なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

1型糖尿病

2024年06月29日 | 糖尿病

 当院の糖尿病外来は、週1回大学病院の糖尿病代謝科の先生に来てもらっている。糖尿病外来に通院している54歳女性が、手指の痛みで一般内科の外来に紹介されていた。

 リウマチ膠原病外来も大学病院のリウマチ膠原病科から隔週で来てもらっている。紹介を受けた常勤の先生はリウマチのマーカーの提出だけして、そちらの外来へ回していた。

 

 画面で見ると糖尿病の治療はインスリン注射だけなので、ひょっとしたらと思って確認したが、1型糖尿病だった。18歳時に発症となっていた。

 現在はインスリン強化療法(超速効型毎食前3回+持効型1回)になっている。ずっとそうなのかというと、意外に今年になってからだった。

 当院が新築移転した2002年からの記録した確認できない(患者さんは発症10年目)。その時は一般内科外来で、インスリンはペンフィル30R(速効型30%+中間型70%)の朝夕2回打ちだった。

 その後2005年にはペンフィル50R(速効型50%+中間型50%)朝夕+ヒューマログ(超速効型)昼になった。2006年はヒューマログ50ミックス(超速効型50%+中間型50%)朝夕+ヒューマログ(超速効型)昼に変更している。

 そこからは担当医が何度か変わったが同じ治療だった。1型糖尿病ならばインスリン強化療法になると思われるが、この患者さんはHbA1cが7.0%前後と血糖コントロール良好な状態で推移していた。優秀な患者さんで、あえて変更しなくてもよかったのだろう。

 2010年に外注検査を提出していて、血中Cペプチドは感度以下で、抗GAD抗体は陽性だった(発症28年目の検査)。

 速効型と中間型しかなかったころからの世代としては、これまでのインスリン製剤の変遷(発展)を思ってしまった。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

低血糖(血糖20mg/dL)

2024年05月26日 | 糖尿病

 5月22日(水)の午後3時からICT(感染管理チーム)のラウンドをしていた。ICTラウンドは、毎週水曜の一つの項目だけを確認する短いラウンドと、月1回第3木曜日の感染症専門医が来た時の院内の各部署を詳しく見るラウンドがある。

 その日は点滴台のチェックをしていた。最後はリハビリ病棟だった。ラウンドが終わって引き上げようとすると、看護師長さんが患者さんをストレッチャーに乗せてナースステーションに運び込んだ。

 「低血糖です」という。てっきり入院の患者さんかと思ったが、そうではなかった。入院している母親の面会に来た50歳男性だった。

 

 名前を聞いてすぐに思い出した。1型糖尿病で以前は当院に通院していた患者さんだった。血糖コントロール不良と低血糖などで10回くらい入院している。内科の別の先生(人情派)が苦労して診ていた。最後は10年ちょっと前で、外科に入院して下肢の切断術(壊疽が治らなかった)を受けていた。

 現在は地域の基幹病院の糖尿病科に通院して、インスリン強化療法を受けている。昨年12月にも当院に低血糖で救急搬入されていた。ブドウ糖点滴静注+静注ですぐに回復して、帰宅している。

 

 今回も血糖20mg/dLと低下していて、最初はしゃべっていたが、すぐに傾眠となり内服はできなくなった。グルコース入りの点滴を入れて、50%グルコース20mLを静注すると、すぐにしっかり開眼して普通にしゃべり出した。もともと饒舌な方なので、分かりやすい。

 その後、外来の処置室に移動して、30分後、1時間後と血糖を測定した。売店で購入した軽食(パンと飲み物)をとってもらって帰宅とした。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1型糖尿病の血糖変動

2024年04月10日 | 糖尿病

 3月31日に記載した1型糖尿病の83歳女性のその後。転院後2週間経過した。

 基本的には先方の病院の糖尿病専門医の指示で継続している。持効型インスリン(トレシーバ9単位)を昼に固定した単位で皮下注する。超速効型インスリンは朝=昼>夕(ヒューマログ8-8-4-0単位)と単位が調整してあった。それをさらに食事摂取量が少ない時は減量する(食直後に皮下注)

