毎年CareNeTVで千葉大総合診療科のGMカンファランスを見ていた。2019年のがなかなか出ないと思っていたが、やっと出た。生坂先生の症例は興味深い。(開催場所が確保が難しいという問題があったらしい)
CareNeTV
GMカンファランス2019
第1回 千葉大学からの3症例
症例1 28歳女性 頸部リンパ節腫脹
現病歴:来院3週間前から下顎部に、2週間前から後頚部に軽度の痛みを伴うしこりが出現した。症状の改善に乏しいため当科紹介受診となった。しこり以外の症状はない。
既往歴・服薬歴・家族歴:特記事項なし
職業:営業職でインドネシアに半年間出向し、1か月前に帰国
飼育歴:ペットなし
性交歴:1か月前に出会った新しい男性と2週間前から同棲開始。
身体所見:血圧110/68mmHg、脈拍72/分、体温36.2℃、呼吸数18/分
左顎下および左後頭部に直径約2cm弾性軟、可動性良好の軽度圧痛を伴うリンパ節腫脹を認める。その他の表在リンパ節腫脹はみられない。咽頭・口腔に異常なし。肝脾腫および皮疹なし。
追加の問診:インドネシア滞在時
-腹痛の現地人とのコンドームなしの性交渉あり
-野良猫との頻回の接触あり
-十分に加熱処理されていない豚肉と生の鶏肉の日常的な摂取あり
検査所見:特に異常なし
炎症反応陰性、肝機能障害なし
回答者の診断と生坂先生のコメント
・性感染症?
梅毒はありうる
・猫ひっかき病?
ひっかき傷が上肢では腋窩リンパ節、下肢では鼠径リンパ節、キスなどの濃厚接触では頸部リンパ節が腫脹。
相当にリンパ節が痛い。
・菊池病?
炎症が激しいのでリンパ節が痛い。発熱も。
・トキソプラズマ症?
猫との接触から想起(鋭い)
特殊検査所見:
トキソプラズマIgM抗体(+)、IgG抗体(+)
EBV既感染、CMV未感染
HIV抗原抗体(-)
梅毒RPR(-)、TP抗体(-)
T-SPOT(ー)
抗核抗体(-)、抗SS-A抗体(-)
HBs抗原(-)、HCV抗体(-)
検査やり過ぎ?
STD疑いで一通り検査したそうだ
診断:後天性トキソプラズマ症
経過:
・網脈絡膜炎の所見がないこと確認し、無投薬で経過観察
・4週間後リンパ節腫脹は自然軽快した
後天性トキソプラズマ症
・Toxoplasma gondiiによる人獣共通感染症
・ヒトへの感染は猫の糞便に汚染された土や井戸水からオーシストを経口摂取、もしくは加熱不十分の肉や生ハム・ソーセージ内のシストを摂取
・全国的にみられるが、不完全な加熱処理お肉を摂取する食文化の欧州(特にフランス)や、衛生状態が悪い熱帯地域で多い
・すべての家畜に感染している可能性があるが、羊肉は最も危険
・8割は不顕性感染で、2割に発熱やリンパ節腫脹などの急性症状を呈するが、概して軽症
・原因不明の頸部リンパ節腫脹の15%が本症
・免疫機能正常な成人への治療は必要ないが、網脈絡膜炎などの臓器障害を認める場合は、アセチルスピラマイシンなどを投与
・妊娠可能年齢の女性の場合、先天性トキソプラズマ症を予防するために、感染から半年間は妊娠を避ける
Take Home Message
急性の軽症リンパ節炎はトキソプラズマを鑑別する (非特異的な軽度のリンパ節炎はトキソプラズマを考える)
これまであまり気にしたことがないが、見逃していたのかもしれない。
症例2 60歳男性 倦怠感、悪心、食欲不振(再現VTRあり)
主訴:倦怠感、悪心、食欲不振
現病歴:2日前野球を観戦して帰宅途中に、急に冷汗が出現して、便意を催した(下痢)。だるくなり、しゃがみこんでしまった。
その後も倦怠感、悪心、食欲不振が続いている。
近医を受診して、風邪薬とビタミン剤を服薬。
既往歴:下垂体卒中、脂質異常症、胃食道逆流症。喫煙20本/日25年間。
内服薬:ヒドロコルチゾン10mg1錠分1・ロスバスタチン2.5mg1錠分1・ランソプラゾール15mg1錠分1、センノシド12mg2錠分1
身体診察:体温36.7℃、脈拍59/分(整)、血圧103/60mmHg、頭頚部、胸腹部、四肢に異常所見なし
検査結果:白血球12800、Hb 14.0g/dl、血小板16万、BUN 26、血清クレアチニン1.20、AST 426、ALT 75、LDH 1392、CK 1809、CK-MB 87.4、トロポニンI 51199pg/ml
診断:急性心筋梗塞(下壁)
治療:直ちにアスピリンを服用させ、PCIへ。
これだけでいいか?
