先月の半ばに97歳女性が嘔吐して食べられなくなって入院した。食道裂孔ヘルニアがあり、そのためかと思われた。内科の若い先生(地域医療研修の内科専攻医)が担当して、点滴して嚥下訓練を開始していた。少しずつは食べられるようになっていたが、手ねt気も続けていた。
日曜日に高熱が出現して、担当医が病院にきて検査を行った。胸部X線で右肺に軽度に肺炎と思われる陰影を認めた。きちんと教科書通りに、入院患者発熱時の培養検査として血液培養2セット・尿培養・喀痰培養を提出した。嚥下訓練をしていたので、誤嚥性肺炎としてスルバシリン(ABPC/SBT)を開始していた。
翌日には解熱していたので、肺炎が軽快していると判断していた。ところが細菌検査室から連絡があり、血液培養2セットからグラム陽性球菌が検出されたという。
抗菌薬をバンコマイシンにしますか、と相談された。グラム陽性球菌なので、通常は連鎖球菌・ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌のMSSAかMRSA、またはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌CNS)・腸球菌(faecalisかfecium)になる。全部カバーできるのはバンコマイシンになる。しかし、患者さんは解熱して、バイタルも問題なかった。
中心静脈カテーテルは挿入されていない。末梢の点滴刺入部・血管にも所見はなかった。
肺炎で血液培養から検出されるのはあまりない。通常は尿路感染・胆道感染だが、それらによる菌血症でグラム陽性球菌はあまりないはずだ。
尿カテーテルが留置されていて、尿検査は混濁して細菌を認めている。尿路感染症からの菌血症とすれば、尿カテーテル留置からも腸球菌だろうか。
臨床的に待てるのと、1~2日で菌名が出るので、抗菌薬はそのままもあると伝えた(変更もあるが)。その後も経過順調で、検査値も軽快していた。
培養結果が出た。血液培養2セットからStaphylococcus epidermidis(MRSE)が検出された。尿培養からは腸球菌(E.faecalis)と緑膿菌が出た。喀痰培養からはMRSAでおそらく前月の入院歴もあり、定着菌だろう。
尿培養は留置カテーテル尿のチューブの途中から採取しており、留置の場合はカテーテルを入れ替えて、膀胱内の尿を採取するよう伝えた。尿培養の結果も定着菌だろう(たぶん)。
血液培養は末梢静脈から採取できず(97歳!)、両側大腿動脈から採取していた。血液培養1セットからのMRSEだとコンタミだろうと判断されるが、2セットから出ると通常は起炎菌と考えるしかなくなる。ではあるが、どうも2セットともコンタミで?。
診断は誤嚥性肺炎で、スルバシリン(ABPC/SBT)が効いたと考えるのが妥当のようだ。