 朝の血糖が75~117mg/dLで持効型はそのまま継続とした(一時朝が高めでトレシーバを2単位増量したが、また戻した)。昼・夕・就寝前に血糖は115~202mg/dLで推移していた。

 4月4日に発熱があり、膝関節炎らしかった(肺炎・尿路感染症はなかった)。偽痛風かと思われたが、膝関節内に石灰化はなかった。転院時から高尿酸血症があり、治療を開始していたがまだ高値だった。NSAIDs(セレコキシブ)を開始して、解熱して膝痛も軽快した。

 4月7日(日)の就寝前が血糖422mg/dLと高値で、8日(月)朝も450mg/dLで、昼はHi(血糖600mg/dL)と出てしまった。(意識低下はなく、食事摂取も普通)

 血糖高値の時は2単位増量としていたが、あまりに高いので病棟看護師からどうしましょうと連絡がきた。高い時(>300m/dLは2単位増量、さらに高い時(>400mg/dL)は4単位増量とした。夕は412mgdL、就寝前は287mg/dLとしだいに低下してきて、9日の朝は168mg/dLとまだ高いが改善してきた。

 外注検査では抗GAD抗体陰性で、血中Cペプチドは測定感度以下だった。抗GAD抗体は最初から陰性で劇症1型だったのかもしれない。

 

 「糖尿病診療ハンドブック」第6版(Ver.6)が出た。初版から購入しているが、第5版ではなんでもかんでも記載という大分厚い本になっていた。第6版はそれを反省してか、大事なことだけ記載するというわかりやすいすっきりした内容になった。

ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブック Ver.6

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高齢の1型糖尿病

2024年03月31日 | 糖尿病

 3月27日(水)に右大腿骨頸部骨折の83歳女性が地域の基幹病院から転院してきた。先方の整形外科から当院の整形外科への紹介だが、骨折は保存的治療となっていた(整形外科としてはあまりやることはない?)。

 1型糖尿病で先方の病院の糖尿病科に通院している。インスリン強化療法をしているが、それでも血糖の上下が極端だった。内科に血糖コントロールを依頼された。

 経過は2月13日から発熱があり、翌日にCOVID-19と診断された。その後、自宅で転倒骨折が起きたが、受診を控えていた(受けてもらえなかった?)。隔離解除の2月下旬になって、病院に連絡して、2月28日に入院となった。

 当初は手術を予定していたそうだ。しかし、血糖が40~600mg/dl以上と変動していたこと、もともとのADLが自宅でやっとトイレに行くことから、保存的治療となった。

 

 問題の1型糖尿病は2017年に発症していること、自己インスリン分泌能が高度に低下していわゆるブリットルな血糖変動、と記載されていた。食事量も不安定なので、食後に超速効型を使用していた。

 76歳の1型糖尿病というのは何だろうか。1型は急性発症、緩徐進行型、劇症とあるが、どれに相当するのか。本人に訊いても、若い時は糖尿病がなかったらしい、ということしかわからない。発症の経緯も、どこの医療機関を受診してきたかも覚えていないという。

 可能性としては緩徐進行型で、インスリン依存状態になってから受診して、糖尿病専門医へ紹介されたということではないか。

 息子と二人暮らしだが、日中は一人になる。昼のインスリン注射はヘルパーさんの手助けでしているという。単位だけ合わせて本人に手渡すのだろうが、押す力がないと注射できない。本人の手を添えてヘルパーさんが押しているのかもしれない。

