2月25日(火曜)に70歳代半ばの男性が家族に連れられて受診した。以前から尿をもらすことはあったらしいが、それがひどくなった。また会話の内容が変で、また立っていられないという。
ふだんは糖尿病で外来に通院している。1~2か月前から右膝痛で整形外科に通院を始めたところだった。内科の診察室に入ってくると、足を引きずっていて膝が痛くてと言っていた。
家族としては脳卒中ではないか、ということだった。会話したところではふだんとあまり変わらないようではある。ただこの患者さんはふだんの通院では、血糖のことをきくとさっさと帰ってしまう。
見当識障害はなさそうだ。自分の症状も伝えられる。右膝痛があって下肢の所見をとりにくいが、上下肢に粗大な筋力低下や左右差はなかった。明らかな運動失調もなく、パーキンソン症状もない。
血糖確認のためもあり、血液尿検査を提出して、頭部MRIを行った。MRIでは出血も梗塞もなかった(放射線科の読影レポートも異常なし)。
血液検査で血清ナトリウムは113と著明に低下していた。この方はふだんも血清ナトリウムは126~120で推移していた。当院は2011年から新病院になって、処方と検査はオーダリングシステムなので、結果は確認できる(電子カルテは2016年から)。
その頃からずっと血清ナトリウムはそのくらの軽度低下はあった。担当医が代わっていて当方で5人目になるが、歴代の担当医は(症状もないので)気にしていなかったらしい。
むしろ悪い血糖コントロールをどうするかで困っていたはずだ。経口血糖降下薬では血糖コントロールがつかず(HbA1c10%代)、インスリン導入を勧めては断られるというのを繰り返していた。
当方になってもインスリン導入を勧めていて、あまり毎回いわれるせいか、受けれいてくれた。経口血糖降下薬はそのままにして、持効型のトレシーバ1日1回を追加した(BOT)。血糖は8%台と改善したが、空腹時血糖は正常域なのでBOTだけでは難しい。その後、GLP1受容体作動薬も受け入れてくれて、Hb7%台になった。
低ナトリウム血症に関しても、外注検査でホルモン測定をしてみたが、原因不明だった。症状がないので、気になるが経過観察としていた。
血清ナトリウム113は急激に発症したら、意識障害になるはずだが、慢性(慢性+急性?)のためか、ちょっと変くらいでおさまっているのか。
高張ナトリウムを使用する前に生食(初日1000ml/日、その後500ml/日)での補正を行って、連日の検査で113→118→122→124と上昇してきた。最近GLP1受容体作動薬トルリシティをGIP・GLP1受容体作動薬のマンジャロに変更していた。副作用に低ナトリウム血症も頻度は少ないがあるらしいのでいったん中止とした(週1回の製剤なので1週間効いてしまうが)。
低ナトリウム血症の原因として、これまでの外来検査ではわからない。鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症(mineralcorticoid response hyponatrenia of the elderly:MRHE)しか残らないので、フロリネフ少量を開始した。