追加検査:急性副腎不全の評価
コルチゾール22.5µg/dl(7/1~19.6)、ACTH 23.8pg/ml(7.2~63.3)
コルチゾール分泌
・コルチゾール分量:10~20mg/日
・ストレス時:最大300mg/日まで増加
ステロイドカバー
・発熱、ストレス時→補充量2~3倍
・内視鏡、動脈造影検査時→ヒドロコルチゾン100mg静注
・重症疾患、手術時→ヒドロコルチゾン100mgを8時間毎の静注
→この症例では、PCI前にヒドロコルチゾン100mgを静注した
いつAMIを疑うか
・急性発症の胸痛
・急性発症の悪心・嘔吐、腹痛、息切れ、上肢のしびれ、失神、不穏
→85歳以上の胸痛は半数のみ
→冷汗は常にキーワード
Take Home Message
・心筋梗塞に伴う消化器症状(副交感神経症状)に便意(下痢)も含める(悪心・嘔吐だけじゃない)
・副腎皮質ホルモン服用患者が病気になったらステロイドカバー
症例3 86歳女性 寝汗
主訴:寝汗
現病歴:2年前から食欲不振が出現し、10kgの体重減少がある。また、半年前から寝汗を自覚するようになり、毎日明け方5時頃に起きて上下下着とパジャマをすべて着替えている。かかりつけ医より紹介。
既往歴:61歳高血圧症、76歳発作性上室性頻拍(アブレーション治療)、89歳骨粗鬆症、83歳非結核性抗酸菌症(Mycobacterium avium)
内服薬:ニフェジピン20mg/日、オルメサルタン20mg/日、ビソプロロール0.625mg/日、ベラパミル120mg/日アルファカルシドール0.5µg/日、アルプラゾラム0.8mg/日
家族歴・嗜好歴:特記事項なし
身体所見:体温36.2℃、脈拍75/分、血圧125/60mmHg、慎重141.2cm、体重39.1kg、BMI19.6、甲状腺腫大なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音清、crackles聴取せず、心雑音なし、下腿浮腫なし
胸部CT:両側肺野に粒状影散布(3年と比して悪化なし
寝汗について問診:
「決まって毎朝5時頃に、寝汗で起きてしまうんです(その他の時間帯には出ない)」
「背中と太ももに絞れるほど汗が出ます」
会場から
・寝汗から、結核? 悪性リンパ腫?
・更年期障害(ホルモン)?紅潮 hot flush? 年齢が合わないが
・カルチノイド?
・薬剤?
生坂先生から ・発汗を来す薬剤:コリンエステラーゼ阻害薬、NSAIDs
・布団のかけ過ぎ、空調の問題、(猫が寄ってくる?)
・低血糖、インスリノーマ
太ももにしびれるほど汗が出るか?
そこで・・・
帰宅後、実際に汗をかいた衣服をしぼってもらうことに
→「下着が冷たくなるだけで絞れませんでした」
解釈モデル「寝汗をかいたから起きた」
→実際は、「早朝覚醒」うつ病?
うつ病の問診
M:気分の落ち込み→No
E:興味や喜びの喪失→No
A:食欲減退→Yes(体重減少も)
S:睡眠障害→No(自覚的には)
L:性欲低下
E:エネルギー(意欲)の低下→No
S:希死念慮→No
高齢者は感度7~8割と低い(通補は9割)
診断:仮面うつ病Masked depression
治療経過:セルトラリン25mg/日開始→「寝汗は出なくなりました」「朝は6時過ぎまでぐっすり眠れます」
患者さんは軽快してからもうつ病による早朝覚醒とは認識していない。寝汗をかかなくなったので(寝汗に効く薬で?)、良く寝られるようになったと思っているそうだ。
発汗の分類
・生理的発汗
・温熱(体温調整)性
・味覚性
・精神性
・冷汗
・脂汗
・寝汗:器質的疾患を除外する必要があるが、高頻度疾患であるうつ病や不安障害を忘れてはならない
高齢者のうつ病
・典型的な抑うつ症状を示す人は1/3~1/4
・抑うつ症状の代わりに身体症状を訴える=仮面うつ病
肺MAC症の治療適応
[診断後すぐに治療すべき症例]
・線維空洞型
・血痰・喀血がある
・塗抹肺禁漁が多く気管支拡張病変が高度
・病変の範囲が一側肺の1/3をこえる
[これら以外は経過観察]
・定期フォロー(喀痰検査、画像)