 抗GAD抗体と血中Cペプチド測定を外注で提出した。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

CareNeTV メトホルミン・イメグリミン

2024年02月29日 | 糖尿病

CareNeTV

プライマリ・ケアの疑問
Dr.前野のスペシャリストにQ
糖尿病アップデート編
岩岡秀明先生

第5回 メトホルミン・イメグリミン

メトホルミンが第1選択
メトホルミンが優先される理由

ASCVD(動脈硬化性心血管疾患)、心不全、CKD患者
第1選択薬はSGLT2阻害薬
(米国糖尿病学会ガイドライン) となっているが、日本では

1.日本人の心血管疾患リスクは米国人よりも低いためSGLT2阻害薬によるベネフィットも小さい
2.SGLT2阻害薬のエビデンスの大半はメトホルミンへの上乗せ効果を示している
3.SGLT2阻害薬の長期的な効果、安全性が未確立
4.SGLT2阻害薬は高価

メトホルミンの適正使用に関するRecommendation
1.透析患者を含む腎機能障害患者
・メトホルミンの使用に当たっては腎機能をeGFRで評価する
eGFRが30mL/分/1.73㎡未満の高度腎機能障害の患者ではメトホルミンは禁忌である
eGFRが30~45mL/分/1.73㎡の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする
eGFRが30~60mL/分1.73㎡の中等度腎機能障害の患者では腎機能に応じて添付文書上の最高用量の目安を参考に用量を調整する
(日本糖尿病学会 メトホルミンの適正使用に関するRecommendation.2020.)

2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取などの患者への注意・指導が必要な状態
・すべてのメトホルミンは、
 脱水状態が懸念される下痢・嘔吐などの胃腸障害のある患者
 過度のアルコール摂取の患者
 で禁忌である
・利尿作用を有する薬剤(利尿薬、SGLT2阻害薬など)との併用時には、とくに脱水に対する注意が必要である

3.心血管・肺機能障害、手術後、肝機能障害などの患者
・すべてのメトホルミンは
 高度の心血管
 肺機能障害(ショック、急性うっ血性心不全、急性心筋梗塞、呼吸不全、肺塞栓などの低酸素血症を伴いやすい状態)
 外科手術前後の患者(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)
 には禁忌である
・軽度~中等度の肝機能障害には慎重投与である

eGFR 60以上 
 造影CTの時休薬しなくてよい
eGFR 30~60の場合
 造影剤投与後48時間はメトホルミンを休薬
 腎機能悪化が懸念される場合はeGFRで腎機能を評価した後に再開

最高投与量の目安
 30≦eGFR<45:750mg/日
 45≦eGFR<60:1500mg/日
※とくに「30≦eGFR<45」の患者では治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ使用

岩岡先生
eGFR 30~45の場合
 eGFR 30~45では新規に処方しない
 万一処方する際は腎機能を定期的に確認し、750mg/日までに留める

メトホルミンを上手に使うポイントは
500mg/日から開始し、1500mg/日までは漸増する
1日2回、朝・夕の投与とする
夕食時の飲み忘れがある場合、胃腸症状がなければ「1000mg/日、1回朝のみの投与」も可能
※1日2回投与と比較して血糖降下作用に遜色はない

第2選択薬
メトホルミンが禁忌の場合
▸SGLT2阻害薬
(心血管イベント抑制と神保g作用のエビデンスがあるもの)
エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン→ASCVD、心不全、CKDのいずれかがあるorハイリスクの場合
▸DPP4阻害薬
→これらの合併症がない場合


イメグリミン(ツイミーグ)
▸メトホルミンと似た構造式
▸2つの作用で血糖降下させる
膵作用
ミトコンドリアを介してグルコース濃度依存的にインスリン分泌を促す
膵外作用
肝臓、骨格筋での糖代謝を改善してインスリン抵抗性を改善する

▸TIMES1試験:イメグリミン単独投与(1000㎎1日2回)
→投与24週時点のHbA1c変化量
 イメグリミン-0.72%
 プラセボ投与群+0.15%
▸TIMES2試験:ほかの血糖降下薬とイメグリミン(1000㎎1日2回)併用
→投与52週間後のHbA1c変化量を観察
 DPP4阻害薬と併用-0.92%(一番低下)
 GLP1受容体作動薬と併用-0.12%のみ(理由は不明)

