎週、日曜日に墨子の現代語訳を載せています。
墨子の読解では、墨子の文章の読み方と言葉は、経編と経説編に従うのが、基本的な条件となっています。
そのため、今週と来週に経編と経説編の現代語訳を載せ、本ブログでの墨子が規定する言葉の定義の理解を紹介します。
中国古典思想を読解するとき、文字の扱い方、読解の方法への一つの考え方としてください。
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