▸1回2錠(500㎎×2=1000mgを1日2回、朝・夕に投与
eGFR 45mL/分/1.73㎡未満の腎障害患者への投与は推奨されない
メトホルミンとの併用は避ける
・作用機序の一部が共通している可能性がある
・両薬の併用で消化器症状を多く認めたため
▸インスリン製剤、SU薬、グリニド薬と併用する場合→低血糖リスクを避けるため、適宜減量する

プライマリケアで、メトホルミンから切り替える必要はない
現時点では糖尿病専門医が使用すべき薬剤

 

Dr.前野のここがポイント
メトホルミン
・禁忌を除きメトホルミンが第一選択薬
・eGFR 60以上あれば造影CT時の休薬は不要
メトホルミン使用のポイント
・1日500mgから開始し、漸増する
・1日2回、朝・夕の投与とする

イメグリミン
・「膵作用」と「膵外作用」の2つで血糖を低下させる
・プライマリケアでは使用せず、エビデンスの集積を待つ

 

 メトホルミンの投与法で朝のみ500mg~1000mgも可能というのは、あまり記載されていないので参考になる。

 イメグリミンは10例弱で使用している。講義では現時点では専門医が慎重に使用する薬とされているので、本当はよくないのかもしれない。市内のクリニックでは新薬好きの先生が使用していた。

 下記の本を始め、岩岡先生の本が次々に出るので、購入することにした。

プライマリ・ケア医のための新・糖尿病診療

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

CTでコロナと診断

2024年02月14日 | 糖尿病

 2月13日の午後に地域包括ケア病棟の看護師長さんから、入院している86歳男性がコロナ(COVID-19)を発症した、と報告が来た。

 別の内科の先生が1月9日から入院治療をしていて、すでに1か月以上入院している。13日にリハビリ病棟でコロナ罹患と判明した患者さんはずっと家族の面会がないが、こちらの患者さんは時々家族が面会に来ていた。

 

 1月9日は尿路感染症として入院した。抗菌薬投与(セフトリアキソン)で解熱軽快して、炎症反応も軽快していた。明らかな肺炎像がなく、胆道感染症なども否定的で、除外診断としての尿路感染症だった。

 CRPが入院時の26.4が、10前後に低下したが、その後横ばいとなったのを気にしていたようだ。尿培養はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)が検出されている。多分コンタミで起炎菌とはし難いが、疑心暗鬼的になり、バンコマイシン投与を開始していた。

 平熱~微熱で推移して、改めて感染症の有無を検索しようとして、2月13日に胸腹部CTを行っていた。すると、胸膜直下に散在する、いかにもコロナ(COVID-19)という陰影が描出された。

 SARS-CoV-2の迅速PCR検査を提出すると陽性だった。食欲低下もあり、抗ウイルス薬はレムデシビル点滴静注を開始した。

 右肺に胸水貯留があり、無気肺像を伴っている。心不全というよりは感染症(肺炎・胸膜炎)が疑われる。炎症反応がくすぶっていたのは、これが原因だったのかもしれない。こちらは誤嚥性肺炎に準じた抗菌薬投与となる。

 

 別な病棟で関連はない。それぞれの病棟スタッフで発熱など症状がある人はいない。無症状感染者は検査をしないと把握できない。(厳密には全員検査になってしまう)

 2か所の病棟でCOVID-19の患者さんが出ると、入院が制限されて困ったことになる。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

非結核性抗酸菌症疑い、その後

2024年02月11日 | 糖尿病

 1月27日に記載した「非結核性抗酸菌症の疑い」の86歳女性のその後。

 呼吸器外来に来てもらっている先生に相談して、基礎に非結核性抗酸菌症(NTM)が疑われる、ということだった。ただ、画像からは通常の細菌性肺炎の併発があるかどうか判別できない。

 まずは細菌性肺炎の治療で経過をみることになった。スルバシリン(ABPC/SBT)の投与を開始した。解熱して炎症反応も軽減した。経過からみて通常の細菌性肺炎があったことは間違いない。(喀痰検査ができなかった)

 白血球は24100→10600→8900、CRPは11.3→1.7→0.6と軽快した(1月25日、1月29日、2月1日)。悪化してないかみるために、2月1日に胸部X線をみたが、単純X線でも陰影の軽減を指摘できた。

 2月7日(2週間後)に胸部CTを再検査した。初診時(1月25日)と比較して、陰影は軽減していた。

 放射線科の読影レポートには「ご指摘の非結核性抗酸菌症などの慢性気管支炎の所見があり、陰影は軽減している」とあった。肺陰影があるので、気管支炎ではなく何らかの肺炎だが。

 抗菌薬投与は10日間行った。食事摂取は思った通り、ちゃんと目の前に食事があれば食べられる。四肢の筋肉、とくに下肢の筋肉は極端にやせ細っているが、リハビリも開始した。

 

 Tスポットを提出すると陰性だった。そういえば、NTMの血液検査もあったと思い出した。肺MAC症の検査として、キャピリアⓇMAC抗体 ELISAがあった。

 すでに2011年から保険診療で使用できたが、出したことはなかった。下記は亀田総合病院呼吸器内科の中島啓先生が「亀田流呼吸器道場」に書かれていた。 

 

非結核性抗酸菌症(MAC)の抗体診断:キャピリア®MAC 抗体 ELISA

中年以降の女性が、慢性的に咳嗽や喀痰などの呼吸器症状があり、胸部CT上、中葉舌区に気管支拡張や小葉中心性粒状陰影を認める場合は、肺MAC(Mycobacterium avium complex)症が疑われます。
喀痰で菌が検出されず、気管支鏡で確定診断をつけにいく場合がありますが、気管支鏡でも菌の検出は必ずしも容易ではなく、高齢者のため気管支鏡が躊躇されるケースがあります。

そのような場合に、血液検査でMACの補助診断が可能になりました。
2011年8月からキャピリア®MAC 抗体 ELISA として保険診療で使用することができます。

亀田総合病院でも、外注で使用できるようになっており、まとめてみました。

概念

・キャピリア®MAC 抗体 ELISAは、非結核性抗酸菌の細胞壁を構成する糖脂質抗原であるGPL(Glycopeptidolipid)の部分において、結核菌やM.kansasii菌以外の非結核性抗酸菌が共通に持つGPL-coreを抗原とする血清中のIgA 抗体を測定する方法である。

GPL(Glycopeptidolipid)とは?

・GPL は従来、MACの血清型を規定する抗原であることが知られてきた。MACの血清型はSchaeferらの分類によると28種類あるとされており、地域的な分布の差異や、病原性の違いが報告されている。
(American Review of Respiratory Disease. 1965 ; 92 (Suppl.) : 85_93.)

・血清型は共通部分であるGPL-coreのスレオニン残基に結合する各血清型特異な糖鎖によって規定される。GPL-coreは血清型やM.avium, M.intracellulareの菌種にかかわらず共通した抗原性をもつことかが確認されている。

・結核やM.kansasiiの細胞壁には存在しないが,M.abscessus,M.chelonae,M.fortuitumなどの迅速発育菌にGPLを有する菌種が存在することには注意が必要である。

成績

・本邦の多施設共同研究では、肺MAC患者70名、肺結核患者、37名、その他の肺疾患患者45名、環境からの混入と考えられた者18名、および健常者76名を対象とし、血清抗体価は肺MAC症群で有意に上昇しており、カットオフ値を0.7U/mLとすると肺MAC症の診断的有用性は感度84%、特異度100%であった。
(Am J Respir Crit Care Med. 2008 ; 177 : 793_7.)

・本邦で行われた関節リウマチ患者の気管支病変とMAC症との鑑別に関する研究では、63名の関節リウマチ患を対象とし血清抗GPL-core IgA抗体価が測定された。対象の内訳は、肺MAC症 14名、MAC以外のNTM症 3名、気管支拡張所見を有する患者 16名、胸部異常所見のない患者 30名で、カットオフ値を0.7U/mLとすると、感度47%、特異度100であった。

(Mod Rheumatol. 2011;21:144-9)

・米国で行われた検討では、肺MAC症 100名、健常ボランティア 52人を対象とし、カットオフ値 0.3U/mLでは感度 70.1%、特異度 93.9%であった。一方で日本で使用されているカットオフ値 0.7U/mLを当てはめると、感度51.7%、特異度93.9%と感度が低値であった。著者らは、カットオフ値 0.7U/mLの感度が低くなった原因として、対象とした患者の菌種の違い、疾患活動性、異なる人種で行った事を挙げている。

(Eur Respir J. 2013 Aug;42(2):454-60.)

最後に

キャピリア®MAC 抗体 ELISAは、特異度は高いが、感度は十分に高いとは言えず、たとえ, 検査が陰性でもMAC症を否定できるものではなく, あくまでも補助的診断と位置づけるべきである。また、環境中のMAC暴露による偽陽性の報告もある。

・菌種の同定や感受性検査のためにも、基本的には、喀痰培養や気管支鏡検体による培養が重要と考えられる。

参考文献

北田清悟ら。3.MAC症診断における血清診断法(妥当性と臨床データ)。結核 第87巻 , p439-441; 2012年

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

血糖コントロール係

2024年02月06日 | 糖尿病

 当院には糖尿病専門医はいない。当地域(当地の医師会)にもいない。院内では内科で分担して診ている。

 整形外科で血糖コントロールの悪い手術予定の患者さんがいて、病棟看護師さんに内科の誰に頼めばいいか訊いたところ、当方がいいと言われたそうだ。そこから整形外科に入院する患者さんの血糖コントロール係になっている。

 内科で一番古いので、糖尿病の血糖コントロールで入院する患者さんを診てきた。古い看護師さんはそれを知っているので、当方を推薦したらしい。

 

 前の小規模病院にいた時に、消化器の特別な検査治療もしなくなり、生活習慣病を診るだけになっていた。一般医の勉強にちょうどいい「糖尿病の進歩」によく行っていたこともあり、糖尿病学会に入ることにした。

 糖尿病学会は入会時に評議員の推薦状が要る。糖尿病外来に来てもらっている先生は評議員ではなかった。大学病院にいた時にサブでついていた先生が評議員だったので、依頼して推薦状を書いてもらった。(ビール券だけ送った)

 その先生はその後、他大学の大学教授になられた。昨年入会している学会を整理することにして、資格に関係ない学会は辞めた。糖尿病学会は推薦状を書いてもらった手前、退会するとわかるので、そのまま継続としている。

 

 整形外科に大腿骨頸部骨折で入院した82歳女性は、隣りの隣の町の内科医院(糖尿病専門医)に通院していた。処方はDPP4阻害薬(リナグリプチン=トラゼンタ5mg1錠分1)・メトグルコ1500mg分3・グリニド(レパグリニド=シュアポスト0.25mg3錠分3)。HbA1cが9.0%だった。

 骨折の影響もあるのだろう、食後血糖が300mg/dl台になっていた。インスリン強化療法を開始して、血糖を良くするのに最大量(超速効型+持効型)が50単位にもなった。

 無事手術が終わって、血中Cペプチドは十分出ていたので、インスリン量を漸減した。入院して強制的に食事量が守られることもあり、順調に減らせた。それぞれのインスリンが4単位ずつになったところで、まず超速効型を中止して、その後持効型も中止できた。

 グリニドの代わりにSU薬少量(グリクラジド20mg/日使用、可能なら10mg/日)にした。術後に尿カテーテルがなかなか抜去できず、やっと抜去した。残尿が多そうで尿路感染症が危惧されて、SGLT2阻害薬は避けた。

 患者さんは認知力低下で、到底これまでの一人暮らしは継続できない。回復期リハビリ病棟で施設入所待ちだった。少量でもSU薬よりは持効型インスリン(多分少量で賄える)の方が好ましいが、施設だとインスリンができないところもあるので、できるだけ経口血糖降下薬だけの方がいい。

 高齢者はできるだけDPP4阻害薬だけにしたいが、HbA1cが8%台でもうちょっと下げたい時に、グリクラジド10mg/日(HA錠の半錠)を追加したりしている。(下限値HbA1c7.0%)SGLT2阻害薬が尿路感染症になりやすくて使用し難い時に使用する。やり方が古い気はするが。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

陰嚢腫瘍

2024年01月29日 | 糖尿病

 1月23日(火)の時間外になってすぐに、コンビニで一過性意識消失(眼前暗黒感・失神)をきたした55歳男性が救急搬入された。店員さんがあわててかけよって、救急要請していた。

 当直は小児科医だった。搬入時は意識清明で会話は普通にできた。血糖が380mg/dlと高値だった。健診で高血糖を指摘されていたが放置していたそうだ。尿ケトン体は陰性だった。(時間外は簡易検査しかできない)

 昨年同居していた母親が死去して、一人暮らしをしている(妹さんの話では、生活が乱れているようだと。)そのまま帰宅とし難かった。入院で点滴をして翌日、その日内科当番の先生に引き継ぐ方針となった。

 

 頭部CT・頭部MRIでは両側の大脳・小脳に小梗塞が多発していた。心電図は洞調律で心房細動はなかった(発作性は否定でできず)。会話は普通にできる。

 HbA1cは10.8%だった。(Cペプチドは十分出ていて、抗GAD抗体陰性)通常ならば脳梗塞と糖尿病の治療を開始してとなるが、そうはいかなかった。

 陰嚢に腫瘍があり、自壊していた。これも放置していたのだった。CTで右肺に軽度肺炎様(瘢痕?)があり、肝右葉に腫瘍か膿瘍を疑う低濃度域があった(体温は平熱~微熱で肝膿瘍らしくはない)。

 また入院時から血圧が80~90mmmHg台と低下していた。肺うっ血・水腫や胸水はなく、浮腫もない。心電図では前壁中隔梗塞の既往があるような形だった。食事摂取は進まず、持続点滴を行っていた。

 担当医が皮膚科医に依頼して、陰嚢腫瘍の生検が行われた。睾丸由来なのか、皮膚由来なのか自壊していてわかりにくい。組織診待ちになった。

 問題が多数あり、高次医療機関に紹介するにしても何科になるのかわからない。目につくところから対症的に治療をしていいたが、週末に急変してしまった。

 腫瘍によるトルソー症候群を来したのかなど、可能性を考えてみたが、確定はできなかった。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

23歳の糖尿病、その後

2023年12月30日 | 糖尿病

 12月22日に記載した糖尿病の23歳男性のその後。

 12月27日に外注検査の結果をみるために、外来予約していた。診察前に腹部エコー検査を入れていた。結果は脂肪肝があった。膵臓は少なくとも腹部エコーで見える範囲では異常はない。

 外注検査の結果は、血中Cペプチドは2.37ng/ml、抗GAD抗体は陰性だった。年齢を別にすれば普通の2型糖尿病のように見える。

 当方の外来としては年末最後でいつもより予約数が少なかった。改めて家族歴を訊いた。小学校1年の時に両親が離婚していた。離婚した父親は、連絡先もわからないという。それでも糖尿病の家族歴を訊かれていたので、母親に訊いてみた。すると、父親は血糖が高いといわれていたそうだ。父親の方に糖尿病の家族歴があるのだった。

 DPP4阻害薬だけ1週間分処方していたが、メトホルミンも初期量を追加して、1か月後に外来予約とした。食事も多少は気を付けているそうだ。

 次回の検査でHbA1cを見て、SGLT2阻害薬も追加することにした。DPP4阻害薬からGLP-1受容体作動薬へ切り替えるのもある。消化器系の副作用がなければメトホルミンも漸増していく。

 週1回大学病院の糖尿病科から外来に来てもらっているので、人数的に大丈夫であれば、若年発症例としてそちらに回すのもある。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする